東京五輪後、日本はコロナ変異種の万国博覧会状態に
開催まであと2週間あまりに迫った東京五輪。開催は決まりましたが観客をどうするかは、様々な意見が飛び交い7日時点ではまだ決定していません。東京での4回目の緊急事態宣言発出がほぼ決まり、難しい判断を強いられる状況が待ち構えているようです。
ところでこの東京五輪、開催中や開催後の新型コロナの状況はどうなるのか、東京大学大学院情報学環准教授の伊東乾氏が、JBpressに寄稿したコラム『東京五輪後、日本はコロナ変異種の万国博覧会状態に 深刻な後遺症が続出し、ワクチン非接種者を攻撃するヘイトも』(7/5)で、その予測を行っていますので以下に引用します。
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東京オリンピック・パラリンピックの取材のために日本を訪れる海外のメディア関係者に対しては、プレーブックに従う報道エチケットを守ることになっています。
これに対して「報道規制だ」「取材の自由権に対する侵害だ」といった猛反対のブーイング(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210702/k10013114771000.html)が海外の報道メディアから相次いでいます。
この問題を少し深掘りしていくと、すでに米国では猛威をふるっている「ワクチン・デバイド」の嵐が見えてきます。
すでに日本に来襲しつつある「ワクチン・デバイド」を念頭に、五輪と五輪後に多様性を増すであろう、日本国内での変異種蔓延について考えてみましょう。
混乱の度を増すコロナ時差
すでに報道されているように、英国では「デルタプラス」変異株による、新たなコロナ・パンデミックが猛威をふるっています。
6月11日のG7開催に向けて、英国ではコロナの克服を全世界に発信するつもりでいました。
ところが、現実はとんでもなかった。5月の連休頃、1日1500人ほどまで落ちた新規感染者数が、5月中旬、下旬とじりじりと増加に転じます。
6月に入ると1日5000人を超える新規感染者数。これがあれよあれよと急増して、6月17日には1万人超え、6月29日には2万人超え、そして7月2日には2万7500人と、まさに急坂を駆け上っている最中です。
どうしてこんなことになったのか?
英国はボリス・ジョンソン首相のコロナ罹患に凝りて、早期に徹底したワクチン接種を進め、コロナ克服「欧州の優等生」になったのではなかったか?
UKのコロナ克服シナリオをすべてひっくり返してしまったのが「デルタプラス」変異株の流行でした。
ワクチン未接種層に広がるデルタプラス株
英国全土のワクチン接種率と毎日の新患数、死亡者数を見てみましょう。年明けからワクチン接種率が順調に伸び、3月下旬には「大英帝国はコロナを制した」といった空気が漂い始めるのが手に取るように分かります。
ところが、4月に入る頃から接種率の伸びが急に落ちている。
そして伏流水のように押し寄せてきたインド由来の「デルタ株」変異種「デルタプラス株」が6月になって爆発的増加を見せ、コロナ収束どころではなくなってしまった。
ここで注目していただきたいのは、毎日の新患数は激増しているけれど、決して死亡者は増えていないことです。
ただし、これを「デルタプラス株は、凄まじい感染力は持っているけれど、毒性は低い」などと勘違いしてはいけません。
本稿では触れる紙幅がありませんが、死亡しないことが「めでたしめでたし」ではないのです。永続する後遺症、いわゆるロングCOVID( Long Covid Sydrome)が深刻である可能性がある。
新型コロナ後遺症は2022年以降、大変な社会問題に発展する可能性がありますが、それは別の機会に取り上げましょう。
注目しなければならないのは、6月に急増した新患の大半が「ワクチン未接種者」であるということです。
1月から3月まで、UKはゼロからスタートして5割弱まで接種率を上げていった。しかし4月から6月までの同じ3か月間で、まだ70%に到達していません。
それには構造的な理由がいくつもあるのです。
一つは世代の問題。5月の時点では英国の若い世代にはコロナワクチンへの忌避意識がありました。
次に民族的、宗教的な問題があります。キリスト教徒やユダヤ教徒のワクチン接種率が高いのに対して、イスラム教徒の接種率が伸びないといったことがあります。
そして経済階層による分断。富裕層にはワクチン接種が行き渡っていますが、低所得層ではなかなか接種率が伸びない。
世代、イスラム教、所得。3つを合わせて分かりやすくまとめるなら、例えば、バングラデシュからの移民やその子弟など、英国で決して少なくない人口層にワクチンが普及していかない。
そうした集団をインド株から命名を改められた「デルタ株」系の変異種が直撃して、今の事態が発生している。
ワクチン接種による社会階層の分断「ワクチン・デバイド」の英国的な立ち現れ方ということができます。
事態の根には大変深いものがあり、簡単に解決がつく問題ではありません。
米国型ワクチンデバイド
逆に、変異種の蔓延を食い止め、3月の英国のような気分になっていると思われるのが米国です。
ワクチン接種率が高く、またすでにワクチンを打ったのだから、もう感染もしなければ移しもしないと鼻高々。
東京オリンピックを取材するべく来日して、「行動の自由を制限するな!」と息巻くジャーナリストの多くは、米国的なメンタリティを背景に持っている可能性が高いと思われます。
彼らは、自分たちはもう「ワクチンを受けた」「コロナは卒業した」と確信して、場合によりマスクもつけずに五輪会場を闊歩するでしょう。
そして国内随所で「自由にインタビューさせろ」と言っている。
翻って日本の国民感情を考えれば、これだけ神経質になっているところに、傍若無人な外国人が、かつてのGHQ占領時代のGIよろしく、マスクもつけずにマイクなどもって、無遠慮にインタビューに近づいてくるなら・・・。
悲鳴を上げて逃げ出す一般の日本市民といった、とんでもないシーンも現出しないとは言い切れないでしょう。
米国と日本、あるいはワクチンでコロナを制圧したと思っている社会と、まだそれと程遠い社会との、かなり絶壁に近い断絶が様々な人間模様を生み出す可能性があります。
ただ、間違いなくいえることは、五輪を開いて「人流」ができれば、全世界の色とりどりの変異種が、日本に、東京に、まるで変異種の見本市、万国博覧会のようにサンプリングされてくるリスクが高い確率であるということです。
あらゆる検査は全く万能ではないし、人流ができれば感染・蔓延は不可避で拡大します。
五輪後の日本は、言ってみれば全世界から集められた、変異種ウイルスの「満漢全席」といった様相を呈する可能性が、正味であると覚悟して、早めに対策を取っておく必要があるでしょう。
別に危機感をあおるつもりは全くありません。
ただ「世界の国からこんにちは」ではありませんが、いままで存在しなかった人流ができれば、必ず「人とともにウイルスはやって来る」事実と、具体的な対策を取る必要を指摘せねばなりません。
具体的な対案は、個別に記していきます。本稿ではもう一つ、「日本国内でのワクチンデバイド」のリスクを考えておきましょう。
五輪後に日本を襲うワクチンデバイド
6月1日時点で、日本のワクチン接種率は、1回接種で10%、2回接種終了者はわずかに3.1%、国民の97%はワクチン未完了という、G7諸国の中でも飛び抜けた立ち遅れを見せていました。
それが7月1日になると1回接種で24%、2回接種終了者は12.7%と、1か月で見ればずいぶん奮闘したようにも思われます。
しかし、仮にこのペースで伸びたとして、国民の50%に手が届くのはいつ頃になるか?
根深く存在しうる「ワクチンへの忌避感情」がどのように挙動するかも、いまだよく分かりません。
まぁ、これは時間の問題で接種率が5割を超えるときがくるでしょう。そのあたりで日本社会にある変化が起きる可能性が考えられます。
「コロナ罹患者」が「病気になってすみません」と謝るという、世界の大半の国が理解不能な、特殊な世間様の感情を持つ日本社会で「ワクチン未接種者」がマイノリティになったとき、それに対する社会的なデバイドや攻撃・・・。
ないことを祈りますが「ヘイト」なども絶対に起きないとは言い切れません。
いずれにせよ、間違いなく言えることは、五輪のお祭りはさておき「五輪後」に必ずやって来る「社会」「経済」そして「感染」の大きな動きに、早めに手を打っておく方が賢明です。
この一点は決してぶれることがありません。転ばぬ先の「杖」を、各自用意しておく必要があります。
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確かに100年に一度というこの未曾有の疫病に、世界中が翻弄され、国民の生活も政府の対応も完全に足を取られている状況です。変異型も猛威をふるってきている現状では先が見通せません。
伊藤さんの言うワクチンデバイドもさることながら、企業の中でも旅行業や飲食業のように青息吐息のところもありますし、一方ネット販売やテレワーク関連機器のメーカーのようにコロナが後押ししている業界もあります。産業デバイドも進んでしまっているようです。
いずれにしろワクチンの接種率が高まり、このやっかいな疫病が収束の方向に行くことを願ってやみません。
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