韓国を襲った未曾有の洪水被害で浮かび上がった、経済の危ない現実
今回は久々に韓国の話題です。8月の初旬韓国では未曾有の豪雨に見舞われました。日本でも近年豪雨被害は毎年のように発生していますが、韓国の豪雨は日本ほど騒がれていませんでした。そうした中での今回の豪雨、かなりの被害を出したようです。
韓国系企業に勤務の経験を持つフリーライターの田中美蘭氏が、現代ビジネスに寄稿した記事から引用します。2記事続けての寄稿で、タイトルの一つは『「日本に勝った」韓国で、国民から“不満が大噴出”…!悲劇の「豪雨災害」で浮かび上がった「深刻な問題」』、もう一つは『韓国が騒然、豪雨で「半地下住宅の悲劇」…!あの「映画『パラサイト』の光景が現実になった」という、韓国経済の“危ない現実”』です。以下に引用して掲載します。
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韓国「豪雨」の悲劇
熱波や洪水、干ばつなど世界で異常気象が続く中、ここ韓国でも先日、観測史上最高となる雨量を短時間で記録し、首都ソウルを中心に甚大な被害が出た。
大量の雨は都市の姿を一瞬にして変え、自然の前に都市機能がいとも簡単にダメージを受ける様子をまざまざと見せつけられた。
各地で未知なる自然災害が頻発する近年、いかに被害を食い止め、事前の予報や告知を行っていくかという課題は年々大きくなっている。
もともと、今年の韓国は雨量が平年と比べて少なく水不足の懸念もされていた。
現在、韓国国内をツアー中のPSY(サイ)のライブでは「びっしょりショー」というタイトルの通り、大量の水を客席に向けて放水する演出が話題を呼んでいる反面、「水不足の時期に水の無駄使いをするとは何事だ」という批判も出ていたほどだ。
このように、当初は水不足から農作物への影響も心配されていた矢先、8月8日の夕方、ソウル及び、首都圏である京畿道(キョンギド)を中心に降り始めた雨は急速に雨足が強まり、降水量が1時間に100mmを超える地点が続出した。
また、帰宅ラッシュと豪雨が重なったことも被害を大きくした。
豪雨が浮かび上がらせる「深刻な格差問題」
一等地で人気エリアの江南では、多くの車が腰の高さほどまでの大量の雨水が流れ込往生をした。
また、雨水は地下鉄の駅構内や建物の地下にも雨水が押し寄せ被害を及ぼす結果となった。
江南が洪水に見舞われている光景に衝撃を受けた人も多かったが、もとは江南をはじめとするソウルの南部は海抜も低く水はけの悪い地域であったことから、今回の豪雨での被害は起こるべくして起こったとも言え、2019年に関東地方を襲った台風19号でやはり人気エリアの武蔵小杉が水害の被害にあったことを思い出させた。
もともと韓国経済をめぐっては格差拡大に国民の不安が高まっていた中、今回の豪雨災害では半地下住宅の住民の被害が報じられるなど、災害がさらに格差問題をクローズアップさせている側面は見逃せない。
人命や物損被害の爪痕は大きい上、ソウル近郊の農地でも被害が出たことで農作物の不作や高騰が予想される中、来月に控えた旧盆の秋夕(チュソク)さらには冬のキムチジャン(キムチ漬け)などにも影響を及ぼすことから、さっそく国民の不満がさらに噴出している。
一人当たりGDPで日本を追い越すとして「日本に勝った」「日本を超えた」との声も出ていた矢先、災害への弱さに加えて、ここへきて韓国経済が抱える深刻な問題が浮上してきた形といえるだろう。
ある家族3人の「悲劇」
8月11日現在、今回の豪雨による被害は死者12名、行方不明者7人、被害家屋3,796棟、避難者は約6,000人と発表されている。
増水によって川辺の公園や遊歩道が水没した漢江や支流の川では水が引き始めているものの、以前として流れが速い上に木々や該当、看板がなぎ倒されてその勢いの激しさを物語っている。
また、道路の通行止め区間には、水没の被害を受けた車がいまだに放置されているほか、地下鉄も一部区間での運休や、エレベーターやエスカレーターが使用できず高齢者や障がい者の駅の利用に困難をきたすなどまだまだ被害が続いている。
そして、今回の豪雨で「悲劇」として伝えられているのが、ソウル市内の半地下住宅に住んでいて家族3人が犠牲となったことである。
映画「パラサイト」の光景が現実になった、と…
死亡した40代の女性2人は姉妹で、姉には障害があり、妹には10代の娘がいた。
また、姉妹の70代の母親もこの半地下住宅で暮らしたものの、最近は体調を崩し入院中であったために今回の難を逃れたという。
自宅にいた3人が外に出ようとした時には既に玄関の扉は水圧で開かず、また、窓からの脱出も狭い上に防犯のために取り付けられている格子によって阻まれたことが命を落とす結果となり、壮絶な状況を想像しただけで胸が締め付けられる。
半地下住宅はボン・ジュノ監督、ソン・ガンホ主演でアカデミー賞も獲得した『パラサイト・半地下の家族』で一躍注目を集め、世界に知られることとなった。
映画でも、一家の半地下住宅が大雨に見舞われ、水浸しになるシーンがある。命からがら家から脱出した家族が近所の待避所(避難所)で一夜を明かすシーンが描かれている。
映画の影響もあり、半地下住宅は「格差社会の象徴」のように語られるが、もとは朝鮮戦争時の倉庫や防空壕の役割を果たしていたこと、さらに、1980年代の韓国の経済成長で都市部での住宅需要に対応するために半地下の部屋を備えた建物が多く建設され「家賃が安い」といった理由などから当時は人気を集めていた。
しかし、老朽化や再開発による取り壊しで半地下住宅は減少を続け、現在では低所得者が居住する場所というイメージが定着していた。
今回の被害を受けて政府は今後、地下、半地下を住居目的として建築することは法律で禁じることを発表した。
自然災害への「耐性」
日本と比較して韓国はもともと地震もないとされ、雨や台風といった自然災害は多くないというイメージであった。
実際には雨量については、東京の年間降水量が1,528mmであるのに対し、ソウルは1,233mmである。このため、韓国の人々の間では「自然災害は少ない」と危機意識が薄いという印象を感じていた。
自然災害に限らず停電や断水など日常生活における緊急時の備えの大切さを日本の感覚で伝えても「大げさな」という反応で返され、笑われることも多かった。
しかし、2016年9月に南東部の慶州(キョンジュ)、2017年11月にやはり南東部の浦項(ポハン)でそれぞれM5.8とM5.4のこれまでで韓国内で観測された最大規模の地震が起きた。
地震の揺れは第2の都市・釜山でも感知され、地震の揺れに慣れていない人々は半ばパニック状態となった。
「半地下家族の悲劇」を繰りかえさないために
釜山在住の日本人に当時のことを聞くと、居住する高層アパートでも揺れを感じたものの、日本での地震と比較すれば大したことはなく慌てることはなかったものの、周囲は地震に対する恐怖心を隠しきれない様子であったという。
またアパートの緊急放送で「この建築物は耐震設計をしているので落ち着いてください」というアナウンスが流れたものの、「日本のような大地震を経験したことがない韓国でいくら『耐震設計がしてある』と言われても説得力に欠ける」という意見を聞いてなるほどと思った。
この時の地震を期に韓国内では学校や公共施設を自然災害時の退避場所として指定し、表示などを義務化するようになった。
また、各自治体による携帯電話への注意喚起も行われるようにはなっている。
しかし、今回の豪雨では注意喚起だけでは不十分であることが浮き彫りとなり、前項の半地下住宅の家族の悲劇も日本のようなメディアや自治体を通じた避難勧告があれば防げたかも知れず、悔やまれる。
新たに浮上した「課題」
今回の豪雨は新たに災害への退避勧告の基準を整えて行くことや、災害に対応した住居や都市部の治水対策などが課題になったといえる。
世界各地で例を見ない異常気象やそれによる災害が起こっていることを鑑みれば「韓国は大丈夫」という正常性バイアスはもはや通用しない。
時間をかけてでも意識を変えて自然災害に備えていくしかないだろう。
◇
災害列島日本では、地震や台風での災害の対応が、おそらく世界でもトップクラスのレベルに達していると思われますが、これは毎年のように発生する大地震や風水害の経験に基づく、対策に対する知恵のなす業でしょう。
しかし韓国に限らず、もともと災害の少ない国にとっては、近年の地球温暖化によると思われる異常気象による天候異変は、未曾有の経験となり、対応に苦慮しているに違いありません。
そこで今後日本はこの災害対策施策やグッズが、競争力のある商品となり、復旧支援もかねての大きな戦略商品の一つになるものと思われます。自然災害ではありませんが、将来ウクライナへの復興支援も必要となるでしょうから、重機販売や建設業への仕事も増えることが予想されます。
ところで韓国の所謂「格差問題」や少子化問題、また前文政権の残した不動産価格高騰問題など、韓国を取り巻く経済的な下押さえ要因は多く、中国同様もはや経済的ピークを過ぎたのかも知れません。何度も取り上げていますが、円安を契機に中韓に進出している企業の国内回帰が急がれるように思いますね。
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