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2021年11月12日 (金)

中国の核戦力増強と極超音速ミサイルの脅威 日本の対応は

2_20211112082701  最近、軍の装備で注目を集めている極超音速ミサイル。中国はこの開発を続けており、発射実験も繰り返しているようです。このミサイルは冷戦期に米国と旧ソ連が封印してきた同種のミサイルの発展系で、迎撃は不可能という恐怖の兵器です。

 その概要を産経新聞のコラム「中国的核心」のライター、前中国総局長の西見由章氏の記事から引用します。タイトルは『冷戦期の〝禁じ手〟で核戦力増強 極超音速兵器と融合』(11/10)です。

 ◇

中国共産党系の環球時報の胡錫進編集長は昨年5月、「米国の戦略的野心を抑止」するために核弾頭を短期間のうちに千発まで増やさなければならないとSNSで訴えた。実現すれば推定3倍増だ。当時、北京の日本人外交官の中には「もしこれが中国当局の(反応を見るための)アドバルーンで、戦略的な変更の試みならば日本の安全保障にとって絶対まずい」と危機感を持つ人もいた。

杞憂(きゆう)ではなかった。

中国はいま、米国とロシア(旧ソ連)が危険すぎるために冷戦時代から互いに封印してきた〝禁じ手〟の核兵器技術まで使って、米国に対する核抑止力を一気に高めようとしている。

撃墜不可能

「米当局者の認識をはるかに超える驚異的進歩だ」。英フィナンシャル・タイムズ紙は10月、中国が核弾頭を搭載できる「極超音速兵器」の発射実験を今夏に2回実施したと報じた。同兵器は標的を約40キロ外れたものの、地球の周回軌道に乗っており米の情報機関を驚かせたという。

極超音速兵器は滑空体(HGV)と巡航ミサイル(HCM)の2種類がある。今回実験が行われたHGVは弾道ミサイルで打ち上げられた後、宇宙空間で切り離されて大気圏に再突入する戦略兵器だ。放物線を描いて落下する大陸間弾道ミサイル(ICBM)とは異なり、マッハ5以上の極超音速で自由に運動しながら水平に滑空するため、現在の米国のミサイル防衛(MD)では撃墜不可能とされる。

極超音速兵器は米国や中国、ロシア、北朝鮮などが開発競争を繰り広げているが、すでに実戦配備しているのは中露だけだ。中国は2019年10月に北京で開催した建国70周年の軍事パレードで、HGVを搭載した射程約2500キロのミサイル「東風(DF)17」を初披露した。パレードに登場する兵器は実戦配備しているものがほとんどで、極超音速兵器の実用化をアピールする狙いがうかがえた。米国防総省は今年11月に発表した中国の軍事力に関する年次報告書で、DF17が20年に実戦配備されたと指摘している。いずれにせよ中国の極超音速兵器がすでに作戦能力を持っていることは間違いない。

そうした中で行われた今回の中国の発射実験。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は米テレビで、1957年に旧ソ連が史上初の人工衛星打ち上げに成功して全米に衝撃を与えた「スプートニク・モーメント」を引き合いに出し、「それに近い」と憂慮を示した。

米国の技術開発が中国に大きな後れを取っているという声が米軍関係者に広がる中、今回の中国の実験について「技術的なブレークスルー(飛躍)はさほど大きくない」と指摘するのは笹川平和財団の小原凡司(おはら・ぼんじ)上席研究員だ。

中国が実験したのは旧ソ連が60年代から開発していた「部分軌道爆撃システム(FOBS)」に近いとみられる。ミサイルを周回軌道上に投入して長距離を移動させ、攻撃の前に大気圏に落下させる仕組みだ。こうした旧技術とHGVを融合することで、極超音速兵器の射程は理論上無限になり、地球のどこでも攻撃することが可能になる。

小原氏によれば、ICBMなどは発射の兆候があれば弾道計算によって核報復攻撃の可否を決定することができる。しかしミサイルをいったん周回軌道に乗せて落とすFOBSの場合、どこから落ちるのか分からない〝奇襲〟となり、着弾地点を割り出すのは困難になる。

しかも理論上はどの方角からも攻撃できるため、ロシアや中国、北朝鮮などの弾道ミサイルを想定して米国が北側に配備したMD網をかわし、南側から攻撃するのが可能だ。

米ソは禁止で合意

ただ米ソは79年に調印した第2次戦略兵器制限交渉の中でFOBSを禁止することに合意した。「互いに攻撃のインセンティブ(動機付け)が高まる非常に危険な技術だと認識されたため」(小原氏)だという。中国は、この冷戦時代の〝亡霊〟をよみがえらせようとしている。

このように中国が漁夫の利を得る構図は、トランプ米政権が2019年に米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約を失効させるまで、中国が条約に加盟していない利点を生かして中距離弾道ミサイル開発を独占し、米海軍を排除する「接近阻止・領域拒否」戦略の礎にしてきたことを彷彿(ほうふつ)させる。

中国外務省は今回の実験報道について「宇宙船の再利用実験だ」とシラを切ったが、額面通りには受け取れない。HGVが軌道を周回している段階では核兵器を搭載しているのかどうか、あるいは攻撃の意志があるのかすら不明確だ。ぎりぎりまで相手が反撃するのをためらうこの兵器の性質上、打ち上げは平和的な宇宙実験だと言い張り続けることが、自国にとって有利だと判断している可能性もある。

中国が核戦力を増強させる決意は固いようだ。米メディアは今年6~7月、中国甘粛省に核弾頭搭載の弾道ミサイルの地下格納庫(サイロ)が119カ所、新疆(しんきょう)ウイグル自治区にも110カ所がそれぞれ建設されていると相次いで報じた。先の米国防総省の年次報告書は、中国の核弾頭保有数が30年までに少なくとも千発まで増えそうだと分析している。

中国が極超音速兵器の開発や核弾頭数の拡大によって核戦力を一方的に増強した場合、米国の抑止力と「核の傘」の実効性は弱まり、日本の安全保障を大きく揺るがすことになる。

中国の極超音速兵器は台湾も狙っている。同兵器はもともと、米国が冷戦終結後に「使える戦略兵器」として開発を進めてきた経緯がある。核兵器は使用のハードルが高いが、極超音速兵器は核弾頭を搭載しなくてもピンポイントの長距離打撃能力がある。中国は近海や太平洋上に展開する米艦隊や米軍基地、さらには台湾本島を極超音速兵器の標的にすることで、台湾への武力侵攻に利用する可能性もあるのだ。

台湾海峡をめぐる米国と中国との緊張が長期化する見通しの中、中国は日本に対しても台湾問題に深入りしないよう軍事的に威嚇している。10月に中露海軍の艦艇計10隻が日本列島を周回した際、中国の官製メディアはこうした軍事作戦の常態化を宣言した。日本の有識者の間では、海上自衛隊艦艇も台湾海峡を通過すべきだとの主張のほか、日本が領海を〝放棄〟している津軽海峡など5つの特定海域の見直しを求める声もある。

中露艦隊の津軽海峡共同通過問題

中露の艦隊は10月18日に津軽海峡を通過し太平洋に出て、同22日には鹿児島県沖の大隅海峡を通って東シナ海に入った。この際、日本の排他的経済水域(EEZ)を通過しており、中国国防省は「国際法の関連規定を厳格に順守した」と強調した。実際、1982年に採択された国連海洋法条約は、EEZについて公海と同じ「航行・飛行の自由」を認めている。

一方で中国は、台湾海峡のEEZを米軍などの外国軍艦が通過することに対して「挑発」「内政干渉」などと非難してきた。国際法上、ダブルスタンダード(二重基準)を使い分けている形だが、海自艦艇は政治的配慮から台湾海峡を通過していない。

「日本側が台湾海峡を通らないことのほうが問題だ。行動しないということは国際法上、相手の言い分を認めたことになる」と指摘するのは海上自衛隊で自衛艦隊司令官を務めた香田洋二元海将だ。海自艦艇による台湾海峡の通過こそが日本の現実的対応であり、「日本は海洋国として国際法を機能させるためにもやらないといけない」と訴える。

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は社説で、台湾海峡が「政治・軍事的に世界で最も緊張している地域の一つ」であり津軽海峡とは異なると主張。米国とその同盟国の軍艦が台湾海峡を通過しているのは中国大陸に向けた「示威」であり、中露艦隊の「無害通航」とは違って「有害」だと強弁した。

しかし国連海洋法条約上、沿岸国の「平和、秩序または安全」を害しない「無害通航」は、外国船舶が領海を通過する際の条件であり、公海に準ずるEEZの通過には無関係だ。台湾海峡など自国EEZにおける外国軍艦の航行の自由を認めず、「無害通航」を条件としたい中国独自の思惑が背景にあるようだ。

また環球時報(電子版)の論評は、中露艦隊の航行が「日本を極めて大きく震撼(しんかん)させた」と存在を誇示しつつ、「こうした震撼は始まりにすぎない」として中露艦隊による「合同巡視航行」の常態化を宣言。今後、中露爆撃機による合同飛行との連携もあり得ると書いている。

東海大の山田吉彦教授(海洋安全保障)は「仮想敵国ともいえる国が目先の海を通過していく異常事態だ」と指摘。「日本の弱点を突いてプレッシャーをかけている。こうした示威行動を制約させるためにも、特定海域を領海にして守るべきだ」と主張する。

山田教授のいう「弱点」とは、日本が領海法で「特定海域」に指定している津軽や大隅などの5海峡だ。領海を通常の12カイリよりも狭い3カイリに制限し、海峡の中間部分を領海ではなくEEZにして各国に航行・飛行の自由を認めている。各国の商船などの自由な航行を保障することが「総合的国益の観点から不可欠」だというのが日本政府の公式見解だ。ただ実際は、これらの海峡を領海化した場合に核兵器を搭載した他国軍艦艇の領海通過を認めざるを得なくなり、日本の「非核三原則」に抵触するためとされる。

日本が特定海域を領海化すると、各国船舶には「無害通航権」ではなく、より航行・飛行の制限が緩い「通過通航権」が与えられる。国連海洋法条約は領海に覆われた「国際航行に使用されている海峡」で通過通航権の行使を認めており、5海峡はいずれも該当するためだ。

いずれにしろ各国船舶は、EEZで認められていた示威行為や軍事目的調査などはできなくなり、日本の権利は強化される。

ただし通過通航権は海峡全域に適用されるため、これまで制限の強い「無害通航権」だけが認められていた沿岸3カイリ以内の海域でも、潜水艦の潜没航行や軍用機の飛行が認められることになってしまう。また「わが国の主権を守る強制力が伴わなければ『有言不実行』となり国威が失墜する」(香田氏)リスクもある。しかし山田教授は「領海を主張しないほうが、通過通航権が行使されるデメリットよりもはるかに危険だ」と指摘する。

 ◇

 このコラム記事にあるように、中国の戦力増強や威嚇行為はますます増大しており、日本はその対応を迫られています。国会ではこの問題を取り上げ、安全保障の枠組みについて早急に議論を積み上げる必要があります。

 もちろん外交努力も必要です。しかし長期戦略に長け今や日本より強大な軍事力を備えた中国に、外交で尖閣の威嚇航行をやめろとか、台湾への圧力をかけるなとか言っても、全く効く耳は持たず、むしろ反論を矢のように繰り返し返してくるだけでしょう。

 様々な対応が必要です。米国を始めとした同盟国や、クワッドの枠組みのなかで中国を牽制するとか、経済的な対応を考えるとか、できる手は打たねばなりません。しかし最終的には日本も抑止力増強のため、この極超音速ミサイルや、原子力潜水艦、空母等の建設に早急に踏み出す必要があるかも知れません。核の問題も議論は避けて通れないでしょう。その前にまず非核3原則の見直しからスタートと言うことになるでしょうね。

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