米国が構想する「核の3本柱」 中国脅威への対応 対する日本は
最近何度となく語られる、独裁国家中国の軍事拡張の現実。今回は核の脅威について取り上げます。
産経新聞の外信部編集委員兼論説委員で前ワシントン支局長黒瀬悦成氏が、同誌に寄稿したコラムを引用して紹介します。タイトルは『米国を知るキーワード 「核の3本柱」確立 中国脅威への危機感』(12/17公開)です。
◇
米国防総省は11月29日、中国の軍事力に関する年次報告書を公表し、中国の核弾頭保有数が2035年に約1500発に達するとの見通しを初めて明らかにした。運用可能な中国の核弾頭は21年に400発を超えたとされ、急速な核戦力の強化と近代化に米国は危機感を募らせている。米国とロシアに続く「第3の核大国」を目指す中国の脅威への対処は国際社会の急務だ。
「私たちは中国がもたらす、世代間にわたって刻々と深刻化する難題に挑戦しているのです」
オースティン米国防長官は12月3日、西部カリフォルニア州での講演でこのように述べ、中国が米国の安全保障政策を左右する重大な脅威であるとの認識を改めて示した。実は、このpacing challengeという言葉が頻繁に使われるようになったのはここ数年のことで、今のところ定まった日本語訳もない。
もともとはオースティン氏が21年1月19日、上院軍事委員会での、自身の指名承認公聴会に提出した書面で「pacing threat」という文言を使ったのが初めてとされる。
その後も同氏はこの2つの用語に幾度も言及。同年3月に東京都内で開かれた外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)に関する日本外務省の報道発表は、pacing threatに「刻々と深刻化する脅威」との訳語を使用した。
一方、オースティン氏は公聴会で中国に関し「そう遠くない将来に世界の大国になろうとしている。今から彼らの攻撃的行動を確実に阻止すべきだ」と指摘しており、用語には中国の脅威が、米国が軍事戦略や戦備を構築する「ペース(速度)」を規定するほどの最優先課題であるとの意味合いも込められている。
増え続ける核弾頭
実際、国防総省の年次報告書が示した中国軍の実態は米国および日本などの同盟諸国に厳しい現実を突きつけるものだ。
同省は2年前、中国の核弾頭数を「少なくとも200発」と推定していた。今回の報告では「中国が向こう10年間で核戦力を近代化、多様化させ、拡大させようとしている」と指摘。弾頭数は21年の時点で400発を超え、27年に700発、35年に1500発に増えると予測した。
また、1基の弾道ミサイルに複数の核弾頭を積み、それぞれが別個の目標を攻撃できる「複数個別誘導再突入体」(MIRV)能力を備えた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の東風41(射程1万2000キロ)を配備しつつあるとした。
東風41は最大3発の弾頭を搭載し、従来の東風31系列のICBM(同7千~1万1200キロ)に比べ射程や命中精度が向上した。
094型(西側通称・晋級)戦略原潜6隻による外洋での連続航行抑止哨戒も実施している。各原潜は最大で12基の巨浪2(同7200キロ)または巨浪3(同1万2000キロ)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載可能という。
さらに、中国空軍は核搭載の空中発射型弾道ミサイル(ALBM)を搭載可能な戦略爆撃機H6Nを作戦配備し、ICBMとSLBM、戦略爆撃機で構成される「核の3本柱(トライアッド)」を確立させた。中国国営メディアによればステルス機能を有するH20爆撃機も開発中という。
米国に対抗して、ICBMよりも高度が低い人工衛星の軌道を通って目標を攻撃する、極超音速滑空兵器(HGV)による「部分軌道爆撃」(FOB)システムの開発にも力を入れており、21年7月には実験兵器を約4万キロ飛行させることに成功した。
先制不使用放棄か
加えて報告書が注目するのは、中国が国内3カ所で固体燃料式ICBMの東風31、41向けサイロ(地下格納・発射施設)の建設を進め、その総数が300を超えたとみられることだ。
固体燃料式のミサイルは誘導制御が比較的難しい半面、液体燃料式のように発射直前に燃料を注入する必要がない。このため相手のミサイル発射を察知したのを受けて即時発射が可能な利点がある。
中国は、自衛のために最小限の核戦力を保有し、他国から核攻撃を受けない限り核兵器を使わない「先制不使用」を原則としていると主張する。
だが、中国による固体燃料式ICBMおよびサイロの整備は、中国が米露と同様に、相手の弾道ミサイルが発射されたという警報発令を受け、その着弾前に反撃のミサイルを発射する「警報即発射」(LOW)の態勢構築を進めていることを意味する。
米軍関係者や専門家はこうした動きに関し、中国が先制不使用原則を放棄し、より攻撃的な核態勢への転換を図っている兆候だとして警戒を強めている。
しかも中国は、他の核保有国に対しては「戦略的安定性の強化」のためLOWを放棄するよう唱えつつ、弾道ミサイルの開発や実験、配備の自制などをうたったハーグ行動規範への参加を拒否し、偶発的核戦争のリスク低減を目指す国際的な信頼醸成措置にも背を向け続けている。
米も近代化に本腰
対する米国も核戦力の近代化に本腰を入れた。
核の3本柱のうち、戦略爆撃機をめぐっては現行のB52ストラトフォートレスやB2スピリットの後継となる、無人運用も可能な世界初の第6世代戦略爆撃機、B21レイダーを25年頃に配備する予定だ。
ICBMについては、現在配備されているLGM30Gミニットマン3(射程1万3000キロ)の耐用年数を延長させる一方、後継のLGM35センチネル(射程不明)を29年頃に配備する計画を進めている。
戦略原潜に関しても、1981年に初就役したオハイオ級に代わり、最新のステルス性能などを備えたコロンビア級計12隻を31年から順次就役させることを目指している。
日米同盟の深化を
米露の核戦力は、2011年発効の新戦略兵器削減条約(新START)に基づき戦略核弾頭の配備数を1550発以下、ミサイルや爆撃機などの運搬手段の総数を800以下(うち配備数は700以下)に減らすよう定めている。一方、中国は同条約に縛られず、自由に核戦力を拡大させていくことができる。
将来、中国の核戦力が米国と肩を並べるとどうなるか。米国は日本や韓国に拡大抑止(核の傘)を提供しているが、その実効性に疑問符がつくことも想定される。米国が日本を守るために核使用に踏み切れば、中国がICBMで米本土を報復攻撃するリスクが一層高まる。そこで米国が核使用に慎重になれば、中国が「核の脅し」で勝利を得ることになるからだ。
米国としては核抑止力の充実にこれまで以上に力を入れる必要がある。一方で米国の相対的な軍事力が低下傾向にあるのは否定し得ない事実だ。現時点で自前の核保有という選択肢を持たない日本としても、通常戦力を含めた総合的な対中抑止力の強化に向けて日米の同盟関係を深化させていかなくてはならない。
◇
恐らく中国に対しては、日本の軍事力は対等には戦えないほど、格差が生じていると思われます。2027年を見据えた防衛力の整備を行ってもまだまだ追いつかないでしょう。核に於いては全く論外と言えます。
従って米国との同盟関係が死活的に重要となってきます。ですが今までの関係の延長では対応できないと思います。より主体的により戦略的に、核戦略も含めて同盟関係を再構築していかなければ、この巨大化した軍事大国には立ち向かえないでしょう。
よろしければ下記バナーの応援クリックをお願いします。)
(お手数ですがこちらもポチッとクリックをお願いします)
« 40年前開発のトマホークでは日本は守れないこれだけの理由。ここは国産での開発に集中すべきだ | トップページ | ゼロコロナ止めた途端に感染爆発の中国、中央経済工作会議で自画自賛の不思議 »
「安全保障」カテゴリの記事
- 有本香氏:あの「中国気球」について衝撃事実 2~3月に多数が日本海に飛来も…当局は政治的影響に鑑み「対処しない」決定していた(2023.04.13)
- 撃墜で一気に緊迫、「気象研究用が誤って米国に進入」のわけがない中国気球 日本でも過去に偵察活動(2023.02.07)
- 米国が構想する「核の3本柱」 中国脅威への対応 対する日本は(2022.12.23)
- 今やイスラエルに匹敵する周辺の安全保障環境の日本、しかし両国の安全保障観は別世界だ(2022.11.06)
- 日本に戦後最大の安全保障危機、台湾・朝鮮半島「連動有事」11月勃発か(2022.11.02)