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2020年9月27日 (日)

菅政権「デジタル庁」は20年来の「行政手続きのすべてをオンライン化する」公約実現を

R  菅政権が発足して10日余り、働く内閣そして改革内閣として、縦割り行政の打破を始め、今まで手を付けようとして遅々と進まなかった政策を掲げて誕生しました。中でも目玉はデジタル改革、知見の多い平井卓也氏をデジタル改革大臣に据えて、本格的にスタートしました。

 しかしこのデジタル改革、2001年にすでに「行政手続きのすべてをオンライン化する」という公約として謳われていたそうです。その詳細を辛口の評論で有名な、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏が現代ビジネスに寄稿したコラムで述べています。タイトルは『菅政権新設の「デジタル庁」は20年来の公約違反を解消せよ…! 全行政手続きオンライン化はどうなった』(9/27)で以下に引用掲載します。

「行政手続きのすべてをオンライン化する」という2001年の公約が、いまだに実現されていない。デジタル庁の最初の仕事は、この公約違反状態を解消することだ。

その試金石は、外国では広く行われている運転免許証書き換えのオンライン化だ。それがすぐには難しいとしても、せめて自主返納 はオンライン化すべきだ。それさえできないのでは、事態は絶望的だ。

20年間放置されている公約

デジタル庁設置は、菅義偉内閣の目玉政策だ。

政府内部の仕事のオンライン化がもちろん必要だ。定額給付金でオンライン申請が混乱したこと、テレビ会議が満足にできなかったこと、そして感染者情報把握にいまだにファクスを使っていることなどが問題視された。そうした状況を改善することは、1日も早く必要なことだ。

国民の側からいえば、行政手続きのオンライン化を是非進めて欲しい。 

「2003年までに、国が提供する実質的にすべての行政手続きをインターネット経由で可能とする」。これは、政府の「eJapan 戦略」が2001年に決めたことだ。そのための法律まで作った。

では、この公約はどの程度実現できたか? 現在、政府手続きでオンライン化されているのは、わずか5%だ。ほぼ20年間の公約違反状態!

かくも長きにわたって、オンライン化は絵に描いた餅にすぎなかったのだ。行政手続きには、いまだに紙の書類とハンコが要求される。このため、在宅勤務が完結しない。

スイスのビジネススクールIMDが今年の6月に発表した「IMD世界競争力ランキング2020」で、日本は34位だった。これは、過去最低だ。日本は、1992年までは首位にいた。

デジタル技術では、日本は62位だった。対象は63の国・地域だから、最後から2番目ということになる。

デジタル庁 の最初の仕事は、上記の公約違反を早急に解消することだ。そのためにまず必要なのは反省だ。2001年 eJapan戦略の公約がなぜ実現できなかったのか? どこが問題だったのか?

政府は、この検証報告を2ヶ月以内にまとめるべきだ。反省なくして失敗を克服することはできない。

運転免許証書き換えのオンライン化を

行政手続きのオンライン化ができるかどうかの試金石は、運転免許証更新のオンライン化 だ。これができなければ、他のすべてをオンライン化できても、デジタル化は失敗といわざるをえない。

もともと、日本の運転免許証は、欧米に比べて厳格過ぎる。国によって交通事情は異なるから単純な比較はできないが、アメリカのカリフォルニア州では極めて簡単だ。私は、自分の車を試験場まで自分で運転して行って試験を受けた。

最初に免許を取得する場合はやむを得ないとしても、更新の手続きは、簡略化し、オンライン化すべきだ。視力検査は眼科医でできる。高齢者の認知テストもオンラインでできるはずだ。

私は、20年ほど前に、カリフォルニアの免許証を日本から更新したことがある。2013年1月にEU基準での改正となるまでは、ドイツやフランスの免許証は更新なしで、無期限に使えるものだった。改正後も、15年の期限だ。そして、更新もオンラインでできる国が多い。

世界的標準である更新のオンライン化が日本では簡単にはできないというのなら、せめて、運転免許証の自主返納 はオンラインでできるようにしてほしい。なぜ試験所や警察に出頭する必要があるのか、まったく理解できない。

運転免許証の自主返納では、何の試験も必要ない。本人確認と免許証の真正性が確保できればよい。これができなければ、他の手続きの オンライン化 ができるはずはない。

テストケースとして、まずこれをやってはどうか?これができれば、多くの人が歓迎するだろう。これさえできないというのであれば、事態は絶望的だ。デジタル庁など作っても、予算の無駄使いでしかない。

スマートフォンアプリ化では情報漏出の危険

運転免許証について、デジタル化との関連で政府は何をしようとしているか? 報道によると、運転免許証とマイナンバーの紐付けを行うことを検討しているそうだ。スマートフォンのアプリに保存することで、偽造防止や利用者の利便性向上につなげるのだという。

しかし、スマートフォンのアプリに保存することで利便性が向上するだろうか? その逆に、リスクが高まるのではないだろうか?

万一、スマートフォンを紛失した場合に、情報が漏出する危険がある。また、最近起こっているデジタル決済での預金不正引出し事件を考えると、スマートフォンを紛失しなくとも情報が漏出する危険がある

雇用調整助成金の申請システムなど、政府が作ったオンラインシステムには、情報漏洩事故を起こしたものがある。これを考えても、あまり信頼できない。私なら、こうした問題の深刻さを考えて、とてもこのアプリはダウンロードできない。

国民が望んでいるのは、こうしたことではなく、デジタル化による手続きの簡略化なのだ。

デジタル化とは既得権の切崩し

運転免許証のデジタル化が難しいのは、日本では免許証交付と更新が産業化してしまっているからだ。教習所を含めて、巨額の収入をあげ、膨大な職員を養っている。

高齢者の更新の場合には、安全確保の名目の下に、必要性の極めて疑わしい研修が義務付けられている。多くの人は、金を払ってもよいから教習所まで出向く時間はなしにしてほしいと思っているだろう。そして、コロナ下では、3密を回避したいと、切に願っているだろう。

しかし、これらをデジタル化すれば、現在の利権の多くは失われてしまう。だから決して簡単なことではないのだ。

この問題に限らず、日本におけるデジタル化とは、技術の問題というよりは、利権と既得権を切崩せるかという問題なのだ。これは、決して容易でない。一朝一夕に実現することではない。

まだファクスを使っている!

もう1つの問題は、仮にデジタル化しても、述べた適切なシステム作れるかどうかだ。これについて以下に述べよう。

9月6日公開の「厚生労働省のITシステムは、なぜこうも不具合が多いのか?」で述べたように、コロナ感染の状況を調査するためのシステムは、混迷を極めている。

最初は、NESIDという仕組みで情報を収集していた。これは、医療機関から保健所にファクスで感染届けを送り、それを保健所が集計して都道府県などに送るというシステムだった。ところが、感染が拡大してくると、ファクスではとても処理できなくなる。

そこで、HER-SYSというオンラインシステムが導入された。これは、発生、感染者の経過、濃厚接触者など、必要なデータをすべて処理するものだ。これによって、保健所の負担軽減を目指した。また、国や都道府県、保健所が情報を共有し、対策に生かすことが期待された。5月下旬から導入が始まり、保健所を設置する全国155自治体すべてに入力・閲覧権限が与えられた。

ところが、感染者が多い都市部で、この利用が広がっていないというのだ。9月21日の朝日新聞の記事「HER-SYS 道半ば」が伝えるところによると、東京都では、依然、保健所が医療機関から発生届をファクスで受け取り、HER-SYSに入力している。

横浜市も医療機関による入力は2割に満たず、残りは保健所の職員が打ち込む。大阪府でも保健所が発生届を入力している。保健所の業務量は、増えるだけだという。

デジタル化すればよいわけではない

なぜこんなことになってしまうのだろう?

細かい理由はいろいろあるが、要するに、「HER-SYS使いにくいから、保健所や公共団体にそっぽを向かれている」という単純なことのようだ。「HER-SYSは予算の無駄使い」と言わざるをえない。

いまもっとも緊急に必要な情報がこの有様だ。

「データに基づく判断が重要だ」とはしばしば言われる。まったくそのとおりだ。しかし、現在の日本では、データが迅速に得られず、信頼もできない、という状態なのだ。

接触感染アプリは、HER-SYSの情報をもとにして通知を行っている。HER-SYSが以上のような状況なので、接触感染アプリもほとんど役に立たないシステムになってしまっている。

これからも分かるように、「デジタル化すれば、それでよい」というものではない。使いやすく、効率的な仕組みでなければならない。

ついでに言えば、政府の統計サイトの使いにくさに、私は毎日のように悩まされている。利用者の観点など、まったく考慮されていない。使い方の説明をいくらよんでも分からない。

こうした状況を改善するには、9月13日公開の「日本のITが時代遅れになる根本原因はSIベンダーの言いなり体制」で指摘したように、ベンダーとの癒着を排し、丸投げを是正する必要がある。

しかし、そのためには、発注者が問題を理解する必要がある。これも容易なことではない。

デジタル庁の発足は「来年中」だという。コロナ関連の事案については、残念ながら、間に合わないだろう。

 野口氏の言う通り、使い勝手のいいフォームでなければ多くの人は使いません。しかもデジタル機器の取り扱いに疎い人はなおさらです。使いにくくなっているのは利用者側の視点で入力設計をしていないことでしょう。「SIベンダーの言いなり」と氏は指摘していますが、その通りかもしれません。

 私は以前勤めていた会社で、初めてパソコンを使った人間です。その当時のパソコンは、利用者自身でプログラムを組んで使う必要がありました。BASICというプログラム言語を使用していたのですが、そのマニュアルの出来が悪いことに辟易としていました。ユーザーフレンドリーでは全くなかったのです。つまりパソコンメーカーのSEが利用者側に立たずに、プロである自身の立場で作り込むからこうなってしまうのでしょう。野口氏が言いたいのはこう言うことだと思います。

 もう一つ「既得権との戦い」も指摘していますが、確かにデジタル化の狙いは時間とコストの無駄の削除ですから、その無駄の部分で仕事を得ていた企業や人は大きな影響を受けます。しかし国として最も重要な全体最適を考えれば、そうした無駄にぶら下がっている企業や人たちは、別の活路を見出すべきでしょう。

 それが自由主義社会の当たり前の姿だと思いますが、どっこいこの既得権を失う側から見れば、様々な妨害工作に出てくることは目に見えています。

 突然話が変わりますが地上波テレビの世界がその典型です。NHKを含め、6つのキー局で地方もすべて系列化し独占状態です。もっと言えばメディアの世界全体がこの既得権の巣窟だと思います。彼らは新聞、雑誌、地上波TV、CS、BS すべて系列で固めて、朝日新聞などはAbemaTVでネットまで系列化しています。彼らの多くが言論世界を牛耳って、日本人を思想的に一定方向に向けようとしているようです。少なくともテレビの世界だけは、この寡占状態の既得権を打破しなければならないと思います。

 話を戻してこの既得権、そこに目をつぶれば今までと同じ構図になってしまいます。菅首相や平井大臣、それに河野大臣の手腕を期待したいものです。

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