菅総理の「韓国スルー」に狼狽する文在寅大統領
菅政権が発足して各種世論調査での支持率は、いずれも60%後半から70%台とかなり高い数字を出しています。国民世論の受け取り方として見れば、幸先良いスタートを切ったといっていいでしょう。
菅総理に懸念される面があると言えば「外交」と言われていますが、早速その懸念を拭い去るように、各国の首脳との電話会談を矢継ぎ早に進めています。
その中で、安倍政権時代に最悪の関係となった韓国とは、どう向き合うのでしょうか。その辺りの識者の目を通した見解を、元在韓国特命全権大使の武藤正敏氏が、JBpressに寄稿したコラムから見てみます。タイトルは『菅総理の「韓国スルー」に狼狽する文在寅大統領 文大統領に告ぐ、「外交辞令だけでは日韓関係は改善しない」』(9/21)で、以下に引用します。
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文在寅大統領は16日、菅新総理に就任を祝う書簡を送り、「韓日関係をさらに発展させるため共に努力していこう」と述べた。また、丁世均(チョン・セギュン)首相も祝いの書簡で、「未来志向の韓日関係発展のため対話と協力を強化しよう」と述べた。
これに関して大統領府の報道官は、日本政府といつでも向かい合って座って対話し疎通する準備ができており、日本側の積極的な呼応を期待すると付け加えた。
しかし、菅総理は何の反応も示さなかった。これについて朝鮮日報は、「菅総理の外交政策の基調が、『コリア・パッシング(排除)』に向かっているのではないかとの懸念がある」と報じ日本が反応しないことに不満を表明している。
菅総理が就任後初の記者会見で韓国に触れなかった理由
確かに、菅総理は就任後初の記者会見で、米国、中国、ロシアに言及した。北朝鮮についても「拉致問題は前政権同様、最も重大な課題であると語った。しかし、周辺国の中で韓国にだけは言及がなかった。
韓国は、文政権が祝いの書簡を送ったことで、日本との関係改善を働きかけていると言いたいのであろう。しかし、言行不一致が文政権の特徴でもある。文政権が「何を言うか」ではなく「何をするか」で判断しないと政策を誤ることになる。就任祝いの書簡の中できれいごとを述べても、実態が反映されていない。
菅政権がなぜ文在寅政権に失望したかは前回の寄稿で明らかにした。
慰安婦問題で、2015年の合意を実現するため、菅官房長官(当時)は元駐日大使の李丙ギ氏(当時。その後、朴槿恵大統領秘書室長)と合意内容の調整に尽力した。しかしこれを一方的に破棄したのが文在寅大統領である。そればかりでなく李丙ギ氏を逮捕し、拘束した。
さらに朝鮮半島出身労働者(以下「元徴用工」)問題では、大法院の判決を誘導しておきながら、その判断は尊重しなければならないとして、日本企業の資産の現金化に進んでいる。
こうした問題について文在寅大統領が態度を改めた兆候はない。それではいくら韓国側の対話の呼びかけに応じても成果はないであろう。
日韓関係を悪くした元凶は安倍前総理でなく、文在寅大統領本人である。「韓国政府の行動を改めた時に初めて日韓関係の改善ができる」ということを文在寅氏がしっかり認識し、実際に行動に結びつけなくては日韓関係は前進しないのである。
祝いの書簡は最低限の外交辞令
首脳の交代が関係改善に結びつくことはある。日本で鈴木善幸首相から引き継いだ中曽根康弘首相は、就任直後全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領に就任の挨拶のため電話をした。当時、日韓関係は1982年6月に起きた第一次教科書問題のため最悪の状況にあったが、電話を受けた全斗煥大統領の嬉しそうな顔は今でも忘れられない。
中曽根総理は、就任後最初の訪問国を米国ではなく韓国とし、やはり問題となっていた経済協力問題で合意したが、これを切っ掛けとして教科書問題も決着した。その後、中曽根―全の友情は終生続いた。
そこには単に外交辞令ではなく、日韓関係に真摯に取り組もうとする両首脳の意思があった。しかし、文大統領の場合、安倍前総理の時代にも「日韓の協力や対話」に言及していたが、違法状態の徴用工問題を改める意思も、合意を一方的に破棄した慰安婦問題で対応を改める意思も示してこなかった。
菅総理になって、「韓日関係を共に発展するべく努力していこう」と言っても、日韓関係を悪くする原因を自分で作っておきながら、これを改めずにどのように関係発展の努力をするというのか。これまで日本側は様々な交渉の局面で日韓関係を重視する立場から、韓国側に相当な譲歩を続けてきた。しかし、徴用工問題のように、日韓関係の根本を崩す行動、慰安婦のように最終的不可逆的合意を平気で破棄する行為を目の当たりにして、もはやこのような妥協はできないと悟ったのだ。これ以上韓国側が敷いたレールの上で日本側に譲歩を求めても、譲歩できるものではない。
韓国メディアは「文大統領の祝いの書簡を無視する日本側はけしからん」と言いたいのであろう。日本側もいずれお礼の返書は出すだろうし、儀礼的な対応はするであろう。しかし、文大統領の基本的な対応方針が変わらなければ、書簡を機に関係改善に乗り出すような雰囲気ではない。
日韓関係の改善に何が必要か考察する。
元徴用工問題の解決を望むなら、仲裁に応じるか、韓国側が独自に解決するかしかない
文在寅政権は、元徴用工の問題を対話によって解決したいと言う。しかし、文在寅政権の言う「対話による解決」は韓国大法院の判決を前提に韓国側の提案に基づく解決案を協議しようというものであろう。
菅総理は記者会見で韓国には言及しなかったが、留任した茂木敏充外相は日韓関係と元徴用工問題に言及、「国際法に違反しているのが韓国側であるのは間違いない」と述べた。同時に、「しっかりした対話の中で物事を解決していきたいとの方向は変わらない」とも述べた。これは、対話に言及しつつも「韓国側が違法状態を是正すべき」という従来の見解を改めて強調したものである。
これまで韓国側の提案してきた案には、国際法違反の状態を解決するような、日本側にとって受け入れ可能な案はない。
大法院判決並びに関連の判決及び手続により生じた、国際法違反の状態を解決するためには、まず、請求権協定に基づく仲裁に韓国政府が応じることが必要である。そのため、日本政府は19年1月9日韓国政府に仲裁に応じるよう要求した。しかし、韓国政府がこれに応じず日本企業の財産差し押さえ手続きが進んだことから5月20日、協定第3条2に基づき仲裁付託を通告した。それでも韓国政府は仲裁委員任命などの義務を履行していない。
対話による解決を主張するのであれば、なぜ仲裁を受け入れないのか。あくまでも大法院の判決を尊重するという前提だからである。日韓の成り立つ重要な関係を、国内の手続きで勝手に改ざんし、「日本がこれを受け入れろ」と言ってもそうなるはずがない。
そもそも、請求権協定では「すべての問題は解決した」としている。わけても元徴用工の問題は、国交正常化交渉の過程で日本側から個人補償の是非を韓国側に打診している。これに対し韓国側は、個人への補償は韓国側がやるので一括して韓国政府に請求権資金を渡すよう求めている。
これを踏まえ韓国側は過去2度にわたって個人補償を行っている。また、文在寅大統領が秘書室長をやっていた盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権でも日本側に個人への補償をすることはできないと結論付けている。
このような事実があるにも拘わらず、韓国側の解決案はいずれも日韓双方が出し合って基金を作り元徴用工に配布しようというものである。
韓国政府は日本との基金案を宣伝し、韓国側の案に日本側が誠実に対応していないとの雰囲気を醸成してきたため、いまさら「韓国側が間違っていました」とは言えないのであろう。しかし、それは事実を認めず、責任も取らない文在寅政権の政治の宿命である。菅政権もこうした文在寅政権には付き合ってはいられない。
ここで譲歩すれば、韓国側は「ゴネれば日本側が降りてくる」という新たな前例を作ることになるだろう。長期的に日韓関係を構築するためには、文在寅大統領の「ほほえみ外交」には乗らないほうが賢明である。
慰安婦問題の解決を妨害し、政治利用してきた正義連を排除することが不可欠
請求権協定によって日韓の歴史的関係はすべて解決済みである。それは慰安婦問題も例外ではない。慰安婦だった女性は、貞操を奪われ、そのため家族からも見放され、恋愛、結婚の機会に恵まれず、子供も作ることができないという不幸な暮らしを強いられていた。それでも戦後20年近くが経ち、元慰安婦も少しずつ社会的に復帰しはじめた。そんな時に、韓国政府としては日韓交渉で慰安婦問題を大々的に取り上げ、元慰安婦を再び不幸の底に突き落とすことはできなかった。このため日本政府としても人道的に慰安婦問題に対応することにしたものである。
それが「アジア女性基金」である。日本国民の募金で集められた基金と日本政府が出した基金で、償い金と医療費合わせて500万円を支給した。しかし、正義連(当時は挺対協)は、これは日本政府の資金ばかりでなく、日本政府が法的責任を認めたものではないとして元慰安婦に韓国政府からの見舞金を渡し、日本からの資金を受け取らないよう圧力をかけた。
その際日本から償い金等を受け取った元慰安婦に対しては、「日本のカネを受け取るのは売春婦だった証である」として非難した。こうした非難は元慰安婦を最も傷つける発言である。なぜ、「日本からのカネは返しなさい。その代わり韓国政府のカネを渡す」と言えなかったのか。挺対協が慰安婦支援団体であったというより、政治活動を行い、寄付金を集めていた団体だったということである。
ちなみにその後、韓国政府のおカネを受け取った元慰安婦のうち54人が日本からのおカネも受け取ったようである。挺対協が妨害していなかったならば、多くの元韓国人慰安婦は日本のおカネを受け取り問題は解決していたはずである。
挺対協がどのような団体であったかは、その後正義連と改称した団体の尹美香(ユン・ミヒャン)前理事長の寄付金、政府補助金の横領、私的利用が証明している。
代表的な元慰安婦活動家の李容洙(イ・ヨンス)氏は記者会見を行い、「尹美香氏は、政治的、個人的目的のため、自分たちを利用してきた」「処罰されなければならないと」批判した。そして次々とその不正が暴かれていった。
しかし、政府与党は尹美香氏をかばい続け、尹氏は事件発覚後4カ月がたちやっと在宅起訴されたが、その罪状は実際の犯罪のほんの一部に限られており、未だ議員辞職もしていない。
文大統領も「慰安婦問題の大義は否定してはならない」と問題の極少化に努め、正義連を守り抜く姿勢を維持している。
2015年、日韓で慰安婦問題につき合意した。それまで慰安婦問題と言えば韓国政府は挺対協、正義連とのみ協議してきたが、朴槿恵政権はすべての元慰安婦に合意内容を説明、7割の元慰安婦がこれを受け入れた。しかし、文政権は韓国国民がこの合意を受け入れていないとして、これを破棄した。
文政権は、慰安婦問題で被害者第一主義をうたっているが、実際には正義連と結託しているだけのことである。
正義連の欺瞞性は、この度のスキャンダルで明らかになった。正義連が元慰安婦を代表していないことも露呈した。韓国政府このような正義連と手を切ることで、慰安婦問題に対しより客観的な対応ができるようになるであろう。
慰安婦問題も日韓の問題というより、韓国の国内問題になりつつある。文政権が日本に何をするかより、韓国内でどのようになっているかを見れば、日本としてとるべき道もおのずと見えて来よう。
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徴用工、慰安婦両案件に対する国際間の取り決めを簡単に覆し、赤外線レーダー照射事件など軍事的な挑発を繰り返す文政権に、何故歩み寄る必要があるのでしょうか。このブログでも何度も取り上げ、申し上げてきたこの厄介で面倒くさい隣国の厄災から逃れるためには、韓国側が解決策を行動で示すまで、完全無視しかありません。
ですから菅政権の初期対応はこれでいいと思います。間違っても今までのような妥協に屈することがないよう、毅然とした外交対応をして行くことを期待します。そして韓国が解決策を提示し謝罪するまで、「友好国」という表現を決して使わないように願いたいと思います。現実には完全な「敵対国」ですから。
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