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2021年10月20日 (水)

習近平中国:少数民族は「中華民族」帝国樹立の犠牲者

76c2a299fb6143ba95b9c52aa673d81eoriginal  中国は多くの民族からなる多民族国家ですが、習近平国家主席の目指す「中国の夢」は、「中華民族」という単独民族として描いています。今やGDPでは世界第2位となり、その強大な経済力で軍事力も増強し、最近になっていよいよ「中国の夢」実現への舵を切りました。

 しかしその中身は少数民族の弾圧と周辺国家・海域への威嚇と現状変更のもくろみで、甚だ迷惑な国家と成り至っています。目を世界に広く向ければ、食料やエネルギーの確保のため、一帯一路構想を打ち立て、融資を返済できない国からは、その投資先の独占使用権を得ようとするなど、覇権国家の様を見せつけています。

 この習近平中国の過去と現状、それと今後の狙いについて、その詳細を東大政治学研究科の平野聡氏が産経新聞に寄稿したコラムに見てみます。タイトルは『世界のモデルは日本?中華民族なる幻想』(10/8)で、以下に引用します。

 ◇

中国は公式見解で56の民族から成る国家だが、中国共産党を含むナショナリズムの歴史は、それを「中華民族」という名の「単一民族国家」としてまとめようとしてきた。

欧米諸国が新疆ウイグル自治区や香港での非人道的な弾圧を批判するのに対し、習近平国家主席は今年7月の中国共産党創建100年記念式典で「中華民族には5000年の歴史で形成した輝かしい文明がある。我々は主権を断固として守る。我々への圧力は絶対に許さない」と激しく反発した。

新疆ウイグル自治区で行われているのは、普遍的人権に照らして許されないジェノサイド(民族浄化)である。しかし、習政権にすればこれは弾圧ではなく、中国の安定を乱す者を排除して、人々の「発展の権利」を保障する「中国の人権」の挙であり、国家主権と「中華民族」の利益のためだという。

その具体的な端緒は、習主席が2014年5月に主宰した第2次新疆工作座談会で、新疆関連でしばしば起こる衝突や爆発事件を一律に「恐怖主義(テロリズム)・分裂主義・宗教極端主義」すなわち「三毒」によると規定し、徹底鎮圧する方針を立てたことによる。それが17年以後、同自治区のウイグル・カザフ族への容赦ない弾圧につながった。米国のラジオ・フリー・アジアをはじめ複数のメディアが伝えるところによると、「三毒分子」とレッテルを貼られた人々のうち、程度が甚だしいとされた者は刑罰に処され、軽いとされた者は「職業訓練センター」などと称する施設に収容され、身も心も完全に「中国化」するための中国語・愛国主義教育と強制労働を強いられている。

こうして新疆では非常に多くの人々が社会の表舞台から消され、明らかに異常な人口変動が起こっている。中国で最も権威ある統計「中国統計年鑑」によれば、自治区の総人口は17~19年にかけて2444万6700人から2523万2200人へと78万5500人も増加しているが、少数民族人口は1654万4800人から1489万9400人へ、なんと164万5400人も減少している。ウイグル・カザフ族が不自然な人口変動の犠牲となり、中国の多数派、漢民族が増えたことになる。

新疆の問題はまさに、「中華民族」ナショナリズムの歪みが起こした悲劇である。

近代的につくられた「中華民族」意識

しかし、そもそも「中華民族」は、どれほど実体ある概念なのか。いまの中国は、あたかも古代から「中華民族」団結の歴史があるように強調しているが、「中華民族」概念が生まれたのは20世紀初頭、清末の時代の話である。

それまで、かの地には「中国」「中華」という言葉はあったが、黄河中流で生まれた文明や王権の美称であり、国民意識による近代国家を示すものではなかった。清代も当初は、「中国」「中華」文明の地が、外来の騎馬民族である満洲人に支配されることへの屈辱が渦巻くばかりで、漢人も満洲人も同じ「中国」という国家の担い手、「中華民族」であるという認識はあるはずもなかった。

その意識に変化をもたらしたのは、19世紀以後の西洋列強や日本の勢力拡大である。とりわけ日清戦争の敗北は、それまで天下に冠たる文明の所在を自負していた清末のエリート層(その多くは漢人)に衝撃を与え、「中国は文明、または天下の中心であって、近代的な国家ではない」という実態を改めるよう迫った。清末を代表する知識人・梁啓超(リョウ・ケイチョウ)は「中国史叙論」を著し、過去の人々は天下の漠然とした広がりを知るばかりで、誰もが「中国」の名においてまとまる発想がなかったことを批判。そのうえで当時清に残されていた領域全体を「中国」と呼んで防衛し、その内側に住む人々に「中国」の意識を持つよう求めた。また、王朝・皇帝ごとの歴史ではなく、古今一貫した歴史ととらえることで「中国」への愛着も増すと考えた。

こうして、漢、満洲、モンゴル、チベット人や新疆のトルコ系の人々は、中国文化を受け容れて「中国人」になるよう方向づけられた。これが「中華民族」の始まりである。

モンゴルもチベットも、現代の新疆ウイグル自治区も、漢人や満洲人とは異なる文化と言語、歴史を持つ人々の地域で、清はこれらを緩やかに統治していたにすぎなかったが、清末以後の中国ナショナリズムは「中華民族」「中国」の名において、列強に対抗し追い越す近代国家を造り上げようとした。この意識が今日まで引き継がれている。

しかも、近代国家「中国」建設のモデルになったのは日本である。明治維新の中央集権で国民国家としての実を整えて近代化を進めた日本を単一民族国家ととらえ、範をとった。だからこそ、多民族国家でありながら「中華民族」の「単一民族国家」が目指された。そして「中国史」づくりに大きな影響を与えたのも日本だった。中国文明の歴史では、王朝ごとに歴史の語りが切り替わり、誰もが一貫した基準で歴史を認識することは困難だったが、日本は「漢土(から)」の歴史をひとつの流れで捉え、近代になると「東洋史」を表現していた。梁啓超は、そんな日本流の歴史認識を取り入れて「中国史」を創始した。

現代の中国は、しばしば戦前の日本のありかたを持ち出し外交で揺さぶりをかけるが、皮肉なことに、中国自身の歴史観は、日本人の歴史観に深く依存しているのである。

「中国の夢」は帝国の夢

「中国」という国家は清滅亡から100年余、少数民族の「中華民族」への同化を図り、圧迫してきた。改革開放の当初、少数民族を尊重する政策をとったこともあったが、同化と弾圧の流れは再び強まった。

いま習政権は「中国の夢」(China Dream)を前面に押し出すが、その根底にも「中華民族」の概念がある。「中国の夢」は「アメリカン・ドリーム」のように、自由な社会で個人が実現を目指す「夢」とはまったく異なる。「中華民族」が結束して圧倒的な富強を実現する「集団の夢」の中ではじめて、個人の夢も実現するという発想である。そして、列強によって奪われた「世界史の中心・主導者」としての地位を回復すべきだと叫んでいる。

彼らは、「没落しつつある米国に代わって中国が世界を導き、中国の恩恵が世界をあまねく包み込む」と本気で宣伝している。ワクチン外交はその典型例である。アフガニスタン問題で失敗した米国を嘲笑し、タリバン支援を申し出て一帯一路に組みこむことで、アフガンに安定をもたらすと説明するのも同じ意図から発している。欧米のように開かれた社会や自由・民主の価値観を強要するのではなく、中国と相手の国情を互いに尊重し、内政干渉をせず支援することで、結果的に中国の影響が広がれば良しとしている。

しかし周知の通り、無原則的な中国の援助は援助先の国を負債漬けにし、返済に窮した国から権益を得るという、帝国主義を彷彿とさせるものだ。中国のナショナリズムが弱肉強食の帝国主義を批判しながら、実のところ帝国主義ひしめく近代史の刺激により生まれ、今や自らが内外でその轍を踏んでいるのは歴史の逆説といえる。

 ◇

  日本の野党は、多様性を賞賛し、人権を擁護する立場にありながら、中国に対しては批判の声が小さいと思います。民間においても、日本弁護士連合会や各種人権団体が、日本の制度に盛んに口を出しますが、中国に対し批判声明を出したのを余り聞いたことがないように思います。

 その所為もあり、日本の一般国民の中国への警戒感はかなり弱いものがあります。衆議院選挙で重視したい政策や争点について、読売新聞の調査では外交や安全保障は60%の人が重視すると言っていますが、対中国外交に絞って調査すればどうであるかはわかりません。経済界など中国に大きく依存しているところは、むしろ中国との関係悪化を懸念しているでしょう。

 いずれにしろ今の習近平中国が、スターリン時代の強権的共産主義を目指し、毛沢東時代を彷彿とされる独裁国家を夢見ているのは間違いありません。今後の日本外交の対応戦略が試されます。国益に沿った判断を覚悟を持って下すことを望みます。

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