半島のシナリオ研究を進める時
今回も日韓関係に関して、平和安全保障研究所理事長・西原正氏のコラム「半島のシナリオ研究を進める時」(正論09.02)を取り上げます。今までとほぼ同様な見方と意見が述べられていますが、とりわけ日本側の明確な意思を示すことと、対韓政策のシナリオ作りをすべきだという部分は、強く共感します。
≪新たな亀裂の象徴的意味≫
去る8月22日に韓国は日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA(ジーソミア))の破棄を決定し、日韓関係に新たな亀裂を加えた。米国とともに、両国が忍耐強い交渉の成果として、2016年に軍事情報を共有する「日韓準同盟」とも言える協定を結んだが、文在寅政権の思慮に欠ける誤断で11月には効力を失うことになる。
協定が破棄となっても、日本は実質的にはそれほどの実害がないが、韓国の方が情報入手の点で大きな損失となるようだ。とはいえ、協定は日米韓連携の象徴的意味を持つ。北朝鮮の弾道ミサイル発射および着地状況の情報交換よりも、3国間の首脳、防衛相、外相レベルの意見の共有や発信がより重要であった。
協定の破棄によって3国間の安全保障協力が円滑に行かなくなり、逆に中露朝はそれだけ有利な立場に立つことができる。北朝鮮は早速、日韓不和の間隙をつくかのように8月24日、短距離弾道ミサイルと思われる2発の飛翔(ひしょう)体を発射した。同協定の破棄は東アジアの力の均衡を日米韓側に不利にさせることになる。
米国が新任のエスパー国防長官をソウルに派遣してまで韓国に対して同協定にとどまるよう説得したが、失敗した。トランプ大統領が文大統領に対して怒りを表明したのは当然である。
≪韓国内の嫌日機運を牽制せよ≫
安倍晋三政権はこれまでのところ韓国の決定に関しての反応は極力抑え気味でいるが、文政権の反日姿勢(というより嫌日姿勢というべき)には強い不信感を持っている。日本側は、慰安婦支援財団や慰安婦像の問題、元徴用工への賠償などで、韓国側が1965年の日韓基本条約や日韓請求権協定を順守する気がないことを問題にしてきた。それらの件および日本から輸入した半導体材料を韓国が軍事目的転用疑惑国に輸出してきた状況から、安倍政権は韓国が規則を守らない、信用できない国と断定した。7月7日のテレビ番組で安倍首相は「国際的な約束を守らないのであれば、貿易管理でも守れないと思うのは当然」とも述べていた。
日本は韓国内の反日(嫌日)機運を少しでも牽制(けんせい)して弱める方策をとるべきである。そのためには政府高官が談話なり記者会見やテレビ会見なりを通して、韓国政府の主張の誤りや約束の不履行を指摘し、韓国国民に「文在寅政権が間違っているのだ」ということを喧伝(けんでん)すべきではないだろうか。
この他にも、「大使館前の慰安婦像設置は、外国公館前での侮辱行為を禁じたウィーン条約に違反しており、韓国の国際的評価を著しく下げている」「慰安婦問題で韓国は日本を非難しているが、ベトナム戦争での韓国兵士の起こした問題には賠償は払われていないのはなぜか」「元徴用工への賠償問題で、大法院が日本企業に賠償支払いを命じた判決は日韓請求権協定という国家間の約束に違反している」などの広報外交を積極的に進めるべきである。
また日本政府は、なぜ日本が韓国を半導体材料の輸出優遇国(「ホワイト国」)の地位を剥奪したのかの理由も明確に述べるべきである。韓国の反日運動に参加している人たちの多くが、韓国が輸出ルール違反をしているため、日本が韓国を優遇国から外したということを知らないといわれる。韓国の国会には、韓国企業による疑惑国への輸出件数が過去3年3カ月の間に142件あったとの報告がなされたのだから、この国連安保理決議違反の事実をもっと広く知らせるべきである。ここでも「これを放置すれば、韓国の国際的評価が下がるし、それを管理しない日本の評価が下がる」と。
≪中露の対韓接近にも警戒を≫
日米韓の連携が低下すれば、日米の結束をそれだけ強くすることが重要になる。その点で言えば、まず日本は朝鮮半島の将来に関しての共通のシナリオを作成する上で、トランプ氏が北朝鮮による日本海における弾道ミサイル実験を容認していることに異論を唱えるべきである。また日韓のGSOMIAは正式には破棄されるとしても、非公式には日本は韓国と軍事情報を共有することもできる。そうしたことを通して徐々に日米韓の連携のための信頼回復を構築できるのではないか。
さらに文政権のGSOMIA離脱とともに、日韓、米韓、中韓、それに韓朝関係が冷却化し韓国の孤立化が進んでいる。日本による朝鮮半島のシナリオ研究は緊急性を増している。
韓国が中露に接近するとは考えにくいが、米韓関係が弱まれば、中露の対韓接近は強まるであろう。そうなれば、米韓合同軍事演習の中止、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備の中止、在韓米軍の部分撤退などに進むかもしれない。これらの過程で、韓国内が親日米勢力と親中朝勢力とに分裂して不安定な政権運営が強いられるかもしれない。
日本は北朝鮮や中国に対抗して、韓国なしでも日米同盟をさらに強化していくべきである。
今まで述べてきた通り、西原氏も日本が韓国に対して執った諸施策に関し、理由をきちんと説明するなり、韓国の日本に対する様々な反日行為に対して、しっかりと反論するなり、対外的な発信を明確にしなければなりません。余りにも説明や主張が少なすぎると思います。
そして更に氏が言うように、半島に対する対応を出たとこ勝負で終わらせるのではなく、戦略的にシナリオをしっかり構築していく必要があります。こういう外交案件は与野党の垣根を越えて、全議員が一丸となって妙案づくりに励むのが必要ではないでしょうか。残念ながら政権の批判とスキャンダル追及しか頭にない野党議員に、望むのは無理かもしれませんが。
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