脱炭素の答えは原発活用だ
本日は自民党総裁選の投開票日。このブログの執筆時点では、結果はまだ分かっていませんが、4候補とも最終的には原発再稼働に賛成しています。ただ総裁選に入る前、河野候補は脱原発を掲げていましたので、総裁になるための封印ともとれます。いつ本音が出るかも知れません。
管総理が掲げた脱炭素宣言、そのためにはどう見ても再生可能エネルギーだけでは、必要量も満たせないし、また非稼働時間の穴埋めのための他の発電設備が必要です。それを火力発電でまかなうとなれば、脱炭素は到底無理でしょう。
今回は、公益財団法人国家基本問題研究所のエネルギー問題研究会が4月 12 日に発表した政策提言『脱炭素の答えは原発活用だ』を取り上げ、以下に引用して掲載します。
◇
菅義偉首相は 2050 年温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を表明した。しかし、我が国はすでに再生可能エネルギーの活用において世界トップクラスである。いっそうの脱炭素を進めるには原発の活用が不可欠である。脱炭素を表明した国々のほとんどが安全性を高めた原発を強力に推進している。
中東から我が国へのエネルギー輸送は、中東の不安定化に加え、中国の海洋進出によって危うくなりつつある。国益を重視し、我が国経済を疲弊させることのないよう、経済安全保障の観点から以下の緊急提言を行う。
1.エネルギー政策の基本は国益と現実主義だ
資源に恵まれず、国際的な送電網のない日本のエネルギーコストは主要国中最も高い。この結果、日本の製造業は疲弊し、雇用流出を招き、技術開発も困難になりつつある。にもかかわらず、再エネ導入目標を大幅に積み上げて、電力供給を 100%再エネで賄うべきだとする極論もある。再エネの問題点を無視し、再エネ導入を自己目的化した原理主義にほかならない。
日本の強みを活かし、使えるオプションを全て使うという現実主義的なアプローチが不可欠である。安い石炭火力で物づくりを続け、海外に再エネ、石炭火力、原発を輸出する中国を利することがあってはならない。エネルギー安全保障を堅持し、原子力政策をめぐる閉塞状況を打破せよ。
2.再エネは不安定で高コストだ
メディアは、我が国は再エネ後進国のように報じるが、我が国はすでに再エネの活用において世界トップだ。しかし、その結果、景観破壊や土砂崩れなどの生活被害が生じている。このまま再エネの比率を上げ続けると、以下のように、いくつもの制約が生じる。
(1)大停電のリスクは避けられない
再エネの中核である太陽光や風力は、変動再エネと呼ばれ、時間と共に大きく変動したり、急激に出力が低下する欠点がある。今年 1 月上旬の電力逼迫や 2 月の米国テキサス州の大停電が典型である。
再エネは性質上、変動を調整するバックアップ電源が必須である。再エネの急激な出力低下には俊敏な火力発電の出力増加で対応しているが、追従できないと大停電が起こり得る。
(2)国民負担が非常に大きい
我が国は固定価格買取制度 FIT を通じて再エネを推進してきた。これまで買取費用に13 兆円、2030 年までの買取総額は 94 兆円に達するとみられる。これらはすべて再エネ賦課金として電力料金に上乗せされ国民負担となっている。
日本は風が弱く洋上風力に適しておらず、さらなる導入は電力コストを引き上げる。2050年に電力の 50%を再エネで賄おうとすれば、太陽光だけで現在の 4 倍の設備となり 100兆円以上の投資が必要である。
(3) 電力の再エネ 100%充当は技術的に不可能だ
太陽光と風力で化石燃料や原子燃料と同等のエネルギー量を得るためには膨大なスペースが必要だ。国土面積が狭く、周辺海域が深く、他国との送電網が無い日本は欧米に比して著しく不利である。我が国のエネルギー消費量を太陽光・風力で賄うとなれば、本州面積の 1/3 を太陽光パネルが占め、日本海排他的経済水域(EEZ)のほとんどを風車が占めることになる。再エネ 100%はこうした物理的限界を無視した幻想である。
3.国産技術である原子力を活用すべきだ
2050 年カーボンニュートラルの目標に取り組むに当たり、原子力を排除することは合理的ではない。世界一厳しい新規制基準に従った安全対策工事によって、原子力発電所の安全性は飛躍的に高まった。今こそ国産技術である原子力を正当に評価する時だ。
(1)世界の潮流は原子力活用である
米国バイデン政権は 2050 年カーボンニュートラルを目指す中で原子力を活用する方針だ。脱原発のドイツやスイスを除き、欧州も全体として原子力を活用する。中国政府も独自開発の原発開発を決めた。日本はこの世界潮流から取り残されてはならない。
(2)原子力は経済性に優れた国産技術だ
最新の国際エネルギー機関(IEA)の報告書では、日本で最も安価で安定した電源は
原子力であるとされている。再エネ機器のほとんどは海外からの輸入であるのに対し、原子力の技術自給率は 100%だ。国内産業への貢献度も大きい。原発再稼働が必要だ。
(3)福島第一原発事故の反省から安全対策は飛躍的に強化されている
福島原発事故以降の安全対策の強化は他国に例を見ない。その結果、事故の発生確率は 1 億分の1に低下した。日本の原発こそ自然災害に対して最も強靭かつ安全な電源である。この原子力発電所の強靭性を正当に評価すべきである。自然災害に弱い再エネの欠点を補うには、原子力発電の活用が重要である。
4.政策提言
(1)原発の長期運転、新増設の道を開け
第5次エネルギー基本計画の 「原子力の依存度の可能な限りの低減」を見直せ。この文言のために日本の原子力産業は壊滅状態にある。既存の原子力発電所はリニューアル工事を常に実施している。これを長期に活用することはエネルギー安全保障上も温暖化対策上も最も費用対効果が高い。米国で実施されている 80 年までの運転を可能とすべきだ。
2050 年までに電気自動車などの普及で日本の電力需要は少なくとも現在の 1.5 倍になるといわれている。その電力の少なくとも3分の1を供給するには 2050 年までに計 24 基の原発の建設が必要だ。コストは建設および再稼働と廃炉合わせて 34 兆円と推定されている。再エネに比べ費用対効果ははるかに大きい。実現性もより確実だ。我が国は過去 40年間で 56 基建設した実績を持つ。その実力は現在ならかろうじて保持している。
(2)我が国の原子力技術、人材、サプライチェーンを守れ
原子力発電所の建設には、ネジ一本までの厳格な品質管理が必要であるが、長期間の原発発注の中断により、原子力産業を支えてきたサプライチェーンの基盤である中小企業群やメーカーの衰退が著しい。技術がかろうじて残っている今、新増設に着手すべきだ。輸出用小型モジュール炉や点検ロボットの開発が急がれる。裾野が広い原子力関連産業の維持・継承は安全保障上も重要だ。
優秀な学生を集め、産業界も活気を取り戻し、人材育成を行い、政府は海外への原発技術の輸出を支援し、技術の維持発展を図るべきだ。一方、福島原発事故以降、国民の原子力に対する信頼は大きく低下した。信頼回復のために関係者は襟を正して、緊張感を持って安全点検に取り組まねばならない。
(3)核燃料サイクルと高速炉を守れ
原子力発電所の使用済み燃料を再処理してプルサーマルや高速炉の燃料を確保する核燃料サイクルは、原子力政策の根幹である。日本は核拡散防止条約(NPT)体制の下の「模範生」である。日本が保有するプルトニウムは将来的に我が国の重要かつ不可欠な準国産エネルギーとなる。
高速炉でいわゆる核のゴミを燃焼すれば放射能の有害期間を大幅に短縮できる。高速炉運転の副次的産物として放射性同位体の製造が可能となり数兆円の市場が見込まれる。したがって、もんじゅの廃炉を凍結し、常陽の運転を再開すべきだ。我が国の保有するプルトニウムは核兵器に転用できない軽水炉由来であり、日本の宝として大いに活用すべきだ。
(4)高レベル廃棄物の地層処分は、国が中心となり進めよ
北海道寿都町および神恵内村で、最終処分法に定める処分地選定の文献調査が着手された。廃棄物問題解決への大きな一歩であり、両自治体の決断に国民の立場から感謝する。国は、使用済み燃料対策と最終処分政策を強力に進めるため、両自治体への支援体制を積極的に打ち出し、事業主体を明確にする最終処分法の改正など多くの自治体の参加を促す施策を進めよ。
(5)原子力規制を合理化せよ
福島第一原子力発電所の事故から10年が過ぎ、規制委員会の審査に合格した原発は 16 基にのぼるが、未だ 11 基が審査中で実際に稼働しているのはわずか 4 基にとどまる。ここに規制委員会の不合理さがある。
これは安全性を確保しつつ、原子力を運転させるという原子力安全規制の本来の姿を大きく逸脱したものだ。我が国が原子力オプションを活用していくためには、原子力規制の正常化・合理化が不可欠だ。
すでに国基研において提言した 2019 年 12 月 4 日付「日本に原子力発電を取り戻せ」の要旨を改めて強調したい。
1) 行政手続き法に則った処理期間とし、超過分を運転暦年から削除せよ
2) 事業者との対等な立場に立ち、規制の悪代官を排除せよ
3) 特重施設の工事遅延を理由とした運転停止は規制委員会の責任だ
4) 怒りでレッドカードを出す横暴規制をしてはならない。責任の半分は規制にある
(6)カーボンニュートラルは国益重視で柔軟に対処せよ
カーボンニュートラルに向かう中で、日本と諸外国の温暖化対策コスト、エネルギーコストを比較し、日本のコスト負担が高くならないように、弾力的に見直すメカニズムが必要だ。「カーボンニュートラル栄え、国滅ぶ」といった事態を招いてはならない。電気自動車(EV)路線に安易に乗ってもならない。水素や合成燃料(メタンやジメチルエーテル)をハイブリッドカーのエンジンの燃料に使えば、日本の強みを発揮できる。水素やアンモニアは厳重な安全対策が必要だ。
(7)国際的な排出削減に貢献せよ
我が国の温室効果ガス排出量は世界全体の3%強に過ぎない。日本がなすべき貢献は、革新的技術の普及である。わが国には石炭ガス複合化サイクル発電があり、その輸出により、世界中の CO2 削減に大きく貢献できる。二酸化炭素回収貯留(CCS)技術は経済的に成りたちにくく、アジア諸国やオーストラリアなどの資源国への技術支援や資源外交の手段になり得る。
◇
日本は原子力と聞くとにわかに構える傾向があります。原爆を投下された過去の記憶に、福島第一原発の事故が追い打ちをかけています。原子力潜水艦や原子力発電のような、論理的に考えれば日本の安全保障やエネルギー政策に欠かせない原子力の利用に、野党の政治家やメディア、リベラル陣営が、代替案なき情緒的な論拠で、こぞって反対している現状は、完全に日本弱体化の片棒を担いでいるようなものです。
次期総理にはしっかりした論陣の元に、国家の大きな損失である眠っている原発の再稼働を、精力的に進めていただきたいと思います。
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