魔の手は尖閣から沖縄へ、中国が仕掛けた「共同声明」の罠
熊本県を襲った豪雨は日本三大急流の一つ球磨川に流れ込み、未曾有の災害を引き起こしています。今この災害が地上波テレビ、新聞ともトップニュースを飾っています。しかし目の前の災害とは別に、静かにしかし着実に進行している脅威があります。それが今回のこのブログが取り上げたテーマとなります。
尖閣諸島周辺の中国公船による威嚇航行が80日連続で、12年9月の国有化以降最長となったと、今月2日産経新聞が報じました。中国の狙いは尖閣の領有化ですが、周辺海域の海底資源の狙いと共に、沖縄への橋頭堡を築く狙いもあるものと思われます。
それに関連して、日本沖縄政策研究フォーラム理事長でジャーナリストの仲村覚氏が、iRONNAに投稿したコラム『魔の手は尖閣から沖縄へ、中国が仕掛けた「共同声明」の罠』(7/03)を以下に引用掲載します。
尖閣諸島領海内で起きた中国公船による与那国町漁協所属の漁船の追尾事件は、中国の尖閣諸島への野心を露にし、多くの日本国民が危機を再認識することとなった。
事件が起きた5月8日の3日後、中国外交部の定例記者会見が行われたが、趙立堅(ちょう・りつけん)副報道局長は「中国の領海で違法操業」している日本漁船を海警局の船が「法に基づいて追尾・監視」したと主張し、早速中国側の行動を正当化した。さらに中国メディアの報道によると、趙氏が「われわれは日本側に四つの原則的共通認識の精神を遵守し、釣魚島問題において新たなもめ事が起こることを避け、実際の行動で東中国海情勢の安定を守るよう要求する」と中国の立場を強調したという。
趙氏は日本を強く批判する根拠として「四つの原則的共通認識の精神」を持ち出している。この「四つの原則的共通認識」とは1972年以来、日中間で合意した四つの政治文書を指す。つまり、72年の日中共同声明、78年の日中平和友好条約、98年の日中共同宣言、2008年の日中共同声明のことである。
「双方は、日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した」。日本外務省のホームページにも、このように14年11月の日中関係改善に関する合意文書が記されている。
つまり、趙氏は、これらの共通認識に従って「日本は尖閣諸島の主権を放棄せよ」と主張したわけだ。となると、この事実は、国交樹立までさかのぼって、日中間に大きなボタンの掛け違いが存在するということになる。
12年8月14日の中国共産党機関紙、人民日報のウェブサイト「人民網」に掲載された「釣魚島(尖閣諸島の中国側名称)が日本のものではない四つの理由」という論文は、中国の尖閣領有主張のロジックを理解しやすい。その四つの理由とは次の通りだ。
・サンフランシスコ講和条約は不法条約である。
・釣魚列島は琉球列島ではなく中国に属している。
・琉球諸島は日本に属さない。琉球はかつて中国の藩属国だった。
・ポツダム宣言第8項には「『カイロ』宣言ノ条項ハ履行セラルベク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州、四国及吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」と定めている。
実は、先の四つの基本文書とこの言い分には、一つだけ接点がある。1945年に米英中から無条件降伏を求められ、受諾したポツダム宣言だ。72年の日中共同声明の第3項には、「日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」と書かれている。
そして、そのポツダム宣言第8項には先述の一節がある。さらにこの論文では、「戦後の日本の版図に琉球諸島は全く含まれておらず、釣魚列島に至っては論外であることがここにはっきりと示されている。これが戦後の取り決めなのだ。日本はこれに服さなければならない」とまで言い放っているのである。
日中共同声明の締結時、日本側は、中国が提示した「復交三原則」の「日華平和条約は不法・無効であり破棄されるべきである」という文言を許すわけにはいかなかった。そこで腹案として、「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」という文言の追加を提案し、両国が合意したと栗山尚一(たかかず)元駐米大使が証言している。
ただそれは、あくまで台湾の中国返還を婉曲(えんきょく)に認めるためであり、尖閣も沖縄も関係なかった。しかし、中国は今になって、カイロ宣言に明記された「台湾及び澎湖島のような日本国が清国人から盗取したすべての地域」の定義を尖閣も含まれていると拡大解釈して、「四つの基本文書の精神を遵守せよ」と日本を批判し始めたということが分かる。しかも、その定義についても、いずれ沖縄も含まれると言い立ててくることは確実だ。
中国による尖閣の領海侵入侵犯が、日本から見れば、日中友好の精神に反していると感じるのは当然だ。ところが、中国側は尖閣侵入こそ、日中共同声明で日本と約束したと認識しているのである。
もう一つ、中国と付き合う上で大きな懸念事項がある。国務院報道弁公室が2012年9月25日に発表した「釣魚島は中国固有の領土」と題する白書に明らかにされている。
1951年8月15日、サンフランシスコ講和会議の開催前に、中国政府が「対日講和条約の準備、起草および調印に中華人民共和国の参加がなければ、その内容と結果のいかんにかかわらず、中央人民政府はこれをすべて不法であり、それゆえ無効であるとみなす」という声明を発表した。そして1カ月後の9月18日にも再び声明を出し、サンフランシスコ講和条約が不法かつ無効であり、断じて承認できないと強調した。
そして、71年に日米国会が採択した沖縄返還協定に対し、中国外交部は「釣魚島などの島嶼(とうしょ)は昔から中国領土の不可分の一部である」との厳正な声明を発表した。
つまり、サンフランシスコ講和条約と沖縄返還協定は認めないばかりか、カイロ、ポツダム両宣言を根拠として、中国に都合のよいように戦後秩序をひっくり返そうとしている。中国の尖閣領有主張が、単なる尖閣の領土、領海の問題ではなく、沖縄の主権を含めた、東アジアの国際秩序を脅かすことは明らかだ。
結局、中国の言う「日中友好」とはこういうことなのだろう。まずは日本を油断させ、世論戦や政治工作で日本を骨抜きにする。
そうしておいて、尖閣諸島で衝突が起きた瞬間に、日本国内と日米関係に隙ができたチャンスを見て、何らかの制裁カードとともに「四つの政治文書の精神を守れ」と日本に迫る。さらには、尖閣諸島だけでなく、「そもそも琉球の主権は日本には無い、放棄せよ」などと言い始めるのである。
そうなる前に、日本政府は、日中共同声明に対する中国側の解釈の豹変ぶりに注目して、中国側にその真意をただす必要がある。そのために、すぐにできることが二つある。
まず、四つの政治文書について「日中共通認識確認会議」の開催を提案することだ。そして、双方の言い分を公にし、米国をはじめ多くの国を味方につけた上で、中国側の言い分が国際社会では通用しないことを知らしめるのである。
さらに、日本政府は、中国の仕掛ける罠を明確に把握した上で、外交防衛戦略を練り直して反撃する必要がある。2013年、内閣官房に設置された領土・主権対策企画調整室による情報発信は、沖縄の歴史戦に関して不十分だ。
国連のクマラスワミ報告や委員会の勧告に翻弄(ほんろう)されている慰安婦問題のことを思い出してほしい。沖縄の人々を先住民族として公式に認めるべきだという国連人種差別撤廃委や自由権規約委の勧告が独り歩きして取り返しがつかなくなる前に、力強く情報発信しなければならない。尖閣と同等かそれ以上に沖縄の歴史戦に力を入れなければ、優位は築けない。
中長期な課題にも目を向ける必要がある。日本にはスパイ防止法がないため、中国に対する毅然とした外交防衛体制を整えようと思っても潰されてしまう。そこで提案したいのが、全省庁で、あらゆる領域に対する「国防計画」の策定だ。
政府が策定する防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画はあくまで安全保障政策の指針や計画であって、経済や世論戦、歴史戦の分野にまで広げることは不可能だ。そこで、自衛隊以外の省庁も参加することで、横断的に計画策定を進めなければならない。
具体的な例でいえば、経済産業省は経済領域での他国(中国)の侵略を想定した計画となる。重要技術の流出や中国製ハイテク機器の導入によりスパイ活動のインフラを構築されるリスクなどを回避する政策立案が必要だ。
また、文部科学省は教育、歴史などに対する侵略行為を想定する。地方自治体でも、その特色に応じて経済や歴史戦における侵略を想定し、特に北海道や沖縄などが急務だろう。
精神的に自立し、国家百年の計を考えることができるリーダーを日本で輩出するためには、国民全員が国防を考えるスキームをつくることが重要である。まずは、公務員が自分の管轄領域で「国防」を担うところから始めることだ。
すぐに着手することは困難かもしれない。それでも、戦わずして中国の「属国」にならないために、現政権にはぜひとも実現に向けて動いてほしいと願わざるをえない。
仲村覚氏のこのコラムの内容に深く同意をするとともに、「公務員が自分の管轄領域で「国防」を担うところから始めることだ」という提言は重要な意味を持つと思います。もちろんその前に政治家が、日中間の様々な課題に正確な認識を持ち、日本側の主張の整理をしておくことは言うまでもないでしょう。
とかく「安全保障」や「国際関係」に関して、極めて無知で鈍感と言ってもいい、多くの日本国民を目覚めさせるには、官僚自らが「国益」優先の観点で十分研究学習することが重要でしょう。
むろん親中派の人たちは必ずいますから、彼らにはなぜ中国と親しくしようとしているのか、その本質を問いただすことが必要です。その中には尤もだという意見もあるでしょうから、それはそれで貴重な意見となります。
いずれにしても、この「安全保障」や「国際関係」に関しての本質的な議論が、日本においては政治家、官僚、知識人から一般国民に至るまで、少ないように思います(観念論や感情論は結構多いのですが)。憲法前文に謳うような「お花畑」志向の殻を破ることが、今こそ必要だと思います。
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