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2020年6月 1日 (月)

コロナ封じ込め成功?「日本モデル」とは何だったのか、その意義と成果

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 新型コロナウイルスの感染症に対し、まだ完全ではないが一応の収束を成し遂げた日本。WTOからも日本の成功例に称賛が寄せられています。いわゆる「日本モデル」、これについて多方面から様々な評価や意見が寄せられていますが、「現代ビジネス」に寄稿した東京外国語大学教授篠田英朗氏のコラムが、その全体像を的確に捉えているのではないかと思いますので、以下に引用転載します。タイトルは『コロナ封じ込め成功?「日本モデル」とは何だったのか、その意義と成果 これからのコロナ対策に向けて』(5/28)です。

5月25日、延長期間を含めて1.5カ月間続いた「緊急事態宣言」が解除された。安倍首相は、会見において、「日本モデルの力を示した」と述べた。

3月半ばから、日本のやり方には「日本モデル」と呼ぶべき特性がある、と論じてきた私としては、緊急事態宣言が成果を収めて終了したことを、素直に祝福をしたいと思っている。  

『現代ビジネス』でも何度か「日本モデル」について論じさせていただいた。緊急事態宣言の解除のタイミングで、あらためて「日本モデル」について考えてみたい。

「日本モデル」は緊急事態宣言をへて固まった

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は、3月19日の『新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言』において、次のように述べた。

「我々としては、『3つの条件が同時に重なる場』を避けるための取組を、地域特性なども踏まえながら、これまで以上に、より国民の皆様に徹底していただくことにより、多くの犠牲の上に成り立つロックダウンのような事後的な劇薬ではない『日本型の感染症対策』を模索していく必要があると考えています」

3月19日に萌芽的に「専門家会議」が語った「『3つの条件が同時に重なる場』を避けるための取組」が、後に「三密の回避」というフレーズとなった行動変容のメッセージである。わずか2カ月の間で、「三密の回避」は、日本国民で知らない者はいない、というくらいに定着した。

「三密の回避」は、「日本モデル」の象徴だ。厳しいロックダウンや杓子定規のソーシャルディスタンスといった欧米由来のカタカナ用語でなく、誰でも覚えられる日本語のフレーズで、要領を踏まえた感染拡大予防の秘訣を、国民に示した。これほどの成功は、商業分野でもめったにない、というくらいの大成功例だろう。

これは「専門家会議」の大きな功績だが、3月19日の段階でまだようやく「専門家」たちはぎこちない表現で「『3つの条件が同時に重なる場』を避けるための取組」を語っているだけだった。政府関係者か、広報につなげた担当者の大功績で、「三密の回避」という強力な標語ができあがった。

しかし今から考えてみると、感染者が急増している最中に、「三密の回避」のメッセージができあがった。「専門家会議」が初めて「日本モデル」という言葉を『状況分析・提言』に入れたのも、4月1日の感染者数が高いレベルの時期であった。

こうして考えると、「三密の回避」を中心とする「日本モデル」の取り組みは、主に緊急事態宣言の時期をへて、定着していったのだと言うことができる。国民の意識強化が図られたのであろう。そのことを踏まえ、緊急事態宣言の経験を活かす意味で、「三密の回避」メッセージに代表される「日本モデル」の意義をあらためて捉えなおしていくべきだ。

予防行動に重きを置く「日本モデル」

「三密の回避」は、クラスター発生を予防する行動を重視する考え方だ。そこがポイントである。

新型コロナは、感染者全員が等しく他人に感染させるわけではないと考えられている。その代わりに一人の感染者が数多くの人々に感染させてクラスターを作っていく事例も多い。

ネットワーク論の言葉を用いると、「誰もが同じ確率で接触するランダムネットワーク」よりも、スーパー・スプレディング・イベントを通じて偏差のある形で感染が広がっていく「スケールフリー・ネットワーク」こそが感染拡大の元凶になるということだ。少数のハブだけが多くのリンクを持っている広がりなので、その少数のハブを予防することによって、かなり効率的に感染者の母数を減らすことができる。

接触感染を中心とする「ランダムネットワーク」の要素がないということではない。だが「日本モデル」では、もともとウイルスの撲滅を目指しているわけではない。社会経済活動を維持しながら「リスクをゼロにするのではなく、コントロールしていく」(5月25日安倍首相会見)というアプローチが、「日本モデル」の考え方である。

そうだとすれば、「スケールフリー・ネットワーク」の「少数のハブ」の発生を防ぐことこそが、コロナ対策の戦略の要となる。そしてそれは、国民にまずは「三密の回避」の徹底を呼び掛けるというアプローチだったのである。

PCR検査数の少なさが大きな批判の対象になってきた。

しかし、今までのところ、「何とかして陽性者を見つける」という米国・韓国式のアプローチではなく、「何とかしてクラスターの発生を防いでいく」という「日本モデル」は、機能している。

緊急事態宣言が解除された段階の感染者数が激減した段階で見てみると、クラスターが発生しているのは病院や施設などの特定施設が多くなっているようだ。「三密の回避」を中心にした国民の行動変容によって防ぎたかったクラスターは、防いできているのである。

客観的に言って、新型コロナの「スケールフリー・ネットワーク」型の感染拡大の特性をふまえたうえで、クラスター発生の予防を重視していくというアプローチは、合理的だ。

4月10日の会見で、WHO(世界保健機構)は、日本のクラスター班の発見で「患者の5人に1人からしか、他人には感染させていないことが分かった」ことを称賛した。それもあって5月25日にWHOテドロス事務局長は、「日本でも成功例を見ることができた」と述べたのである。

私はこれまでも繰り返し指摘してきたが、「日本モデル」の最大の弱点は、自分の行動について日本人自身が意識化を図っていないことである。

しかし、「三密の回避」アプローチの広範な普及にもかかわらず、その戦略的意味の意識化を日本人自身が全く行おうとしないのでは、「日本モデル」が非常にミステリアスなものとして取り扱われるのも無理はない。

日本のマスコミは、話題性のある著名人による威勢のいい政府批判の発言などばかりを追いかけて、物事を分析することを全くしない。

それどころか「日本モデル」の分析をするだけで、「日本特殊論はやめろ!日本は何も優れていない!欧米や韓国を尊敬するべきだ!」というバブル時代に現役だったシニア世代の「羹に懲りて膾を吹く」方式のイデオロギー的な声にさらされてしまう。

一部の積極的に発言をしている科学者「専門家」層にも問題がある。欧米の取り組みと比較して違っているところがあると、それを日本の欠点と考える、という傾向が強すぎる。

国際政治学者と違って、科学分野では、欧米人以外の人々との国際交流が希薄なのだろう。しかも欧米においても、感染症の研究ができる大学研究機関の数は相当に限られているようだ。

その狭い視野の中で覚えた杓子定規の考え方を一方的にあてはめるやり方は、それぞれの社会の状況を踏まえていないという点において、そして新型コロナがいまだ未知のウイルスであるという点において、大きな限界を露呈しているように感じる。

世界は欧米と日本だけではない

日本の「専門家」の多くが、日本の感染者数や死者数が「欧米より少ない」ことをひどく気にしている。そのためある者は、実は隠された死者が沢山いるのではないか、といった陰謀論を吹聴する。また別の者は、日本人に特有の遺伝子構造があるのではないか、といった観点から研究を進めているという。

だが国際政治学者の私が素朴に感じる問いは、「専門家の皆さん、世界にどれくらいの数の国があるか知っていますか?」である。

日本の「専門家」たちの視野には、ほとんど「欧米」と日本しかない。時折、「アジアの他の国は」と言われて、ぎょっとしたりする程度だろう。

医科学分野の最先端の研究をするのであれば、そういう世界観が常識になってしまうのは仕方がないのかもしれないが、新型コロナは全世界に広がっているという端的な事実を、まずは認めてほしい。

日本の取り組みの成績が、世界的に見てどの程度のところに位置づけられるのかを見るためには、「Worldometer」というサイトを見たりするのが一番便利だろう。213の国・地域における日本の位置づけが一目でわかる。

まずすぐにわかるのが、感染者数・死者数・致死率のいずれをとっても、欧米諸国が圧倒的に上位を占めている、ということだ。

たとえば人口100万あたりの死者数を上位から見ていくと、つぎのようになる。

サンマリノ、ベルギー、アンドラ、スペイン、イタリア、イギリス、フランス、スウェーデン、オランダ領セント・マーチン島、オランダ、アイルランド、アメリカ合衆国、マン島、チャネル諸島、スイス、英領モントセラト、といった具合に、17位でエクアドルが出てくるまでの上位16位を欧州(とその海外領土)と合衆国で占めている。驚くべき地域的な偏差である。

ちなみに日本は累積感染者数で40位、死者数で28位、人口100万あたりで見ると、累積感染者数で142位、死者数で94位と、中位の順位だ。

もちろん一歩間違えれば甚大な被害が出る新型コロナの話だ。私はこの成績でも、日本は十分に堅実な成果を出している、と評価できると思っている。ただ、別段、世界の中で際立って華々しく成績がいい、とまで言えるほどではないだろう。

ちなみに評判の悪いPCR検査数だが、日本は総数で世界31位、人口100万あたりで129位である。これも際立って多いわけではないが、最底辺でもなく、だいたい感染者数と死者数にみあった水準で検査を行っていると言えると思う。

このWorldometerサイトではすぐにわからないのは、感染者数に対する死者の割合だ。感染者数や死者数の総数は、確かに各国の検査体制の充実度などによって左右されてしまう。だが、よほどのことがないと、確定感染者の中から死者が出た際に、発見されない、ということはないだろう。

そこで今回アルバイトを雇って213の国・地域の感染者に対する死者の割合である「致死率」を計算してもらった。すると日本の致死率は5.0%で全体の57位だということがわかった。最悪の致死率から数えて213件中のワースト57位である。よく頑張っているのだが、優れているというほどではない。

ちなみに「致死率」ワースト10位を見てみよう。オランダ領セント・マーチン島、イエメン、ベルギー、フランス、イタリア、イギリス、ハンガリー、オランダ、英領ヴァージン島、アンティグア・バーブーダ、である。カリブ海の小国のアンティグア・バーブーダと、内戦中の混乱にあるイエメンを除くと、やはり全て欧州(とその海外領土)である。

大きな傾向を見るために、地域ごとの致死率を見てみよう(国連公式地域分類に依拠)。

アフリカ:3.0%(北アフリカ:4.6%、東アフリカ1.7%、中部アフリカ2.7%、南部アフリカ2.0%、西アフリカ2.1%)

米州:5.7%(北米:5.9%、カリビアン3.3%、中米8.8%、南米4.9%)

アジア:2.8%(中央アジア:0.6%、東アジア:5.1%、東南アジア:3.0%、南アジア:3.4%、西アジア:1.5%)

ヨーロッパ:8.6%(東欧:1.6%、北欧:12.4%、南欧:10.9%、西欧:10.5%)

オセアニア:1.4%

このように世界で致死率が10%を超えているのは、北欧・南欧・西欧だけである。次に高いのが中米と北米だ。北米ではニューヨーク州などの一部地域が異常に高く、それ以外はそれほど高くない。実は世界平均は6.2%なので、世界平均より高い致死率は、東欧を除く欧州と中米だけであり、北米が全体で世界平均くらいだ。

日本の致死率も、東アジアの致死率も、世界平均の少し下くらいで、中位の成績である。

結局、注目すべきは、欧州(中米・北米一部地域)の異常な致死率の高さである。それ以外の地域を見て、欧州よりも低い、と言ってみることには、ほとんど何も意味がないことがわかるだろう。

政策的事情による医療崩壊、行動様式、生活習慣、慢性疾患の度合いなどの要素に加えて、自然免疫などの面で欧州人が不利になっている要素があるかもしれない。恐らく複合的な要素があるだろう。

ただ、いずれにせよ「欧州より日本の感染者・死者が少ない」ことを「奇跡」とか「不思議」とかと考えるのは、滑稽なことでしかない。単に「日本モデル」の意味を見失わせるだけでなく、コロナ対策の方針そのものを混乱させてしまう態度だと言わざるを得ない。

「日本モデル」の意義

予防行動に重きを置く「日本モデル」の意義は、世界第3位の経済力と世界第10位の人口を持つ国が、社会経済活動を完全に停止させることなく、堅実なコロナ対策をしていることにある。

早い段階から「日本モデル」に着目して論じてきた私としても、この「日本モデル」の意義は強調したいところである。だが、だからといって今の日本の状況が、全く信じることができない不思議なものだということにはならない。

「専門家」の皆さんには、ひたすら「欧米よりも日本の致死率が低いのは不思議だ」といった的外れな問いに頭を悩ませ続けることなく、世界には欧米と日本以外にも人間が生きている広大な地域があるという事実を思い出し、正しく問いを設定し、冷静に研究を進めていってほしい。

 なるほど、日本は感染を抑え込んだ優等生の国だ、ではないのですね。感染者数も死者数も突出して多い「欧米」よりは良いが、世界の中では中位くらいだろう、というのが篠田氏の結論ですね。

 「3密」を避け、クラスター発生をとにかく抑える、これが「日本モデル」の特徴であって、それを国民が社会活動を完全に停止せず、国民自粛の中でやり遂げたことを言うようです。

 しかし水際対策を的確にやり、強制力を持って休業や自粛にもっていった、台湾、ベトナムに比べれば、遙かに感染者数や死者は多く出ています。どうしても休業要請に応じない事業者に手を焼き、特措法にもう少し強制力があれば、また休業補償もセットであれば、と感染拡大中には様々な意見もありました。ですから、これをもって最高の感染防止システムとは言えないと思います。それは今後第2波以降の対応として、結論を待たなければならないのではないでしょうか。

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