中国軍が日本に仕掛けている心理戦 ー「諦めさせる」こと
岸田新政権が今日スタートの予定です。前回取り上げたように甘利幹事長の経済安全保障政策、中国を念頭に置いたものですが、その中国は虎視眈々と日本の領土、尖閣諸島を狙いに来ています。その先は沖縄を狙いに来るのでしょうか。
その中国の人民解放軍の戦略はどういうものか。ジャーナリストの吉田典史氏が、JBpressに寄稿したコラム『狙いは「諦めさせる」こと、中国軍が日本に仕掛けている心理戦 元海将・伊藤俊幸氏が語る中国海軍の実態と戦略』(9/30)にその概要を見ることができます。以下に引用して掲載します。
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日本のメディアは、尖閣諸島(沖縄県)周辺に出没する中国船の動きを連日報じている。確かに日本の安全保障にとって重大な問題ではあるのだが、尖閣にだけ目を奪われていると中国海軍の実態が把握できない。実は中国海軍の空母や潜水艦は太平洋で活発に動いている。その動向を40年以上にわたり観察してきた元海上自衛隊海将、金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏に、中国の狙いと、日本はどのような対応が可能なのかを聞いた。(吉田 典史:ジャーナリスト)
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中国の空母は重大な脅威なのか?
──伊藤さんは「中国海軍が太平洋での動きを活発化させている」と以前からよく指摘されていましたね。
伊藤俊幸氏(以下、敬称略) 私が潜水艦部隊にいた1996年、中国海軍艦艇が初めてアメリカのハワイ沖まで航行しました。中国海軍はこの時期にはすでに活動地域を太平洋に広げ始めていたのです。
1970年代までの中国海軍は、北は青島から、南は海南東までの自国の沿岸防衛しかできませんでした。その後、中国海軍の父と呼ばれる劉華清元上将は、旧ソ連から、ランドパワー(大陸勢力)における海上防衛について学び、第1列島線(日本の南西諸島から台湾を隔てて南シナ海まで)、第2列島線(日本の小笠原諸島からニューギニアまで)の概念を作り出しました。これはオホーツク海を聖域としていた旧ソ連海軍の考え方を踏襲し、第1列島線内を聖域化するため、第2列島線までの間でアメリカ海軍を阻止するという考え方です。
──太平洋では、中国の空母の動きも顕著です。
伊藤 海軍が空母を保有するのは、それがないと艦隊防空ができないからです。艦隊には、少なくとも2つの弱点があります。1つは、戦闘機などの空からの攻撃。もう1つは、潜水艦からの海中からの攻撃。私も艦長だった1998年、ハワイでのリムパック(RIMPAC)演習(環太平洋合同演習)で米国などの艦艇を15隻沈めましたが、「鉄の棺桶」といえるほど艦隊は脆弱なのです。
空からの攻撃を防ぐためにイージス艦を配備するのですが、艦隊を守るためにはまだ不十分です。空母艦載機で、より離れたところで敵を排除する必要があります。ですから、現在の中国空母が海自にとって重大な脅威であるとは言えません。原子力推進機関がなく、十数機しか艦載機が搭載できない空母は、航空自衛隊の戦闘機と海自潜水艦で確実に沈めることができるからです。
ただし、今後10年以内に中国の空母は少なくとも4隻以上になります。これは、日本の真南、つまり、第1列島線と第2列島線の間に、1隻の空母を含む中国艦隊が常駐するようになることを意味します。現在、南シナ海などに常駐し、訓練や他国に寄港などしているのがアメリカ海軍と海自です。その逆バージョンを中国海軍がしてくることになる、と考える必要があります。
第2次世界大戦末期(1944年)、サイパンが陥落したことで米軍による日本への空襲が本格化しました。中国海軍の空母が常時いることになるであろう海域は、日本からサイパンまでの距離の約半分の場所です。ここで頻繁に訓練をすることになるのです。
海自と空自は、この動きを警戒・監視する必要があります。長い滑走路のある空自の基地は太平洋側にないため、狭い基地からでも垂直離発着できるF35Bが必要となります。海上での警戒監視中に本土まで戻る余裕がないことも考えられます。そこで必要になるのが、海上基地です。海自護衛艦「いずも型」2隻の空母への改修は、空自戦闘機をどう運用するかとの視点から設計されたものなのです。海自の艦隊防空用の空母を造るのは、おそらく20年ほど後になるでしょう。
──アメリカのような攻撃型の空母を保有しないのですか?
伊藤 イギリスもフランスも中国も、あくまで艦隊防空用の空母なのです。アメリカの空母は80機以上の航空機を搭載していますが、そのようなことができる空母をアメリカ以外の国は持っていません。他の国に対するパワープロジェクション(戦力投射)能力を持っている空母はアメリカだけです。皆さんはアメリカの空母の映像しか見てないから、それしかイメージできないのかもしれませんが、その認識は間違っています。一部の専門家は「海自が攻撃型空母を保有する」「これを機に攻撃できる態勢をつくれ」と語ります。第2次世界大戦の頃の意識のままなのです。
中国が仕掛ける“切り崩し”工作
──尖閣諸島の現状はどう見ていますか?
伊藤 国連憲章では侵略戦争は当然禁じられていますし、加盟国の武力行使が許されるのは、「武力制裁」および武力制裁発動までの自衛権行使の場合だけです。
中国政府は尖閣諸島を自分たちの領土と主張していますので、例えば「自国内で起きた問題を解決するための治安維持」などとして尖閣に軍隊を送ってくることが考えられます。
海自や海上保安庁は前々から、その対応を検討してきました。今年(2021年)2月、内閣官房や海保などの担当者が、自民党国防部会・安全保障調査会の合同会議で、「外国公船が尖閣諸島への上陸を強行すれば“凶悪犯罪”と認定して、警察官職務執行法第7条に基づき警察権を行使する」「相手を制圧するために武器を使う『危害射撃』を行う可能性がある」ことを説明しました。
「海自を尖閣に送れ」といった世論がありますが、私は現時点で海自が出ていくことは好ましくないと考えています。海外からみると「世界第2位の実力を持つ海軍」が前面に出ることになり、その姿は世界から見て衝撃的に映るでしょう。
海保でも手に負えない場合、自衛隊に下される命令は「防衛出動」になります。その際は海保や警察からスイッチし、自衛隊が敵の排除のために行動をとります。中国が海保に手荒なことをしないのは、そばにいる海自や空自を警戒しているからだと思います。海自の哨戒機は尖閣諸島周辺を飛んでいるでしょうし、潜水艦も潜っているかもしれません。
──元自衛官などが、「尖閣諸島で軍事衝突があった場合、沖縄や九州も巻き込まれる戦争になる」と指摘しています。
伊藤 尖閣諸島については前述のように手を出してくる可能性はあり得ますが、そこからさらに日本本土を攻撃をした場合、国連の安保理決議にもとづき、中国に対して武力制裁が行われるでしょう。中国への国際世論は相当に厳しいものになるはずです。日米安保のもと、米軍も自衛隊とともに戦うでしょう。
自衛隊の出動に関しては、2003年成立の武力攻撃事態等対処法(「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」)により、自衛隊が防衛出動する法的な根拠が明確になっています。皆さんがイメージしている専守防衛とは異なり、憲法の範囲で襲ってくる敵を排除できる国になっているのです。
中国はこのあたりを心得ていますから、日本と本格的な戦争はしたくない。むしろ、台湾への工作と同じく、日本国内で様々な工作をして切り崩そうとしてくるでしょう。政治家をはじめ多くの日本人が「中国に対抗しても無理だ」と諦めるような心理になることを目標にするのです。そのために尖閣諸島周辺に連日、公船を出没させているのだろうし、太平洋にも進出しているのだと私はみています。日本の内部から崩れるように仕掛けてきていることにこそ、警戒すべきでしょう。
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日本の防衛省も中国のこの動きを念頭に、対抗戦略を考えてはいると思いますが、何しろ日本には「憲法9条」があります。防衛省や自衛隊の考える国防戦略に沿った防衛策も、その9条障壁のために自由に実施に移せないでしょう。まずはしっかりした防衛策を打ち立てるためには、「9条改正」を視野に入れる必要があります。
更に、中国との攻防の最前線「尖閣」は、残念ながら中国側の主張「中国の領土」を、完全には打ち消せていません。いわゆる「棚上げ論」を容認してしまった付けが、今も棘のように刺さってしまっています。ですから政府も尖閣への日本人の上陸を認めていないのでしょう。中国に「領土侵犯」の口実を与えるからです。
この問題の解決は、「尖閣は日本固有の領土」だと言うことを、国際社会に認めさせるしかありません。しかし南シナ海でのフィリピンとの抗争で、国際司法裁判所の「フィリピン勝訴」の決定を、「紙くず」と強弁した中国です。一筋縄ではいかないでしょう。もし岸田新政権がこの偉業を成し遂げれば、一躍時の人になれるでしょうが、可能性は極めて小さい。残念ながら現状維持が今のところ精一杯のような気がします。
今できることの第一は「憲法9条」を改正し、普通の国・日本を取り戻すしかないように思います。そこから尖閣や竹島、拉致問題、北方領土解決の道が開けていくのではないでしょうか。
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