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2020年6月 8日 (月)

全米に広がる人種差別反対デモ、その解消は可能なのか

000185676_640  アメリカ全土を襲った人種差別に抗議するデモ。発端は黒人男性が白人警官の行き過ぎた逮捕劇で生じた致死事件。これまでも白人警官による黒人の射殺事件等、繰り返される差別的扱いに加えての今回の事件がきっかけとなって、白人も含めての全米に亘る人種差別反対デモに発展したものです。

 この事件の最近の動きを英国のBBCが伝えます。タイトルは「人種差別に抗議、ワシントンで数万人が平和的デモ NFLは方針転換」(6/07公開)で以下に引用転載します。

米黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官の暴行で死亡してから各地で続く平和的抗議は6日、12日目に入り、ホワイトハウス周辺でも数万人が人種差別や警察暴力に抗議して、平和的に行進した。NFL(米ナショナル・フットボール・リーグ)のコミッショナーはこれに先立ち、NFLがこれまで人種差別や警察暴力に抗議する選手たちを支持しなかったことを謝罪し、方針転換する姿勢を示した。

警備部隊がホワイトハウスへの接近を阻止する中、多くの抗議者が連邦議事堂、リンカーン記念堂、ホワイトハウス前のラフィエット公園などへ向かった。「Black Lives Matter」と書かれたプラカードなどを掲げた人たちは、ラフィエット公園の外で、新しく「Black Lives Matterプラザ」と名づけられた交差点周辺に集まった。

「Black Lives Matter」という表現は、2013年から2014年にかけて、アメリカの黒人に対する差別や暴力に抗議する運動の合言葉となり、2014年8月に南部ミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人男性が白人警官に射殺されたのを機に、全国的な抗議運動と共に広がった。「白人と同じように黒人の命にも意味がある」という意味が込められている。

首都ワシントンのミュリエル・バウザー市長は、大規模な抗議を歓迎。集まった人たちは、ドナルド・トランプ米大統領にメッセージを発したことになると述べた。ホワイトハウス周辺では1日、トランプ大統領が近くの教会前で写真撮影ができるよう、ラフィエット公園とその周辺で連邦公園警察などが催涙ガスを使い、平和的な抗議集会を排除していた。これにバウザー市長は強く反発していた。

フロイド氏が生まれた南部ノースカロライナ州では同日、追悼式が開かれた。生まれた場所に近い教会に棺が横たえられ、数百人が弔問した。ロイ・クーパー州知事は、夜明けから日没まで、フロイド氏のため半旗を掲げるよう命じた。

抗議運動は海外にも広がり、英ロンドンでは「Black Lives Matter」運動を支持する集会が議事堂前で開かれた。英政府は、新型コロナウイルスの感染拡大の恐れがあるとして、大規模集会への参加を控えるよう呼びかけている。

オーストラリアでも、政府のロックダウン(都市封鎖)命令をよそに、シドニー、メルボルン、ブリスベンなどで数万人が集まり、主にオーストラリア先住民への差別に抗議した。

武器を持っていなかったフロイド氏は5月25日、米中西部ミネアポリスで白人警官に取り押さえられ、死亡した。現場で通行人が撮影した動画では、デレック・チョーヴィン被告(罷免、殺人罪などで起訴)がフロイド氏の首を自分の膝で9分近く押さえつける様子が映っていた。「息ができない!」と叫んでいたフロイド氏が反応しなくなり、周囲の人たちが「死んでしまう!」「息をしてない!」と怒鳴っても、被告は押さえつけるのをやめなかった。

チョーヴィン被告と共に現場にいた他の警官3人も罷免され、殺人ほう助などで起訴された。

フロイドさん暴行死事件の時系列

・5月25日――ミネソタ州ミネアポリスで白人警官に首を圧迫され、ジョージ・フロイドさん死亡

・5月26日――フロイドさんの死に対する抗議始まる

・5月27日――抗議が各地に広がる

・5月28日――トランプ氏、略奪者を「ごろつき」とツイート。「州兵を送り込む」、「略奪が始まれば、発砲が始まる」と書いた。ツイッター社は2つ目のツイートを「暴力賛美」として警告を表示した

・5月29日――デモ取材中のCNN記者とクルーが生中継中に逮捕される

・5月31日――6日目の抗議が各地で続く

・6月1日――トランプ氏、事態鎮圧に軍の投入も辞さないと演説。トランプの写真撮影の前に、連邦公園警察などが抗議者を催涙ガスなどで排除

・6月2日――8日目の抗議続く。首都ワシントンの各地に州兵配備

・6月3日――関与した元警官4人を州司法当局が殺人罪などで起訴

・6月4日――ミネアポリスでフロイドさんの追悼式

・6月5日――ワシントン市長、ホワイトハウス近くの交差点を「Black Lives Matterプラザ」に命名

ワシントン市長は大統領に反発

ワシントンで続く抗議デモに、トランプ政権は強硬姿勢を示している。

トランプ氏は、国土安全保障省や連邦捜査局(FBI)、移民・関税執行局(ICE)、陸軍、州兵、公園警察など様々な連邦組織から、兵士数千人をワシントンに配備した。

ワシントンのバウザー市長はこれに強く反発し、「大統領がワシントン・コロンビア特別区を占拠できるなら、どの州もそうできる。そうなったら誰も安全ではいられない」と批判。「なので今日この街から軍には出ていってもらった」と表明した。

バウザー市長は、州兵や連邦法執行機関の兵士が市内に展開するのは「不要」だとして、退去を要請した。

「私たちの兵士にそのようなことを命令してはならない。アメリカ市民に対する威力行使など、彼らに求めてはならない。私たちは今日は『だめだ』と言うし、11月には『次』と言う」

抗議に参加した35歳のエリック・ウッドさんはBBCに対して、「ここに来ないなんて余地がないので、ここにいる。人種差別はもうずっとアメリカの一部だ」と話した。

クリスタル・バリンジャーさん(46)は、「今回の抗議はこれまでと何かが違う気がする(中略)連帯と平等を求めるメッセージが広まっていると思いたい」と述べた。

現場で取材するBBCのヘリエ・チュン記者によると、抗議には色々な人種の人たちが集まり、家族連れも大勢いた。音楽が鳴らされ、水や除菌ジェルが配られるなか、「ジョージ・フロイド」、「ブリオナ・テイラー」、「正義がなければ平和もない」などのシュプレヒコールが続いた。

集まった人たちは、ホワイトハウス前のペンシルヴェニア通りを行進したり、連帯を示すため地面に片膝を着いたりしたという。

白人がどうやって支援すべきかという内容のプラカードも多く見られ、「私にはいつまでも理解できないかもしれないけど、それでも皆さんと一緒に立ちます」と書かれていた。

NFLが謝罪

ニューヨーク州バッファローでは、警察に抗議する75歳の白人男性を突き飛ばして重傷を負わせた警官2人が、第2級暴行罪で訴追された。後ろ向きに倒れて路面で後頭部を打った男性は、その場で出血。重体だが容体は安定しているという。警官2人は無罪を主張し、保釈保証金なしで保釈された。

ミネアポリス市とミネソタ州人権局は6日、警察が逮捕時に容疑者の首を圧迫したり締め上げるのを禁止することで合意した。

シアトル市長は、抗議者への催涙ガス使用を禁止した。コロラド州デンヴァーの連邦地裁は警察に対し、催涙ガスやプラスチック弾の使用を禁止した。

5日には、NFL(米ナショナル・フットボール・リーグ)のコミッショナーが、NFLがこれまで人種差別や警察暴力に抗議する選手たちを支持しなかったことを謝罪した。コミッショナーのロジャー・グッデル氏はツイッターで、「かつて私たちがNFL選手の言葉を聞かなかったのは間違っていた。我々は、全ての人が発言し平和的に抗議することを応援します」と述べた。

NFLでは2016年にコリン・キャパニック選手が中心になり、国歌斉唱中に起立せず、片膝をつくことで、国内の人種差別や警察暴力に抗議した。しかし、NFLや各チーム・オーナーたちからの反発が強く、2018年には国歌斉唱中に膝をつくことを選手やチーム関係者に禁止。キャパニック氏をはじめ多くの選手が出場できなくなった。

抗議者の要求は

全国各地の抗議は警察暴力をやめるよう求めるほかに、アメリカ社会に組み込まれた制度的な人種差別と不平等を是正するよう求めている。

何度も繰り返される警察暴力でアフリカ系市民が相次ぎ死亡するのは、刑事司法から医療に至る社会の隅々にはびこる体制的な差別の表れだという主張だ。

全米黒人地位向上協会(NAACP)によると、アメリカの黒人は白人に比べて5倍の確率で刑務所に収監される。違法薬物を使う割合は白人も黒人も同じだが、黒人が有罪になる割合は白人の6倍だという。

医療統計によると、妊婦が出産時に死亡する確率は黒人が白人の2倍。何十年にもわたる人種隔離政策の結果、学校や住宅や様々な公共設備の利用についても不平等が根強く続いている。

米ピュー研究所の2019年調査によると、アフリカ系の成人10人のうち8人が、奴隷制の負の遺産が今も黒人アメリカ人の地位に影響していると答えた。アメリカでいつか真の人種平等が実現するかという質問には、半数が実現しないだろうと答えている。

デモ参加者のカイラ・バージェスさんはBBCの取材に、「この国の仕組みはもう300年以上も、私を裏切り続けてきた。それを変えるため、私はどうすればいいのか」と話した。

 このアメリカにおける人種差別問題は、特に黒人差別については文中にもあるように「奴隷制の負の遺産」に起因するだけに、その払拭は困難となっているようです。そして半数の人が差別解消は実現しないだろうと述べ、その根の深さを物語っています。

 この記事には述べられていませんが、デモに乗じた暴動や略奪も起きているようです。トランプ氏が指摘した「アンティファ」の存在も否定できません。ただその取り締まりに対し、警察の力だけでなく軍の投入を示唆したトランプ氏の発言は行きすぎだと思います。

 それによりむしろデモ参加者の怒りを誘い、「火に油」の格好になったことは否めないでしょう。万が一軍が投入され、暴徒だけではなく一般のデモ参加者でも死傷させるようなことになれば、中国の天安門事件と類似の形になりかねません。

 それでなくとも中国は「香港デモ」規制を引き合いに出し、アメリカは「香港デモ」の警官による抑え込みを非難しておきながら、自国のデモには警官どころか軍まで投入して抑え込もうとしている、と格好の「香港デモ」規制の正当化の口実を与えてしまっています。この二つのデモ規制の本質は全然違いますが、残念ながら中国のプロパガンダに利用されてしまっています。

 デモはやがては静まっていくでしょうが、発端となった白人警察官による黒人の差別的扱いをやめない限り、こうしたデモはこの先も続いていくでしょう。

 そしてマイノリティーである黒人は、多数決を基本とする民主政治のもとでは、政治上の主導権は決して取れない運命にあります。そうした社会ではマイノリティーでも政治的、社会的に「平等」という、多数決とは違う物差しで、その権利をしっかりと擁護する必要があります。これは全世界で共通の物差しであるべきでしょう。ただ逆差別にならないという視点も重要だと思いますが。

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