日本人の薬漬け、医師の儲けか患者の要求か? それとも・・
コロナの影響で病院を訪れる人が減っているようです。私も毎月通院しなければならない病気を抱えていますが、その通院の過程でここ1年半ほどの間に、病院のソファーは一人置きにしか座れないように間隔が開けられ、その結果座れる人は半減していますが、それでも満席になることは少ない。つまり半数以上の外来者が減ったことになります。
手術も半年以上延期になりました。コロナ患者を受け入れている病院は戦場のようでしょうし、その影響で他の救急病棟も大変でしょうが、一般病棟は確かに患者が減っているようです。逆に言えばそれだけ「不要不急」の病院通いがあったと言うことでしょう。いい傾向だと思います。
ところでその医師から処方される薬、漠然とした感覚ですがやたら多いと思いませんか。特に高齢者には。もう亡くなりましたが私の義母など、飲み忘れたり飲み間違えたりしないよう、息子が毎日の薬をきちんと区分して保管していました。そうです毎日薬漬けでした。
そこで今回は、その投薬を少しでも減らすよう、注意喚起している医師の話を取り上げます。NEWSポストセブンに寄稿した、ときわ会常磐病院の谷本哲也医師のコラム『降圧剤 医師が教える健康のための「減薬」や「断薬」の注意点』(8/21)で、以下に引用掲載します。
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多くの日本人が、「生活習慣病」の治療薬と長い付き合いをしている。厄介なのは、複数の基礎疾患を抱えた人の「多剤併用」だ。内科医の谷本哲也医師(ときわ会常磐病院)が解説する。
「何種類もの薬を同時に飲む多剤併用の問題は、その組み合わせによって薬の効果が強まったり、反対に弱まったりする場合があることです。一般的には、6種以上の薬の服用で副作用リスクが高まると言われます」
近年は多くの専門家が多剤併用リスクに警鐘を鳴らしている。2015年、日本老年医学会は「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を作成。同リストをもとにした医師向けの「適正処方の手引き」(日本医師会)では、薬の主成分を指す「一般名」に加え「商品名」が追記されている。今回はそのリストを掲載した。各分野の断薬の名医の解説とともに参照してもらいたい。谷本医師は言う。
「高齢になると肝臓や腎臓の機能が低下し、代謝や排泄の能力が下がります。それに伴って副作用が生じるケースが増加する。どんな薬にも言えることですが、年齢を重ねた人ほど医師との適切なコミュニケーションを取り、体調を確認したうえで、減薬や断薬を考えたほうがいい」
健康のための「減薬」や「断薬」とはどういうものか。臨床現場で実践する断薬の名医たちの知見を参考に考えていく。
いまや国民病とも言われる「高血圧」の治療薬である降圧剤は「一度飲んだらやめられない薬」のイメージが強い。しかし、坂東ハートクリニック院長の坂東正章医師は「医師の指導のもとで正しいプロセスを踏めばやめることは可能だ」と語る。その第一歩として坂東医師が掲げるのは「正確な数値の把握」だ。
「高血圧患者の多くが正しく血圧を測れていません。朝なら朝食前、夜なら就寝前の排尿後に、自宅で計測する家庭血圧が実態に近い数字。計測は椅子に座って腕帯を心臓の高さにし、無理のない姿勢で行ないます」
同クリニックでは血圧の測り方を指導後、降圧の目標値を決めて治療を進めている。
「たとえば降圧目標が家庭血圧で135/85mmHgの患者さんなら、130未満が3日間続いた時点で薬を減らす。その後、家庭血圧が120台で安定すれば通院の必要はありません。同時に、患者自身が血圧上昇の原因を見極め、食事などの生活習慣改善を進めることで、 “薬に頼らない状態”を目指します」(坂東医師)
「飲み忘れ」で薬が増える
銀座泰江内科クリニック院長の泰江慎太郎医師は、こんな高血圧患者を断薬に導いた。
「血圧が180/100mmHgと非常に高く、別のクリニックで降圧剤を4種類処方されていた50代前半の男性です。
まずカルシウム(Ca)拮抗薬2種とアンジオテンシンII阻害薬(ARB)1種を配合剤1種に変えました。他に比べて効果が低いと判断した利尿薬は中止し、その代わりナトリウムの排泄に役立つカリウムを多く含む野菜や果物の摂取を指導しました」
睡眠指導もあわせて行なった結果、男性の血圧は4か月後に130/80で安定。さらに薬を配合剤からARBに変えると、4か月後には上が120まで下がり安定した。
「ここでARBの処方も中止して、最終的には薬をゼロにすることができました」(泰江医師)
降圧剤では「似た薬効を持つ薬が何種類も処方されることがある」と指摘するのは秋津壽男医師(秋津医院院長)だ。
「ある80代の男性は、降圧剤や血栓予防薬など1日10種16錠が処方されていた。似た降圧剤を3種も服用していたので2つに絞り、同様に薬効が近い血栓予防薬2種を新薬1種に見直すなどして5種5錠まで減らしたが、数値は悪化しなかった」
獨協医科大学病院腎臓・高血圧内科の石光俊彦医師は、「飲み忘れ」による服用の乱れが症状悪化を起こすと指摘する。
「降圧剤は服薬率(患者が指示された薬のうち実際に服用した割合)の低下により脳卒中などの発症リスクが高まります。多剤処方の患者さんは薬を正しく飲めないせいで症状が安定せず、逆に薬が増えていく場合が多い」
そうした患者には減塩や減量など生活習慣改善をまず指導したうえで、血圧の記録を課すという。「血圧を記録することで薬の飲み忘れを防ぐことができ、それで数値が改善すれば、薬を減らすことができます」(石光医師)
年齢によって「“卒業”を考えてもいい」という医師もいる。新潟大学名誉教授の岡田正彦医師だ。
「高齢者施設では多い人になると20種以上の薬を飲んでいる人もいる。何十年も漫然と飲み続ける人もいますが、風呂上がりや排便後に血圧が急激に下がって転倒事故を起こす事例がとても多い。年齢を重ねて血圧が高くなるのは自然な現象で、薬で無理矢理下げるのはかえって有害と考えます」
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私も突然発症した病の影響で、減塩を余儀なくされた結果、血圧が一気に低下、今では高くても120台で落ち着いています。そこで常用していた血圧降下剤を医師に報告の上取りやめました。その後も全く上昇していません。と言うことは食事の塩分量を減らせば、血圧は確実に下がると言うことです。塩気がない食事は多少の不満はあるでしょうが、それは我慢して、やはり大事なのは食事の取り方だと実感しています。
ところで、上記医師の場合は別にして、一般的にはなぜ薬の処方が多いのでしょうか。医師が儲かるから?そのあたりの事情を東洋経済に寄稿した、和田秀樹こころと体のクリニック院長の和田秀樹氏のコラム『薬の大量処方で医者が儲かるという「大ウソ」 薬が減らないのには2つの原因があった』(2015/11/26)から引用します。
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医者は金儲けのために薬を出しているのではない
日本人は、諸外国と比べて、医者に行った時の薬の処方が多い。それに疑問を感じているのか、「薬漬け」ということばもよく使われる。
その理由について、医者が利益を得るために薬を必要以上に大量に出しているからだと考える人が少なくない。だから一般の人と比べて医者の収入が多いと思われているフシもある。
どうも日本には医者の「性悪説」のようなものがあるようだ。
たとえば、かつて老人医療費が無料になった時代があるが、当時、病院の待合室が高齢者であふれ返っていた。高齢者のサロンとさえ揶揄された。
その際に待合室で元気そうな高齢者が、次に行く旅行の相談をしているとか、いつも来ているおじいさんが今日は顔を見せないので聞いてみると「風邪をひいてるから」というようなオチになっている。要するに、病気でも何でもない高齢者を医者が集めて金儲けをしていて、本当に病気のときは来ないという話である。
しかし、ここでよく考えてほしい。高齢者の通院患者というのは、風邪をひいたなどの急性の病気で医者にくるほうが珍しく、多くの場合は、高血圧や糖尿病、骨粗しょう症など慢性の病気で医者に来ているのである。体調がいいのであれば、待合室で旅行の相談をするのは何の不思議もないし、むしろ待合室でよぼよぼしているとすれば、薬の出し過ぎか、医者がちゃんと体調を管理できていないことになる。私の外来に通う認知症の患者さんだって、風邪をひいている時は、代わりに家族が来ることなどざらにある。
しかし、日本の医者は薬を出すことで金儲けをしていると厚生労働省(当時は厚生省)も考えたようで、90年代後半くらいから医薬分業を強烈に推し進めた。要するに院内で処方するのではなく、院外薬局で薬を患者がもらうシステムに変えていった。そうするといくらたくさん薬を出しても、医者に入るお金は処方箋料だけとなる。たくさんの薬を書くと余計に手間が増えるのに入るお金は同じというシステムだ。
結論的にいうと、これでほとんど処方は減らなかった。世間や厚生省が考えるほど、医者は金儲けのために薬を出していたのではなかったのだ。
薬漬け医療を生む「専門分化主義」の弊害
では、なぜ、たとえば高齢者だと15種類も出されるような、多剤処方、いわゆる薬漬け医療が蔓延するのだろうか?拙著『だから医者は薬を飲まない』でも解説しているが、私は基本的に医学教育の在り方に問題があるのだと考えている。
ひとつは「専門分化主義」、もうひとつは「正常値至上主義」である。
大病院、とくに大学病院に行ったことがあればお気づきになるだろうが、内科という科はその手の病院では消滅している。代わりに、呼吸器内科、内分泌科、消化器内科、循環器内科という臓器別の診療科が並んでいる。
このような専門分化は、特定の臓器の病気と診断がついている場合、とくに珍しい病気に対して、専門的に治療を行うには望ましい。しかし、それによって専門外の分野の治療はお粗末になってしまうということは珍しくない。
一般に大学病院や大病院の医師などが開業する場合、糖尿病の専門医や消化器内科の専門医として開業できればいいが、それでは広く患者が集めきれないので、一般内科ということで開業するケースが多い。ところが高齢者の場合、一人でいくつもの病気を抱えているほうがむしろ通常だ。高血圧で血糖値も高く、そのうえ、骨粗鬆症も始まっているなどということがざらだ。
その際、循環器の専門医であれば、高血圧に関しては、自分の専門知識で治療ができるだろう。しかし、糖尿病や骨粗鬆症については、専門外の素人のような感じで治療をすることになる。
そういう際の医者向けのマニュアル本はいっぱい出ている。それぞれの病気についての「標準治療」が紹介されている本だ。どんな検査をして、どんな治療をすればいいかが書かれているから、確かに大外れの治療にはならないだろう。しかし、多くの場合は標準治療として、2、3種類の薬を飲ませればいいという話になっている。すると、4つ病気を抱えたお年寄りに「標準治療」を行うと12種類の薬を飲ませることになる。
ところがこの手の標準治療は、ほかの病気が合併していることはほとんど考慮に入れられていない。基本的にその病気の専門家が作るのだが、その病気に詳しくてもほかの病気に詳しくないことには変わらない。そして、多くの場合、ほかの薬を飲んでいる場合に、その処方をどうすればいいのかなどは書かれていない。
結果的にほかの分野のことを知らない専門医が次々と開業していくうえに、患者層の多くが高齢者(これからはその傾向がどんどん強まっていくだろう)なので、多剤併用の傾向がさらに進んでいくことになる。
ところが大学病院というのは、基本的に教育スタッフがほとんどこの手の「専門家」である。こういう人が医学教育を牛耳っている以上、多少制度をいじっても、むしろ受けた教育に忠実なまじめな医者ほど薬をたくさん使ってしまうことになる。
本当は正常ではない「正常値」
もうひとつの問題は、「正常値」主義である。要するに検診などで異常値が出れば、ある病気の早期発見ができたということで、治療が開始されてしまうということだ。
2012年の人間ドック学会の発表によると、人間ドックでどの項目も異常がなかった人はわずか7.8%しかいなかったという。92.2%の人は何らかの形で異常を抱え、それを医者に見せるとその異常値を正常化させるような治療が行われてしまう。
ここでも、専門分野の病気なら、「この程度の異常なら大丈夫」と言えるのかもしれないが、専門外の場合は「一応、治療しておきましょう」になりかねない。
実際、血圧の正常値などは大規模調査の結果などで、ときどき変更されるが、検査の正常値というのは、平均値プラスマイナスアルファなどという「雑な」決め方をされていることが多い。身長が平均よりひどく高くても、ひどく低くても病気とは言えないように、「平均を外れていること=病気である」とは言えないだろう。
どの値を超えれば病気になりやすいという大規模調査をすればいいのに、それがほとんど行われていないのが現実だ。また検査データを正常にしたら、本当に病気が減るのかもわからないということも珍しくない。
本当に「正常な値」と、薬を使うことで「正常にした値」というのは、体に与える意味が違う。たとえば、ピロリ菌があると胃がんになるというので、最近は除菌が盛んに進められるが、生まれつきピロリ菌がない人は確かに胃がんにならないのだが、長い間ピロリ菌が胃の粘膜に影響を与えていた人は、菌を殺しても胃がんにならないとは限らないそうだ。
検査値を正常にしないといけないというイデオロギーに、医者(患者の多くも)が染まっている限り、異常値にはつい薬を使うということになって、どんどん薬が増えていってしまう。
これからの時代に必要な医者とは
最近になって高齢者が増えてきたこともあって、専門医でない総合診療医や、地域の患者への往診を含めて(要するにその患者さんの生活状況もみる)サポートしていく地域医療医が再評価されているという。
総合診療医というのは、専門医ほど各臓器には詳しくないが、人間全体をみて、その人に何が大切かの優先順位がつけられる。15種類の薬を飲んでいる人に、これだけは飲んでくれという5種類が選べるような医師だ。
総合診療や地域医療、そして彼らによる啓もう活動が盛んな長野県は平均寿命が男性1位、女性1位になっていながら、ひとり当たりの老人医療費は全国最低レベルだ。つまりきわめてコストエフェクティブ(コストがかからず、患者さんの健康長寿につながる)な治療を行っていることになる。いっぽうで、大学病院の多い県ほど、平均寿命が短く、老人医療費も高いという傾向がある。検査値の正常主義はむしろ時代遅れなのだ。
高齢化が進んでいるのだから、医学教育の大幅な改変が求められる。しかし、大学の医学部の教授というのは、一度なると定年までやめないし、各医局が定員を削る気がないから、専門医ばかりが養成され、総合診療医がなかなか教育できない。
だとすれば、旧来型のダメな大学病院は半分くらいスクラップして、総合診療や心の治療、がんへの特化などのニーズにあった医学部をどんどん新設すべきなのだ。
厚生労働省は医療費を制度で削ろうとばかりするが、医学教育改革こそが、もっともコストエフェクティブな制度だと私は信じている。
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何だか読んでいて恐ろしくなってきますね。医者そのものの信頼度が薄れてきます。西洋医学より漢方の方がいいという人がいますが、それはつまり漢方の方が体全体を考えて処方するからのようですね。
血圧でも昔は年齢プラス90と言う目安が言われていましたから、70才であれば160が目安だったのですね。それが今では130以下、と言うことは殆どの高齢者は血圧降下剤を飲まなければならなくなった、そういうことでしょう。
それにこのコラムの医師が訴えているように、厚生労働省は医療費に重点を置いているが、医学教育改革をもっとやれと言っていることに大賛成です。厚労省は医学だけではなく、問題点は他にも多々ありますが、それはさておき、患者の疾病を正確に診断し、最適な薬を必要な量だけ処方する、そうして薬漬けの現状転換をしていくことが重要だと思います。
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