櫻井よし子氏:岸田首相、過去の宏池会領袖の失敗を反省し、主張する外交を
岸田文雄現首相は自民党岸田派の領袖です。岸田派は「宏池会」の通称とも言えますが、この「宏池会」は自民党の最古の派閥で、池田勇人元首相が旗揚げして代々時の領袖が派閥を受け継いできました。
この宏池会、櫻井よし子氏の言を借りれば、「わが国は対中外交で多くの失敗をした。国の根本的な政策も間違えた。その多くが宏池会が政治を主導していたときに起きている」と言い切っています。その一片は櫻井氏が産経新聞に寄せた特集記事「美しき勁き国へ」の中に、あります。タイトルは『危機の時こそ「説く力」』(1/3)で、以下に引用します。
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岸田文雄首相は「聞く力」を強調するが、その発する言葉の意味がよく分からない。首相がもっと本音を語らなければ、意思の疎通もはかれない。後述するように日本は危機的状況にある。国民に危機を率直に語り、国の安全は国民一人一人が共に負う責任だと説くときだ。憲法改正や自衛隊法改正の具体的課題を理解してもらい国民の意志と力を結集して初めて、わが国はこの危機を乗り越えられる。
中国の挑戦は厳しい。戦後の世界秩序の基本である国連などの国際機関を中国化して中華世界に変質させるための総力戦を彼らは仕掛けている。その一例が世界貿易機関(WTO)だ。WTO加盟の恩恵を貪(むさぼ)り、経済大国への道を駆け上がった中国だが、基本的にWTOのルールを守らずに今日に至る。日米欧がだまされていたと気づいたとき、彼らは世界第2の経済力と軍事力を手にしていた。
米国防総省が第2次岸田政権発足前に発表した「中国の軍事力」に関する年次報告書が中国の軍事力構築の凄(すさ)まじさを曝(あば)いている。白眉はミサイルおよび核戦力急成長の実態だ。日本のミサイル防衛論では北朝鮮が問題視されるが、2020年の北朝鮮のミサイル発射は8発。中国は250発以上で、その前の2年間は南シナ海で対艦弾道ミサイルの発射実験を継続した。北朝鮮の比ではない。
日本を射程に収めた中国の準中距離弾道ミサイル(MRBM)の発射装置は150から20年末までに250に、ミサイル本体は150から600へ4倍に増した。増加分の大半が極超音速兵器を搭載できる新型弾道ミサイル「東風(DF)17」とみられ、わが国はその脅威の前で裸同然である。
中国は台湾、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を含む沖縄の戦域で日米台の軍事力を上回るが、地球規模の戦略域では米国の核戦力が中国を圧倒しており、中国が台湾に武力侵攻できない理由の一つとなっている。しかしここでも中国が米国に追いつきつつあり、米国はいずれ中露、2つの核大国に向き合うことになる。
そうした中で、安倍晋三元首相が指摘したように台湾有事は日本有事、日米同盟有事という厳しい現実にわが国は直面する。台湾海峡の平和と安定を重視し、台湾を守る立場を、菅義偉前首相がバイデン米大統領との会談で公約し、岸田首相も明言した。
状況は非常に厳しいと予想されるが、それでもわが国は活路を切り開く、前に進む、これが日本だと呼びかけるのが国のリーダーの責務である。台湾の蔡英文総統は有事に備え予備役強化を図る「全民防衛動員署」を新設し、国民全員で国を守る姿勢を世界に示そうと訴えた。安全保障を米国に頼ってきた日本も、今、目覚めて全員で日本を守る決意を世界に示すときだ。
岸田首相にはもう一つの重大な役割がある。断じて中国に誤解させないことだ。日本は中国の侵攻を許さず、必ず反撃すると明確に伝え続けなければならない。その決意を予算と国防政策の両方で特筆する形で見せていき、日米同盟を筆頭にあらゆる国々との連携強化を「スピード感」を持って進めるのがよい。
岸田首相は「本格的な首脳外交」と「徹底した現実主義」で「新時代リアリズム外交」を推し進める、と表明した。新時代リアリズム外交とは①自由、民主主義、人権などの普遍的価値観の重視②気候変動、新型コロナウイルスなど地球規模課題の解決③わが国を守り抜くための備えの強化だという。
これら全て、焦点は中国への向き合い方だが、対中国で首相は揺らいでいないか。首相が誇る自民党宏池会(岸田派)は「自由を渇望」して誕生した、と「核兵器のない世界へ」(日経BP)で首相は書いた。自由の希求が宏池会の原点ならば、ウイグル人、香港人、チベット人やモンゴル人から根こそぎ自由を奪っている中国になぜ抗議しないのか。中国の人権侵害に対する国会の非難決議の要求を、公明党が主張したにしても、なぜ潰したのか。
北京冬季五輪・パラリンピックに政府使節団などを派遣しない「外交的ボイコット」は米国、英国、豪州、カナダなどに遅れること半月以上、中国へのいじましいばかりの遠慮は人権侵害も他民族の虐殺も、更には他国の領土の切り取りさえも許されると中国共産党に誤解させかねない。
岸田首相はまた、わが国の平和と安全を守り抜くために敵基地攻撃能力も排除せず、現実的に対処すると繰り返すと同時に「核なき世界を目指す」とも語り続けている。「現実的に」分析すればわが国周辺こそ地球上でミサイル、核の密度が最も高い地域だ。その中で核なき世界をどう達成するか。岸田首相が尊敬するオバマ元米大統領は核なき世界を目指すと演説し、ノーベル平和賞を受けた。しかし彼は「戦後、最も核弾頭を削減しなかった大統領」だった。米紙ニューヨーク・タイムズが「概念と実績の大きな乖離(かいり)」として批判した点だ(2016年5月28日)。
他方オバマ氏は核なき世界を掲げる一方で、米国保有の核兵器の品質保全と機能改善のために30年間で1兆ドルの予算を計上した。強大な核の力を持って初めて核なき世界への交渉を主導できる。全てが力の世界であることを、あのオバマ氏でさえ知っていた。1発の核さえないわが国の首相が核なき世界を目指すなら、発言力を持つために核の保有が必要だということだ。交渉のための材料も力もない理想論は空論に近い。岸田首相も現実を見ることが大事ではないか。
わが国は対中外交で多くの失敗をした。国の根本的な政策も間違えた。その多くが宏池会が政治を主導していたときに起きている。
宏池会の源流となる吉田茂元首相は当時の日本の経済的貧しさと国民の軍に対する忌避感の強さの前で再軍備の助言を退け続けた。池田勇人元首相は前任の岸信介元首相による日米安全保障条約改定に対するすさまじい反対におじけづいて経済成長推進に特化した。宮沢喜一元首相は慰安婦問題で韓国や中国の反日世論に圧倒されて、証拠もないのに慰安婦強制連行説を韓国政府に8回も謝罪した。
加藤紘一元幹事長も河野洋平元衆院議長も、中韓両国の反日世論および国内の左翼勢力の圧力の前で証拠もなしに慰安婦の強制連行を認めた。宏池会は圧力の前で耐えきれずに国家の根幹に関して妥協し、くずおれた。
岸田首相には発想を変えてほしい。宏池会の原点である自由や民主主義を大事にして、主張してほしい。「中国は巨大かもしれない。それでも私たちは価値観において正しい。だから勇気を持って声を上げ続けよう。広く世界に訴えよう」と。
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中国を巨大にしてしまった日本と欧米。その日本と欧州が今や中国の経済力や軍事力の前に忖度を繰り返している様は、なんとももどかしく思えます。確かにまともに中国への批判や非難をすれば、倍返しされるのは目に見えています。そしてそれは賢い対応ではありません。
長期的視野に立って、徐々に中国から経済的な自立をしていく、それを自由主義陣営のまとまった動きにしていく。そして差し迫った台湾海峡の有事には、日米豪プラス英印の一体となった防衛力で牽制し、できるだけ無力化していく。そうした動きに積極的に加わっていくことが肝要でしょう。
しかし現実には櫻井氏の指摘のように、岸田政権の腰は重い。岸田首相には所信演説で述べたように、「新時代リアリズム外交」を口先だけではなく、しっかりと実行に移す責任があります。過去の「宏池会」領袖たちの失政に決して陥ることなく、新時代の「宏池会」として日本の国益に資するよう、手綱をを引きしめて欲しいと思います。そうでなければ総裁選再選の目は消え去っていくでしょう。
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