中国、パンデミックの陰で行ってきた数々の攻撃
モンゴル、ウイグル等の少数民族居住地域への蛮行・新植民地政策、香港の中国化への新たな取り組み、さらに台湾統一への展開や東シナ海、南シナ海への海洋侵略等々、習近平中国は「中国の夢」実現のため、戦狼外交、覇権主義をますますあらわにしています。AIIBの設立や一帯一路も夢実現のために組み込まれた構想でしょう。
こうした中国の強権政治は、新型コロナウイルスで世界が混乱しているさなかに、ますます加速化しているようです。その詳細について、元アメリカ国家安全保障担当大統領補佐官のH・R・マクマスター氏が寄稿した記事を、日経ビジネスに記載しているので以下に引用します。タイトルは『パンデミックであらわになった中国共産党の真の狙い』(10/11)です。
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新型コロナウイルスが世界中で感染拡大する中で、中国は国内外で様々な強硬手段をとってきたが、民主主義諸国には、中国共産党に対する二つの誤解があったため、それらを防ぐことができなかった。中国共産党の真の狙いは何なのか。習近平国家主席の本当の姿は? そして、日本、アメリカなどは中国に対してどのような姿勢で臨むべきなのか。
トランプ政権の国家安全保障担当大統領補佐官を務め、歴史的な対中政策の転換を主導したH・R・マクマスター氏の著作『戦場としての世界 自由世界を守るための闘い』から一部抜粋して紹介する。
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パンデミックの陰で行われた数々の攻撃
中国を起源とするグローバルなパンデミックは中国共産党との競争を激化させた。そして、パンデミックの期間中に中国共産党がとった行動から指導者たちの意図が明らかになった。国内では排他的な権力を拡大・強化し、対外的には他の国々を犠牲にしてでも「民族的復興」を遂げることである。
ところが、中国共産党との競争の本質についてアメリカなどの側に二つの誤解が残っていたため、中国共産党がそれらを隠れ蓑(みの)に、抱き込み、強要、隠蔽の工作を進めることを許してしまった。いずれの誤解も中国共産党は自らの野心を追求するために自らの意思で行動しているのではなく、もっぱら外部の動きに反応しているだけだという、ナルシシストのような慢心に根差している。
第一の誤解は、中国の攻撃性は米中間の緊張の産物だというものである。この誤解が想定している中国共産党には自発性がない。何ら強い願望を持たず、アメリカに合わせて振る舞っている。しかし、パンデミックの間の中国共産党の行動をざっと点検しただけでも、アメリカが中国共産党の攻撃性の原因ではないことが分かるだろう。
中国共産党は新型コロナウイルスによる感染症が発生した際に情報を抑え込み、世界に警鐘を鳴らそうとしていた医師やジャーナリストたちを迫害し、世界保健機関(WHO)の権威をないがしろにした。WHOからは台湾を排除した。中国共産党はいわゆる「戦狼(せんろう)外交」で追い打ちをかけ、パンデミックに対する自国の責任を曖昧にし、自国の対応を他国よりも優れて寛大だと言い張った。
中国共産党はことわざにある「1人を殺し、大勢の見せしめにする(殺一儆百)」ことも実行した。オーストラリアが新型コロナウイルスの起源に関する調査を提案すると、同国を経済的に痛めつけた。また、中国のハッカーたちは日本の200以上の機関を含む世界中の研究施設に大規模なサイバー攻撃を仕掛けた。
中国共産党はパンデミックの陰でテクノロジーを駆使した警察国家づくりを推進し、香港への弾圧を拡大し、新疆ウイグル自治区ではウイグル族に対するゆっくりとしたジェノサイド(民族大量虐殺)を継続した。中国共産党はより多くの外国からの特派員たちを追放し、諸権利の擁護を訴えるより多くの活動家たちを投獄した。
人民解放軍(PLA)はパンデミックの間、大忙しだった。ヒマラヤの辺境でインド兵を撲殺し、日本の尖閣諸島と台湾を軍用機と軍艦で威嚇し、南シナ海で船舶に体当たりした。また、中国は戦略的な海域をめぐり根拠のない支配権を主張しているが、これを受け入れないものには発砲すると脅迫した。菅義偉首相(当時)とジョー・バイデン大統領が中国の高圧的な姿勢に抵抗する国々を支援すると誓うと、中国政府は東シナ海での領有権の主張を強化するため尖閣諸島に関する地形調査を公表した。
これらの無数の攻撃的な行動の原因がアメリカにあるとは考えにくい。それにもかかわらず、インド太平洋の諸国、そしてその先の地域の一部の指導者たちからは、「我々にワシントンと北京のどちらかを選ぶように強要しないでほしい」という声が繰り返される。しかし、すべての指導者たちは厳然たる事実に目覚めなければならない。目の前にあるのは、主権の維持か隷属かという選択肢である。
第二の誤解は、中国との競争は危険に満ちていて、突き進むのは無責任でさえあるというものだ。「トゥキディデスの罠(わな)」が存在するからだという。台頭する国(中国)と現状維持の国(アメリカ)の間では紛争が起きる可能性があることを示す言葉である。
中国共産党の指導者たちが「トゥキディデスの罠」のたとえを好むのは、受け身で協調に応じるか、それとも戦争かという誤った板挟みの構図を作り出すからである。しかし、透明性のある競争こそが不要に事態をエスカレートさせることを防ぐ最良の方策である。それは中国との協力を妨げず、むしろ可能にする。
これら二つの誤解を正すことは、中国共産党が自由で民主的な社会の弱点とみなすものを競争上の優位性に変えるためにも不可欠である。そして、中国の巧みな抱き込み、強要、隠蔽の工作から防衛するために必要な集団行動への道を拓くためにも欠かせない。
習近平国家主席に対する誤解
それでも、一部の人々はこれらの誤解にこだわり続けるだろう。短期的な利益や有利な投資のリターンを求めて中国に向かう根拠となるからだ。世界の投資家たちは中国共産党が民間への介入を強めても、それに臆することなく資金を中国企業の株式などに投じている。
2021年には、海外から中国への新規の直接投資の金額が、アメリカへのそれを抜いて世界トップとなったことが明らかになった。間違ってウラジーミル・レーニンのものとされている言い回しに「資本家たちは自分たちの首を吊(つる)すのに使うロープまで売るだろう」というものがある。資本主義がライバルに手を貸し、自滅へと向かう姿を中国共産党の指導者たちは思い浮かべたのではないか。
自由世界の多くのビジネス・リーダーや政治指導者たちは、自ら進んで騙(だま)されている。彼らが注意を向けているのは習近平国家主席が話していることであり、彼と中国共産党が実際に行っていることではない。
人道主義者の習は、国境を越えて協力し合うグローバル・ガバナンスと法の支配の美徳を称揚するが、中国は国際機関から力を奪い、人間の自由を抑圧し、ウイグル族に対するジェノサイドを行っている。
環境保護主義者の習は、2060年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすると宣言する。ところが、中国は国民のおよそ80%を安全とされるレベルをはるかに超える環境汚染にさらし、南シナ海では軍事拠点となる人工島を造成するために生態系を破壊し、世界各地で毎年多数の石炭火力発電所を建設している。
自由貿易主義者の習は、スイスのダボスで開かれる世界経済フォーラムで貿易・投資の自由化について語るが、中国は借り手を苦しめる略奪的な融資や強制労働、国庫から企業への補助金、産業スパイなどに関与している。
ロマンティックな習は、国際的な「運命共同体」を構想するが、中国はその高圧的な軍事・経済活動に影響されやすい国々を着々と隷従させている。習の発言は真実とは正反対である。それを受け入れることは、中国共産党の壮大な野望である国際秩序の新しいルールを作り、自分たちの協力者を「吊す」ことを手助けするに等しい。
日米などの指導者は中国に三つの「ノー」を!
中国は、その指導者たちが世界に押しつけたパンデミックによって引き起こされた景気後退からいち早く抜け出した。日本、アメリカをはじめとする民主主義の国々が自由で開かれたインド太平洋というビジョンを実現するためには、各国間でより幅広い経済・科学分野の協力が欠かせないことは明らかだろう。
ただし、民主主義の国々にまず求められるのは、政治、ビジネス、金融のリーダーたちが中国共産党を助け、後押しすることを止めるという一致した決意である。日米などの指導者たちは「三つのノー」で合意できるだろう。
1)中国共産党に機微技術が渡ってしまうような貿易・投資の関係を結ばない。
2)中国共産党が人間の自由を抑圧し、技術で固めた警察国家を完成させることに手を貸すような投資はしない。
3)短期的な利益と引き換えに、企業の長期的な存続を危うくするような知的財産の移転はしない。
基本的に企業と株主は中国共産党との競争で何が問われているかを認識し、長期的な倫理上の要請、社会の期待と信頼に沿った決定を行うべきである。
新型コロナウイルスのパンデミックによって露呈したことはほかにもある。日本、アメリカ、その他の国々が、中国のサプライチェーンに対して危ういほどに依存度を高めていたことだ。競争を怠った上に、慎重さを欠いて効率を優先してきたからだ。この教訓を踏まえて、蓄電池、レアアース、半導体といった他の重要なサプライチェーンでは見直しが実行された。しかし、慢心はまだ残り、競争の激しい他の分野での対応が遅れている。
中国はグローバルな物流、データの標準化、デジタル通貨の流通、そして電子決済で圧倒的な影響力を追い求めている。日米間の協力の優先項目には、イノベーションの障壁の除去、研究開発の拡大、サプライチェーンの復元力(レジリエンシー)の改善、そしてデータやインターネットのプライバシーに関する国際基準の設定を含めなければならない。
パンデミックは中国との経済的な競争だけでなく、軍事的な競争も加速させた。人民解放軍は台湾や南シナ海、東シナ海の国々の主権を脅かしている。我々に求められるのは、強力な軍隊を前方に配置して、同盟相手の国々を安心させることである。そして、中国やロシアが守りを固めて我々の接近を拒否すると宣言したがっている空間に我々が入り込み、競争する空間に変えることである。
習と中国共産党の指導部は、自分たちがインド太平洋の全域で優位性を確立し、日本を孤立させ、アメリカに対して世界規模で挑戦できる、つかの間のチャンスが今、訪れていると考えているだろう。それゆえ、日本の力強い自衛隊と日米同盟を揺るぎないものにする強固なパートナーシップを示して、中国共産党・人民解放軍の指導者たちに武力を用いてインド太平洋に排他的な優位性を確立することはできないと分からせることが不可欠である。
そして、日米にインドとオーストラリアが加わったクアッドの枠組みは、安倍晋三首相(当時)が2007年にインド議会で演説した際に提示したインド洋と太平洋の「ダイナミックな結合」というビジョンを推進するものとしてとりわけ期待される。安倍首相はこの演説からおよそ10年後、目指す先を次のように形容した。「太平洋とインド洋、アジアとアフリカの交わりを、力や威圧とは無縁で、自由と法の支配、市場経済を重んじる場として育て豊かにする」(2016年8月、ケニアで開かれた第6回アフリカ開発会議での基調演説)。
クアッドをはじめとする域内各国は、この目標の達成のために日本と足並みをそろえるべきである。
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幸か不幸か、軍事力を背景とした外交を行えない日本は、現状、自由と法の支配を基盤とした外交で、世界に発信することが唯一の道です。一部の軍事大国以外、世界には数多くの力を背景にできない国が存在し、そう言った国々からは日本の指導力を求められているのです。
残念ながら現時点では、まだ発信力は弱いと言わざるを得ません。その要因はしっかりした外交戦略がない、また人材もいないと言うこともあるからだと思います。外務省だけにその課題を任せるのではなく、与党と全省庁一丸となって対外戦略を練り上げる必要があります。
もちろん、外交力には最終的に経済力やとりわけ軍事力(抑止力)も背景としては重要です。その点も踏まえて、今後の対外外交を戦略的に進めていかねばならないと思います。西側に存在する巨大でやっかいな独裁国家の覇権に巻き込まれないために。
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