中露艦隊が堂々と通過、国辱の「特定海域」を見直すべき時が来た
今月18日、中露の艦隊が津軽海峡と鹿児島の大隅海峡を通過したニュースが報じられました。昨日の民放でも取り上げられましたが、津軽海峡など「特定海域」に指定されている海峡は、たとえその全領域が国際的に認められている12海里の中にあっても、国際運行に使用される国際海峡には基線から3海里とし、一定の幅の公海の部分を特別に作ったもので、そこをこれらの艦船が通行したのです。
この事案を受けてにわかにこの「特定海域」見直し論が浮上しています。昨日の民放に出演した香田洋二元海将は、全域を領海にすれば、その領海を通航しようとする船舶は、領海外国船舶航行法施行規則に基づき通報の義務が生じます。例えば津軽海峡など韓国が貿易の航路となっているため、毎回この処置を行わなければなりません。
さらに問題はこの通報の内容を捏造または、最悪の場合通報義務を無視した場合、海上保安庁は、立ち入り検査および退去命令を実施しなければなりませんが、相手が艦船の場合は艦内が治外法権となっていて、実際には検査できず、また退去命令などの場合、紛争に至る場合があるので、現段階では現状維持が望ましいと言っていました。
しかしこの意見は、従来の日本の基本的対処方針を踏襲しただけであって、今回の事例が示すように、安全保障上問題が深刻なことを考えれば、見直しも必要だと感じます。このあたりの詳細を、軍事社会学者の北村淳氏がJBpressに寄稿したコラムから見てみます。タイトルは『中露艦隊が堂々と通過、国辱の「特定海域」を見直すべき時が来た 世界的にも稀な海峡概念は米国に媚びへつらう姿勢の象徴』(10/28)で、引用して以下に掲載します。
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日本海で合同訓練を実施していたロシア海軍と中国海軍の軍艦10隻が、2021年10月18日に津軽海峡を太平洋に抜け、西太平洋での合同艦隊訓練を実施した。
中国やロシアの軍艦とりわけ今回のような強力な艦隊が津軽海峡を抜けると、日本の一部の政治家や反中・反露勢力から、「特定海域」の設定に対する非難の声があがる。
日本政府は津軽海峡などの5つの海峡を「領海及び接続水域に関する法律」(1977年5月2日公布、以下「領海法」)で「特定海域」に設定している。特定海域という制度が存在するがゆえに、中国やロシアの軍艦が大手を振って津軽海峡を通過し軍事的威嚇を加えているのだから、このような制度は廃止してしまえ、と領海法の不備を指摘するわけである。
それに対して、「特定海域」制度を廃止する必要はないという声もある。日本も参加している「国連海洋法条約」(1994年11月16日発効、日本は1996年に批准し同年7月20日に日本につき発効)には「国際海峡」という規定が存在する。津軽海峡に関しては、特定海域の制度を廃止しても国際海峡に該当することになるため、中国やロシアの軍艦通過に関しては実質的相違は生じない。むしろ潜水艦の潜航通過に関しては現状の制度のほうが日本にとっては都合が良い、といった反論がなされている。
世界的にも稀な海峡概念
しかし、問題はこのような表面的な法制度の問題に存するのではない。日本政府がそもそも「特定海域」を制定した動機と、この制度をいまだに維持している姿勢が、アメリカに阿(おもね)る卑屈な国家としての象徴的事例の1つに他ならない。要するに特定海域を存続させるかどうかは国家主権の問題として捉えるべきである。
日本政府は領海法制定の過程においてアメリカ軍・アメリカ政府からの圧力に屈して、日本自身の主権を自ら制限して「特定海域」という世界的にも稀な海峡概念を生み出した。
当時のアメリカ軍が保持していた対ソ連あるいは対中国先制攻撃作戦計画において、核弾頭装着弾道ミサイルを搭載したアメリカ海軍潜水艦が北太平洋から津軽海峡を抜けて日本海に展開することが想定されていた。
もし、日本政府が領海法で採択する領海幅12海里を津軽海峡にもそのまま適用した場合、日本にとっては外国軍艦である米海軍潜水艦が津軽海峡を通過する際には海面に浮上して米国旗を掲揚しつつ航行しなければならなくなる。
もちろんアメリカ海軍はそのような規定は無視することになるのだが、できれば合法的に津軽海峡の海中を潜航したまま通過するに越したことはない。
また、日本政府が米海軍の核ミサイル搭載原潜の日本領海内通過を認めた場合には、野党や反米勢力などからの激しい突き上げに直面することになる。
そこで日本政府が考え出したのが特定海域の概念である。つまり、日本の領海幅は12海里とするが、宗谷海峡、津軽海峡、対馬西水道、対馬東水道、大隅海峡に関しては3海里に制限し、海峡の中央部は日本の主権が及ばない公海とする、という規定である。
これによって、領海法が施行された後にも津軽海峡の中央海域には公海帯が存在することになり、核ミサイルを搭載したアメリカ海軍潜水艦が潜航状態を保って津軽海峡を通過しても、領海法にも非核三原則にも抵触しない状態が確保されたのである。
激変した日本の海峡を巡る海軍情勢
特定海域の制度が生み出された当時においては、中国海軍はアメリカ海軍から見ればガラクタの寄せ集めのようなレベルであり、海上自衛隊にも全く対抗しうる存在ではなかった。また、当時強力であったソ連海軍も、日本海からオホーツク海や太平洋に進出するのはウラジオストクを本拠地にする水上戦闘艦艇が主戦力であり、米海軍にとって強敵であったソ連潜水艦は主としてカムチャツカ半島を本拠地としていたため、日本の「特定海域」である公海帯をソ連軍艦が航行してもさしたる脅威とはならなかった。
ところが現在、中国海洋戦力は海上自衛隊を圧倒し、アメリカ海軍にも大いなる脅威を与えるに至っている。また、一時低調になってしまったロシア海軍も復活しつつある。そして、韓国海軍の戦力強化にも目覚ましいものがある。したがって、特定海域が制度化された35年前とは、日本の海峡を巡る海軍情勢は激変しているのである。特定海域の概念は情勢の変化に対応させねばならない。
領海法の特定海域の規定を廃止した場合、宗谷海峡と対馬西水道の場合、海峡の対岸がそれぞれロシアと韓国であるため、両国との調整が必要となる。そして、対馬西水道と大隅海峡に関してはそれぞれ代替ルートが近接しているため、国際海峡に指定させないことも可能だ。
再び問題となるのは、津軽海峡である。津軽海峡には、日本海の公海と太平洋の公海を結ぶ代替ルートが近接していないため、特定海域の概念を廃止すると国連海洋法条約によって国際海峡に指定せざるを得なくなる。この場合、あらゆる国のあらゆる船舶に「通過通航権」が与えられるため、アメリカ潜水艦も中国潜水艦も津軽海峡を潜航したまま通航することが可能になる。
しかしながら国際海峡沿岸国は当該海峡における航路を管制する権利も有している。そのため、日本は潜水艦や軍艦だけでなくあらゆる船舶に対して津軽海峡内での航路を設定することも可能である。
そしてなによりも冒頭で述べたように、日本政府がアメリカの圧力に屈し、アメリカに媚びへつらうためにいまだに継続している、まさに自主防衛の気概を自ら捨て去っている象徴の1つである特定海域の概念は、アメリカの属国から独立する意志があるのならば、即刻廃止すべきであろう。
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米海軍の核ミサイル搭載原潜の日本領海内通過は、日本の非核3原則といういわゆる自主規制に基づいて、認められないのであって、米国の核の傘に守られているといいながら、「核を持ち込ませない」という矛盾に満ちたバカなこの原則は、即刻廃止すべきでしょう。
更には前出の香田氏も認めているように、現行憲法9条下で、外国艦船の停戦命令や紛争時の処置は困難ですが、そもそも領海を侵犯しようとする外国艦船に対し、何もできないという「国恥状況」は、是非改める必要がありそうです。まともな主権国家になるためにも、憲法9条を破棄し、しっかりした抑止力を持たなければ、今回のようなあからさまな威嚇行為を今後も許すことになります。日本人一人一人にこの国を守り抜く覚悟が試されています。
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