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2022年8月20日 (土)

止められるか中国に盗まれる重要技術、極めて重要な「経済安全保障」の枠組み

Images-8_20220820101401  日本の技術が他国、特に中国に流出しているという話が、以前から取り沙汰されています。流出の中身は漏洩、窃取そして持ち出しなどがありますが、ハッキングなどの手段やスパイ行為など、多くは違法な形での流出となっています。いずれにしろそれが中国の軍事技術に応用されている実態もあり、安全保障上ゆゆしき問題となっているのが現実です。

 こうした状況の中、「経済安全保障推進法」が成立し、経済安全保障所管大臣に高市早苗氏が就任、遅まきながら対応に向けて動き出しました。これまでの流出の実態とその影響、今後の課題を日本戦略研究フォーラム政策提言委員の平井宏治氏が週刊新潮に寄稿しているので引用して紹介します。タイトルは『中国の「極超音速ミサイル」に日本の最先端技術を流用か 注意すべき「スパイ留学生」の実態』です。

 すべての人民にスパイ行為を、また外国企業には技術移転を強要する中国。かつての“世界の工場”は、経済面でも日本や西側諸国の深刻な脅威と化した。日本戦略研究フォーラム政策提言委員の平井宏治氏が、我が国が直面する経済安全保障リスクの現実を解説する。

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 去る5月11日、「経済安全保障推進法」が参議院本会議にて賛成多数で成立した。(1)半導体などの重要物資を安定的に確保するサプライチェーンの強化(2)サイバー攻撃を想定した電気や鉄道など14分野の基幹インフラに関する事前審査(3)宇宙や量子などに関連する先端技術開発における官民協力(4)原子力や自衛隊の装備品に関する特許の非公開という四つの骨子からなる法は、今後の日本の安全保障環境に大いに資することは明白だ。

 にわかに注目を集める「経済安全保障」とは何か。法案の狙いとその課題を検証する前に、法整備が急ピッチで進められた背景を振り返っておきたい。

 覇権主義国家と化した中国は、日本をはじめとする西側諸国が持つ高度な技術の取り込みをもとに、急激かつ圧倒的な軍事的拡大を進めている。国際法をものともせずに「力」による世界秩序の変更を目指すかの国の脅威は、いよいよ我が国の安全保障に留まらず、一般庶民の日常生活にも影を落とし始めているのだ。

経済面における安全保障が必要な最大の理由

 例えば、コロナウイルスの感染が日本で広がった一昨年のことを思い起こしてほしい。街中のドラッグストアから、マスクや消毒用アルコールが忽然と消え、医療用手袋、ガウンといった医療関係者の必需品が手元に届かない事態が生じた。それにより、各地の医療現場では手術どころか診療もままならない事態に陥った。

 その理由は、日本で使用されている医療用手袋などの9割以上が中国製に頼っていたからだ。当時は「サプライチェーンの問題」と繰り返し報じられたから、ご記憶の方も多いだろう。

 中国に限らず、特定の国や地域に医療用品の調達を頼っていては、相手国との関係が悪化して輸出を止められた場合、途端に医療崩壊が起きてしまう。これが経済面における安全保障が必要になった最大の理由だ。

 独裁国家の中国は、軍拡と経済成長が一体化した歪な国だ。技術開発は軍事組織がリードし、その成果を民間企業が生産・販売して国家の経済成長を図る。この方針は「軍民融合政策」と呼ばれ、人民の生活や権利など二の次として国力増強を目指す。

 軍民融合政策の背景にあるのはハイテク技術を駆使した戦いだ。現代における戦い「智能化戦争」と呼ばれ、主に人工知能(AI)や高速インターネット通信、自動運転技術といった最新技術が“兵器”に活用される。中国は超大国であるアメリカに勝利を収め、自国に有利な世界秩序に変更することを企図している。

Images-7_20220820101401 スパイだった東北大学助教授

 少し長いが引用する。

〈マッハ5以上の速度で飛行し、現状のミサイル防衛では迎撃が困難とされる極超音速兵器。戦争の様相を一変させる「ゲームチェンジャー」とも称される最新技術の開発を巡り、中国が日本の知見を流用した恐れがある――。

 公安調査庁はこう警告する報告書を関係閣僚にひそかに提出した。昨年5月のことだ。

 報告書は「我が国から帰国後、中国の大学・研究機関で極超音速関連研究に従事する中国人研究者が多数存在する」と指摘し、ジェットエンジンや流体力学、耐熱素材などの専門家9人を挙げた。

 同庁関係者によると、うち1人は中国の軍需企業傘下の研究所研究員を経て1994年、東北大の助教授に就任。科学研究費助成事業(科研費)を受け、宮城県の宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))の関連施設に出入りした。2000年頃、中国に戻ると、中国科学院の研究所に所属し、17年にJAXAの施設と形状が似た極超音速実験施設の開設に関わったという〉

 これが事実なら、日本独自の高度な技術が国立大学を通じて中国に渡り、それがほぼ迎撃不能とされる最新兵器の開発に利用されたことになる。これまで日本の学術界は一貫して「軍事技術開発には協力しない」との立場を取ってきた。ところが実際には、日本の安全保障には一切協力しないが、その裏では中国の軍拡にせっせと協力していたのだ。日本学術会議は、先の主張に基づいて、国防七校と提携する大学に提携の破棄を求めるべきだ。

世界の製造覇権国家

 2015年5月、中国政府は軍民融合政策と智能化戦争への準備が組み入れられた産業政策「中国製造2049」を公表した。そこには、中国共産党が主導した中華人民共和国の誕生から100年後に当たる2049年に、中国が米国に取って替わって“世界の製造覇権国家”になることが目標と明記されている。

 そのスケジュールは明確で、2025年までに中国が製造強国入りを果たし、2035年までに製造強国の中堅ポジションに入り、2049年までに製造強国のトップになる、というものだ。対象は以下の10の産業分野である。

・次世代情報通信技術(IT、半導体を含む)

・先端デジタル制御工作機械とロボット

・航空・宇宙設備

・海洋建設機械・ハイテク船舶

・先進軌道交通設備

・省エネ・新エネルギー自動車

・電力設備

・農薬用機械設備

・新材料

・バイオ医薬・高性能医療機器

 中国政府はこれらの目標達成のために、海外企業から技術を窃取している。各企業に中国市場へのアクセスを許可する代わりに、保有技術の開示を要求するのだ。ただ、その実態は強要である。

日本の3社が世界的なマーケットシェアを失う事態に

 7月3日、読売新聞は〈中国政府が、日本を含めた外国オフィス機器メーカーに対し、複合機などの設計や製造の全工程を中国内で行うよう定める新たな規制を導入する方針であることがわかった〉と報じた。

 これが典型的な例だ。複合機は富士フイルムビジネスイノベーション、キヤノン、リコーの3社が知的財産権をクロスライセンスしている。複合機の電子写真技術には、物理、化学、電気、精密機械などの複合技術が使われる。

 これらの技術を開示したら最後、中国は手に入れた技術をもとに独自の製品を生産し、WTOルール違反の疑いがある産業補助金を使ったダンピング輸出を各国に向けて行うだろう。その場合、日本の3社は世界的なマーケットシェアを失って、壊滅的な打撃を受けることになる。しかも、ネットワークにつながっている複合機にバックドア(不正侵入の入り口)を仕掛け、そこから機密情報を盗み出すことも可能になるのだ。

 中国製造2049の第2段階である「中国標準2035」では、中国がIoT、情報技術機器などの国家標準や業界標準の国際標準化を推進することが目標とされている。日本政府はすぐにも電子写真関連技術をコア業種に指定して、日本の技術を保護しなければならない。

全ての国民にスパイ活動を強いる法律

 外国企業が抱えるリスクはほかにもある。「国家情報法」の7条で、すべての国民にスパイ活動を強いており、「いかなる組織及び個人も法に基づき国家諜報活動に協力し、国の諜報活動に関する秘密を守る義務を有する」とされている。つまり、日本企業で働く中国人従業員や日本の大学に留学する中国人留学生が、企業や研究機関で知り得た機密情報を窃取する事態が憂慮されるのだ。

 ほかにも、恣意的濫用が懸念される中国版エンティティ・リスト、輸出管理リストと輸出管理法をはじめ、裁判や法務当局とは関係なく政府の判断だけで外国や国内外企業への報復を正当化する「反外国制裁法」、国内で開発された技術や製造物などのデータの国外移転を厳しく管理・規制する「データ安全法」と「個人情報保護法」がそれぞれ施行済みだ。

 習近平が率いる中国は、かつての指導者・トウ小平が掲げた「改革開放路線」を打ち捨てて、自身の権力基盤を盤石にする「統制と規制路線」へと舵を切った。そんな中国の無法を西側諸国も見過ごしてはいない。

 米国は中国製造2049が、中国に莫大な利益をもたらし、米国から国際的な覇権を奪う意図がある、と受けとめた。すぐに議会も動き、2019年度国防権限法を成立させ、外国企業が米国の機微技術や軍民両用技術を持つ企業を買収する際は、対米外国投資委員会が厳格に審査するよう改めた。

 英国や欧州連合(EU)においても、中国を念頭に置いた企業買収の厳格化を進めており、先端技術の海外移転に対する規制強化が着々とはかられている。

 わが日本も例外ではなく、2020年に「外国為替及び外国貿易法(外為法)」を改正した。政府は武器や装備品をはじめ、航空・宇宙、原子力、電力、通信、鉄道、上水道などのインフラ事業をコア業種に指定。上場会社や非上場会社を問わず、事前申請対象を拡大して条件を厳格化する措置を講じた。

台湾が侵攻された場合、石垣島なども攻撃対象に

 では今後、中国が台湾の侵攻に踏み切った場合はどうか。人民解放軍の矛先は、彼らが「台湾の一部」と公言する尖閣の島々に留まらず、石垣島や西表島、宮古島を含む先島諸島の全域も攻撃の対象になるだろう。

 調査会社の帝国データバンクによると、2020年1月時点で中国(香港とアモイを除く)に進出している日本企業は1万3646社に上る。2022年2月時点でロシアに進出している企業は約370社というから、実に36倍以上の規模だ。それだけに有事の際には多くの日本人が中国当局に拘束されたり、行方不明になることが予想される。中国内に保有している資産や施設などが取り上げられれば、経営には甚大な影響が及ぶ。場合によっては倒産という事態にもなりかねない。

「強力な反撃・威嚇力を形成」

 さて、わが国の経済安全保障推進法である。一つ目のサプライチェーンの強化とは、既存の供給網の脆弱性を確認し、それを修正・補強することだ。半導体や医療品をはじめ、一旦供給が途切れたら国民生活が破綻するものは供給網の安全を確保し、常にリスクを分散させ、必要に応じて回避していくことが必要だ。

 過去20年で世界経済のグローバル化は飛躍的に進行した。「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」は、国境を越えて自由に行き来する時代とされ、日本からは多くの工場が中国や東南アジアなどの海外に移転し、国内にあった生産拠点は閉鎖された。一方で、一昨年4月には中国共産党中央委員会の機関紙「求是」が、習近平総書記の「産業の質を高めて世界の産業チェーンのわが国への依存関係を強め、外国による人為的な供給停止に対する強力な反撃・威嚇力を形成する」という指示を報じた。

中国の明白な意志

 もはや中国は明白な意志をもって、経済的影響力を通じて周辺諸国をひざまずかせようとしている。サプライチェーンの見直しが個別企業の安全に留まらず、日本の安全保障に直結していることがお分かりいただけるだろう。

 二つ目の柱は、国民生活の土台となる基幹インフラの安全確保だ。通信、電力などの各種エネルギー、水道、輸送といった基幹インフラのほとんどは、いまや情報通信技術で支えられている。ここがサイバー攻撃を受けて通信や物流が遮断されたりかく乱されたりすれば、私たちの日常生活はすぐに立ち行かなくなる。

 だからこそ、基幹インフラ関連事業者は、設備投資の際にマルウエア(悪意のあるプログラム)の有無や、バックドアなどのスパイ機能が仕込まれた機器の購入の回避、取引先企業と懸念国の資本関係の有無などを確認する必要がある。

 過日、中国国営企業の上海電力が日本法人を通じて台湾有事の際に防衛の要となる、山口県の岩国基地の近くに設置されていた7万5千キロワットもの大規模太陽光発電所を買収した。

 前述の通り、中国には国防動員法がある。中国共産党の思惑で、有事の際に岩国基地へ影響が生じることはないのか。国の基幹インフラ事業に中国の国営企業の参入を許す、政府の姿勢には大いに問題がある。

日本の技術、生産物を経済的抑止力に

 そして三つ目の「高度な技術開発における官民協力」とは、わが国が各国から依存されるような強みを持つことだ。仮にどこかの国が日本と深刻な対立関係に陥った場合、その国が日本に大きく依存する物品の輸出を制限することは、外交上の有利なカードとなり得る。

 それこそ2年前に中国の医療用品の輸出制限で日本が混乱したように、経済活動や生活に必須な物品の輸入を日本に頼っている国は、ひとたび国内が混乱に陥れば、たちまち音を上げてギブアップするだろう。今後、日本の高度な技術や生産物は大いなる経済的抑止力となるのだ。

 ただし、これには「セキュリティークリアランス制度」の導入が不可欠だ。これは秘密情報を扱う人物の適格性を確認する制度で、研究者を装って入国してくる他国のスパイ対策である。過去には国会で議論されたが、公明党などが個人情報の保護を理由に反対し、導入が見送られた経緯がある。

 民間人を対象としたセキュリティークリアランス制度は、米、英、カナダ、豪、ニュージーランドをはじめ、欧州の主要国では導入されている。いまだ導入のメドすら立たない日本は、西側諸国との機密性の高い共同研究に参加できない不利益も被っている。とくに防衛関連や情報通信産業から、共同研究や製品発注などの話がもたらされても対応できていないのが現状なのだ。

特定の特許出願を非公開とすべき

 四つ目の技術特許の非公開は重要だ。現行制度では、新たな発明は出願から1年6カ月を経過すると一律に公開される。仮に国の安全保障に関わる重要な発明であっても、一定期間が過ぎれば世界中に公開されてしまうのだ。実際に公開された特許情報が外国により核兵器の開発に利用された例もあると聞く。だからこそ、特定の特許出願を非公開とし、国内外への安易な流出を防ぐ必要がある。

 経済安全保障推進法は成立したが、日本が抱える課題はいまなお山積している。政府は一刻も早く、同法の不備を改め、実効力あるものに強化しなければならない。

 この記事を読むまでもなく、経済・軍事分野の戦略性、計画性に於いては、日本は中国の足元にも及びません。日本がいくら経済大国、技術大国を誇ってもそれは過去のこと、今では中国にいくつかの技術では追い越されているのが実態です。それもやはり多くの部分、戦略性のなさが要因となっているように思います。

 高市経済安全保障担当相に期待する部分は大きいのですが、彼女一人ではやはり力不足です。一方の中国は独裁国家ですから、政権が決めたことは反対もなく即決即断できます。日本は野党や反日マスコミというやっかいな阻害分子がいて、時間もかかり中身も抜け穴だらけとなりやすい。特定秘密保護法制定の時など、野党や朝日新聞などの反日メディア、日弁連などが反対の大合唱を起こしたことは記憶に新しいと思います。こうした政治構造の違いも日中で大きな計画性の格差を生じさせています。

 いずれにしろ今からでも遅くありません。独裁国家の中国に世界の覇権を取らせては絶対になりません。旧統一教会問題に明け暮れする、政治やメディアの昨今を見ると実に嘆かわしいと思いますが、そんな現状に目を奪われず、粛々としかも早期に経済安全保障のしっかりとした枠組みを作り出して欲しいと思います。

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