日本は「際限なしの泣き寝入り国家」なのか
このブログでも何回も取り上げている日本の弱腰外交。JBpressに同じ思いの記事を見つけました。題して『日本は「際限なしの泣き寝入り国家」なのか』(6/30)。副題に『小説『邦人奪還』が描く自衛隊特殊部隊のリアル』と言うのがあります。
寄稿した勢古浩爾氏のこの記事の中に、元海上自衛官の伊藤祐靖氏の著わした『邦人奪還――自衛隊特殊部隊が動くとき』の一部が出てきます。非常に興味の沸く内容です。更には主に軍に関する航空機の研究家で作家の、渡辺洋二氏の『彗星夜襲隊――特攻拒否の異色集団』も出てきます。これも面白い。では勢古浩爾氏の記事を以下に引用します。
◇
ついに中国のイライラが限界に達したのか、6月25日、中国国防部が「(台湾の)独立は行き詰まりであり、戦争を意味する」と言明した。真に受けることはないのかもしれないが、「戦争」という言葉を使ったのははじめてではないか。
ここ数年、米台の人的交流・軍事連携強化や、国際組織への台湾の参加気運、日米豪印の「QUAD」、EUやG7で中国による挑発的行為への懸念が示されるなどの動きにより、中国の焦燥感は最高に高まっていると思われる。中国はG7の声明に即座に反応して、戦闘機や爆撃機28機を台湾の防空識別圏内に侵入させた。
「起こらない」とは誰にも言えない台湾有事
台湾の呉外相は米国CNNテレビのインタビューで「中国政府は武力の使用を放棄するつもりはなく、台湾周辺で軍事訓練を行う際、われわれはそれ(武力の使用)を本物だとみなさなければならない」と語った。今年や来年ということはないだろうが、台湾有事という可能性は皆無ではなくなったのである。米インド太平洋軍のデービッドソン司令官は今年の3月、米上院軍事委員会の公聴会で「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と語った。6年後の2027年は、中国人民解放軍創設100周年に当たる年である。
台湾有事の場合、日本は当然米台と連携して応分の役割を分担することになる。あるいはまた、それ以前か以後かはわからないが、中国が尖閣諸島に侵攻したときどうするつもりなのか。
だれもそんなことあるはずがない、とはいえない。いずれにしても、事を起こすか否かは中国の胸先三寸にかかっている。ただ中国は尖閣に侵攻するときの言い訳(正当化)の布石はすでに打っている。何度となく領海侵犯をしても、尖閣は自分たちの領土だと抗弁していることだ。
この正当性はだれも認めていないが、そんなことはどうでもいいのだ。主張すればいいのである。だがかれらがこの正当化をインチキだと思っていることは、何日、何十日いようと、結局領海から出ていくことでわかる。しかし厄介なことは、双方の正当性が衝突するとき、どちらの正当性が正しいのか、証明できないことにある。またたとえ、国際機関が裁定を下しても、そんなものはただの紙切れだと無視してしまえば、それ以上手の打ちようがないのである。
問題は中国が実際に尖閣に侵攻してきたとき、日本はなにができるのか、ということだ。新型コロナ騒ぎにおける、マスク不足(その対策がアベノマスクとは恐れ入った)、緊急事態宣言のドタバタ騒ぎ、補償問題の杜撰さ、後手後手のワクチン調達、IOCに鼻づらを引きまわされた五輪開催などの無様さを見ていると、有事に際して、気迫的にも能力的にも、迅速で適切な対応が取れるとは到底思えないのである。
それに比べ、中国の反応は迅速かつ断固としている。テレビ東京の中国特派員は「武漢封鎖とかワクチン接種とか、中国はなにかをするときの勢いのつけ方が肝が据わっている感じがする」といっていた。中国はやるときは恥知らずでも、息をするように嘘をついてでも、どんなに非難されても、やるのである。中国共産党の存続という価値はなににも勝っているのだ。
フィクションだがリアル『邦人奪還』
自衛隊に初の特殊部隊(海上自衛隊特別警備隊)を創設した伊藤祐靖氏はその著作『邦人奪還――自衛隊特殊部隊が動くとき』のなかで、中国軍の尖閣上陸と、北朝鮮における日本の特殊部隊による邦人奪還作戦を書いている。もちろんフィクションだが、中国兵の尖閣上陸の場面はリアルである。
中国漁船に乗った5人の男が尖閣の魚釣島に上陸する。上陸前にひとりの男がリーダー格の男に訊く。「日本の軍隊はどの段階で動きますか?」「日本という国は、そうそう簡単に軍隊を出さない。最初は警察、おそらくコースト・ガードだ。それを出すのにも時間がかかる」。灯台に中国国旗を立てる。それを日本国旗にもどすためにコースト・ガードがやってくる「そこを攻撃する。ただし、絶対に殺すなよ。怪我までだ」
もうひとりが、反撃したきたらどうするのかと訊く。「撃ち返しては来ない。現場が撃とうとしても、日本のトップが絶対に許可しない」「許可しないって、そんな……。そうしたら、ただ撃たれるだけです。それでも日本は許可しないんですか? 第一、そんな指示に日本人は従うんですか?」。こういう悠長な会話を現場でするなどありえないが、現代日本人の性格を描いてリアルである。
「そうだ。日本人は、信じがたいくらい権威に弱い。上位者からのどんな指示にでも黙って従うから、政治家や官僚は現場の者に命があることを忘れてしまっている。それにすら異を唱えないのが日本人だ」「本当ですか? 抗う奴はいないんですか?」「いない。しかも、あの国は決断を嫌い、どこまでも譲歩をしてくる。際限なしの泣き寝入り国家だ。ところが、ところがだ。ある一線を越えると大変なことになる」「え?」「お前の一発で日本人が死んだ時は、どうなるかわからない。国民の性格が180度変わって、手がつけられなくなる。だから、反撃されても、絶対に私の指示なく撃つな」
特殊部隊の存在こそが抑止力に
日本人の怯懦と権威への盲従と優柔不断が描かれている。日本人ということだから、自衛隊員も警察官もおなじである。伊藤氏は自衛隊内でいやというほどそのことを知ったのであろう。「ある一線」を超えると「国民の性格が180度変わって、手がつけられなくなる」というが、これはなにを想定しているのか。日露戦争後の日比谷焼打事件か、太平洋戦争における特攻隊のことか。しかしいまは、それもなさそうである。
伊藤氏は、もし「尖閣」で有事が起きた場合、海自特殊部隊「特別警備隊」は「何でもできる」といっている。特殊部隊は規模も装備も明らかではない。しかし「特殊部隊とは、孤立することを前提にしている部隊であるがゆえに、地上、海上は無論の事、空中でも水中でも少数で機動展開する能力を有している」。要するに、このような「特殊部隊の存在こそが、安易には攻撃を許さない『抑止力』になりうるということだ」といっている(「元海自特殊部隊員が語る「中国が尖閣諸島に手を出せない理由」」PRESIDENT Online、2020.7.22、https://president.jp/articles/-/37043)。
その言葉どおり小説では、わずか3人の特警隊隊員たちによって、上陸した中国兵は追い払われ、尖閣の侵攻は無事に食い止められる。
『邦人奪還』の主眼は、タイトルのごとく、北朝鮮に拉致されている邦人の奪還作戦にある。伊藤氏は、日本がもはや国家として拉致被害者の奪還をすることは絶対にありえないと結論し、せめて紙上だけでも奪還する作戦を書きたかったのではないか。国家あるいは自衛隊として公的に作戦を立てることはできないが、民間人としてなら許される。本気で考えている日本人がいるということを示したかったのではないか。
「なぜ救出しなければならないのか」
伊藤氏は「よく自衛隊を投入すれば北朝鮮に拉致されたままの日本人を奪還できるか」と訊かれるという。それに対して伊藤は「できるか、できないのか、ということであれば、できる」と答える。情報が少ないのではないか、といわれるかもしれないが、意外なことに「あるべきところには信じられないくらいあるし、仮に情報がなかったとしても奪還の方法は幾らでもある」と自信を見せている。内部にいれば、素人には及びもつかない情報が多々あるということなのだろう。
海自の特殊警備隊と陸自の特殊作戦群の2チームを投入すれば、邦人救出は「大して難しい作戦ではない」というのである(同氏著の『国のために死ねるか』)。
『邦人奪還』のなかで、北朝鮮に向かう前に、海自特別警備隊第3小隊長藤井義貴3佐(モデルは著者の伊藤祐靖その人)は、国としての覚悟,意思を総理に問う。「特殊部隊員何名の命と引き替えにするのかを決めていただければ、作戦はあっと言う間に立てられます」「遠慮は無用です。我々はそのために日々を生きているんですから。ミッションのために死んでいくのは当たり前」「何がなんでも6名を救出する! 如何なる犠牲を払ってでも、見殺しにはしない! という絶対の信念と情熱を確かめたいのです」
さらに問う。「よく政治家の方は、選挙は命懸けとかなんとかおっしゃってますが、そういう比喩ではないですよ。本当の死です」「なぜ、救出する人数よりも多くの犠牲者を出してまで救出しなければならないのか。(略)その“なぜ”が国家の意志なのではないでしょうか。我々は、拉致被害者がお気の毒だから行くわけではありません。拉致被害者を奪還すると決めた理由、すなわち国家の意志に自分たちの命を捧げるんです。そこがあやふやなのであれば、我々は行けません。いや、行きません。クビになろうが、死刑になろうが、行きません」
形式にこだわる幕僚長に胸のすくような啖呵
いよいよ6人の拉致被害者救出のため、海自の特殊部隊「特別警備隊」と陸自の特殊部隊「特殊作戦群」の隊員たちが北朝鮮に向かう。作戦遂行時、予想外の反撃に遭い、被害がでる。「特別警備隊」の現場指揮官3佐から、官邸地下に設けられた作戦室で作戦の推移を見ていた「特殊作戦群」の隊長天道剣一1佐に衛星電話の連絡が入る。その場には総理以下各大臣、制服組トップの統合幕僚長などが待機していた。
連絡が自分のところに来ないことに腹を立てた幕僚長が、指揮命令系統がなってないじゃないかと、作戦群長に文句をいう。「天道君、おかしいだろ。なぜお前が『好きな通りにさせてやる』などと言えるんだ。藤井もおかしいぞ。なぜお前のところに電話して来るんだ。昵懇だからか。お前たちには指揮系統がわからんのか」
現場では死ぬか生きるかの作戦をやっているのに、よせばいいのにこの幕僚長は形式的な「指揮系統」などにこだわっている。幕僚長は調子に乗ってさらに追い打ちをかける。「この作戦は組織として、統合任務部隊として遂行している。現場の報告はそこの幕僚を通じて任務部隊指揮官に上がり、指揮官の判断がなされてから藤井3佐に命令の形で伝わる。特殊戦だかなんか知らんが、権限の逸脱は許さんからな」
しかし作戦群長も黙ってはいない。黙ってりゃあ、いい気になりやがって、とこのあと胸のすくような啖呵を切るのだ。そのやりとりをここで逐一引用したい誘惑にかられるが、この小説の白眉である部分を、そう軽々に引用することはできない。実際に読んでもらうほかはない。もしこのような事態に至るなら、実際にこのような緊迫した場面はいくらでもあることだろう。
成算があるというなら自分でやってみろ
わたしは渡辺洋二氏の『彗星夜襲隊』のある一節を思い出した。それで類推してもらうしかない。
戦争末期、特攻が当然の手段となりつつあったときに、特攻を拒否した部隊があった。美濃部正少佐率いる彗星夜襲部隊(芙蓉部隊)である。3航艦司令部は来る沖縄戦での特攻作戦を遂行するため麾下9個航空隊の幹部たちを木更津に集め、3航艦の大半の航空機を特攻に充てると言い渡した。だれひとり反対の言葉はなかった。そこで美濃部少佐ひとりが反対を述べると、参謀が怒鳴りつけた。しかし少佐はひるむことなく、こういい放ったのである。
「劣速の練習機が昼間に何千機進撃しようと、グラマンにかかってはバッタのごとく落されます。二〇〇〇機の練習機を特攻に刈り出す前に、赤トンボまで出して成算があるというのなら、ここにいらっしゃる方々が、それに乗って攻撃してみるといいでしょう。私が零戦一機で全部、撃ち落してみせます!」
『邦人奪還』では、陸自ヘリコプター搭乗員5名、特殊作戦群隊員21名、特別警備隊員5名、合計31名が犠牲になる。
6月23日、ロシアとイギリスのあいだで一触即発(でもないのだろうが)の事態が起きた。ロシア国防省は、クリミア半島沖を航行中のイギリスの駆逐艦「ディフェンダー」が領海侵犯したため警告射撃と爆撃を行った、と発表したのである。「進路を変えなければ砲撃する」と。
しかしこういうときの常で、双方の言い分はかならず食い違う。イギリス側は「駆逐艦は国際法に基づきウクライナの領海を通過しただけ」だと説明している。ロシア側がいう射撃や爆撃にしても、事前に通告してきた「ロシアの砲撃訓練」にすぎなかったとして、警告射撃を受けた事実を否定した。
なぜロシアが警告射撃をしたといったのかわからない。クリミア半島は2014年以降ロシアが実効支配しているが、イギリスなど欧米諸国はこれを認めていない。なにが領海侵犯なのかに決定的な証明はできないのである。
いざとなったら国際法違反も領海侵犯も互いが主張して、結局どっちがどうなのかはわからない。最後は勝ったもの勝ち。特殊部隊が出動するかどうかもわからない。そしてひとたび尖閣を占領されてしまえば、日本は何やかやと言い訳をしながら、指をくわえて見ているしか手がないだろう。竹島とおなじだ。
日本はなにがあっても絶対に戦争はしない、ということを選択するなら手はある。中国の属国になればいいだけのことだ。
◇
日本は先の敗戦でGHQの占領政策、つまり弱体化政策でまさに戦争のできない国になってしまいました。憲法という最高法規により、更には反日メディアや、反日思想家が跋扈する事により、日本の国家そのものをないがしろにし、周辺国におもねるそういう国家社会になってしまいました。
そしてその結果とも言えるかもしれませんが、領土を占拠されようが、脅かされようが、また国民を拉致されようが、何も言えない国家となってしまったのです。それは日々目の当たりにする光景です。とても主権国家とは言えません。
そして恐ろしいことに、そういう危機的状況にありながら、国民の多くは何の違和感を持っていないように見えることです。テレビをつければ、どうでもいい事件やスキャンダルを、長時間かけて追いかけたり、お笑いタレントの馬鹿馬鹿しいギャグを映し出す番組ばかりです。このままでは本当に中国の属国になってしまうかもしれません。
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