米国下院議長選挙、ようやくマッカーシー氏に決定。その結果は中国を警戒させ台湾を喜ばせたようだ
既にご承知の通り、昨年のアメリカ中間選挙でアメリカ下院の多数を取り戻した共和党。それまでの民主党下院議長ペロシ氏に変わる議長選挙が、今年になって行われましたが、なんと15回目にようやくマッカーシー議員に決まりました。
その理由は共和党内の保守強行派の造反にあったわけですが、いずれにしろその結果は、中国を警戒させ逆に台湾を喜ばせたようです。その辺の事情を、議長選挙の過程と併せて、産経新聞の特集記事が伝えています。タイトルは『米下院議長選混乱 中国紙が批判、とんだ茶番の「ホラー劇」』(1/16公開)で、以下に引用します。
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米下院は7日、多数派の共和党を率いるケビン・マッカーシー議員(57)を新議長に選出した。しかし、議長選ではマッカーシー氏が過半数の確保に失敗を繰り返し、当選には5日間で計15回もの投票を要した。1回で決まらなかったのは100年ぶり、10回以上投票が行われたのは164年ぶりという歴史的な混迷だった。米メディアは、造反を続けた共和党内の保守強硬派を切り崩すために同氏が重ねた過度な譲歩を憂え、中国の官製メディアは、米国の統治制度に世界が不安を覚えていると冷笑した。
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≪ポイント≫
・造反議員の増長は世界経済全体へのリスクに
・当選のため議会運営を人質に取られた新議長
・対立のエネルギーは外敵に向くと中国は警戒
・台湾は混乱を論評せず、新議長に大きな期待
米国 高くついた議長職の名誉
下院議長選出をめぐる混乱で、今後の議会運営への懸念や共和党の変容を危惧する論調が米国で相次いでいる。
「彼(マッカーシー氏)は自分の頭に反逆者らが銃を突きつけることを許した。彼らが好まない動きをすればいつでも引き金を引くという脅しとともに」。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は7日の社説でこう指摘した。
同氏は最終的に15回目の投票で当選に必要な過半数を獲得したが、造反を続けた党内の保守強硬派約20人を切り崩すため、同派の発言力を強める数々の条件をのまされた。その一つが議長の解任動議に必要な議員数を1人に引き下げたことで、同紙は「銃」に例えた。造反議員は「小さな政府」を信条とする「自由議員連盟」に所属、外交的に孤立主義を志向する。
同氏は同議連議員に、予算審議に影響力を持つ主要委員会のポストも割り与えた。彼らが標的にするのは今後の連邦政府の債務上限引き上げだ。歳出増に伴う国債発行を財務省に認めるもので、執拗(しつよう)に抵抗するのは必至だ。議長が引き上げに応じる姿勢をみせれば解任動議の「脅し」を突きつける。バイデン政権はおろか、世界経済全体のリスクになりかねない。
2024年度の一般歳出を22年度の水準を上限とする条件ものまされた。国防費は約750億ドル削減する必要が出てくるという。保守系の米紙ウォールストリート・ジャーナルは7日の社説で中露など「好戦的な敵に与えるひどいシグナルだ」と警戒する。一連の条件は強硬派が議会運営を「人質」に取るに等しく「議長と呼ばれる名誉のために払った高い値段を悔やむことになる」と警告した。
マッカーシー氏は同じカリフォルニア州が地元のレーガン元大統領の肖像画を自室に飾る。レーガン氏は軍事増強を続けることで旧ソ連を疲弊させ最終的に東西冷戦の終結に導いた。ワシントン・ポストのコラムニスト、マルク・タイセン氏は、マッカーシー氏が国防費やウクライナ支援の削減に同意すれば「レーガンが体現したすべてを裏切ることになる」と指摘した。
政治ジャーナリストのピーター・ベイナート氏は11日の米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、共和党の内乱の背景に主要支持層である白人保守層の危機感を挙げた。米国は「キリスト教国家」と信じる彼らは人口減が進み、やがて国内で少数派に転落する。そうした「変化に力を奪われると白人キリスト教徒が感じる」憤りが、リベラルな信条や政策を「ひとまとめに不公正」とする党の極端な体質に表れているとの考察だ。(ワシントン 渡辺浩生)
中国 とんだ茶番の「ホラー劇」
中国共産党機関紙「人民日報」傘下の環球時報は4日、米下院議長選での混乱に関して「100年ぶり(の再投票)とされる米国の政治混乱は世界を不安にさせる」と題する社説を掲載し、米国式民主主義について「茶番だ」と痛烈に批判した。
社説は、その後議長に選出されるマッカーシー氏について「極端的な保守派政治屋」と断じ、「いつも狂ったように中国を批判する言論を発表し、中国人民の間での印象は非常に悪い」と批判した。そのうえで、同氏の議長選出が難航する理由は共和党内のさらに過激な議員たちに「過激さが足りない」と非難されたことだと指摘。「米国政治の分裂と対立がいかに深刻かをこの事実からうかがうことができる」と論評した。
「米議会で起きた今回の茶番劇は、大きな破壊性を持つホラー劇でもあり、世界の多くの識者は不安を覚えている」と社説は分析。理由について以下のように論述した。
米国内の政治対立が深まれば深まるほど、非理性的かつ危険な傾向がワシントンで勢いを増す。それは「外に敵を見つけて、米国内の政治対立のエネルギーを外へ向けさせることだ」とし、「米国が敵として選んだのは、経済がハイスピードで発展し、政治体制も米国とは異なる中国だ」と主張した。さらに「中米関係が今のような困難な局面を迎えたのは、米国内の病的ともいえる政治対立と深い関係がある」と結論付け、近年の米中関係悪化の原因を米国側に押し付けた。
一方で、台湾の主要メディアは米下院議長の選出問題について、中国メディアと全く異なる反応を示している。議長選挙をめぐる混乱をほとんど批判せず、当選したマッカーシー氏について「対中強硬派で、台湾の友人」といった好意的な論評が多かった。
大手紙、自由時報はマッカーシー氏について、中国からの脅威に対抗するために「中国問題特別委員会」を立ち上げることを議長選挙前に発表したと紹介。そのうえで、「台湾に対し極めて友好的で、共和党の院内総務を務めていたときに台湾への武器売却や、台湾の国際組織への加盟問題などで尽力してくれた」と高く評価した。
マッカーシー氏は昨年夏、民主党のペロシ下院議長(当時)の台湾訪問への支持を表明した際、「台湾を支持することは米国の国益につながる」と述べ、自身が下院議長になれば、同じく「台湾を訪問したい」と明かしたことがある。「マッカーシー氏が台湾を訪問すれば、米台関係はさらに前進する」と期待を寄せるメディアも少なくなかった。(台北 矢板明夫)
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マッカーシー氏が下院議員選の過程で保守強行派に妥協を図った内容は、アメリカ経済だけでなく、ひいては世界経済に影響を及ぼすこともあり得ると、この記事は述べています。いずれにしてもそうした要求を飲んでまで、議長職にこだわったのは、それなりの腹づもりがあったのかも知れません。
特にマッカーシー氏を警戒しているのは中国で、「茶番だ」とか「ホラー劇」という言葉で揶揄している裏には、対中強硬姿勢を警戒している様子が窺えます。
それに反して台湾は「台湾に対し極めて友好的で、共和党の院内総務を務めていたときに台湾への武器売却や、台湾の国際組織への加盟問題などで尽力してくれた」、「自身が下院議長になれば、(ペロシ氏と)同じく台湾を訪問したいと明かした」事などを取り上げ、好意的に捉えているようです。
今後マッカーシー氏が議員選の過程のゴタゴタにどう影響されるか、また対中、対台湾への姿勢をどう向けていくか、注目されるところです。日本に対する影響ももちろんですが。
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