脚光を浴びる新薬の裏側で
昨年のノーベル医学生理学賞を、京都大学特別教授の本庶佑氏が受賞したことで、一躍有名となった癌治療薬の「オプジーポ」。従来の抗がん剤とは全く異なるメカニズムが特徴で、有効性が高く副作用も少ない。多くの種類のがんに効く利点もあり、がん治療に革命をもたらす新薬として脚光を浴びています。
しかしこの新薬に代表される、新しい新薬類がもたらす負の側面、それが医療費膨張による財政負担の増大です。昨年8月にもこのブログで述べましたが、再度取り上げてみたいと思います。
日本の国家財政の状況については、GDPの2倍の借金を抱え、危機的状況だという意見もあれば、それは財務省の立場からの意見で、負債のみを問題にして、資産を隠している。しかも借金は国民からの借金で、ギリシャや他の財政危機国家とは違う。そう言う意見もあり、財政素人の私にとってはどちらが正論かはよくわかりません。
ですが財政支出の中で、この10年の間突出して増えているのが、福祉関係の支出。他の支出が漸増なのに、2倍にも膨れ上がっています。明らかに高齢者の増加がその大きな要因でしょう。年金、介護、医療いずれも大幅に増加しています。
それぞれ保険なので、元来保険制度の中でやりくりすべきなのでしょうが、現実には高齢者の増加に伴う支出の増大を、保険収入ではとてもまかないきれず、税金の補填が必要とされて来ています。今後ますますこの福祉関係の支出は増大するものと思われます。
この中でも、医療費は特に問題をはらんでいます。近年医学の進歩が進み、新しい医薬が開発されています。それはガンや難病に苦しむ患者にとって非常にいいことには違いありませんが、医薬品メーカーの多額の開発費を回収するため、その価格は跳ね上がる一方です。
「オプジーポ」もその一つの例です。2016年に出版された「医学の勝利が国家を滅ぼす」の著者で先端医療に詳しい里見清一氏によると、体重によって投与量が変わるが、60Kgの人だと1回投与当たり134万円、2週に一度の投与で1年で3,500万円ほどになるといいます。
この「オプジーポ」、2017年には半額に引き下げられ、その後も引き下げが続いて、昨年末には1,090万円になりましたがそれでも高額です。他の治療薬「アレセンサ」は、1錠6,615円。一日4錠必要で1年で966万円とこれもかなり高額です。
さらに「オプジーポ」はすべてのがん患者に効果があるわけではなく、全体の2~3割程度になります。しかも効くかどうか、投与するまでわかりません。いや投与してもわからないことがあるそうです。したがって本人が希望すれば、結果として効果のない人まで投与されることになり、膨大な薬代が使われることになります。
加えて日本の保険制度なら1~3割の負担で済む上、高額療養費制度があるため、患者が払う額は年間最高200万円に抑えられ、その他は税金などで賄われます。ですからこのような高額な新薬は、患者にとっては救いの神になりますが、医療財政にはその負担が大きくのしかかって来るのです。
要は先述の里見清一氏も述べているように、新薬が出来て癌や難病の治療に大きな貢献が出来る部分の、いわゆる正(賞賛)の部分だけではなく、国家財政をますます脅かすであろう負(警告)の部分もあるという、両面からの考察が重要だと認識することでしょう。
もちろん国はそれに対して有効な対策を考えていく必要があり、福祉財政が破綻する前にそれを成し遂げなければならない使命があります。厚生労働省はこれから正念場を迎えていくでしょう。是非効果的対策が打たれることを望みます。
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