「中国の夢」実現を目指し「戦狼外交」に走る中国、その矛先は日本にも
習近平国家主席が目指す、「中国の夢」つまり「中華民族の偉大なる復興」の理念へ向けての政策活動が、いよいよ本格化してきました。新型コロナウイルスで今年初め翻弄された形ですが、早期に収束を成し遂げ、それとともに「牙」を露わにしてきた感があります。
「中国の夢」とは「かつて東は中国から西はローマ帝国に及ぶ広大なシルクロードを勢力下に置き、鄭和の艦隊がアフリカの角にまで進出して文化や経済と科学技術をリードした中国の栄光を取り戻す」という意が込められています。その現代版ともいえる一対一路構想を軸に、その夢の実現を目指しています。
習主席は2012年と2013年に「中国の夢」に関し次のように発言しています。
<誰しも理想や追い求めるもの、そして自らの夢がある。現在みなが中国の夢について語っている。私は中華民族の偉大な復興の実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う。この夢には数世代の中国人の宿願が凝集され、中華民族と中国人民全体の利益が具体的に現れており、中華民族一人ひとりが共通して待ち望んでいる。>(2012/11/15)
<小康(ややゆとりのある)社会の全面完成、富強・民主・文明・調和の社会主義現代化国家の完成という目標の達成、中華民族の偉大な復興という夢の実現は、国家の富強、民族の振興、人民の幸せを実現させるものである。中国の夢とはつまり人民の夢であり、人民と共に実現し、人民に幸せをもたらすものだ。>(2013/3/14)
人民、つまり中国国民に幸せを実現させるのには、何の異論がありませんが、一対一路構想を通じて、更には太平洋への進出を通じて、外に向かって覇権を拡大し、収奪を目指しているとすれば、全く受け入れられない理念・構想です。
そして習主席はかつての中国の英雄、毛沢東を目指していると、自他ともに認められる証拠として、主席在籍期間を事実上無期限とする憲法の改正を行い、一人独裁の道を進みつつあります。毛沢東の時代は最貧国の状態でしたから、まだ外へ向かっての影響力はそれほどではなかったのですが、今や米国に対抗する力を備えるに至っています。とても暴走し始めたら止められません。
日中友好の陰で、日本に対しても「牙」を剥き始めたそのあたりの最新情報を、ジャーナリストの近藤大介氏がJBpressに寄稿したコラム『批判したら経済封殺、日本も中国「戦狼外交」の標的』(東アジア「深層取材ノート」(第39回)6/12)から引用転載します。
中国の「戦狼外交」(せんろうがいこう、ジャンランワイジアオ)が、ついに日本に対しても炸裂し始めた。
6月10日、中国外交部の定例会見で、香港の『サウスチャイナ・モーニングポスト』の記者が、「日本は次のG7外相会議で、香港国家安全法と『一国二制度』に関する共同声明を発表したいとしているが、中国側はどう反応するか?」と質問。すると華春瑩(Hua Chunying)報道官が、頬を硬直させてこう吠えたのだ。
「その関連報道には注意している。すでに日本に対しては、厳重な懸念を表明した。(5月28日に)中国の全国人民代表大会は、健全な香港特別行政区を維持、保護する国家安全の法律制度と執行機関の設置を決定した。これは完全に中国の内政に属することで、いかなる外国も干渉する権利はない。関係する国は国際法と国際関係の基本原則を順守しなければならない」
この「厳重な懸念」発言に、日本の経済界は戦々恐々となった。「日本が第二のオーストラリアになるのではないか」というわけだ。
オーストラリアにも戦狼外交
先月のこのコラムで詳述したが、オーストラリアのスコット・モリソン首相が4月23日の会見で、「新型コロナウイルスの感染拡大の原因に関する国際的な調査を行い、中国もこの目標に協力することを望む」と述べた。
これに中国が怒り心頭となって、「戦狼外交」を展開したのだ。オーストラリアは昨年、中国から489億ドルもの貿易黒字を叩き出し、外国人観光客の15%、留学生の38%も中国に依存しているくせに、何をほざくか、というわけだ。
中国は5月12日、オーストラリア産の牛肉を対象とした報復に出た。オーストラリアの4カ所の大手食肉処理場からの牛肉の輸入をストップさせたのだ。この4カ所で、昨年30万トンにも上った対中輸出牛肉の約35%を占める。
5月19日からは、報復第2弾として、オーストラリア産の大麦に対して、5年間の反ダンピング関税を課した。73.6%の反ダンピング税と6.9%の反補助金税だ。
第3弾は、観光客である。6月5日、中国文化観光部が、次のような通知を出した。
<最近、新型コロナウイルスの影響を受けて、オーストラリア国内の中国人やアジア系住民に蔑視や暴行が目に見えて高まっている。文化観光部は中国の観光客に対して、安全防犯意識を高め、オーストラリアに旅行に行ってはならない>
牛肉、大麦、観光客。まさに中国の「戦狼外交」恐るべしである。
中国のこうした「戦狼外交」が本格的に言われ出したのは、今年3月からである。3月12日、新人の趙立堅(Zhao Lijian)外交部スポークスマンが、トランプ大統領の「中国肺炎」という新型コロナウイルスの呼び名に抗議し、ツイッターで「新型コロナウイルスの発生源はアメリカかもしれない」と発言。ここから中国で、趙報道官に対して、「戦狼外交官」とのニックネームがついたのだ。
「戦狼」の語源は「中国版ランボー」
「戦狼」というのは、一般には中国映画『戦狼2』を指す。2017年7月に中国で公開され、興行収入56億8100万元(約860億円)という中国映画史上最大のヒットになった。監督兼主演の呉京(Wu Jing)扮する「中国版ランボー」が、アフリカ某国で政府転覆を狙う武装組織に徒手空拳の戦いを挑み、これを撃滅させるという勧善懲悪のストーリーだ。
武装組織の裏に大国(アメリカ?)がいること、最後のシーンで呉京が「五星紅旗」(中国国旗)を打ち立てて勝利宣言することなどから、外国では「反米翼賛映画」と揶揄された。たしかに、「強国・強軍」を掲げる習近平政権の方針にピタリとマッチし、当の習近平主席も鑑賞して拍手を送ったという噂話も出たほどだった(真偽は不明)。
こうしたことから、いまの習近平政権の強気、強気の外交を、「戦狼外交」と呼ぶようになったのである。
もっとも、中国外交部が公式に「われわれは『戦狼外交』を行っている」と表明したことはない。むしろ、否定している。
例えば、中国外交の責任者である王毅(Wang Yi)国務委員兼外相は、5月24日に開いた年に一度の記者会見で、米CNN記者から「戦狼外交」について問われた。すると、「中国が終始実行しているのは、独立自主の平和外交政策だ」と、「戦狼外交」という言葉すら用いずに否定した。
中国からすれば、米ドナルド・トランプ政権が連日、中国非難を強める中で、「攻撃は最大の防御なり」というわけで、強気、強気に出ているところもあるだろう。私は過去30年以上、中国外交を見続けているが、いまの中国外交は、過去の胡錦濤(Hu Jintao)、江沢民(Jiang Zemin)、鄧小平(Deng Xiaoping)の3代を通り越し、毛沢東(Mao Zedong)時代に遡ると思われるような強気の外交を展開している。だが、毛沢東時代と異なり、いまの中国はすでに世界第二の大国と化しているため、世界は多大な影響を受けるのだ。
日本では映画『戦狼2』を観ていない人も多いだろうから、私は日本風に「ジャイアン外交」と呼びたい。『ドラえもん』に登場するジャイアンのように、周囲ののび太やスネ夫を震え上がらせていく外交という意味だ。
米国には敵わないが、米国の友好国ならいくらでも叩ける
中国としては、世界最強のアメリカに向かって、ガチンコの戦いを起こすことは、当然ながらできない。だが、周辺のアジアにおいては、自らを上回るパワーは存在しない。そこで、アメリカの友好国に対して、いわば「アメリカの代理人」と見なして鉄拳を加えていくという図式となる。
2016年にアメリカがTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を配備するとした時は、中国は韓国を痛めつけた。新型コロナウイルスを巡って、アメリカが友好国とともに中国を非難すると、オーストラリアに向かって報復した。そしていま、香港安全法を巡ってG7外相声明を出せば、日本を標的にするというわけだ。
日本はすでに、自民党外交部会・外交調査会(中山泰秀外交部会長)が5月29日、香港国家安全法に対する非難決議を採択している。「香港の維持・継続・発展、人権の尊重や法の支配について、首相から適切な機会を捉え(中国側に)働きかける」ことを求めている。こうした国内の雰囲気と、「盟友」トランプ政権の方針は、同方向を向いている。
だが、新型コロナウイルスの影響で、かつてないほど日本経済が沈滞する中、最大の貿易相手国(中国)を敵に回せないのも事実だ。
主張すべきは主張しつつも、「第二のオーストラリア」になることは避ける。安倍政権は難しい対中外交を迫られている。
おそらく安倍政権のみならずどの政権でも、面と向かって中国に都合の悪いことは言えないでしょう。中国と関係の深い経済界がこぞって大反対するからです。しかしもう一つは、中国共産党という力を背景にした暴力団まがいの集団には、力なき日本の政府は言えるわけがない、とはっきり申し上げます。まさに「のび太とジャイアン」の関係そのものです。
これを可能にするのはそれこそ「集団安全保障」の枠組みで、日米印豪の広域安全保障条約を締結すると同時に、9条を改正して日本独自の防衛力を飛躍的に拡大するしかないでしょう。そうでなければ、今まで通り大いに気を使いながら、激怒させないようやんわりと物言うしかありません。
何とも忸怩たる思いが募りますが、ここ40年の中国外交の失敗の積み重ねがそうさせてしまっています。もちろん安全保障政策への憲法の制約が、背景にあることは論を俟ちませんが。今更言っても仕方ないことですが、中朝韓露いずれの相手も同様、戦後外交の宿痾ともいうべき日本の持病のなせる業かもしれません。
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