PCR検査はなぜ広がらなかったか、その要因を検証する
新型コロナウイルス新規感染者数の拡大が止まらないようです。昨日もNHKによる集計で全国で981人、今月23日と同じ過去最高の数字となっています。第1波の時に比べ検査数がかなり多くなったのも、陽性者が多くなった要因の一つと言われていますが、もちろんそれだけではなく、緊急事態宣言の解除後の、人の移動や、夜の繁華街での飲食も大きな要因となるでしょう。
ところで日本のPCR検査は他国と比較して、かなり少ないと以前から言われてきました。最近多くなったと言っても欧米などと比較すると桁が違うようです。そのあたりの要因を本日の読売新聞の特集から取り上げてみます。タイトルは『PCR検査はなぜ広がらなかったか…検査目詰まり 複合的に』で、以下に引用します。
◇
保健所パンク 残業198時間
「PCR検査が受けられない」――。新型コロナウイルス感染の第1波では、全国各地で悲痛な声が上がった。どこで検査の目詰まりが起きていたのか。その要因を探った。
感染症担当 人手足りず
「夜中も緊急対応を求める電話に追われた。24時間、臨戦態勢だった」。東京都内のある保健所に勤務する医師は、3月の状況をこう振り返る。
今回、新型コロナの相談は各地の保健所に集中した。その理由は2月1日の厚生労働省の通知にある。
《相談窓口「帰国者・接触者相談センター」を保健所などに設置すること》。相談をセンターに一本化させることで、患者が医療機関に殺到して医療崩壊が起きるのを防ぐ狙いがあった。
しかし、保健所の電話はすぐにパンク。当初3回線しかなかった東京都世田谷区ではクリニックの医師ですら患者のPCR検査を求めるため電話をかけ続ける事態に陥った=目詰まり(1)。
さらに問題だったのは、保健所に感染症担当の医師や保健師が少なかったこと。電話対応を始め、相談者の健康観察、陽性者の入院先の確保、濃厚接触者の追跡調査――あらゆる業務が重くのしかかった。「人手は全く足りなかったが、応援体制を話し合う時間もなかった」とある保健所の担当者は語る。東京都中央区保健所では3月の残業時間が最大198時間に上り、品川区でも同174時間(4月)、北区でも同173時間(同)など過労死ライン(月100時間)を大幅に超過した。
搬送先なし
「保健所に検査を断られた」。そんな批判が相次いだ背景には、陽性者の搬送先がないという事情もあった。
「2~3月、PCR検査の条件を少し厳しめにしていた」と明かすのは、さいたま市保健所の西田道弘所長(56)。同市は10万人当たりの医師数、病床数がともに20政令市で最少で、感染症指定病院の病床は10床しかなかった。「病院が軽症者らであふれてしまい、重症者への対応が遅れるのが怖かった」と西田所長はいう。当時は、陽性者は無症状でも原則全て入院させる必要があった=目詰まり(2)。
この目詰まりを解消するため厚労省は4月2日、《軽症者や無症状者が自宅や宿泊施設で療養する際の指針》を示した。全員を入院させる必要がなくなり、同保健所でも検査の条件を緩和していった。西田所長は「検査を受けられずに手遅れになった人はほとんどいないはずだが、体調が悪化した人はいた。そういう意味では申し訳なかった」と語った。
混乱招いた「37・5度以上」
厚労省が2月17日に発表した《相談・受診の目安》も混乱の一因となった。
目安は〈1〉37・5度以上の発熱が4日以上続く〈2〉強いだるさがある――などの場合、帰国者・接触者相談センターへの電話を呼びかけた。あくまで相談の目安として示されたものだが、各保健所では、専門外来(帰国者・接触者外来)での検査につなぐかどうかの事実上の「基準」とし、この目安を理由に検査を断る例が相次いだ=目詰まり(3)。
厚労省はこの誤解の解消に躍起となり、2月27日に《医師が必要と判断すればPCR検査の対象にする》と通知。さらに〈1〉と〈2〉の両方がそろわなければ相談できないとの誤解もあったため、3月22日には《2条件のどちらかが当てはまれば相談を》との通知を出した。それでも目安を理由に検査が受けられない事例が相次いだ。
5月8日、厚労省は「37・5度、4日以上」という体温や日数を削除した《新たな目安を公表》。
なぜ37・5度だったのか。目安作りに携わった専門家の一人は「厳密な基準や根拠があったわけではないが、どこかで区切りをつけないといけなかった」と明かす。
民間活用 マニュアルなし
保健所を通じたPCR検査(保健所ルート)が目詰まりする中、厚生労働省は3月4日、もう一つの検査ルートを6日に開設すると通知した。《PCR検査を医療保険の適用対象とする》。
それまでは保健所が専門外来の医療機関につなぎ、主に地方衛生研究所に検査を依頼するルートに限定されていたが、医療保険が適用されれば、それ以外の医療機関でも自らの判断で民間の検査会社に検査を依頼することができる。「ボトルネックは一つ解消される」。加藤厚労相は6日の記者会見でこう胸を張った。
しかし、医療保険ルートはすぐには増えなかった。民間検査会社との契約や検体の梱包こんぽう、搬送などに人手が必要で、小規模クリニックには負担が大きかった。さらに医療機関は自治体から検査の委託を受ける必要があったが、この契約手続きに手間取った。
東京都世田谷区の区医師会は4月上旬、医師会が代表する形で契約を結びたいと区に相談。しかし、区側は患者の費用負担や設備面の要件などがわからず滞った。
4月15日、厚労省が新たな通知を出す。《医師会などに検査センターの運営を委託できる》。しかし、その通知にも要件の詳細は書かれておらず、区の担当者は厚労省に問い合わせたが、「通知を出している」と言われるだけ。区幹部は「都に尋ねても答えが出ず、さらに調べるという余力はなかった」と振り返る=目詰まり(4)。
厚労省は同28日にようやく医師会がPCR検査センターを運営する際のマニュアルを公表。結局、区と医師会との委託契約の締結は同30日にずれ込んだ。
「迷惑施設」 住民が反対
PCR検査センターの場所探しも難航した。
「こんなところでやるんですか」。4月末、千葉県鎌ヶ谷市の病院の駐車場。防護服を着用し、ワンボックスカーを使った移動式センターの運用テストをしていた医師会や市の職員らに、住民から不安や反対の声が寄せられた。検査を受けに来る市民のプライバシーにも配慮し、場所を総合病院の地下に変更。入り口をブルーシートで覆った。
5月にドライブスルー方式のセンターを開設した同県習志野市でも、周囲に民家がない場所を選ばざるを得なかった。市の担当者は「医師会や市民には不便をかけている」と話す。設置場所は非公表だが、関係者によると、市街地から離れた海岸沿いの一角。周辺には汚水処理施設や清掃工場などもある。
鎌ヶ谷市医師会の石川広己副会長(67)は「検査を行う医療従事者としては『迷惑施設』と扱われてつらい。自治体は市民に検査の必要性を周知し、利便性のいい場所を提供すべきだ」と注文する=目詰まり(5)。
検体の梱包 負担大きく
検体の梱包作業の負担もネックの一つだった。世界保健機関(WHO)の検体輸送の手引では〈1〉試験管〈2〉密封性の容器〈3〉段ボールなど――三重に梱包すると定められているが、国内では当初、さらにジュラルミンケースに入れる必要があった。
厳格化のきっかけは2011年、国内でアメーバ赤痢の疑いのある検体の輸送時にドライアイスが気化し、容器が破裂する事故が起きたことだった。今回、現場からは「ジュラルミンケースを確保するのが大変」との声が相次いだ=目詰まり(6)。このため厚労省は4月17日、《輸送時のケースを不要とする通知》を出した。
国際基督教大の西尾隆特任教授(行政学)は「危機的な状況下で随時やり方を変える運用自体は問題ではない。ただ、国が通知を送っても人材や人員不足ですぐに取り組めない自治体も多い。国は現場の声をすくい上げ、柔軟な手段を提示するなどのフォローが欠かせない」と指摘する。
地衛研 人も予算も弱体化
PCR検査が目詰まりした大きな要因の一つが、そもそも検査能力が圧倒的に低かったことだ。
感染拡大当初、検査の大部分を担っていたのは都道府県や政令市などが運営する全国83か所の地方衛生研究所(地衛研)。しかし、PCR検査の機器は限られ、検査に必要な試薬も不足がちで、特に深刻だったのが人員不足だった=目詰まり(7)。
名古屋市衛生研究所では、食中毒担当の職員7人が検査にあたった。1日あたりの検査可能件数は80件だったが、感染者が急増した3月には応援の職員を入れ、深夜までかけて約130件を行った。柴田伸一郎部長(61)は「ミスは許されないぎりぎりの緊張状態だった」と語る。
他国と比べて、なぜ日本はPCR検査の能力が低かったのか。実は2009年に流行した新型インフルエンザの教訓として厚労省の有識者会議は「地衛研のPCRを含めた検査体制の強化が必要」と提言していた。だが、提言はこの10年、放置されてきた。韓国などは15年の中東呼吸器症候群(MERS)などを機にPCR検査体制を拡充したのに対し、日本では感染者が出ず、「新型インフル時の危機意識が長続きしなかった。責任を感じている」と厚労省幹部は反省する。
この間、地衛研の弱体化も進んだ。地衛研全国協議会によると、都道府県が設置する47施設では04~18年度に平均職員数が56・9人から48人に減少。予算は28%減、研究費も31%減と大幅に縮小。地衛研は設置の根拠となる法律がなく、調(しらべ)恒明会長は「人員や予算削減のターゲットにされやすかった」と指摘する。
PCR検査が低調のため、国内企業が開発した最新の検査技術を生かせない事例もあった。千葉県松戸市のバイオ先端企業「プレシジョン・システム・サイエンス」は15年、通常約6時間かかる検査を約2時間に短縮できるPCR検査機器を発売。欧州を中心に500台以上を販売し、4月下旬には駐日フランス大使から感謝状も贈られた。しかし、国内では需要が見込めなかったため、国内販売に必要な手続きをしていなかった。田島秀二社長(71)は「第1波で活用できなかったのは残念だった」と語る。同社は8月に国内でも販売を始めるという。
厚労省で感染症対策に取り組んだ長崎大の中嶋建介教授(感染症対策)は「感染症対策は、実際に発生しないと危機感も共有されず予算がつきにくい。今こそ次の感染症の流行を見据えて最新機器の導入や人材育成を急ぐべきだ」と指摘する。
■教訓
▽感染症対策の中核を担う保健所や地方衛生研究所がパンク。人員、予算などの機能強化を
▽国は通知を出すだけでは不十分。より分かりやすい自治体への情報提供が不可欠
▽PCR検査能力の拡充を求めた10年前の提言を放置。危機意識の継続が重要
◇
第1波の最中(さいちゅう)マスコミ関係者等から、なぜ検査が十分にできないのだ、と再三の指摘があったことは周知の通りです。その要因の殆どがこのコラムで語り尽くせていると思います。最後の教訓もその通りだと思います。
しかし人や予算を増やしたり、情報提供の質を上げたり、危機意識を継続することはその通りなのですが、それを実現するためにはどうすればいいのか、そこが重要だと思います。
人や予算の増大はこの感染症の影響の大きさを知った今、まず取り組まなければなりませんが、保健士一つとってもその資格取得が大変ですし、今回の感染下での労働負荷を見聞きしていますから、志願者の減少も予想されます。給与面の改善とか、負荷の軽減策と言うようなことが同時に必要になるでしょう。
国からのわかりやすい情報提供も、官僚自身が現場をよく知らない現状では、まず彼らに日頃から現場を渡り歩いて、状況をつぶさに学習する機会を与えなければなりません。そのためには報告書などの文書作成は、最小限重要なものに絞るなど、不要不急の仕事を減らし、負荷の軽減を図らねばならないでしょう。
また危機意識の継続も、日本人特有の「喉元過ぎれば熱さを忘れる」、そして悪いことは「水に流して」忘れ去ろうとする気質が、それを阻害している気もします。ですから「語り継ごう」とわざわざ災害の度にそういうのも、それを暗示しているのかもしれません。
そして第1波の時よく話題になった、検査をしない、できないから感染者の拡大を防げない、と言う論調も日本人特有の「木を見て森を見ず」の思考パターン、つまり一部だけを見て短絡的に結論付ける習性があるように思えます。まず全体像から考えることに対する弱点があるのかもしれません。特性要因図や要因分析などのQC、新QC手法を学んでいるはずなのですが。
ですから今でも医療現場の余裕度を示すのに、ベッド数だけを取り上げる例が多いのですが、感染症対応の病院数を始め、なぜ関連の医師や看護師数、酸素吸入器やエクモ数、又それを扱える検査技師数の余裕度など、同時に公表しないのか、いつも疑問に思います。
いずれにしても、感染爆発が抑えられている大きな理由に、日本人のルールに対する生真面目さや衛生観念の高さ、マナーの良さなどがあるのは確かでしょう。一方最近の感染者の多くを占める若者たちの、夜の街での羽目外し行動は、もはや日本人が旧来の日本人らしさを捨て去っている証拠でもあります。もちろん若者すべてがそうでないにしても、明日の日本がちょっと心配ですね。
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