今進行中の円安のメリットを生かし、「製造業の国内回帰」を積極化しよう。そのためには電力コストの引き下げが必須
一時は1ドル150円台をつけた円安、ただ今月17日朝の時点で136円後半と、やや持ち直してきています。これはアメリカの利上げペースが0.75ドルから0.5ドルと、ややペースダウンしたことが大きいとされています。それでも年初に比べれば20円以上円安に振れたことになり、その影響が食料やエネルギーの輸入価格を押し上げる要因になっています。
しかし悪いことばかりではありません。円安は相対的に日本の物価が、海外(正確に言えばドルをはじめ円に対する通貨が高くなっている国)より安くなっています。端的な例が外国人観光客へのメリットでしょう。輸出企業にも恩恵があります。更に言えば賃金も相対的に下がっていることになり、安い賃金を求めて海外に進出した企業の国内回帰のインセンティブが働くことにもなります。
それについて産経新聞の正論欄に寄稿した、産業遺産情報センター長で元内閣官房参与の加藤康子氏のコラムを見てみましょう。タイトルは『製造業の国内回帰を支援しよう』(12/16公開)で、以下に引用します。
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米国の中間選挙が終わり、利上げペースが減速するなか、円安傾向に変化が表れている。この数カ月、政府・日銀は何度か、ドル売り・円買い介入など円安対策をしてきたが、円安は日本にとってマイナスばかりではなかった。むしろ追い風である。
円安でものづくり国内回帰
7月に財務省が発表した国の一般会計の税収は67兆379億円と2年連続過去最高で、法人税は2兆4082億円増である。日商会頭に就任した三菱商事相談役の小林健氏が記者会見で「企業の製造拠点を日本に呼び戻す」と発言していたが、日本のものづくりは少しずつ国内回帰している。
安川電機は国内生産比率を50%以上に引き上げ、キヤノンは栃木に半導体製造装置の工場をつくる。アイリスオーヤマも国内生産にシフト、ワールドは岡山工場に生産を移転、JVCケンウッドもカーナビを長野で生産する。ダイキン工業も日本でのエアコン生産を検討している。
国内企業が集まり次世代半導体新会社ラピダスが政府肝煎りで誕生、外資ではTSMCが熊本に半導体の製造拠点をつくり、グーグルも1000億円で千葉にデータセンターをつくる計画である。
日本政策投資銀行の地域別設備投資計画調査をみても今年度、製造業の設備投資は全国で前年度比30・5%増の高い伸び率を示した。北関東甲信越地方では前年度比51・8%増、特に茨城は68・3%増と加速している。このまま円安が続けば、製造業の工場新設や生産施設の増強は確実に進む。
国内回帰の背景には、さらに地政学的なリスクや中国のゼロコロナ政策などに起因したサプライチェーン(供給網)の見直しがある。円安が定常化せず円高に振れることは懸念材料であるが、生産調整を余儀なくされる中国リスクが続くなかで、企業関係者はこの傾向は加速すると予測している。
今は経済回復の好機であり、こういうときにこそ日本に帰ってきた製造業をしっかり支援する仕組みが必要である。
安価で安定した電力必要
日本を取り巻く地政学的条件は変わらない。日本はエネルギーの自給率が低い資源小国であり島国である。欧州のように、電力が足りないからといって、隣国から借りるわけにはいかない。日本が豊かであり続けるためには、GDP(国内総生産)の20%以上を担う製造業のための、安価で安定した電力が必要である。
電力多消費産業では、電力と水は工場立地の重要な要素であり、再エネを主電源にしようという政治勢力、脱炭素の圧力による火力の抑制、反原発によって電源開発が進まないことはカントリーリスクであった。原発の建て替えや、次世代革新炉の開発を後押しする政府の発表は未来の経済活動に一縷(いちる)の望みを与えたが、岸田文雄首相はGX(グリーントランスフォーメーション)会議で、再エネ、省エネと原子力の3つの柱をエネルギー政策に掲げた。
だが再エネと省エネではわが国の経済は賄えないことをもう一度再認識すべきである。国内に回帰する製造業のためにも、経済成長を見越した十分な予備電力の準備が必要である。健全な産業活動と暮らしの安定のためには、電気料金をまずは下げる必要がある。
ロシアのウクライナ侵攻以降、欧州各国は自国のサバイバルのためにエネルギー政策の方針を転換した。ドイツやオーストリア、オランダなどは石炭火力を復活し、英国やフランスは新規の原発に取り組む。中国は原発も100基体制を見据え開発を進めるが、国連気候変動対策会議COP27では石炭火力の拡大を宣言した。
経済V字回復へ政治決断を
日本政府はどうか? 前政権の下で進めた2050年カーボンニュートラルを堅持し、電化政策にアクセルを踏みつつ、節電を訴えている。日本のインフレ率は欧州ほどではないものの、電力会社が相次いで報告する電気料金の大幅値上げに、庶民の台所は厳しさを増している。産業用電気料金(円/キロワット時)をみると、今年12月に30・23と、2013年の13・65の2倍以上に跳ね上がっている。
経済産業省の報告書では、電気の生産に必要な発電原価(円/キロワット時)は軽水炉11・5、太陽光事業用12・9、同住宅用17・7、洋上風力30・3、陸上風力19・8である。太陽光は原発より高く、雨が降った日や夜間には十分な電力がない。不安定な電力を火力発電所や、蓄電池で補わなければならない。発電原価には、バックアップ電源である火力や高コストの蓄電池の数字が入っていない。
日本は将来の経済成長を見据えて、まずは国民経済を優先し、エネルギー政策を転換するタイミングである。次世代の経済成長を真に願うのならば、発電効率が悪く安定供給のできない再エネ依存を減らすべきであろう。日本がアジアの新興国や中国と競争するなかで、地政学リスクと円安の好機を利用し、経済のV字回復を目指す絶好のチャンスである。今こそ政治の決断が必要である。
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加藤氏のこのコラムでも記述されていますが、製造業の国内回帰への最大の課題は電気料金です。福島原発の事故がきっかけとなったとは言え、その後の過剰なまでの原発の安全規制で、多くの稼働可能な原発が止められています。発電コストの安い原発を稼働させなければ、世界最高レベルの電力コストが製造業をはじめ全産業、そして家庭をも苦しめます。
国内回帰支援の第一は、電力コストの削減、そして多くの優良技術者の輩出です。半導体先端技術の話は前回取り上げました。そしてそれ以外の人材についても次回以降取り上げようと思いますが、何れにしてもこの問題は日本の教育に多くを依存する課題です。その課題解決には前川喜平氏など、トンデモ官僚を輩出した文科相の大幅改革が必要でしょう。
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