エスカレートする中国の「懲罰外交」、民主主義国が結束し立ち向う必要あり
先日のブログで、中国当局のウイグルでの人権侵害に対し、日本政府が声を上げないのは、経済を握られている弱みが大きな壁になっている、と述べました。実は日本だけではなく、様々な国に対し経済報復を武器に、中国批判をけん制している姿が浮き彫りになっています。
英フィナンシャル・タイムズ紙の記事がJBpressに寄稿した記事を以下に引用掲載します。タイトルは『エスカレートする中国の「懲罰外交」 民主主義国が結束し、立ち向かわなければならない』(10/01)です。
9月半ば、中国の習近平国家主席がドイツのアンゲラ・メルケル首相と会談する予定になっていた日の2日前になって、中国はドイツからの豚肉輸入を全面停止した。
表向きの理由は、ドイツのイノシシが1匹、アフリカ豚コレラ(ASF)で死んだことだった。ASFは中国ですでにまん延している病気だ。
だが、一部のアナリストは別の結論に飛びついた。
彼らにしてみると、これは中国の威嚇的な商業外交の最新例だった。数カ国との関係を支配するようになった、進化しつつある中国外交術の一面だ。
この威嚇は決して、公に認められることがない。
ドイツの豚肉と同様に、中国はこれまでも、安全性をめぐる懸念や何らかの官僚主義的な口実を理由に、輸入を禁止したとか、某国の製品に対する調査を始めたと発表してきた。
中国の不興を買うと標的に
しかし、こうした対策はほぼ決まって、最近中国の不興を買った国を標的としている。そして、政策や行動の変更を強いるよう意図されている。
豚肉輸入の禁止は、中国を孤立させようとする米政府のキャンペーンに加わるな、中国の人権問題を批判するのをやめろ、というドイツ政府への警告だった。
オーストラリアが示唆に富んだ例を与えてくれる。
中国とオーストラリアの関係はしばらく前から冷え込んでいたが、今年4月に完全な凍結状態に入った。
オーストラリア政府が新型コロナウイルスの発生源と、当初の対応についての独立した調査を求めた後のことだ。
それからものの数週間で、中国は「ラベル表示と認定の条件」のために複数のオーストラリア業者からの牛肉輸入を停止した。
その後、オーストラリア産大麦に対する「反ダンピング」課税、オーストラリア産ワインの輸入に対する調査、そして中国国民に対するオーストラリア渡航自重勧告が続いた。
オーストラリアの前は、カナダの番だった。
カナダ当局が2018年暮れに、米国の要請を受けて華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)を拘束した後のことだ。
中国側は「国家安全」にかかわる罪でカナダ人2人を拘留したうえ、カナダへの渡航警告を出し、不適切な認定と「有害な微生物」を理由にカナダ産の大豆、キャノーラ油、食肉の輸入を禁止した。
ほかにも領有権争いの対立激化をめぐってフィリピンと日本が標的になり、スウェーデンは中国の人権問題を批判したことで、英国はチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマの訪問を受け入れたことで、韓国は米国製のミサイル防衛システムを配備したがったことで中国の標的になっている。
秘密の脅しは大した脅しにならないため、中国政府は公には2つの出来事の関係を否定しながら、相手側に内々に、彼らの行動や声明、政策が懲罰の理由だということをはっきり知らせる。
国営メディアは往々にして、もっと明白に理由を示す。中国の「戦狼」外交官も同様だ。
こうした警告は大抵、映画「ゴッドファーザー」から抜け出した言葉のように描かれる。
「ドイツよ、君たちにはいい自動車産業があるな、君らの5Gネットワークにファーウェイを招き入れないせいで自動車産業に何かが起きるようなことがあったら残念なことだ」――といった具合だ。
超法規的で、表向きはもっともらしく真意を否定できる対策は、係争を世界貿易機関(WTO)に持ち込まれることを避け、中国政府が政策や法律を正式に変更することなく、対策の程度を強めたり弱めたりできるようにすることが狙いだ。
中国はこの慣行を劇的に拡大しており、2010年以降、それと特定できる事例の半分以上が過去3年間で起きている。
こうなっているのは、戦術が奏功するからだ。
サルを怖がらせるためにニワトリを殺す
初期の成功は、ノルウェーに対する作戦だった。
2010年に服役中の中国人反体制派、劉暁波氏にノーベル平和賞が授与された後、中国政府はノルウェー政府との関係を断絶し、健康上の理由でノルウェーからのサーモン輸入を禁止した。
こうした懲罰が数年続いた後、国連でのノルウェーの投票パターンが変わって中国と緊密に一致するようになり、北極評議会で中国にオブザーバー資格を与えることを支持し、指導者がダライ・ラマと面会しないことを約束し、中国の「一つの中国」政策を損なうことは何もしないと誓った。
現在、中国は世界130カ国・地域にとって最大の貿易相手国になっていると豪語しており、多くの場合、そのデモンストレーション効果――中国では「サルを怖がらせるためにニワトリを殺す」として知られるもの――だけでも他国を従わせることができる。
威嚇は、論争の原因とは何の関係もない影響力のある産業に害を及ぼすよう調整されている。
これを受けて企業は大抵、中国政府に代わって自国政府に対してロビー活動を展開するようになる。
一方、中国自身の産業に対する潜在的なダメージは最小限に抑えられる。
オーストラリアのケースでは、大麦、ワイン、牛肉はその他多くの国から調達することができるが、インフラ主導の成長モデルのために鉄鋼を生産するうえで中国が必要とする鉄鉱石の60%をオーストラリアが供給している。
オーストラリアの炭鉱に罰を与えることは自滅的な行為になる。これが、そうした威嚇の限界を浮き彫りにしている。
徐々に進む中国離れ、多国間メカニズムを
貿易と市場へのアクセスを政治的な武器として使うと、自国の企業と経済を傷つけることがある。
信頼を完全に打ち砕き、威嚇への弱さを減じるべく、中国から離れて多角化する方向へと各国を追いやるからだ。
韓国、日本、台湾で、これがすでに起きている。
これらの国は今、中国に対する経済的な依存を減らすことを公式な政策に据えている。
だが、反発は断片的で、多くの国は貿易を再開し、市場へのアクセスを手に入れるために中国の要求に屈服する。
今必要なのは、各国がこの威嚇の事例を研究するための多国間メカニズムだ。
次のステップは、欧州連合(EU)、米国、その他の民主主義国が統一戦線を敷き、個々の国が中国政府から「罰せられた」時に、互いに争わないことに正式に合意することだ。
これまでは、威嚇的な商業外交の利益がその代償を上回ってきた。もし他国が中国に威嚇をやめてもらいたのであれば、この公式をひっくり返す必要がある。
日本でも政府による中国の人権弾圧批判が及び腰であっても、経済関係者はむしろそれを願っているところがあります。つまり経済報復を恐れているからでしょう。
また国内での人権が絡む問題には、声を荒げて批判する弁護士や学者文化人も、中国の人権問題には目を向けません。これも報復が怖いのでしょうか。そう言えばこれらの人のもとに、中国からの資金が流れている噂もあります。資金源を断たれると困るという理由だからでしょうか。
中国の経済規模を大きくしたのは日米欧などの民主国家です。その民主国家が今やその中国からの「懲罰外交」を恐れているとしたら、何とも皮肉なことです。恩を仇で返す、とでも言いたいような対応です。そう言えば韓国も同じ穴の狢でしたね。
フィナンシャル・タイムズの指摘の通り、民主主義国が統一戦線を敷き、中国において威嚇的な商業外交の利益がその代償を上回ってきたという、今までの公式をひっくり返す必要があるでしょう。そのためには各国が協調して、日本、台湾、韓国と同様、中国から資本や企業、そして人を引き揚げていくことが肝要です。今より更に加速して。
そうした中で、今月6日ポンぺオ米国国務長官が来日し、東京での日米豪印外相会合に出席したことは、米国が中国の脅威に対抗する国際連携を最重要視する立場を打ち出す狙いがあります。日本はしっかりとこの3国と連携し、まずは「自由で開かれたインド太平洋」の実現に積極的な役割を果たすべきだと思います。
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