中国テニス選手「失踪」は地政学的問題、北京五輪への災厄となる
中国のテニス選手と共産党幹部の不倫報道が、女子テニス協会やIOCを巻き込んで世界的な騒動になっています。テニス選手がSNSに投稿した後、行方不明になったことから、世界の注目を一気に集め始めました。
その後、本人画像や映像が共産党系メディアから公開され、無事を伝えていますが、何処まで本当なのか疑惑は深まるばかりです。この件に関しNewsweek誌にクロエ・ハダバス氏が寄稿したコラムを取り上げます。タイトルは『中国テニス選手「失踪」は地政学的問題、北京五輪への災厄となる』(11/22)で、以下に引用して掲載します。
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<共産党幹部の性的暴行を直接告発し、姿を消した彭帥選手。セリーナ・ウィリアムズ、大坂なおみらも擁護の声を上げ、中国は岐路に立たされている。11月21日には動画が公開されたが...>
中国人トップテニス選手の失踪騒ぎが地政学的問題に発展した。元ダブルス世界1位の彭帥(ポン・シュアイ、35)は11月2日、中国共産党幹部の性的暴行を告発。それ以来、消息不明になっている。
女子テニス協会(WTA)を含む世界のテニス団体は彭を支持。ほぼ全てのプロテニス選手も擁護に回っているようだ。
WTAが17日に受け取った彭のものとされるメールには、「家で休んでいるだけで、何も問題ない」と書かれていた。しかし、疑念は晴れていない。ツイッターでは「#WhereIsPengShuai」というハッシュタグがトレンド入りした。
彭は中国でのテニス普及に貢献したスター選手の1人。ダブルス選手として2013年のウィンブルドン選手権、2014年の全仏オープンで優勝した。2020年2月以降は試合に出ていないが、テニス関係者の誰もが彼女を気に掛けている。
中国のSNS、新浪微博(シンランウェイボー)への投稿で、彭は張高麗(チャン・カオリー)前副首相を告発した。それによると、張は彼女をテニスに誘った後、妻と共に自宅に連れ込み、性的関係を強要したという。
被害者とされる女性が共産党幹部の性的暴行を直接告発したのは、中国ではこれが初めて。♯MeTOO(私も)運動はまだ、党上層部には届いていない。
中国政府はこの件について、ほぼ沈黙を守っている。外務省報道官は外交問題ではないとして無視したが、検閲はすぐに始まった。
彭の投稿は公開後すぐに削除。SNSではこの投稿に言及する書き込みに加え、「テニス」や彭のイニシャルなどの関連キーワードの検索も制限された。
彭のメッセージとされるものには、不自然な部分がいくつもある。中国メディアが公開したスクリーンショットには、点滅するカーソルが映っており、彭以外の誰かが書いた可能性を示唆している。
WTAのトップ宛ての手紙なのに、「皆さん、こんにちは」と書かれているのも怪しい。
WTAのスティーブ・サイモンCEOは、このメールを彭のものではないと見なし、本人から直接話を聞きたいと語った。2022年中に10のイベントが開催予定だった中国からの撤退も辞さないとも述べた。
セリーナ・ウィリアムズ、大坂なおみ、ビリー・ジーン・キング、ノバク・ジョコビッチ、アンディ・マレーなど、テニス関係者の大半が懸念や擁護の声を上げている。「私たちの仲間、彭帥のニュースを聞いてショックを受けている。私たちは沈黙してはいけない」と、ウィリアムズはツイートした。
この問題で中国は重大な岐路に立たされている。国際的な選手や団体が、ビジネスより自分の価値観を優先しているのだから。これは「善悪に基づく判断」の問題だと、サイモンはCNNに語った。
北京は2022年冬季五輪開催を控えているが、既に新疆ウイグル自治区などでの人権侵害をめぐりアメリカの外交的ボイコットの可能性が出ている。
ウイグル人活動家などは五輪ボイコットを広く呼び掛け、共和党を中心にアメリカの政治家もこの問題について発言する機会が多くなっている。
「中国政府にとって迫り来る災厄」だと、人権団体・中国人権守護者のウィリアム・ニーはCNNに語った。「この問題を解決しない限り、冬季五輪が近づけば近づくほど、災厄は大きくなる」
一方、IOC(国際オリンピック委員会)は例によって「静かな外交」の重要性を強調しただけだった(編集部注:11月21日には中国共産党系メディアの編集長が、彭が友人らと食卓を囲んでいるとする動画を公開。IOCは、彭とバッハ会長がテレビ電話で会話をしたと発表した)。
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食卓を囲む動画も、バッハ会長とのテレビ電話の映像も、中国当局の手が入っているのは明らかです。編集や捏造の疑いも晴れてはいません。
アメリカに続いてイギリスも、北京オリンピックへの要人派遣を見送る用意があると発表しました。WTAは中国の開催(中国オープンか)を見送る可能性も示唆しています。
中国共産党による、こうした隠蔽や報道規制は、世界中の批判にさらされるようになっています。それでもなおかつ改めようとしないのは、ひたすら共産党を守ることが彼等の使命だからでしょう。
中国に限らず、世界中の独裁国家はすべからく、治世の中心的課題はこうした自己防衛のためにあり、そこに住む国民は不幸のど真ん中にいる事になります。独裁権力を握りたい一部の人物がいる限り、これからもこういう状態は続いていくでしょう。残念なことです。
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