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2020年6月 2日 (火)

1億7千万円の新薬、対象幼児と家族の期待の裏側で

8-2  全世界で、新型コロナウイルスの感染症に効果がある、新薬の登場が待たれていますが、以前このブログで「脚光を浴びる新薬の裏側で」と題し、画期的な新薬登場を喜ばしく思う反面、それがとびぬけて高額な価格の場合、医療財政を急速にひっ迫させている現実を取り上げました。

 今ここに「ゾルゲンスマ」という遺伝子治療薬が登場、公的医療保険の対象となったようです。その価格なんと1億7千万円だそうです。本日の産経新聞の社説から以下に引用転載します。タイトルは『国内最高額の薬 価格には信頼が不可欠だ』です。

 約1億7千万円という遺伝子治療薬が、公的医療保険の対象になった。過去最高額で日本で1億円を上回ったのは初めてだ。乳幼児の脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ」で、点滴により1回投与する。

 これまでは人工呼吸器を生涯装着するか、2歳程度までしか生きられなかった幼児が、早期投与により座ったり歩いたりするようになった事例が報告されている。

 長期的効果の見極めはこれからだが、根源的治療になるかもしれない。幼児の人生を開くものとして、家族と期待を共有したい。

 1剤あたりは高額でも、患者の自己負担は低い。個人では負えない大きなリスクに直面しても、効果のある治療があるなら使えるようにすることは公的医療保険の本来の役割といえる。

 ただ、価格が決まるまでの経過には苦言を呈したい。厚生労働省の「先駆け審査指定制度」が適用された。画期的な効果があり、世界に先駆けて日本で開発・申請される薬を、スピード承認と高い薬価で報いる仕組みだ。

 だが、優れた新薬を早期承認する狙いが、今回は途中で失われた面は否めない。薬剤の開発元だったベンチャーによって品質に関する不適切なデータ操作があったことが、製薬会社から報告された。品質の再評価が行われ、有効性や安全性に影響はないとして認可された。

 製薬会社は、開発元ベンチャーへの監督が行き届かなかったことを猛省すべきだ。この不祥事で審査は少なくとも数カ月遅れた。

 こうした問題があったにもかかわらず、指定制度に伴う加算により、価格に約1千万円が上乗せされたことには疑問を感じる。公的医療保険に関わる薬価には信頼が不可欠である。厚労省は加算の見合わせも検討すべきだったのではないか。

 公的医療保険の対象となる高額薬には肺がん治療薬「オプジーボ」や血液がん治療薬「キムリア」もある。高額でも効果の高い薬を用いる必要性は、これからますます出てくるだろう。

 保険対象の高額薬が増えれば保険財政を圧迫し、ひいては保険料や税金で国民負担が膨らみかねないことも同時に認識しておかなくてはならない。その意味でも価格が効果に見合うかどうかを丁寧に精査していく必要がある。

 社説では開発元のベンチャー企業の不祥事が発端となって、認可が遅れ、かつ1千万円が上乗せされたことを中心に、問題点として指摘していますが、それより最後の部分、「保険財政への圧迫」の方を本稿の問題点として取り上げたいと思います。

 周知の通り、現在国家予算のほぼ3分の1が社会保障費、そのうちの約3分の1が医療費で、昨年度予算では11兆8千億円となっています。医療保険ですから本来は保険料で賄わなければなりませんが、高齢化による医療費の高騰で、現在では3割近くが国の税金から投入されている状況です。

 「人の命は地球より重い」という哲学的な表現を用いずとも、人命の尊さは一部の過激派や原理主義者を除き、万人認めるところです。しかし交通事故死での補償などに見られるように、金額にすればそれは億単位の例もあるでしょうが、無限ではありません、当然有限です。

 確かに人一人の命を救えれば1億7千万円かけても、という考えは支持されるでしょうし、逆に財政を圧迫するという理由で反対するのは、対象者の人権を否定する意味で受け入れられないでしょう。ましてこれで幼児を救えるのです。しかし・・・と私は思うのです。

 国民全体が若く国家財政が潤沢な時代はいいでしょうが、今や借金に寄り掛かった瀕死の状態、しかも人口減少はまだまだ続き、収入はもうこれ以上増えないしむしろ減る、そうした中で膨らむ社会保障費、どうしたらいいのでしょう。

 結婚しない若者をあの手この手で結婚させ、多額の出産祝い金を出すことにより子供をできるだけ多く生んでもらい、そのために若者が子育てしやすいよう産業を整備し、同時に若者の給与を上げ、高齢者より子持ち家庭に社会保障費をできるだけシフトし、国を挙げて少子化を止める。そのための特別立法を早急に立案成立させる。・・・などと考えても、今の与野党の論戦状況では実現性は程遠いようです。

 いずれにしろ、今後ともこれらの新薬が登場し、高薬価への保険適用を進めて行けば、やがて破綻が来るのは目に見えています。今回の新型コロナウイルスへの対応状況を見れば、今の厚生労働省に有効な対応を期待するのは、あまり現実的ではないようです。スーパー厚労省の出現を祈るのみです。


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