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2021年6月30日 (水)

なぜ国産ワクチン開発が進まないのか

K10013022871_2105102203_2105102230_01_03  今日本ではワクチンの接種が高齢者を手始めに進んでいて、6月28日現在一回接種した人は全人口の22.1%、65歳以上の高齢者の58.3%、2回目の終わった人は全人口の10.8%、高齢者の24.4%となっています。

 しかし世界的に見ると一回接種では8カ国以上が50%を超えていますし、接種が完了した人が25%を超えている国も10カ国以上と、日本は決して早いほうではありません。その大きな原因の一つにワクチンの入手の問題があり、全量海外製のワクチンの輸入に頼っていて、国産ワクチンの供給が未だ見通せない状況にあることです。

 医療先進国と言われながら、なぜワクチンの開発があまり進まないのか、今回はその原因を探ることにします。まず最初に開発国のアメリカ、イギリス、ロシア、中国、インドなどと日本の違いの一つに、感染症のワクチン開発が国防の一つだという認識の差があるようです。昨日の産経WESTの記事『欠ける国防意識 米中は軍を挙げ開発』(6/29)から引用します。

日本で新型コロナウイルスの国産ワクチン開発が遅れたのは「ワクチンは国防の手段」との観点が欠けているからだ。米国、中国などは細菌兵器によるバイオテロなどを想定し平時から研究を進める。「感染症は有事」との緊張感を持たなければ、日本は失敗を繰り返すことになる。

国防予算で開発支援

「国防総省の助成金の対象にしたい。その製剤はどんな技術で作り、いつ実用化するのか」

国産ワクチンの話を耳にすると、再生医療ベンチャー「メガカリオン」(京都市)創業者の三輪玄二郎氏は、米国大使館の男性からかけられた言葉を思い出す。9年前、東京・本郷の東京大学構内でのことだ。同社は人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作る血小板製剤の開発を進めてきた。製剤には血液を固め出血を止める働きがある。男性の目的は国防予算で開発を支援し、米兵の治療薬として使うことだった。

申請書類はわずか数ページで、日本の助成金申請に比べて極めて簡素。だが支援は受けなかった。「技術は素晴らしいのに実用化で外国に先を越される。その失敗を日本はまた繰り返すことになる」。血相を変えた元経済産業省次官の松永和夫氏からやめるよう、このように説得されたためだ。

三輪氏のケースはワクチンでない。しかし米国が医薬品開発を「国防」とみていることを示している。三輪氏はいう。「防衛省からは援助の話がない。日本の世論を考えると軍事費での支援は簡単でないのかもしれない」

バイオテロ事件が契機

「米国や英国、中国、ロシアはバイオテロなども想定し、平時から軍を挙げワクチン開発を進めている」。東大医科学研究所の石井健教授はこう指摘する。

米国では、炭疽(たんそ)菌入りの郵便物が郵送された2001年のテロ事件を機に、軍が急速にワクチン開発への関与を強めた。国防総省が13年、2500万ドル(約27億円)を援助したのが米モデルナ。対象は、今や新型コロナワクチンの潮流である「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」の開発だ。

同社は豊富な資金で開発を進め知見を蓄積。この知見が、早くも昨年3月に新型コロナワクチンの第1段階の臨床試験(治験)を始めることに貢献した。

中国では同5月、第1段階の治験において世界で初めて新型コロナワクチンの人への効果が確認された。共同開発したのは人民解放軍。エボラ出血熱のワクチン開発に関わった女性少将が指揮した。

「人民解放軍の貢献は、中国の制度の優位性を証明するものとして習近平指導部によって喧伝(けんでん)されている」。防衛省防衛研究所の報告書はこう分析した。

次のパンデミック、国民を守れるか

ワクチン戦略を国防の手段と位置づける視点は「日本に皆無」と石井教授は批判する。

政府は今年6月、ワクチンの開発や生産体制の強化に向けた政策をまとめた戦略を閣議決定。「(体制強化は)危機管理上もきわめて重要だ」。先立つ会合で菅義偉(よしひで)首相は強調した。

だが、戦略にワクチンを国防の手段と定義する文言は明記されず、中心となり携わる省庁として挙げられた中に防衛省はなかった。

自民党では危機意識が強まる。甘利明税調会長が座長を務める新国際秩序創造戦略本部は5月にまとめた提言で「緊急事態における特別に使用を認めるための制度のあり方について検討すること」を求め、ワクチン戦略を経済安全保障の観点からもとらえる重要性を強調した。

国防、安全保障の目的は国民の命を守ることだ。次のパンデミックの脅威から国民を守るには、未知の感染症に対応するワクチンを素早く開発できる技術を持てるか否かにかかっている。国を挙げた仕組みを整える責務が政府にはある。

 ◇

 何しろ日本は大学で軍事研究はおろか、武器などの開発研究もその周辺技術でさえ自粛を要請される問題があります。日本学術会議の提言にもなったほどです。戦後75年を過ぎた今でも、軍事アレルギーは強く、そこに異常に反応するメディアや知識人がいます。

 こうした現状を改善しなければ、医療に限らず、日本の学術研究は衰退の一途をたどるのは目に見えています。ところで少し前になりますが、ミオ戦略会議室がM-NEWSとして発行している情報誌に、この問題に関する記事がありましたので、以下に引用します。タイトルは『日本のワクチン対応は「世界最低レベル」』(5/10)です。

 ◇

東京2020オリンピックを開催するならワクチン戦略がキーポイントだった

 今となっては遅いものの、日本が本気で東京2 0 2 0オリンピック五輪を開催したいと考えるなら、実は「ワクチンの確保」こそが、万難を排して取り組むべきことだった のかもしれません。日本国民の大多数がワクチンを接種し、諸外国のオリンピック参加者にもワクチンを提供することが、世界が不安にならない東京 2 0 2 0オリンピック開催の最低条件だったのかもしれません。

甘かったワクチンに対する日本の考え

 英国は2020年12月に世界で最初に臨床試験を経て認可されたワクチンの接種を開始しています。さらに、ボリス・ジョンソン首相は「 6月2 1日にほとんどの制限を解除する」と宣言しました。そして 8月か 9月までには国内の全ての成人が 2度のワクチン接種を終えると自信も示しています。

 血栓症発症の問題はあるものの、英国のオックスフォード大学と大手製薬会社アストラゼネカが共同開発したワクチンが世界中に輸出されており、もしも英国が五輪を開催する立場ならば、当然ワクチン戦略を最優先に取り組んだに違いなでしょう。

 日本は英国と比べて新型コロナの感染者数・死者数が約 1 0 0分の1の規模にとどまっています。ワクチン情報を正確に得て、国を挙げて戦略的に動けば、ワクチンを十分に確保して安全な東京2 0 2 0オリンピックの開催が宣言できたのではないのでしょうか。

日本のワクチン情勢の現実-決して国内のワクチン開発の遅れが問題のポイントではない-

 当初 4月からとされた高齢者のワクチン接種が5の中旬以降に延期され、医療従事者のワクチン接種も2 5%という低値に留まっています。ワクチン担当の河野太郎行革担当相が記者会見を開くたびにワクチンの接種スケジュールが混乱して遅れており、国民は日本のワクチン接種計画に焦燥感を募らせています。

 世界と比較してみても日本のワクチン接種の開始はG 7最も遅く、現在までにワクチン接種を完了した人数についても、米国4 4 5 2 . 8 9万人 、トルコ501.37万人、ドイツ 3 2 4 . 6 0万人、英国 4 5 0 . 0 4万人である一方、日本はわずか1 9 0万人に留まっています。その理由の一つに、ワクチン大国であったはずの日本における国内での開発の遅れが指摘されています。現在、日本では約1 0の小グループが自国ワクチンの開発を行っていますが、欧米と比較して小規模でリソースが足りず、多くのワクチンは臨床試験に入れる前の動物実験や細胞での実験の段階にとどまっています。この中で、人に投与するワクチン臨床試験に入れたワクチンは大阪のバイオベンチャー企業「アンジェス」と製薬大手の塩野義製薬の2社だけです。

 しかし、世界のワクチン接種が進んでいる国を見てみましょう。ワクチン接種が日本より進んでいる国の多くでは自国製ワクチンを開発していません。結論から言うと、素早く十分な量のワクチンを外国の製薬会社から調達できればいいのです。何も国産 にこだわらず、外国製で十分なのです。そのためのワクチン獲得交渉を、政府が迅速に行ってこなかったことが重要な問題なのです。

首相のフットワークの悪さ、国内規制が足かせに

 イスラエルは昨年、2020年6月にベンヤミン・ネタニヤフ首相が自ら製薬会社であるファイザー社のトップとワクチン調達の交渉を開始しました。ファイザー社のアルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)とはなんと17回会談し、ファイザー社のワクチン提供の合意にこぎつけています。多くの国ではその国の首相が製薬会社と交渉してワクチン獲得競争を繰り広げている一方で、日本は厚生労働省が製薬会社と交渉してきました。しかし製薬会社が望む医療データ提供についてプライバシー保護の観点から不可能と拒否するなど、従来の国内規制に沿ったしゃくし定規の回答を繰り返していたため、交渉はうまく進みませんでした。

 本来なら当時の安倍前首相がファイザー社のアルバート・ブーラCEOとトップ会談を行い、オリンピック開催のためにもワクチン調達の交渉をするべきでしたが、このころから「桜を見る会問題」などの政治的な問題から体調を崩し、ワクチン調達の前面から姿を消していました。

 業を煮やした首相官邸は、2021年1月下旬になって河野担当相がファイザーとの直接交渉に乗り出したものの、ファイザーは「交渉は首相を出してほしい」と突っぱね、一閣僚を相手にしないという強い姿勢を示してきました。日本のワクチン獲得の遅れは首相官邸の動きがあまりに遅すぎた、ということに尽きると思われます。

これほどまでに遅れた原因は

 日本の厚労省には古くから国内製薬会社の既得権益を守ろうとする因習があります。従来から特にワクチン供給や開発に対して、厚労省は国内製薬会社を守るために、海外メーカーからの新しいワクチン調達に後ろ向きで、国内のワクチン開発を待つという姿勢でした。したがって、新しいワクチン調達では、海外メーカーと杓子定規な交渉に終始し、事態の打開に首相を担ぎ出すことを避け続け、いつもの「官僚支配」を新型コロナウイルスワクチン調達にも採用し、失敗したのです。

 もう一つの問題は、厚労省と「専門家」のワクチン開発に対する勉強不足です。従来のワクチン開発の常識(日本の得意分野である不活化ワクチンや生ワクチン)を超えて驚異的なスピードで進んでしまった新型コロナウイルスのmRNAワクチン開発の進捗状況を読み切っていなかったことにあります。

 これまでの感染症のワクチンが数年以内に開発されたことはありませんでした。しかし、世界ではエボラ出血熱、SARSやMARSの感染を経験したことで、コロナウイルスのワクチン開発競争は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生前にすでに始まっていました。それと同時に、DNAワクチン、mRNAワクチンなどの従来の弱毒化ワクチンや不活化ワクチンとは大きく発想が異なる、新しいテクノロジーが開発されていたのです。

 今回のコロナワクチン開発にはワクチン開発のための国際的なアライアンスが多数形成されました。英ウェルカム・トラスト財団や、ビル・ゲイツ財団などがワクチン開発のために巨額の開発資金を提供したのです。これらの支援を受けて、多くの研究施設はコロナ禍の環境にもかかわらず、1年という短期間で新しいワクチンの開発を実現させたのです。

 イスラエルのネタニヤフ首相が、昨年6月という早い時点で製薬会社と交渉を開始したのは、この新しいワクチン開発の進化を的確に学び、理解していたからです。 日本では、「ワクチン開発には数年かかる」として、ワクチン接種によるパンデミックの終結は想定していませんでした。厚労省の多くの技官は、世界の新型コロナの研究を主導する「ネイチャー」「ランセット」などの世界の学術誌の最先端の議論をフォローしきれておらず、また政府が設置した「専門家会議」の委員の多くは、過去の業績を認められた学会の権威にすぎず、新しい感染症のパンデミックを世界の最先端で研究している人ではありませんでした。

 多くのワクチン専門家会議の委員は、この新しいDNAワクチン、mRNAワクチンの新しいテクノロジーとその威力には懐疑的でした。こうしたさまざまな要因が重なり、首相官邸に世界のワクチン開発の最先端の情報はもたらされることなく、ワクチン獲得は後手に回ってしまったのです。

終わりに

 日本の新型コロナワクチン獲得の「敗北」からは、今後の日本の新興感染症対策の体制の再構築へ向けた教訓があります。まず、諮問会議に起用する専門家は、学会が推薦する過去に実績のある権威ではなく、世界の最先端の研究に取り組む若手を起用することです。委員も日本人に限る必要すらありません。感染症に国境はなく、その対策の決定は国際的な協力が必要で、国家が隠すべきことはないからです。

 次に、感染症の研究やワクチン開発の機関の集約です。日本では大学病院や小規模な製薬会社が個別に動いていますが、これを集約して大規模な取り組みとすることが必要です。

 さらに、民間による巨額の資金の確保が必要です。オックスフォード大学は、前述のウェルカム・トラスト財団から約130億ポンドもの巨額資金を得て運営されています。英国のような巨大な慈善団体が存在しない日本では、企業が資金を拠出して基金を設立すべきです。

 ◇

 今回の新型コロナウィルスに限らずその防疫のためのワクチン開発などの施策は、大国と言われる大方の国は、国の安全保障の一環と捉え、軍事研究の一つに挙げられていますが、日本はその考えも体制も全くゼロ。これがワクチン開発の遅れの理由の一つです。

 そしてしかも医療体制の仕組みも取り組みも周回遅れです。その理由は厚労省はじめ、国の官僚の責任逃れ体質と既得権益保護の体質が根底にあります。ここは日本の最大の弱点と言ってもいいでしょう。その点にメスを入れなければ今後も同様な事態が続くでしょう。

 以上二つの大きな理由があって、ワクチン開発が致命的に遅れているのですが、現在の感染の拡大は外国製に頼っても仕方がありませんが、来年以降のコロナ感染抑制は国産ワクチンの完成でもって、是非収束に向かわせたいものです。

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