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2023年2月 7日 (火)

撃墜で一気に緊迫、「気象研究用が誤って米国に進入」のわけがない中国気球 日本でも過去に偵察活動

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 中国の偵察気球がアメリカの上空に飛来し、大陸を横断した後西太平洋上で米軍機によって撃墜されました。中国は民間の飛行体と称し、アメリカ軍の撃墜に対し猛烈に抗議しています。だが中国には純粋な民間企業はなく、すべて共産党の管理下にあります。ましてやこのような飛行体が純粋な民間である可能性は極めて低いでしょう。

 この飛行体は、日本にもかつて上空に飛来した事がありますが、そのときはメディアはまるでUFOでも見るように、興味本位で捉え、自衛隊により偵察用気球だとの指摘もありましたが、その正体を深く掘り下げてはいません。お花畑日本の象徴的出来事でしょう。

 この飛行体の詳細について、元幹部自衛官で軍事評論家の数多久遠氏が、JBpressにコラムを寄稿していますので、今回これを取り上げます。タイトルは『撃墜で一気に緊迫、「気象研究用が誤って米国に進入」のわけがない中国気球 日本でも偵察活動、気球の仕様と性能は?』(2/05公開)で、以下に引用して掲載します。

 アメリカ本土上空で中国の偵察用気球が確認され、反発したアメリカが、1月5日から予定されていたブリンケン米国務長官の訪中をキャンセルするなど問題となっています。

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 この気球は、日本時間の5日早朝、サウスカロライナ州沖の大西洋上に出たところを、米軍のF-22戦闘機が撃ったミサイルによって撃墜されました。中国側は「過度な反応だ」として強くアメリカ側に抗議しています。

 この気球で思い起こされるのは、2020年6月に仙台市上空で確認された気球騒ぎです。2021年9月にも、同種とみられる気球が八戸市上空で確認されています。

 また、2020年10月に秋田市上空でドーナツ状の光が見えたとの報告がありますが、これも気球だった可能性があります。

 当時も、これが偵察目的の気球ではないかとの推測が多数ありました。確認された位置が、米軍三沢基地に近い八戸やイージス・アショアの建設予定地だった秋田新屋演習場上空だったことも関係しています。

 今回アメリカで確認された形状の酷似した気球は、中国が飛ばした偵察用気球だったことが明らかとなりました。そのため仙台市、八戸市で確認された気球も、中国の偵察気球だったことが確定したと言ってよいでしょう。

 日本上空を領空侵犯した気球が偵察活動を行っていた可能性が高いのですから、これは由々しき事態です。

 今回、撃墜された気球は、回収されて仕様や性能が間を置かずに明らかになると思われますが、本稿では、主に仙台市上空で確認された際の情報を元に、この偵察気球の能力を推定し、今後、自衛隊が採るべき対処とその可能性について考察します。

中国は「気象研究用」と釈明

 今回、アメリカで確認された気球は、写真を見る限り、仙台および八戸上空で確認されたものと酷似しています。

 報道では、今年1月末頃にカナダ上空を経てアメリカ領空に侵入し、モンタナ州にあるICBM(大陸間弾道ミサイル)基地を偵察したようです。

 中国で放球されたのか、カナダ領内で放球されたのかは不明です。可能性としてはどちらもあり得るでしょう。太平洋戦争中、日本が米本土に向けて風船爆弾を放ったことからも明らかなように、中国からアメリカまで飛翔させることも可能です

 アメリカ国防総省の高官が「中国の気球であると確信している」と述べています。過去に確認された同種の気球を撃墜したか、あるいは墜落したものを確認した、さもなくば過去3回、同様の気球がアメリカ上空に侵入していたとの情報があることを考えると、放球からアメリカ領空侵入まで、継続して確認していたことによる確信だと思われます。

 中国は、当初否定していましたが、アメリカで反発が強まったことを受け、気象研究用のものが誤ってアメリカ領空に進入したとして遺憾の意を表明しています。今回、米軍が撃墜したため、残骸の確認で詳細が明らかになるでしょう。

旅客機より高高度を飛行、巨大な機体に偵察機材を搭載

 今回確認された気球については、現段階では情報が多くないため、過去日本で確認されたもの、特に2020年6月に仙台で確認された気球の情報を元に、その仕様と性能を推測してみます。

 宮城県が公表した情報によれば、気球は仙台市南西30キロほどの蔵王町上空で観測され、石巻市の南太平洋上で見失われています。時間としては7時間以上で、おおよその移動距離から速度を計算すると、秒速約3メートルほどとなります。これは、風に乗って移動する気球としてはかなり遅い速度です。また、高度は3000メートル以上とされていました。

 防衛省が確認の上、情報を公開していれば、もっと正確な情報が分かったのですが、仙台、八戸ともに情報は公開されていません。

 この気球に吊るされた構造物の前後には、プロペラが付いていました。動画ではゆっくりと回転する様子が映っており、かなり弱いながらも推進力を持っていたことが確認されています。今回、アメリカで確認されたものも、機動可能だと発表されており、同様の推進装置を備えていた可能性が高いものと思われます。

 しかしながら、仙台で気球が確認された際も、あの非常にゆっくりと回転するプロペラ程度のもので意図したとおりに機動できるのかという疑問が提示されていました。仙台上空に7時間以上にわたって留まるには、相応の機動性が必要になると思われたからです。

 そのカギは、気球の高度にありました。

 航空機が飛行する高度では、「ジェット気流(ジェットストリーム)」や「偏西風」と呼ばれる強い西風が吹いていることが知られています。ジェット気流は、旅客機の飛行速度にも影響を及ぼす強烈な風で、日本からアメリカに往復する際に所要時間が大きく異なるのはこのジェット気流のためです。

 しかしながら、旅客機が飛行する高度10kmをはるかに超える高高度では、風は弱まります。仙台で気球が観測された2020年6月17日の観測データによると、仙台に最も近い観測ポイント秋田では、20km近い高度の風は西風2~3メートルの微風となっていましたし、さらに高い20kmを超える高度では逆向きの東風が吹いてさえいました。

<秋田と舘野(つくば)の高層データを見ると高度19キロ(70hPa)前後で西風でゆっくり東に流されていたと考えるとほぼ辻褄があいます。さらに上(22キロ)では東風で戻ってしまう。下層は20m/秒の西風でとてもあのプロペラでは抗えない(抗ってたら相当姿勢が傾くはず)。

高度19キロとわかれば疑問解決です。 pic.twitter.com/xKBAvWJ6la

— 佐々木徹 (@tsukuba_tsasaki) June 18, 2020>

 宮城県の発表では、この気球の飛行高度は3000m以上とされていましたが、上空を飛行していた航空機よりも高高度を飛んでいたとの情報もありました。実際には、今回アメリカで確認された気球と同様に、高度20km近くの高高度を飛行していたと思われます。アメリカで確認された気球は当初高度18kmを飛行していたと報道されています。

 風速2~3メートルの微風であれば、わずかながらも推進力があれば、風に流されることを計算に入れながら、ほぼ狙った経路を飛行できると思われます。微風しかない高高度では、仙台上空に長時間留まるために大した機動力は必要なかったということです。

 更に、この推定された高度から、気球の大きさが推定可能でした。当日、気球が月の近くで撮影されていたことから、三角関数によって気球のサイズがかなり正確に計算できたのです。それによると気球のサイズは直径30mにも及ぶ巨大なもので、ヘリウムが充填されていると仮定すると、下部に懸架されている物体の重量は5t(トン)もあったと推測されます。

 この推定が正しいと仮定すると、相当の偵察機材が搭載できていたと思われます。

 懸架物の重量には、バッテリーや太陽電池、プロペラを含むモーターなどの推進装置が含まれるため、偵察、通信機材の重量は1tを下回る程度しかないかもしれません。しかし、気球にデジカメを下げた程度とは程遠い、れっきとした偵察機材と言えます。特に、現代の偵察手段はデジタルであるため、かつて銀塩写真に頼っていた頃と比較すると偵察手段は相当軽量化が可能になっています。アメリカの反応も頷けるものと言えます。

気球による偵察は有効なのか

 次に、1t程度(筆者による推測)の偵察機材を使用し、高度約20kmでどの程度の偵察が可能か考えてみたいと思います。

 比較として参考になるのは、1955年に初飛行し、いまだに類似の機体が存在せず、現役として偵察活動に投入されている米軍の高高度偵察機U-2です。

 U-2は、仙台で確認されていた気球が飛行していたと推定される高度20kmを若干超える高度21km以上を飛行し、約1.36tの偵察機材を使用して偵察を行います。つまり、U-2とほぼ同等程度の偵察能力を持つと推測される気球が、アメリカ本土上空を領空侵犯していたということになります。

 ただし、開発当時は撃墜不可能と言われたU-2も、ミサイルの発達により進空からわずか5年後の1960年には撃墜され、キューバ危機の最中である1962年にも撃墜されています。現代では、敵国の領空上空に侵入して偵察することなど基本的に不可能になっているのです。

 また現代では、気球よりは高度が高くなるものの低軌道の衛星が増えています。たとえば2017年にJAXAが打ち上げた衛星「つばめ」(超低高度衛星技術試験機)は、最低高度167.4キロを飛行しています。低軌道衛星の地球周回高度が下がっているため、今回、アメリカの高官が「中国が低軌道の人工衛星で得られるであろう情報よりも大きな付加価値を生むものではない」と発言しています。実際には、この気球による偵察が、衛星による偵察を超えるものではないとみている可能性もあります。

 アメリカが「中国の気球であると確信を持っている」と言っていたことを考えると、過去、極秘に撃墜したか、墜落したものを確認している可能性もあります。

自衛隊は対処できるのか

 仙台、八戸で気球が確認された際、自衛隊は対領空侵犯措置を行っていません。これは、気球の目的や誰が放球したのか不明だったことも影響していると思われますし、政治的な影響を避けるため、黙認した可能性もあります。

 しかし、今回のアメリカの反応を踏まえると、次回同種の事案が発生した際に、これを見逃すことはできません。領空侵犯として対処することになるでしょう。

 その場合、自衛隊が対処できるのか検討してみます。

【発見は可能か?】

 まず、発見できなければ話になりません。天候が良ければ、仙台で確認された通り、目視で発見できる可能性もありますが、夜間や雲があった場合は、レーダーが捉えなければ誰も気づかないまま日本上空を通過するでしょう。

 気球のバルーン部分は定高度気球と思われるため、ポリエチレンなどの樹脂製と思われます。直径30メートルとかなり大型ですが、これはレーダーに映りません。ただし、アメリカで確認された気球は、当初では高度18キロと言われていましたが、撃墜時の高度は20キロとの情報があり、高度を変更可能な気球だった可能性もあります。

 問題は懸架物の方ですが、かなりの重量があると推測されるため、構造材などに金属も使われており、レーダーに映ると思われます。アメリカも気球を追跡していますが、日中は目視の可能性もあるものの夜間はレーダーでしょう。

 自衛隊が、警戒管制レーダーで捉えることができているかについては、守秘義務があるためここでは書けません。しかし、仙台や八戸の事案で防衛省、自衛隊がとくに驚いていないという事実は、推測を行うに十分だろうと思います。

【撃墜は可能か?】

 実際に米軍が撃墜しているのですから、自衛隊でももちろん迎撃は可能です。ですが、手段は限られ、今回の撃墜同様、少々特殊な手法が必要になります。

 U-2の初期の被撃墜は、地対空ミサイルによるものでした。しかし、気球に関しては、パトリオットや中SAMで狙うことは可能ですが、かなりの高高度であることと、懸架物からのレーダー反射が少なく近接信管が作動しない可能性があるため、撃墜確率が十分に高いとは言えないかもしれません。

 有効な手段は、米軍が行った方法と同様に航空機による迎撃です。しかし、気球が飛行している高高度は、F-15などの戦闘機であっても通常の飛行方法では到達できません。巡行可能な高度10キロ程度で高速で飛行した上、速度を生かして急上昇し、ロケットのように斜め下方から接近するズーム機動と呼ばれる飛行方法で接近する必要があります。

 今回の米軍での撃墜では、F-22が高度約17.6km(58000ft)でミサイルを発射し、高度約20km(65000ft)の気球を撃ち落としています。

 更に、宇宙から飛来する弾道ミサイルを確認できる地上レーダーと違い、航空機の機上レーダーは出力が低く、レーダー反射の少ない気球の懸架物をレーダーで捕捉できる可能性は低いため、地上から航空機を誘導してズーム機動(機体本来の上昇率・上昇限度を一時的に超えた上昇動作)で接近させる必要があります。

 ただし、今回米軍が行った攻撃では、天候が良くパイロットが目視で確認できたはずなので、地上からの誘導は必要なかったと思われます。

 また、気球を撃墜するためのミサイルも、地対空ミサイルと同じようにレーダーで誘導するミサイルでは高い迎撃確率は期待できない可能性があります。今回、F-22は空対空ミサイル「AIM-120 AMRAAM」を使用した可能性がありますが、その場合は、気球の動向を監視していた際に、AMRAAMでのロックオンができることを確認していたと思われます。

 また、気球の動力はモーターと考えられるため、赤外線放射も少なく、赤外線誘導のミサイルも不適です。最も効果的に気球を撃墜できるミサイルは、可視光、あるいは赤外線を使った画像誘導ミサイルであると思われます。我が国が保有する空対空ミサイルでは「AAM-5」がこれに該当し、アメリカでは「AIM-9X」が該当します。米軍による撃墜では、このAIM-9Xが使用されたとの情報が有力です。

 上記の方法がベストと考える理由は、高度20キロ近い高高度では、ミサイルの機動性能が低下するためです。ほぼ移動していない気球相手であっても、ミサイルの飛翔途中までの誘導には誤差があるため、高高度に到達した時点でも軌道修正は必須です。機動性能が低下した状態では命中率が低下します。機動性能の低下を最小限にとどめるためには、ミサイルの存速を高くするとともに、可能であればロケットモーターが燃焼を続け、推進力を保持した状態で目標に接近させることが必要です。そのために、戦闘機をズーム機動で接近させ、ミサイルの飛翔距離、上昇高度を少なくすることで、なるべくミサイルが持つエネルギーを高く保つことがベストなのです。

 今回、米軍がF-22を使用した理由は、最新のF-35と比べても、F-22の方が高い高高度飛行性能を持つためです。自衛隊が、同様の気球を撃墜する場合、機体の飛行性能では劣ることになりますが、自衛隊が装備するAAM-5はAIM-9Xよりも高い飛翔性能を有するため、問題はないと思われます。

中国が行った気球迎撃の実験

 なおこの方法で、今回確認されたものと同種と思われる気球を迎撃する実験も実際に行われています。

 実施したのは、気球を放った当の中国で、その情報を公開しています。

 なぜ、迎撃実験の情報をわざわざ公開しているのか理解に苦しみますが、中国は、ロシアと同じように国際法を意にかけていないため、気にしてはいないものと思われます。

 ユーロファイターによく似たデザインのJ-10C戦闘機に、AAM-5やAIM-9Xと同じ画像誘導方式のPL-10を搭載し、地上からの誘導に基づき、ズーム機動で接近し、撃墜しています。こちらのサイトに詳細がありますが、今回の事案を受けて削除されるかもしれません。

 注目すべきなのは、この記事がアップされたのは、仙台で気球が確認されるよりも前となる2019年9月だということです。中国は、気球による偵察活動を行うにあたり、自らは対処できることを確認しているのです。

中国に断固たる処置を

 本記事の主要な内容は、仙台で気球が確認された2020年の段階で筆者が考えたものです。当時日本政府は、あの気球に何らの対処も行いませんでした。そのため、記事化は控えていました。

 しかし今回アメリカが問題視したことで、今後は対処することが必須となるため、記事としてまとめました。

 中国側は、気象観測用の気球が“不可抗力”でアメリカ上空に入ってしまったと発表しています。しかし、説明したように、この気球は、風の弱い高高度を移動用のプロペラによって経路修正ができるものです。不可抗力などということはありません。中国の違法な軍事偵察に対しては、断固たる処置が必要です。

 戦後80年近く、他国からの軍時侵略を受けたことがない日本は、所謂不明な飛行体が現れても、それが偵察を意図したものと捉え、対応していなかったことが分ります。まさにお花畑ではないでしょうか。

 これまでも北朝鮮の工作員を発見できず、拉致被害者を何人も出したことからも、物体だけではなく人に対しても意図的な侵略に対し脇が甘い体質をさらけ出しています。加えて法的な整備も決定的に遅れていることも否めません。

 物理的な侵略に対する抑止力も重要ですが、サイバーや人、今回の偵察飛行体のような、ハイブリッドな攻撃に対しても、抑止力を持たねばなりません。この案件はその必要性を強く発信するいい機会になったと思います。

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