犯罪被害者の人権を考える
「基本的人権の享有」これは現憲法第11条に謳われています。そして第31条から40条まで、所謂(刑事)犯罪人の権利について詳細に規定されています。戦中の特別高等警察(特高)や陸軍の憲兵等が行なった、強権による犯罪取り締まりの行き過ぎ是正を込めて、犯罪人の権利を網羅したものと思われます。
そうした犯罪者の人権擁護はもちろん大事でしょうが、対極にある被害者の人権が、ともすると忘れがちになる傾向があるのではないでしょうか。憲法にもその条項はありません。人を殺した(殺人)場合、それが故意によるものでも、今は余程悪質でなければ、殺人一人では死刑になりません。一般的には故意に複数の人を殺した場合に限って、死刑が適用されるようです。
殺人の様な凶悪犯罪者を死刑に課すということ自体が、賛否の議論にはなっていますが、現状日本では死刑制度は継続されています。しかし判例では上記のように故意に複数の殺人でなければ、殺人であっても通常数年から数十年の懲役で済んでいるようです。過失致死になると人数に限らず、通常は死刑はありませんし、交通事故などでは数年の懲役で済んだり、また執行猶予がついたりします。
これを殺された人(被害者)の家族から見たらどうでしょう。故意の殺人であれば尚更のこと、仮に過失であっても、家族を奪われた人たちは無念で仕方がないでしょう。特に最近高齢者や薬物や飲酒による無謀運転が絡む事故で、亡くなる方が増えています。危険運転と判定されても最高20年の懲役で済むようです(子供3人を失った福岡の中道大橋飲酒運転事故の例)。
ところでこの懲役という制度、WIKIPEDIAから引用すると、
懲役は日本など自由刑に作業義務の区分がある法制度において所定の作業義務を科すことを内容とする刑罰である。
とあります。即ち刑務所内では所定の作業が課せられます。作業内容は同引用で、
懲役には炊事・洗濯など刑務所運営のための作業である経理作業と、財団法人矯正協会が国に材料を提供し靴・家具などを製作させたり、民間企業と刑務作業契約をして民間企業の製品を製作させたりする生産作業の2種類がある。
かつて刑務所で製作された靴を買ったことがあります。また愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から、受刑者の男が逃走した事件もありました。
ところでこの作業の対価は報奨金という形を取っており、被害者の元に渡るのではなく、出所時に受刑者に支給されることになっているようです。報奨金というものであれば「懲役」という概念が成り立たないような気がします。被害者への賠償金でなくとも、少なくとも国に納められれば「懲役」と言えるのでしょうが。
受益者に渡さなければ最近話題の「徴用工」になるのでしょうか。ところで同引用でこうもあります。
作業報奨金は出所直後の生活基盤となる資金でもあることから、矯正効果の向上や再犯防止の観点から増額を期待する意見もある。
短期の懲役刑(6ヶ月程度)では、受刑者に施設内処遇者というレッテルを貼られることによるデメリットが、懲役期間中の教育効果を上回るのではないかともいわれており、出所後の再犯率が高いことから教育刑としての効果が認められないのではないかとの指摘もある。また、雑居房で収容される刑務所が多いことから、犯罪者同士の交流を誘発(悪風感染)して教育上逆効果になると言う指摘もある。
元刑務官の坂本敏夫は1965年ころ、受刑者が一般の工場で働く構外作業が廃止されたことを例に挙げ、責任回避のために事故を起こさないことが刑務官の目標となり、受刑者は技術を身につけることができず、社会復帰ができなくなったと指摘している。
こう見てくると、「懲役」と言って刑務所に入所させる目的は、「更正」と「社会復帰へ向けての教育」にあるようです。ますます「懲役」の概念から遠ざかってきます。見方に因りますが、被害者に多大な迷惑をかけて刑罰を受け、刑務所に入所する目的が「本人の更正と、社会復帰の準備」のためだとすれば、まさに犯罪者の人権を擁護していることになりますが、被害者は完全に置き去りにされているような気がします。
たしかにやむを得ず犯罪に走り、刑務所で十分反省し、出所後二度と同様の犯罪を犯さないと言う覚悟を持った人もいるでしょうが、再犯の事例は多くあるようです。それが上記のような理由だけではなく、もともとその犯罪者が持っている犯罪性向が強い場合は、再犯を容易にしますね。覚醒剤犯罪や性犯罪者、傷害や窃盗、迷惑行為犯罪者に多いと思います。
特に性犯罪や傷害行為、詐欺を含む迷惑行為犯罪は被害者がどんなに避けようとしても、一方的に犯される例が多いと思います。こうした被害者を守るためにどうすれば良いか、国も地方ももう少し力を入れなければならないと思います。
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