北京冬季五輪のボイコット論急拡大の中で、中国の威信をかけた建設が進む会場
東京五輪が成功裏に終わり、8月24日開催のパラリンピックを経て、いよいよ次の話題は、北京で行われる冬季オリンピックに移っていきます。ただこの北京五輪に関しては、アメリカを中心にボイコット論が浮上してきています。
その詳細について、昨日の産経新聞に掲載された『北京オリンピックボイコット論、欧米で急拡大』から、引用して以下に掲載します。
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約6カ月後に迫った北京冬季五輪(来年2月4日開幕)に関し、中国政府による新疆(しんきょう)ウイグル自治区での人権侵害や香港での民主派弾圧を問題視する立場から、ボイコットや開催地の変更を求める声が米国や欧州で急速に拡大している。8日の東京五輪閉幕を受け、北京五輪開催のあり方をめぐる議論が各国で活発化しそうだ。
バイデン米政権は北京五輪への対応は「未定」としているが、北京での開催を疑問視する声は超党派で広がっており、早急な意思表明を迫られるのは必至だ。
トランプ前政権下で国家情報長官を務めたジョン・ラットクリフ氏は2日、FOXニュースのウェブサイトへの寄稿で、国際オリンピック委員会(IOC)に「中国に世界的行事を開催することによる恩恵を享受させてはならない」と訴え、開催地を北京以外に変更すべきだと主張した。
一方、与党・民主党のペロシ下院議長は、選手団を参加させつつ、首脳や政府使節団の派遣を見送る「外交的ボイコット」を提唱している。2002年ソルトレークシティー冬季五輪の組織委員会会長を務めた共和党のロムニー上院議員も7月、ツイッターで外交的ボイコットを支持した。
共和党のルビオ、民主党のマークリー両氏ら超党派の上院議員4人は7月23日、IOCのバッハ会長に書簡を送り、ウイグル族迫害を引き合いに「ジェノサイド(民族大量虐殺)と人道に対する罪を実行している中国で五輪が開かれてはならない」と強調。「IOCが中国政府に態度変更を迫っている形跡がない」と批判し、北京五輪の延期と開催地変更を求めた。
英国でも超党派で外交的ボイコットを政権に訴える声が強まり、下院は7月15日、新疆ウイグル自治区の人権状況が改善されない限り英政府代表らに北京五輪への招待を拒否するよう求める決議案を全会一致で採択。決議を受け、ラーブ氏は7月29日、英メディアに「私が出席する可能性は低いと思う」と発言した。
外交的ボイコットをめぐっては、中国の人権問題を批判する英与党・保守党の議員団体「中国研究グループ」や、英米などの対中強硬派の議員らで組織する「対中政策に関する列国議会連盟」が当初、中心的に支持していたが「議会全体の動きになった」(保守党議員)という。
欧州連合(EU)欧州議会も7月、人権状況が改善されない限り政府代表らの招待を断るよう加盟国に求める決議を採択した。
これに対し、中国外務省報道官は外交的ボイコット論に「人権問題を利用して中国を中傷し、北京冬季五輪の妨害や破壊を企てている」と反発している。
中国では来年秋、5年に1回の共産党大会が予定されており、習近平総書記(国家主席)が異例の3期目入りを視野に入れる。北京五輪を習氏の権威強化につなげるための重要イベントと位置づけており、米欧の外交的ボイコットを切り崩そうとしている。
習氏と、バイデン米大統領は10月にローマで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議を視野に首脳会談の可能性を探っているとされ、中国側はそうした機会を通じて五輪での協力を働き掛けるとみられる。(ワシントン 黒瀬悦成、ロンドン 板東和正、北京 三塚聖平)
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こうした各国の動きとは別に、中国では五輪開催に向けて着々と準備を進めています。その会場となる場所の建設状況は、さすがに独裁国家のように凄まじいようです。NEWSポストセブンに掲載された週刊ポストの記事から引用します。タイトルは『北京冬季五輪 村ひとつ壊して会場建設、バッハ会長も「奇跡のようだ」』(8/9)です。
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2022年2月に開催が迫っている北京五輪──。中国北部・河北省張家口市の「国家スキージャンプセンター」では、全長3mの巨大な“大砲”が100台以上並び、絶え間なく霧状の雪を発射していく。むき出しの地面が徐々に白銀に染まる。
全長168mのこのジャンプ台は、2022年2月に開催される北京冬季五輪会場のなかで最大規模だ。中国の伝統的な縁起物「如意」に似ていることから、「雪如意」の愛称で呼ばれている。
元日本テレビ中国総局長で『インサイドレポート 中国コロナの真相』(新潮新書)の著書があるジャーナリスト・宮崎紀秀氏が語る。
「降雪量が少ない地域で、スキー場として機能するかどうか心配する声が上がっていましたが、“降らないなら降らせれば良い”と考えるのが中国。大砲のような大型人工降雪機を100台以上配備して、雪を撒いて人工雪に頼る体制を整えています」
北京五輪では3地区(北京市、延慶区、張家口市)・12会場で計109種目が行なわれる。選手村を含めてほとんどの会場が竣工したと報じられているが、実際には現在も多くの施設で工事が進行中だ。
〈一時も止まるな。一歩も間違えるな。一日も遅れるな〉
建設中の施設には至るところにそんなスローガンが掲げられており、その姿勢は“なりふり構わぬ”の一言に尽きる。
「北京市北部では村がひとつ丸ごと取り壊され、山も削られました。河北省でもスノーボードの会場を作るために数千人の農民が土地を追われましたが、政府が多額の補償金を払うことで半ば無理矢理納得させた」(在中ジャーナリスト)
習近平国家主席は今年1月、五輪会場を視察した際、「世界の先端レベルに達しており、党の指導と挙国体制、力を集中して大きな事業を成し遂げた」と豪語した。
そうして準備された会場は、東京五輪とは何から何までスケールが違う。中国に詳しいジャーナリストの西谷格氏が語る。
「北京の北西75kmに位置する『延慶エリア』では、もともと水も電気も届いていなかった山間部に、わずか2年間で中国初のボブスレー会場とアルペンスキー会場を建設しました。ボブスレー会場は『雪遊龍』と呼ばれ、トラックが『龍』の形にデザインされている。中国らしさを前面に押し出した形です。
周囲には五輪専用の気象台も新設され、視察に訪れたIOCのバッハ会長が会場を見て『奇跡のようだ』と驚嘆したほどです」
2019年に北京五輪会場を視察した東京都議の尾崎大介氏も「建設のスピード感や計画のダイナミックさに舌を巻いた」と語る。
最新技術も惜しみなく投入されている。約2万人の観客を収容する「五松体育館」(北京市)はその典型だ。
「もともと2008年の北京五輪でバスケットボールの会場として建設された施設で、わずか6時間でアイスホッケー会場に切り替えることが可能です。
今年4月にテストイベントが行なわれたのですが、最新のVR技術を駆使した『多次元観戦体験システム』が取り入れられていました。これは会場の40台のカメラで撮影した映像を特殊加工して3Dで投影するもの。自分がフィールドに立っているような臨場感が味わえます」(西谷氏)
スピードスケートの会場となる「国家速滑館」(北京市)、通称「アイスリボン」は、五輪に向けて新設された施設のなかで、習近平氏が特に力を入れた会場の一つだ。
「この施設の建設には、中国が誇る学者や建築家が数多く投入されました。その結果、世界初となる温室効果ガス排出量ゼロの製氷技術の導入に成功。日本の平均的なスケートリンクは1800平方メートルほどですが、それをはるかに上回るアジア最大の1万2000平方メートルのリンクを実現させました」(同前)
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このように国家の威信をかけて建設中の冬季五輪会場も、ボイコットの対象になればその威信も吹っ飛んでしまうでしょう。現時点ではお互いに駆け引きの段階で、ボイコットが現実のものになるかは見通せませんが、少なくとも平和の祭典にふさわしい大会にするためには、中国の歩み寄りは欠かせないでしょう。
ただ、海外からの圧力には決して屈しない姿勢を示してきた中国が、歩み寄りをする可能性は極めて低く、開催までの間両者の間の神経戦は続くものと思われます。オリンピックに政治を持ち込むのはタブーとされていますが、この北京五輪は政治対決の場となってしまった感があります。もちろんその原因はウイグル、香港での人権侵害行動をとり続ける中国にあるのは間違いありません。
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