「習政権の権威主義」:中国 強くなるほど嫌われる
覇権主義をひた走る中国の習近平政権。毛沢東の死後に続く、歴代の共産党トップとはその統治形態において、一線を画した習政権。その違いは何なのでしょうか。またなぜなのでしょうか。
米国の政治学者、デイビッド・シャンボー氏が読売新聞の「あすへの考」に寄稿したコラムを引用します。タイトルは『習政権の権威主義」 : 中国 強くなるほど嫌われる』(8/29)で、以下に掲載します。
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(編集委員 鶴原徹也)
中国共産党創設100年の祝賀式典を今夏開催した 習近平総書記(国家主席)は、世界第2位の経済力をテコに盤石の国内支配体制を敷いているように見える。
だが習政権の権威主義的行動、特に新疆ウイグル自治区や香港、台湾、東・南シナ海を巡る強圧的振る舞いは国際的批判を招いてきた。
米中対立の常態化も踏まえた先の先進7か国首脳会議(G7サミット)が、国際秩序を乱す中国に対抗して、民主主義陣営の結束を示す場となったことは記憶に新しい。
米国の中国政治研究の泰斗デイビッド・シャンボー米ジョージ・ワシントン大学教授は現状をどのように見ているのか。半世紀近い中国観察歴に照らしながら自説を語ってくれた。
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私は1974年、英領だった香港を訪れ、対中国境に向かいました。中国は毛沢東(1893~1976年)の文化大革命(66~76年)の末期で、「西側」に門戸を閉ざしていたのです。国境で目撃したのは有刺鉄線と監視塔。中国から人民が香港に脱出するのを阻むためでした。人民が逃れたい中国とは何なのか、興味が膨らみ、帰米後、中国研究を専攻しました。
私が学んだジョージ・ワシントン大学の教授らは皆「反共」で、毛沢東の独裁のありようと人民の悲劇を子細に論じたものです。
米中両国は72年のニクソン米大統領(在任69~74年)の訪中で国交正常化に大転換していましたが、国交樹立は79年のことです。
その79年に私は中国を初訪問し、80年代は大半を留学生として中国で過ごしました。まず天津・南開大学、次に上海・復旦大学、そして北京大学。90~91年は同大客員研究員でした。
刺激的な時代でした。
毛の死後、実権を握ったトウ小平(04~97年)が「改革開放」を導入し、推進していた。社会は毛の全体主義という長い悪夢からようやく目覚め始めていた。私はチベットと新疆を含む中国全土を旅して回りました。出会った人々は皆、毛時代の苦難を嘆き、新しく知った自由を喜び、経済的、社会的、あるいは知的な夢を口々に語ったものです。それぞれが自分らしい生き方を希求していました。
改革開放に協力した米国人は落胆。今や全体主義国家です
今は昔です。改革開放を歓迎し、陰に陽に協力してきた米国人は一様に今の中国に落胆しています。
改革開放は浮き沈みがありましたが、総じて中国は開放と「一定の自由」の道を歩んでいました。
逆行の始まりは2010年頃、明確になったのは習近平氏が共産党総書記に就いた12年です。今や中国は現代の全体主義国家です。残念であり、 憂鬱になりますが、危険をはらむ変容です。
中国は習氏の独裁下にあります。トウ小平が導入し、その後の歴代政権が踏襲してきた党の集団指導体制は葬り去られてしまった。習氏は党の意思決定制度、特に政策調整機関の「指導小組」を牛耳り、全てを最終的に決定している。党の最高指導部・政治局常務委員会はもはや形骸化しています。
習氏の統治手法の特徴は、政策を巡る異論や他の選択肢を早々と排除し、審議にかけないことです。私の見るところ、習氏以外の有力者らは意思決定に関わる真の情報を十分に得ていない。習氏以外の6人の常務委員の間では 王滬寧氏と 栗戦書氏がイデオロギーと党務の分野で幾ばくかの情報と影響力を持つ程度でしょう。習氏周辺は「ボスに取り入る」ことを最優先する茶坊主ばかりです。
習氏の独裁に不満を持つ党幹部はいますが今は無力です。意見の相違を嫌い、反証を退ける党中枢の傾向は党宣伝機関を通じて増幅され、社会を覆ってしまっている。
ただ、長期的には弱体の始まり。党の外皮は不満によって破られる
2人の独裁者、習氏と毛沢東には多くの共通点があります。
絶対的忠誠を強要し、反論を許さず、不服従は断罪し、政敵を容赦なく排除し、人民を過酷に支配する。権力を独占し、権限を委譲しない。哲人・教養人を自任し、自身の「思想」を皆に押しつけ、自らを崇拝するよう求める。自己陶酔型で、他者に感情移入し共感することができない――。
加えて、どちらもイデオロギーを好む支配者でマルクス主義者を公言しています。ただ習氏はレーニン主義者の色合いが濃く、支配する制度として強い党に信を置いている。一方、毛は文革に顕著なように、党の支配に不信を抱き、党の破壊を企てさえしました。
これらは2人の共通点の幾つかです。私は毛を旧来の全体主義者、習氏を現代の全体主義者と呼んでいます。両者の統治には40年近い時間の隔たりがあり、その間、中国は大きく変わりました。21世紀の中国が、圧政で国を害した前世紀の毛によく似た指導者を頂いていることに私は驚いています。
習氏は党を軍隊同様の上意下達のロボットに変えてしまった。下から上の意見具申も水平的な政治参加も出来なくなっています。
党は今年創設100年を祝いました。習氏は党を完全に管理下に置いています。短期的には党を強化したと言えるでしょう。
ただ長期的には弱体の始まりです。多くの党員と社会の様々な構成員は習氏の独裁と党支配の強度に不満を募らせています。ロボットとなった党の硬い外皮は早晩、内部で膨張する不満によって破られるに違いないと私は考えます。
21世紀の米中対立は20世紀の米ソ冷戦とは違います。
米ソは軍拡競争が象徴するように、敵の動きに反応し合い、雪だるま式に競争を拡大していった。
米中関係は相互反応的ではありません。独自に動き、外交・通商・情報技術・研究・価値観などあらゆる分野、世界の至る所で競い合っている。「不定全面競争」と私は命名しています。これが世界秩序の新しい常態なのです。
互いに優位に立とうと努めながら、相手を打ち負かすことができない。そんな状態が長く続く。対立が近い将来、収まることはありません。むしろ激化の一途です。世界、特にアジアは深く巻き込まれることになります。
米中対立の震源は今後、東南アジアになると私は考えます。東南アジア諸国連合(ASEAN)10か国をひとくくりにすると2019年時点で人口は6億6000万人を超え、域内総生産(GDP)は約3兆2000億ドルで世界有数の経済力を持っている。東南アジアはそれ自体が重要な地域です。
従来、東南アジアの大抵の国は米国ではなく中国とより良好な関係を求めてきました。
バイデン米政権はその傾向を転換したいと思っている。7月のオースティン国防長官、8月のハリス副大統領の東南アジア歴訪はその表れです。同盟国・日本の評判が東南アジアで芳しいことは米国に有利に働きます。日本、韓国、インド、オーストラリアと連携すれば、経済や通商分野で中国に代わる選択肢を東南アジアに提示できるはずです。
敵失も米国を有利にします。中国は近年の「戦狼外交」、つまり威嚇的な外交姿勢が露骨に示すように、相手の主張に耳を貸さず、高慢、かつ強引に振る舞い、評判をおとしています。世論調査を見ると、世界各地で中国の好感度は最低レベルです。中国は強くなるほど嫌われるのです。
私見では、世界は三つの陣営に分かれます。第1は自由・民主主義の陣営、第2は反自由・専制主義の陣営、第3は第1、第2両陣営に関わって双方から利益を得ようとする陣営です。政治的にも多様な東南アジアは三つの陣営に分散する可能性があります。
米国には第1陣営を主導する力がある。中国には第2陣営を束ねる力がない。ただ第1、第2陣営は勢力的に 拮抗きっこう する。世界秩序のキャスチングボートを握るのは第3陣営です。最終的にどう転ぶのか、私には予測できません。
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習近平政権に関するシャンボー氏の捉え方は、まさにその通りだと思います。ただそれに対してどうすればいいのか、氏は答えていません。おそらく文末に「最終的にどう転ぶのか、私には予測できません。」と、結んでいるように、今後の情勢次第だと言うことでしょう。
私見ですが日本は完全に第1陣営に属すると言うよりも、どうも第3陣営にも足を突っ込んでいる可能性があります。そして韓国は文政権の元、第3陣営にどっぷりつかっている感じがします。
中国が一帯一路や独裁政権支援などの無理な拡張政策やとどまることがない軍拡、そして人口減少を間近に迎えた労働環境の逼迫から、近い将来経済的にゆとりがなくなるのはまず間違いがないでしょう。
それを加速するために、第1陣営が結束し、今までとは真逆の経済制裁を行って行く必要があります。そのためにも日本は正真正銘の第1陣営で役割を全うする事が肝要だと思います。
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