アベノミクス「日本型デフレ」との戦い、その成果と課題
今回は経済問題を取り上げます。と言っても私自身経済に強いわけでもなく、細かな議論には深入りはできませんが、各国とも新型コロナウイルスの感染拡大防止と、経済活動の持続の二兎を追わなければならない現状の中で、否応にも経済動向に目を向けていく必要性を感じます。
今世界中が新型コロナウイルスの感染症との戦いの中で、大きな経済ダメージを受けています。日本も例外ではありません。そうした中で、発生源である中国が早々と感染を収束させ、経済活動をフル回転させようとしているのは、何とも皮肉なことです。
日本は以前述べたように、30年前にバブルがはじけ、長期の経済停滞を余儀なくされています。最大の要因は需給ギャップです。そしてそれがもたらすデフレ経済が、企業マインドを委縮させ、ひいては雇用を悪化させ、購買力の低下を招き、経済の停滞が加速する負のスパイラルに陥ってしまうのです。
民主党政権の崩壊とともに、政権の座についた安倍政権は、このデフレ経済を収束させるべく、大胆な経済政策つまりアベノミクスを打ち出しました。このアベノミクスは成功したのでしょうか。
賛否両論が渦巻いていますが、より客観的な目を、と言うことで今回は英フィナンシャル・タイムズ紙の記事を取り上げてみます。タイトルは『GDPのアベノミクスと「日本化」との戦い 景気停滞とデフレと超低金利、世界が学ぶべき6つの教訓』(JBpress 9/03)で、以下に引用します。
「Buy my Abenomics!(アベノミクスは買いだ!)」。安倍晋三首相は2013年、こう呼びかけた。そして我々は買った。
「何々ノミクス」というブランディングの歴史的な勝利で、安倍氏は「大胆な金融政策と機動的な財政政策、成長戦略」の三本の矢が日本の経済を一変させることを世界に納得させた。
8年以上に及ぶ在任期間を経て辞任することになった今、審判を下す時だ。アベノミクスは成功したのか――。
シンプルな答えは「ノー」だ。
アベノミクスの中核的な目標は、2%のインフレターゲットだった。だが、新型コロナウイルスに襲われる前でさえ、日本のインフレ率はせいぜい1%程度にしか到達しなかった。これは失敗だ。
だが、リーグ戦で勝てなかったサッカーチームと同様、敗北は必ずしもダメだったことを意味しない。ただ、不十分だったということだ。
アベノミクスにも光った時はある。「日本化」――停滞へ向かう景気下降、デフレ、超低金利――と奮闘する世界にとって、アベノミクスには強力な教訓が詰まっている。
日銀のバズーカ、当初は奏功したが・・・
1つ目の教訓は、金融政策は奏功する、ということだ。
2013年に日銀が大量の資産購入に乗り出した当初の「バズーカ」は、極めて効果的だった。
債券利回りは低下し、株式市場は活況に沸き、何より重要なことに円相場が1ドル=100円を超す円安に振れ、日本の産業に恩恵を与えた。
融資も伸び、日本は安倍首相時代に記録的な就業率を謳歌した。金利が高く、円も強い方が日本は豊かになっていたと論じるのはほとんど不可能だ。
2つ目の教訓は、弱い経済は増税に対処できないということだ。
アベノミクスが失敗した日は、日本の消費税が2014年春に5%から8%へ引き上げられた日だ。
消費増税は前政権によって計画されたものだが、増税の実行を決め、日本を景気後退に陥らせたことについては、安倍氏と日銀の黒田東彦総裁に責任がある。
昨年、消費税が10%に引き上げられた追加増税も同じ結果をもたらした。
刺激を約束しておきながら、抑制をもたらせば、得られる結果は失敗だ。端的に言えば、それがアベノミクスの物語だ。
信用がすべて
これに続く3つ目の教訓は、信用がすべてだ、ということだ。アベノミクスが導入された当初、黒田氏は2年以内にインフレ率を2%に引き上げると約束した。必然的に、この誓いは守られなかった。
消費増税が景気後退につながった後、黒田氏が2014年にくり出した2発目のバズーカ――資産購入のペースを早め、年間80兆円まで拡大した――は、1発目ほど効果がなかった。
今頃はもう、魔法は解けてしまった。
アベノミクスが自らの信用を落とした例は、これだけではなかった。
例えば、政府は2%のインフレ目標に沿うように公的部門の賃金を引き上げなかった。だとすれば、なぜ、民間部門が安倍氏の賃上げ要求に応じるべきなのか。
4つ目の教訓は、期待だけに頼ることはできない、ということだ。
黒田氏は繰り返し、自分の政策は将来のインフレに対する国民の期待を高めることによって効果を発揮すると説明した。
実際、当初はこれが起きたことを示す兆候があるが、2014年の景気後退によって、インフレ率が実際に上昇するという希望が潰えた。期待に頼るツールは決して、金利水準を直接変えるツールにはかなわない。
米連邦準備理事会(FRB)が先週、将来のインフレ高進を容認することで現在の低インフレを埋め合わせる平均インフレ目標の採用を決めたことを考えると、これが特に重要な意味を持つ。
FRBの高官は、日銀が2016年から、インフレ目標の「オーバーシュート型コミットメント」を掲げていたことに留意すべきだ。これは大した成果を上げなかった。
果たされなかった構造改革
アベノミクスの5つ目の教訓は、景気刺激策は公的債務の問題を引き起こさず、逆に解決する、ということだ。
1990年以降、国内総生産(GDP)比の日本の公的債務は果てしなく増加してきたが、例外だったのが、日銀が無分別にも利上げに踏み切るほど経済が強かった2005~07年と、アベノミクスが消費増税を容認できるほどのカンフル剤を提供した2013~19年だった。
公的部門が貯蓄を増やせるのは、民間部門が貯蓄を減らす場合に限られる。経済の強さは、財政引き締めの前提条件なのだ。
そして6つ目の教訓は、成長戦略の限界だ。
安倍氏について日本で聞かれる最も一般的な批判は恐らく、構造改革の約束を一度として果たさなかったということだろう。
確かに、月給制の労働者の保護を破り捨てるような急進的な対策は講じなかった。
だが、日本の電力市場を自由化し、中国人観光客に門戸を開き、農業ロビー団体を封じ、2つの大型貿易協定に署名している。
しかし、大半の経済成長は究極的に、人口の増加、教育の向上、資本の蓄積、そして何より重要なことに新規技術から生まれる。
日本の人口は減少しているため、経済を確実に拡大させる唯一の「改革」は大規模な移民流入であり、安倍氏はいみじくも、その選択は経済の域を超えると感じた。
もしかしたら、そもそも成長を取り戻す戦略を持っていると主張したところに安倍氏の過失があるのかもしれない。
だが、そのような戦略が存在しなかったため、実現は問題にならなかった。
あとはヘリコプターマネーしかない?
その結果、日本は今、どんな状況に置かれているのか。日本の課題はいまだかつてないほど大きい。
全力を挙げたとされる景気刺激策が失敗した後、国民はもう新たな景気刺激策を信じないかもしれない。
だが、インフレ率が目標を大きく下回っている現状は、果てしなく増加する公的債務によって不完全に埋められている慢性的な需要不足の症状だ。
1つの選択肢は、時間が経つのを待ち、中銀の資産購入を続け、最善の結果を祈ることだ。
これは2016年以降、日銀がとり続けているスタンスだ。
もう1つの選択肢は、こうした資産購入を調整し、もっと緊密に政府支出と連動するようにすることだ。
後者の道筋を選べば、未踏にして潜在的に危険なヘリコプターマネーの政策へさらに一歩近づくことになる。
だが、安倍氏がかつてあれほど見事に売り込んだ希望を維持するためには、日本には、それ以外ほとんど選択肢がないのかもしれない。
多少難解な表現があり、読みにくい文章だと感じました。それはさておき、経済は人の自由な動きに左右されるため、中国の様な統制経済下でもない限り、なかなか思うようにはならないと思います。ただこのFT誌の指摘のように、様々な理由はあるにせよ、生産性の向上を推し進めるための構造改革が弱かったのは事実でしょう。
少子化による人口減少が続く日本で、GDPすなわち国民の総付加価値を上げる手段は、生産性の向上しかありません。ただそうは言っても年金や医療、介護に生活保護などの福祉関係にいくら資金を投じても、生産性は上がりません。そこに日本の構造的問題があると思われます。
しかしこの記事のタイトルにあるように、「日本に学ぶべき」と言うその指摘は、いみじくも日本に今起きているその現象が、世界でも今後起きるであろうと言う見立てからきていると思います。つまり世界の最先端を行く人口減少社会と、その結果がもたらす負の経済循環、それに挑戦したアベノミクスの成果と課題から、よく学べと言うことでしょう。
逆に言えば、日本にとって学ぶべき国は殆どないのかもしれません。そうであれば日本発の生産性向上のための特効薬を、何とか見つけなければならないでしょう。そうしなければ国全体のGDPだけではなく一人当たりのGDPさえ凋落の一途を辿る、つまり国全体が貧しくなっていくしかありません。過去の遺産だけで食いつないでいく日本にならないためにも、この課題は必須の課題だと思います。
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