習近平の“大誤算”…まさか中国の若者たちが「三人っ子政策」にブチ切れ始めた!
今回は日本でも大きな課題の少子化対策。近年中国も同様の問題が深刻化しつつあります。そのあたりの事情を、昨日も登場いただいたフリージャーナリストの福島香氏のコラムから引用します。タイトルは『習近平の“大誤算”…まさか中国の若者たちが「三人っ子政策」にブチ切れ始めた!』(現代ビジネス 6/22)です。
◇
中国経済の高齢化に焦る習近平が打ち出した「三胎政策(三人っ子政策)」が、中国の若者たちの不評を買っている。そうした中、いまの中国で流行しているのが「内巻(インボリューション)」「躺平(寝そべり)」というキーワードだ。激しい競争社会を勝ち抜いても、決して報われるとは限らない中国社会の“過酷さ”に消耗する様が「内巻」とされる。そうした中で、「躺平(寝そべり)」の境地に達する若者たちが急増しており、これが中国の“大きな問題”となってきているというのだ――。
習近平への「抵抗」
中国ではいまや社会階層のピラミッドのてっぺんのほんの一の富裕層が総どりし、ほとんどの大衆は懸命に努力しても報われず、階層の固定化が進んでいる。
こうした報われなさに悔しがることさえあきらめた境地が「躺平(寝そべり)」だ。
一種の仏教系の悟りにも似ているが、階級の固定化に対する無言の反抗、という見方もある。「躺平学大師」(寝そべり学師匠)と呼ばれる匿名のネットユーザーの「躺平こそ正義。寝そべりながら、かくれてあくせく働く人を笑っていたい」という発言は、中国の若者に広く共感を得て、メディアにも取り上げられた。
これは習近平が2017年の新年のあいさつで「みんな袖をまくって頑張って仕事をすれば、この時代の長征(国民党軍の包囲網からの紅軍の撤退戦、進退極まった時の持久戦を表す言葉として使われている)の道程を必ず乗り切ることができる」と、人民に一層の努力と我慢を呼び掛けたことへの抵抗という見方がある。
特に新型コロナ下では、人民に我慢と犠牲を強いるスローガンが繰り返されたとも関係ありそうだ。
やる気を失った「中国人たち」
ちなみにこうした無気力カルチャーは日本が先行モデルだという。これは中国でも日本の「低欲望社会」として紹介され、断捨離やミニマリストといったライフスタイルがむしろ、かっこいいものとして一部の中国の若者たちには受け止められている。
だが、こうした風潮が、日本の長引く経済のデフレのひとつの要因でもあり、失われた10年が失われた30年に伸びた背景だ、という分析もある。
躺平という言葉が最近急に注目されるようになったのは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で世界の中央銀行が一斉に金融緩和に動いたことが導火線であったという。
これら資金が株、ビットコイン、不動産などの資産価格を高騰させ、さらに少数の富裕層のみがこれで利益を得たのに対し、大多数の人々はなんら恩恵を受けず、むしろ貧富の格差が拡大し、階層の固定化がさらに進み、多くの人がどうしようもない、と完全にやる気をうしなった、ということらしい。
さらに、中国当局が、若者のこうした傾向に危機感をもち、中国官製メディアが躺平主義に対する批判キャンペーンを展開したことが、さらに有識者らの議論をよぶことになった。
ジャック・マーも嫌い
こういう状況を総合して、今後の中国の社会、経済の動向について目下、さまざまな提言や意見が飛び交っているのだが、「内巻」は結局のところ、悪性の内循環でしかなく、この状況を突破するためには、イノベーションによる外向きの発展の流れを作るしかない、というのが概ねの体制内学者たちの主張だ。
内循環を「双循環」に転換し、国際市場への窓口を大きく開き、経済構造のレベルアップとグローバル化を進めて、経済のパイ自体を大きくしていくことが必要だと訴えられている。
だが、「内巻」への抵抗感をもち、「躺平が正義」と言ってのける若者世代が怒りの矛先のひとつを向けるのは、実はアリババの馬雲(ジャック・マー)らに象徴される、グローバル経済を牽引すべき民営企業家の資本家たちだったりする。
彼らは過当競争を勝ち抜き「996」以上のブラック労働を乗り越えた成功者であり、若い世代にも同様の競争と頑張りを当然のように強要し、それについてこられない人間は負け組として切って捨ててきた。
庶民の民営資本家に対するこうした「恨み」からくる風当たりの強さが、習近平の「民営企業家いじめ」とも見える厳しい共産党の指導強化、「国進民退(国有企業推進、民営企業の後退)政策の後押しをしているともいえる。
この民営経済の後退は、イノベーション活力の後退につながると懸念もでている。しかも、習近平政権は経済のグローバル化もスローガンとしては掲げているものの、欧米英など西側自由主義経済とのデカップリングが進む流れが大きく転換する見込みは、今のところ見えない。
無気力カルチャーは日本でも蔓延し、おそらくそれが経済や社会の停滞感とも関連しているのだろうが、個人的な感覚としては中国の場合、単なる無気力ではなく、比較的はっきりとした「若者の抵抗」の意思を感じる。
「三人っ子政策への抵抗」「内巻への抵抗」「躺平による抵抗」――。
では、日本と中国の差は何か、といえば幅広いの中間層が存在するか否かではないだろうか。
若者たちの「静かな革命」
日本は貧富の格差が徐々に開いているとはいえ、やはり中間層が主流。その中間層を維持するための社会福祉システムがとりあえず存在する。
生活保護、国民年金、医療保険などだ。そこそこの生活を維持しながら、足るを知る「低欲望」の暮らしをよしとするのと、中国の絶望的な貧富の格差の中で「努力を放棄する」ことは、意味合いがかなり違う。
中国は日本ほどの社会福祉制度設計ができていないにもかかわらず、人口オーナス時代に突入し、格差固定が進み、その格差が開き、中間層が消滅しかかっている。
中国の若者の「無気力の抵抗」は、私は一種の消極的な革命ではないか、という気がしている。
だとしたら、本当の意味での中国が直面する問題の解決の道筋はやはり体制の転換しかないということになる。
◇
一党独裁、と言うよりも一人独裁に近い共産党最高幹部だけの舵取りで、この14億の国を意のままに動かそうとすれば、さすがに抵抗したりシカトしたりする層は必ず出てきますが、そこは全国民の情報を管理する仕組みの整った中国のことですから、何とか対応しようとするでしょう。日本のように政府や自治体の要請を全く無視して、路上で飲酒し騒ぐ若者を一掃できない国とは違います。
しかしこの躺平運動は明らかな政府批判でないところが共産党にとってやっかいなところでしょう。そしてその本音が実は今の体制への不満から出てきているところが、じわじわと体制を浸食する流れになっていくとも限りません。福島氏の言うとおり「解決の道筋はやはり体制の転換しかない」と言うことかもしれませんが、強固に作り上げた治安部隊の組織と個人情報管理の仕組みの中で、体制の返還は一筋縄にはいかないのも事実かも知れませんが。
(よろしければ下記バナーの応援クリックをお願いします。)
(お手数ですがこちらもポチッとクリックをお願いします)
« 香港で「報道の自由」が終わりを告げる 中国に踏みつぶされた「蘋果日報」 | トップページ | 原発は資源小国日本の切り札、原発の再稼働、新設で中国に対抗せよ »
「海外・社会」カテゴリの記事
- 退陣後一挙に盛り上がる、文在寅糾弾集会。果たして文氏の末路は?(2022.09.05)
- 同じ韓国人でも強烈すぎる違和感、韓国内の「言論の不自由さと事実無根の日本批判」(2022.09.02)
- 人口減少が既に始まった中国。30年後には半減も、企業進出にはリスクあり(2022.01.13)
- 韓国:漢字を捨てた民族の笑えない勘違いと、「旭日旗」狂騒曲(2021.12.14)
- 何よりもカネを信じ、すぐ買い占めに走る「中国人」の心理(2021.11.17)