韓国経済に忍び寄る「Dの恐怖」
今回は玉置直司氏によるコラム『韓国経済に忍び寄る「Dの恐怖」』(JBpress 9/10)を取り上げます。消費者物価初のマイナス、高齢化、低成長と最近の韓国経済の実態が綴られています。
「あの頃の日本経済について聞きたい」
9月に入って急にこんな問い合わせが、韓国の産業界やメディア関係者から増えている。
ついこの間までは、日本政府による韓国向け輸出規制強化や日韓関係についてが圧倒的な話題に中心だったが、突然、変わってきた。
その理由は、「Dの恐怖」だ。
「あの頃」というのは、日本が長期経済低迷に見舞われた「失われた20年」当時のことだ。「Dの恐怖」とは、韓国での本格的なデフレが始まったのではないかという懸念だ。
消費者物価上昇率マイナス0.04%
2019年9月3日、韓国の統計庁は、「8月の消費者物価動向」を発表した。消費者物価上昇率は小数点以下1桁までの「公式発表」では前年同月比0.0%。2桁までみるとマイナス0.04%だった。
1965年に韓国政府が統計を作成し始めてから、消費者物価が公式発表数字で0.0%になるのも、実際にマイナスになったのも初めてだった。
統計庁の発表の前後、韓国内では、文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)大統領の側近で9日に法相に任命された曺国(チョ・グク=1965年生)前青瓦台(大統領府)民情首席秘書官の各種の疑惑を巡る問題にメディアの関心が集中していた。
そんな中でも、企業人や経済記者の間では、この「消費者物価マイナス」を「衝撃的な発表」を受け止めた。「毎日経済新聞」は「Dの恐怖襲来」と大きく報じた。
韓国の消費者物価上昇率は2019年1月に同0.8%となり、それ以来1%を下回る水準が続いていた。ついにこれがマイナスになったのだ。
生活実感は・・・
韓国での生活実感はどうか?
2000年代前半までは、韓国も「インフレを警戒する」雰囲気が強まった。
モノやサービスの価格は、かなりのペースで上昇した。一方で、タクシーや地下鉄、バスの料金、電気、ガス料金など政府が抑えていた。
最近は、これが逆になっている。
大手スーパーに行っても、ネットを見てもモノの価格は下がっている気がする。飲食店の価格も上昇が止まったり、「価格破壊型」の店が登場したりする。
逆に、タクシー、地下鉄、バス料金などは上昇している。
全体的に言えば、「どんどん上昇する」という実感はなくなっている。かと言って「本格的なデフレが始まった」という実感はない。
1990年代後半の日本の方が「デフレ」の実感はずっとあった。
8月だけか、広がる不安心理
韓国内でも、8月1か月だけの消費者物価上昇率で、「本格的なデフレが始まった」という報道はほとんどない。
2018年の8月は猛暑で野菜の価格などが上昇しており、2019年の8月の消費者物価にはこの野菜類などの値上がり分なども反映してはいる。
それでも、「そう言えば・・・」と思い当たるふしも少なくない。
モノやサービスの値下がりはあちこちで目に付く。ネット小売業者は、販売不振をカバーするために価格の引き下げや、配送量の無料化など実質的な「値下げ策」を打っている。
韓国紙デスクは「企業業績の悪化や世界経済の先行きに対する不安感、株価下落、不動産価格の先行きに対する不透明感などが消費心理にマイナスの影響を与えている」という。
「朝鮮日報」は「最近の日本製品不買運動も消費市場に悪材だ。産業通商資源部は“日本製品不買運動の影響で衣料品の売り上げが大きく減り、7月の百貨店全体の売り上げが前年同月比4%減少した”と分析した」と報じた。
韓国内の雰囲気は、「1か月だけの数字」ということではないのだ。
「韓国も日本がかつて経験したような長期経済停滞になるのではないか?」
もうすぐ始まる人口減少
こんな懸念が強まっている背景には、このところ芳しくない統計発表が続いたこともある。
消費者物価動向が出た前日の9月2日、統計庁は「世界と韓国の人口の現況および展望」という発表をした。
韓国の人口は2019年現在で5171万人で2028年には5194万人と、この間はわずかに増加する。しかしその後は減少に転じ、2067年には3919万人になると予想した。1300万人も減る計算だ。
この間、韓国では急速に少子高齢化が進む。65歳以上の人口構成比は2040年に33.9%から2045年には37%になり世界最高水準になる。
さらに2067年には、46.5%になる。
同時に、生産年齢人口構成比は2012年の73.4%をピークに減少に転じているが、2019年72.7%、2040年56.3%、2067年45.4%と急降下するのだ。
生産年齢人口の減少は急速で、これも「長期経済停滞」への懸念を呼んでいる。
こうした急速な少子高齢化を緩和できる可能性にも言及している。
「南北統一」だ。
南北を合わせた場合、生産年齢人口構成比は、2019年72.0%から2067年には51.4%へと減少するがそれでも韓国だけの数字より6ポイント高いという。
経済成長率は1%台に下落か?
芳しくない統計といえば、8月の消費者物価動向が発表になった9月3日、韓国銀行(中央銀行)は、2019年4~6月期の国民所得(暫定値)を発表した。
GDP成長率は前期比1.0%で7月に発表した速報値よりも0.1ポイント下方修正した。
韓国のGDP成長率は、1~3月期に前期比マイナス0.4%となった。このため、4~6月期は1%をかなり超える数字になるとの見方もあったが、1.0%増にとどまった。
これにより2019年のGDP成長率は2%を下回る水準になるとの見方がさらに強まったきた。
消費者物価上昇率マイナス転換、少子高齢化、成長率鈍化に加え、輸出低迷、企業業績悪化、株価下落、ウォン安・・・。
「毎日の経済面が暗い内容ばかりで、明るい経済ニュースを探せと記者に指示してもなかなか出てこない」。韓国紙デスクは嘆く。
積極財政で景気てこ入れ
8月の消費者物価同行が発表になった9月3日、企画財政部と韓国銀行の幹部が「マクロ政策協議会」という緊急会議を開いた。
この席で、消費者物価がマイナスになったことについて、農水産物や石油価格の下落による一時的な数字だと分析、日本型の長期景気停滞期に入ったとの見方を否定した。
だが、こうした見方に対して、政府系シンクタンクのKDI(韓国開発研究院)は、9月9日に発表した「経済動向」報告書で、韓国経済全般について「最近、内外需要が萎縮して全般的に不振だ」と述べた。
政府が、農水産物や石油価格など「供給面」の一時的な事情だと分析するのに対し、「需要減」も原因だとの見方を示した。
専門家の分析はともかく、政府としては「Dの恐怖」などという物騒な言葉が出ている以上は、何とかこれを打ち消さないといけない。
といって、妙手があるわけでもなく、結局、「財政頼み」にならざるを得ない。
政府は、8月末、2020年度の予算規模を2019年比で9.3%増やして513兆5000億ウォン(1円=11ウォン)規模とする方針を決めた。
予算規模が500兆ウォンを超えるのは初めてだ。雇用対策や少子高齢化に伴う対策費など保健福祉労働関連予算が12.8%増の181兆6000億ウォンに膨れ上がるほか、インフラ整備費用も同12.9%増の22兆3000億ウォンに増える。
積極財政で、経済を何とか下支えし、2020年4月の総選挙で勝利したいという意欲が強くにじむ予算編成になった。
日本の事情に詳しいエコノミストはこう話す。
「日本も物価下落と少子高齢化が急速に進み、政府は超積極予算を組んだ。景気回復にはつながらず、財政悪化がどんどん進んでしまった」
「今の韓国も経済が悪化しているのだから、積極財政に乗り出すのは良いが、どこまで効果が上がるのか。日本がたどった道を歩むことだけは避けたいが・・・」
もう一つ。韓国で最も懸念が強まっているのが、「不動産」の先行きだ。
家計負債は1500兆ウォンを超えてしまった。その多くは不動産向けだ。いったいどうやって返済するのか?
日本型不況を恐れる大きな理由はここにある。
「D(=デフレ)の恐怖」が、韓国を徘徊している。
30年前、日本もバブルの崩壊とともに一気に低成長に突入しました。生産年齢人口の頭打ちから減少へ、それが一つの原因となり経済政策の失敗も重なって、円高による輸出企業への負荷の増大、株や不動産などの資産価格の暴落を経て、デフレが国内経済を襲い失われた20年の到来へとつながりました。
韓国も当時の日本によく似ています。しかし少子化のスピードは日本より高く、福祉政策もいまいち、国民は借金にあえいでいる状況は日本より格段に厳しいと言えます。文政権下での経済政策は当時の日本と同様失敗の連続です。
そして韓国経済は日米の投資や技術協力のおかげという面が大きい。その日本や米国に楯突いて自ら墓穴を掘っている現状では、数年後は地獄に陥るでしょう。まさに自業自得のなせる業です。
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