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2020年6月15日 (月)

持続化給付金疑惑、その本当の背景は

News3999418_50  新型コロナウイルスの自粛要請を受け悪化した業績の穴を埋めるための、「持続化給付金」。支給の遅れや審査の不透明さなど問題が指摘されていますが、業務委託金の不正疑惑も持ち上がって、世間を揺るがせています。

 支給の遅れはひとり10万円の「特別定額給付金」にも及んでいます。どうもその問題の理由は同根のようですが、「持続化給付金」の疑惑問題は多くの要素が絡んでいるようです。その辺りの実態を政策コンサルタント原英史氏のコラムから紐解きます。タイトルは『「持続化給付金」疑惑、本当の「出口」はどこか? 今こそ20年来の「行革のやり残し」を解決せよ』(JBpress 6/13)で、以下に引用掲載します。

 持続化給付金が終盤国会の焦点のひとつだ。「幽霊法人」「トンネル会社」「中抜き」などに続き、11日発売の文春砲では「前田ハウス」なる「癒着」疑惑も出てきた。

 だが、「癒着」に関しては、記事をみる限り、不正や公務員倫理法違反は明らかでなく、文春砲にしては詰めが甘い。「中抜き」疑惑もよくわからない。役所の業務委託の場合、「〇億円渡すから適当にやって」ということはなく、事後的に何にお金をつかったかチェックする。報道や国会質問では、769億円の委託費を関係者で山分けしたかのような指摘もあるが、そうしたことは普通起きない。

 何か怪しいというだけの疑惑追及は、有害無益だ。事実無根の疑惑追及を昨年の国会でさんざん受けた経験上、強くそう思う。

 ただ、本件には問題がある。今回露呈した業務委託の構造は、不明瞭で理解しづらい。

・実質的には“電通コンソーシアム”として受託するのに、なぜサービスデザイン協議会なる団体が元請けになるのか。

・再委託・再々委託を多層的に行い過ぎていないか。結果として、役所のチェックが及ばなくなっていないか。

 こうした点は、さらに検証し、改善につなげるべきだ。

突出して少ない日本の公務員

 なぜこんな不明瞭な業務委託がなされたのか。問題の淵源としてまず、日本の公務員の数が極めて少ないことを認識しておく必要がある。雇用全体に占める公的部門(国、地方など)の比率は、OECD平均17.7%に対し、日本は5.9%(2017年)。先進諸国の中では突出して少ない。

「小泉内閣での民営化路線で、公務員の数が減ったから」などと誤解している人もいるが、これは違う。村松岐夫『日本の行政』(1994年)など、それ以前から長らく指摘されてきたことだった。

少ない公務員を支えてきた「外郭団体」

 なぜ少なかったかは諸説あるが、本題から外れるのでここでは触れない。ともかく日本では、少ない人数で公務を担ってきた。これを支えたのが「外郭団体」だ。伝統的には、役所にはそれぞれの部署に、所管の業界団体や特殊法人などの外郭団体があった。これらがいわば“下請け機関”の役割を果たしたので、役所そのものは少数でも仕事が回っていた。多くの場合、外郭団体には役所から天下ったOBがいて、役所との窓口役を務めていた。

「外郭団体」システムは、効率的行政を支えた半面、無駄や癒着の温床にもなっていた。負の面が問題となり、2000年前後から行政改革のターゲットになる。かつては各省庁のもとに大量の公益法人(社団法人、財団法人)がぶら下がり、役所と密接な関係を構築していたが、補助金や業務委託の必要性を厳しく見直して整理。さらに、新たな公益法人制度(2008年施行)で、各省庁との関係も断ち切られた。特殊法人改革や天下り規制などもなされた。

 こうして、かつての「役所と外郭団体の協業」システムは相当程度打ち壊された。代わりに、役割を求められたのが、競争入札に基づく「民間企業への委託」だ。だが、外郭団体をそのまま民間企業で置き換えようとしても、無理の生じることがある。例えば今回の事案では、「電通が直接受託すると、名義やキャッシュフローなどの面で支障が生じる(だから、協議会が元請けになった)」との話が出てきた。これを額面通りに受け取るかはともかく、こうした「支障」に便宜的に対応し、いつの間にか設けられていたのが、サービスデザイン協議会のような、いわば新種の「外郭団体もどき」だったのだ。

 こんな便宜的対応ではなく、正面から向き合おうとの議論がなかったわけではない。橋本龍太郎内閣のもとでの「行政改革会議最終報告」(1997年)では、中央省庁再編などとともに、「政策の企画立案機能と実施機能の分離」が掲げられていた。

 伝統的に役所では、政策構想を練り上げる「企画立案」と、できあがった政策を確実に執行する「実施」が同じ組織で連続的に担われてきた。結果として、「企画立案」ばかりに目が向き「実施」は軽視されるなどの問題が生じがちだった。そこで、「企画立案部門」と「実施部門」を分け、それぞれに最適な体制を構築しようとの方針が定められた。

 ところが、その後の実際の取組をみると、看板の架け替え程度にとどまることが多く、「実施部門」の本格整備は概して不十分なままだった(省によって濃淡もあるが、特に経産省は伝統的に「実施」が軽視されがちで、改善も不十分だった)。

 今回の疑惑は、こうした中途半端な行政改革の隙間から噴出したものだ。無駄や癒着を断ち切る「破壊的な行革」は進んだが、公務をしっかり担うための「建設的な行革」は不十分だった。前者は国民の関心も高く、政治の力がそそがれやすい。一方で、後者は地道で、多くの人の関心外のまま、惰性に阻まれてきた。結果として、不明瞭な仕組みが作られることになった。

「デジタル政府」化では公務員が少ないことをメリットにできる

 これを機に、20年来の課題である「実施部門」の整備に改めて取り組むべきだ。

 今回の補助金執行のような行政事務を担うため、正面から「準公的機関」の制度化を検討したらよいと思う。サービスデザイン協議会は「設立に経産省が関与した」との疑惑も取り沙汰された。真偽は知らないが、おそらく経産省としても、こうした協議会の存在が必要だったのだろう。それならば、「あくまで民間で設立した協議会」などと取り繕っていないで、堂々と役所が設立したらよい。その代わり、純粋な民間機関ではなく準公的機関と位置付け、それにふさわしいガバナンスの仕組み、再委託ルールなどをきちんと制度化すべきだ。

 行政改革会議最終報告から年月を経て、大きく変わったこともある。「デジタル政府」を支える技術の飛躍的進化とマイナンバー制度だ。かつては人海戦術でこなさなければならなかった事務の多くは、今や人手を介さず実施できるようになった。日本はこれまで「デジタル政府」で欧米諸国から出遅れてきた。

 だが、実はこれから大逆転の可能性も秘めている。「実施部門」で多くの人員を抱えてこなかったからこそ、抜本的な省力化を伴う、これからの本格的な「デジタル政府」には真っ先に移行できる可能性がある。

 コロナ後に向け、世界に先駆け新たな行政モデルを構築できるかどうか。「持続化給付金」疑惑の出口はここだ。

 日本の行政の問題点は、一つは原英央氏の言うように人員だけの省力化を成し遂げただけで、それを補完すべきITによる業務の効率化が極めて遅れていることです。更には原氏の指摘ではありませんが、政治家のために作成する資料が多すぎる、それも野党の要求する些末な質問への対応を伴うものが多い。恐らく県や市町村レベルでもそうではないでしょうか。

 その辺りは以前このブログでも取り上げた「日本の未来のために、官僚に本来の仕事を」「IT活用で給付金の申請と給付の手続きの簡素化を」で述べていますが、いずれにしろ無駄が多いうえにIT活用の遅れで効率化が図れていない、その副作用として業務の杜撰さが目立ち、それを隠そうと様々な追及に対してその場しのぎや、曖昧な対応しかできず、更に疑惑を募らせているのが実態でしょう。

 IT活用の一つの例として、今総務省で計画し始めた、マイナンバーを(一つの)個人口座に紐付けをしたり、事業者にも個人のマイナンバーと同様な仕組みを導入していけば、業務の簡素化と支給の迅速化が同時にできるのです。一部左界隈の人たちが騒いでいるプライバシー問題も、この導入によるメリットを数値化して提示すれば、国民の納得は得られると思いますね。

 私事ですが、定額給付金の申請をして2週間近くたっても口座に振り込まれない現実を見て、日本の行政事務手続きの緩慢さを身をもって体験しています。この状況何とかしなければ、と強く思います。

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