福島香織氏:習近平政権になって増加した活動家逮捕と拷問、中国の人権弾圧はさらに続く
中国でスパイの定義を拡大した改正法が成立しました。ますます監視の目が厳格となり在住外国人のさまざまな行動にも、当局の一層の網の目が掛けられることになります。
一方で人権活動家にも更なる弾圧が強化されていて、逮捕、拘束された後の拷問など、弾圧は酷くなっているようです。ジャーナリストの福島香織氏が、JBpressに寄稿した記事がその詳細を語っています。タイトルは『習近平政権になって増加した活動家逮捕と拷問、中国の人権弾圧はさらに続く 次々に逮捕され秘密裁判にかけられる人権活動家たち』(4/20公開)で、以下に引用します。
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この春、習近平が「平和の使者」としてロシア・ウクライナ戦争の調停者の役割をアピールし始めたこともあって、EU諸国の首脳、ハイレベル官僚が相次いで北京詣でを行っている。スペインのサンチェス首相、フランスのマクロン大統領、EUのフォン・デア・ライエン委員長、ドイツのベアポック外相・・・。
だが習近平の「新時代の大国平和外交」の背後に、圧迫の度合いが急激に増している庶民の人権問題があることを忘れてはならない。
服役中に壮絶な拷問を受けた余文生
4月13日、著名人権弁護士の余文生とその妻、許艶が、北京市の派出所から呼び出されたまま連絡が途絶えた。余文生夫妻はその日、EU在中国代表部に訪問する予定だった。余文生夫妻は家族に、中国当局に「挑発罪」容疑で逮捕されたと口頭で伝えている。
また人権弁護士の王全璋、王宇、包竜軍らが4月14日、警察から外出を禁じられた。おそらくは同13~15日に行われたドイツ外相の訪中と関係があるとみられている。
EU代表部は4月13日に余文生夫妻がEU代表部に向かう途中で警察に拘留されたことをツイッターで発表し、即座に2人の釈放を要求する、とした。
余文生夫妻の拘留が発覚して後、知り合いの人権派弁護士、宋玉生と彭剣が余文生の息子の様子を見に自宅に行くと、家の前で2人の看守が監視していた。4月14日夜に7人の警官が自宅を訪れ、余文生が逮捕されたとする通知書を息子に読み上げ、家宅捜査を行い、夫妻の私物を押収したという。
余文生は、2015年7月9日に起きた人権派弁護士大量弾圧事件の通称「709事件」で逮捕、起訴された王全璋らを擁護し、709事件を「小文革」と非難したことでも知られる。その後、余文生も弾圧対象となり、弁護士資格を剥奪され、国家政権転覆煽動罪で逮捕、起訴、懲役4年の判決を受けて服役していた。
余文生は最初の拘留中、面相が変わるほどの壮絶な拷問を受けていた。2018年5月、メルケル首相が訪中したとき、余文生の妻の許艶と会見し、中国の人権問題の深刻さについて話し合ったことがあった。
余文生は2022年3月に出所、獄中の激しい拷問や、妻や息子の安全を盾に自白を強要されたことを出所後、外国メディアのインタビューで語っていた。
ドイツ外相訪中などに合わせて、習近平政権が再び余文生を拘束し、王全璋に圧力をかけたということは、709事件はまだ終わっていない、ということだろう。そして、ドイツを含むEU諸国に、中国との人権対話が再開されても中国側には譲歩の意志がないことを示したともいえる。
「国家政権転覆煽動」容疑で逮捕された許志永と丁家喜
余文生夫妻拘束の数日前の4月10日、山東省の人民法院は、新公民権運動活動家で法律家の許志永(50歳)と、新公民権運動に参加していた弁護士の丁家喜(55歳)に対し国家政権転覆煽動の罪でそれぞれ禁固14年、12年の一審判決を言い渡した。彼らは国際的に著名な人権活動家だったが、逮捕後、秘密裁判にかけられていた。
国際的な人権NGOヒューマンライツウォッチは、2人の裁判の審理プロセスに大いに問題があるとして、中国当局を非難した。ヒューマンライツウォッチの中国部シニア研究員である王亜秋は、「各国政府は、中国当局にすぐに無条件で2人の弁護士を釈放するよう呼びかけるべきだ」と訴えている。
彼らの逮捕の直接理由は、2019年12月26日、福建省厦門市で行われた人権派弁護士たちによるクローズドの勉強会に参加したことだった。この会合では人権派弁護士、公民権運動家ら約20人が参加し、食事をしながら公民権運動の未来について討論していた。その後、この会合の参加者が次々と捕まった。これは2015年709事件に続く中国習近平体制下の大規模人権弾圧事件として通称「厦門聚餐事件(厦門食事会事件)」あるいは「1226事件」と呼ばれている。
中国当局(山東省公安局)は2019年12月、北京の友人宅にいた丁家喜(55歳)を逮捕、2020年2月には広州市内に匿(かくま)われていた許志永(50歳)も逮捕した。ほかにも北京の女性労働者権利擁護活動家で許志永の恋人である李翅楚も国家政権転覆煽動の容疑で逮捕され、今なお秘密裡に審理中だ。
「都市浮浪乞食収容送還法」を廃止に追いんだ許志永
許志永は、私が北京で特派員記者として働いていた頃に何度か取材したことがある。元北京郵電大学講師で、公民権擁護機関「公盟」の共同創設人であり、「新公民運動」の発起人だった。
丁家喜は北京航空大学卒業のエンジニアだったが後に法律を勉強し商務弁護士に転身した秀才で、やはり公盟に参加し、新公民運動を推進してきた。
この運動は労働者や農民ら公民の権利を提唱し、政府の透明性と平等に教育を受ける権利などを訴えていた。
許志永を最初に取材したのは2003年秋、北京市海淀区の人民代表選挙に立候補したときで、彼は庶民のヒーローだった。
当時2003年3月、広州市で出稼ぎの青年がホームレスと間違われて当局の派出所に強制収容され、収容先で暴行死させられた。この「孫志剛事件」をきっかけに、農村からの出稼ぎ労働者に対する不当な差別に対する庶民の怒りが爆発。許志永は滕彪(人権弁護士、米国に亡命)らとともに全人代常務委員あてに意見書を出し、世論を喚起して、出稼ぎ者をホームレス扱いして強制収容・送還する「都市浮浪乞食収容送還法」を廃止に追い込んだ。
こののち、出稼ぎ労働者や女性、弱者を公民権に基づいて擁護する組織「陽光憲道社会科学研究センター」(2005年に公盟と改名)を滕彪らと立ち上げ、北京市海淀区の人民代表(区議)に立候補し、当選していた。
当時の彼は朴訥な好青年で、やわらかい笑顔とわかりやすい表現で、孫志剛事件や自らの立候補について語ってくれた。彼は中国を愛しており、公民の権利が法に基づいて守られる法治国家に中国を変えられると信じていた。
良心的知識人の活動を黙認していた胡錦涛政権
振り返れば胡錦涛政権がスタートした2002年から2012年までの10年は、中国の公民権運動の萌芽期であり、許志永のような良心的知識人が、中国をより良くしていこうという志を持っていた。また、それが大多数の庶民の心に響いた時代でもあった。
折しも北京夏季五輪を前に、中国当局も人権問題に対して国際社会からの視線を気にし始めたころであり、彼ら良心的知識人の活動は、矛先が党中央に向かわない限りは黙認される部分があった。
「公盟」は2010年に「公民」と名称を変え、新公民運動を提唱。2012年には習近平への公開書簡を発表し、中国の体制の矛盾について一国民としての真摯な考えを訴えた。だが、おそらくこれが原因で、新公民権運動は習近平から睨まれることになる。この運動に関わったことで丁家喜は2013年から2016年の間、許志永は2014年から2018年まで、公共秩序擾乱罪で4年の禁固刑判決を受け投獄された。
許志永らは、出所後も新公民権運動を継続しようとし、厦門食事会参加もその一環だった。許志永は厦門食事会参加の後、逃亡している中で習近平への退任勧告をネットで発表。彼の罪が丁家喜よりも重くなったのは、こうした行為が習近平からさらに敵視されたことも関係があるかもしれない。
文革以来の最も過酷な人権弾圧時代
許志永は少なくとも胡錦涛政権時代には、党中央指導者を個別に批判したことはなかった。習近平に対して厳しい批判を浴びせたのは、やはり習近平体制が特にひどいと感じたからではないだろうか。
実際、習近平政権のこれまでの10年は、文革以来の中国の最も過酷な人権弾圧時代であるともいえる。
弾圧対象は、人権派弁護士や新公民運動家にとどまらない。宗教関係者、メディア関係者、民営企業家、共青団派の官僚、マルクス主義の学生たち、さらには長年中国に貢献していきた外国企業の駐在員とあまりに広い。
そして、こうした苛烈な人権弾圧は、習近平政権3期目も継続することが、今年(2023年)春の一連の人権派弁護士、公民権運動家に対する仕打ちや、日本企業や米国企業の社員のスパイ容疑での逮捕などの事件からわかるだろう。
許志永ともに新公民運動を立ち上げた滕彪が、ドイツメディア「ドイチェベレ」のインタビューで習近平政権の人権問題への姿勢の特徴を指摘している。
「江沢民、胡錦涛政権時代なら、厦門食事会のような活動は弾圧対象にならなかっただろう。嫌がらせを受けるようなことはあっても、こうした異見人士(意見の異なる知識人)が一斉に逮捕されるようなことはなかった。ましてや国家政権転覆罪なんて容疑で逮捕される人も比較的少なかった」
「習近平時代になってから、国家政権転覆罪を使ったこのような重刑が頻繁に言い渡されている。これは、習近平政権が内心では民間の人権運動をいかに恐れているかを意味していると思う。中国共産党の人権活動家や民間の権利運動に対する敵視具合は頂点に達し、民間パワーの自由主義への影響力を一切排除し尽くそうと思っているのだ」
習近平政権下で明らかに増えている拷問事例
余文生らの逮捕原因となった2015年の709事件、そして許志永らの逮捕原因となった厦門食事会事件も、いずれも胡錦涛政権下であれば、犯罪を構成する要素すらなかった。取り調べにおける拷問事例も習近平政権下で明らかに増えている。
EUと中国の人権対話は2019年4月以来途絶え、今年2月に4年ぶりに再会された。だが、今の中国の振る舞いをみると、人権問題について本気で改善する気はなさそうだ。
中国は今、EUが望むロシア・ウクライナ戦争の停戦を仲介できるキーマンのように振舞っている。その駆け引きの中で人権や台湾問題をカードに利用するつもりではあろうが、本当の狙いは平和ではなかろう。自国民の基本的人権をここまで蹂躙できる国家が本気で平和を望んでいるとは信じられない。平和を餌に掲げながらEUを分断し、米国への疑念を増幅させ、世界を揺さぶろうとしているのではないか。
中国の言う「民主」や「人権」が私たちの考える民主や人権と違うように、「平和」もまた別物であること忘れてはならない。
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1972年米国や日本が中国との国交を回復し、経済援助と資金援助を開始してから、中国の民主化をひたすら期待していましたが、天安門事件でその期待は大いに削がれました。
その後急速な経済拡大とそこで可能となった軍事力の拡大により、今や東洋のモンスターとなった中国は、習近平の登場によりその覇権の意思を明確にし、南シナ海へ侵略を開始し、ウィグルを弾圧、香港の一国二制度を破壊し、今また台湾の武力統一を公言しています。
そして自身の思想の徹底のため、および政権基盤の維持のため、このように反体制派や人権活動家を徹底的に弾圧し、外国人にもその手を広げようとしています。
少し前、アステラス製薬の社員が拘束された事件もあり、そして政治的な色彩はありませんが、あの自動車ショーでのドイツメーカーBMWに対し、異常な中国民の反応もあります。政権から、そして国民からのチャイナリスクは満載です。
いまやこの国で事業を続けることは、デメリットの方が大きいでしょう。中国で事業を実施している企業は、可能な限り早い段階で、中国離れを決断することが賢明だと思われます。
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