「カネがない男は結婚できない」超高額結納金に苛まれる中国結婚絶望事情 風習と経済状況が人口減少を加速する
岸田政権の「異次元の少子化対策」が始動した日本。ただ少子化の大きな要因である未婚率の改善は、何故かその対策の中には含まれていないようです。その未婚率が重要課題になっているのが、同様に少子化への道をひた走る中国です。
その要因を中国鑑測家で中央大学政策文化総合研究所客員研究員の北村豊氏が、現代ビジネスに寄稿した記事に見てみましょう。タイトルは『「カネがない男は結婚できない」超高額結納金に苛まれる中国結婚絶望事情 風習と経済状況が人口減少を加速する』(3/30公開)で、以下に引用します。
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驚愕の結納金要求
中国語で結納の金品を「彩礼」と呼ぶ。今年1月に「上海厳公子(上海の厳若様)」(以下「厳さん」)と名乗るネットユーザーがソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のサイト『知乎』の掲示板に書き込んだ「彩礼」にまつわる話が注目されて大きな話題となった。
厳さんの前カノは江西省の出身であった。彼ら2人は海外留学先の大学で知り合った同級生で、3年以上にわたって同棲生活を過ごした仲、互いに将来の結婚を考えていた。大学卒業後に2人は一緒に帰国し、厳さんは故郷である上海市の実家へ戻り、彼女は上海市の戸籍を取得して同じく上海市内に住んだ。
彼女はたびたび実家暮らしの厳さんの所を訪れていたから、彼の両親は彼女と顔なじみになり、彼女を決して美人じゃないけど、礼儀正しく教養もあると気に入ってくれていた。
こうした経緯で厳さんは彼女が彼の実家の状況を理解してくれているものと考えた。そこで、そろそろ結婚の潮時かと考えた厳さんは、彼女と結婚することを前提に「聘金(結納金)」の額を胸算用で弾いてみた。
彼の両親は共に上場企業の高級管理職なので、彼の家庭の条件が悪いはずはない。彼女側に100万元(約2000万円)の現金を贈り、これに加えて上海市内の中心部に夫婦2人用の住宅を購入、さらには江西省にある彼女の実家付近にも彼女名義で住宅を購入することも厭わないし、婚礼費用の負担も問題ないという腹積もりであった。
しかしながら、いざ彼女の両親に結婚の許可を求めたところ、彼女の両親から提示された条件は次のような驚くべき内容だった。
- 結納金として1888万人民元(約3億7760万円)を支払う。<「1888」というのは同音異義語の「要発発発」を指し、「発財(金儲け)」を意味する縁起の良い数字>
- 上海市内に4500万人民元(約9億円)の住宅を購入して、その名義を娘とする。
- 江西省の実家の近くに数百万元の住宅を購入して名義を娘とする。この住宅は娘が里帰りした際の滞在用に使う。
- 結婚式に参列する娘側の親戚・友人100人以上全員に1人当たり10万元(約200万円)の「紅包(祝儀)」を配るのと同時に飛行機の1等航空券を往復で手配する。
- 娘が子供を1人出産する毎に1000万元(約2億円)の現金と時価2000万元(約4億円)以上の不動産を娘に与える。
「江西省の結納には上限がない」
「江西彩礼上不封頂(江西省の結納には上限がない)」とは世間で良く聞く言葉である。しかし、上記1~4を合計すると少なくとも8000万元(約16億円)となる訳で、いくら何でも女性側の条件は常識からかけ離れた内容であり、たとえ裕福な厳さん一家でも到底承服できない内容であった。
ちなみに、2022年9月に中国のネットサイト「小楽聞界」に掲載された『2022年最新全国各地彩礼排行榜(最新全国各地結納ランキング)』には、「彩礼(結納)」金額(但し、車や住宅は含まず)の全国最高は江西省で38万元(約760万円)であり、それに続くのが福建省の30万元(約600万円)、浙江省の25万元(約500万円)、江蘇省と遼寧省の20万元(約400万円)であるとあった。なお、全国最低は西蔵(チベット)自治区の1万元(約20万円)であり、その上に北京市の3万元(約60万円)があり、さらにその上に広州市の4万元(約80万円)が続いた。
北京市や広州市の「彩礼」が低いのは都市部の大都市であることが理由の一つだが、そのために地場の住宅価格が極端に高く、さらに車や住宅を含めるならば、「彩礼」の合計額は跳ね上がるはずである。ちなみに、大都市である上海市の「彩礼」は18万元(約360万円)であり、これに車や高額な住宅の費用を含めれば、その合計額は江西省以上の金額に膨れ上がるだろう。
それはさておき、厳さん一家と女性一家の間では幾度か話し合いが持たれたが、最後まで合意に至ることはなかった。
女性の父親は海外留学までさせたたった一人の愛娘を嫁がせるのだから、婿側が多少の誠意を見せるのは当然であり、彼らの要求する結納の総額は厳さん一家が持つ財産の5分の1にも満たない程度で過分なものではないとして一歩も譲歩しなかった。この点については女性も父親と同意見であったことで、漸く本来の理性を取り戻した厳さんは女性との離別を決意し、最終的に彼女との結婚話はご破算になったのだった。
結婚は「高値の花」
2月初旬に中国のネットで報じられた「彩礼」に関連する話題をもう一つ紹介すると以下の通り。
四川省の少数民族である彜族(いぞく)の女性(19歳)は実家を離れて出稼ぎに出ていた。2023年の春節(旧正月)の元旦は1月22日であり、春節休暇は大晦日の1月21日から1月27日までの7日間だった。彼女は家族から実家へ里帰りするように強く求められていたので、春節休暇を利用して久しぶりに実家へ戻ったのだった。
実家へ戻った彼女を待ち受けていたのは予期せぬ「相親(見合い)」であった。彼女は親の命令で見知らぬ男と無理やり見合いをさせられ、何が何だか分からない間に嫁入りを迫られ、驚くことに見合いから3日目には無理やり結婚式を挙げさせられたのだった。
彼女に結婚する気は全く無かったが、父親が相手の男から30万元(約600万円)の「聘金(結納金)」を受領済みであったために否(いや)も応もなく嫁がざるを得なかったのであった。
彜族の習慣に従えば、女性側が「彩礼銭(結納金)」を受け取りながら、結婚しない或いは離婚するならば、女性側は男性側に賠償金を支払わねばならず、彼女に結婚を拒否する力はなかったのだった。嫌々ながら結婚式に臨む彼女の顔には沈鬱な空気が漂い、19歳の活気に満ち溢れた気配はどこにも無かったのだと言う。
中国には悪しき習俗としての「彩礼」が存続しているのが実情である。こうした傾向は農村部で顕著であり、「高価彩礼(高額な結納)」や「大操大辦(冠婚葬祭の儀式を盛大に行うこと)」を抑制すべく、2021年に中国政府は全国に32の「婚姻風俗改革実験区」を設置している。
中国政府はこれら実験区における抑制効果を見極めた上で、婚姻風俗改革の法制化を予定しているのだろうが、たとえ法制化したとしても中国国民がそれを素直に受け入れるとは思えない。
とにかく、高額な結納が中国の男性に結婚を思いとどまらせる最大要因であることは間違いのない事実である。
中国政府「国家統計局」が発表した2022年の中国国民一人当たり平均の年間可処分所得は3万6883元(約73万8000円)であり、その内訳は都市部住民が4万9283元(約98万6000円)、農村部住民が2万133元(約40万3000円)であった。この数字を見れば、独身男性にとって各地の「彩礼」がいかに高額か分かるはずであり、彼らにとって結婚が「高嶺の花」ではなく、「高値の花」であるかが理解できよう。
さて、話は変わるが、2022年8月に中国政府「民政部」(日本の総務省に相当)が発表した『2021年民政事業発展統計公報』の「婚姻登記服務(結婚登録サービス)」の項目には、中国で登録された結婚と離婚の状況が次のように記載されていた。
2021年の法に基づく結婚届は764.3万組で、前年比6.1パーセント(%)減少した。婚姻率<人口千人当たりの婚姻件数>は5.4パーミル(‰)で、前年比0.4パーミル低下した。一方、法に基づき行われた「離婚手続」は283.9万組で、前年比34.6パーセント減少した。このうち、民政部門に離婚届を提出した離婚は214.1万組であり、裁判所の判決や調停による離婚は69.8万組であった。離婚率<人口千人当たりの離婚件数>は2.0パーミルで、前年比1.1パーミル低下した。
同項目に掲載されていた「2017~2021年の結婚率と離婚率」の表は以下の通り。
この表1から分かるのは、2017~2021年の5年間で結婚率が7.7から5.4まで2.3パーミル低下し、離婚率が3.2から2.0まで1.2パーミル低下したことである。出生人口が年々減少している中国にとって、離婚率の低下は喜ばしいことに思えるが、結婚率の低下はさらなる出生人口の減少をもたらす要因と言えよう。
「女旱(ひで)り」では結納金高騰は当然
2020年11月1日を基準日として実施された「第7次人口普査(第7回国勢調査)」によれば、中国の総人口は14億978万人、その構成は男:7億2142万人、女:6億8836万人で男が女より3306万人多かった。これを女性にとって妊娠・出産が比較的容易と思われる20~39歳に限定した男女別人口構成を見ると表2の通り。
要するに、年齢を20~39歳に限定しただけでも男女の人口差は1533万人にも及んでいるので、結婚したくても肝心な相手の女性にあぶれる男性が発生するのは必然である。だからこそ、「女旱(ひで)り」の中国では上述したように「彩礼(結納)」の金額が高くなるのは致し方ないことであり、カネがなければ結婚できないのは至極当然なことと言えるのだ。
2022年3月に結婚メディアの「結婚産業観察WIO」が発表した『2022年中国婚姻報告』によれば、中国の初婚人数は2013年に年間2386万人の最高値を記録してから下降を続け、2020年には1229万人まで下がったが、これは2013年に比べて48.5パーセントの下落であった。
また、結婚登録件数は2013年に1347万組で最高値を記録したが、その後は下降に転じ、2018年:1014万組、2019年:927万組、2020年:814万組となり、2021年には上述の通り764万組になった。これは2013年以来8年連続の下降であり、恐らく2022年も下降傾向はさらに継続するものと思われる。
一方、高学歴女性には「男旱り」
なお、上述した『2021年民政事業発展統計公報』の「結婚登録サービス」の項目には表3に示した「2021年結婚登録人口の年齢分布」が掲載されていた。
登録人口の合計は1528.5万人であるが、夫婦は男女各1人で1組だから、合計を2で割ると764.3万組となり、上述した2021年の結婚届の764.3万組と同じになる。40歳以上の結婚登録はそのほとんどが再婚だと考えられるが、それでも登録者が297.9万人もいて、全体の19.5パーセントもの比率を占めているのは奇異な感じがしてならない。それほど再婚の件数が多い理由は何なのか。
中国の法定結婚年齢は『婚姻法』第6条に規定あり、男は22歳、女は20歳となっている。上記の表によれば、結婚登録人口の最大は25~29歳(539.3万人)であり、それに30~34歳(305.2万人)が続くが、両者の合計で55.3パーセントを占めている。
一方、表2で示した「第7回中国国勢調査」における20~39歳の男女人口合計は3億8995万人であったが、表3で示した20~39歳の結婚登録人口は1230.6万人になる。この1230.6万人が男女人口合計の3億8995万人に占める比率はわずか3.2パーセントに過ぎない。20~39歳に限定した年間の結婚登録人口が人口合計の3.2パーセントでは余りにも少ないのではなかろうか。これでは出生人口が年々減少するのは当然と思える。
なお、第7回国勢調査の結果によれば、20~34歳の人口(2億9094万人)中には大学生および大学院生が合計5894万人も含まれていた。その内訳は男性が2788万人(47.3パーセント)に対して女性が3106万人(52.7パーセント)で、女性の比率が男性を5.4パーセント上回っていた。女性の高学歴化はそれに釣り合う学歴を持つ男性不足を招き、彼女たちに「男旱(ひで)り」の現象を引き起こしている。世の中はうまく行かないことばかりなり。
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中国の結婚の大きな阻害要因の一つには、結納が高額すぎることが挙げられるようです。日本の平均は98万円だそうですから、やはり高額だと言えそうです。ただ冒頭に登場した厳さんの例は、いかにも異常な気がしますが。
それに男女の人数の差も結構な要因かも知れません。特に男性の方が女性より年長で結婚するとすれば、年々人口が減っていく中では、その差が更に大きくなってしまいます。
結婚登録人口の定義がよく分りませんが、適齢期の人口の3.2%しかないというのは、中国の統計の信憑性のなさを示しているのでしょう。しかし、年々減少しているのは間違いないでしょう。2050年には人口が半減するというのも、あながち間違いではないでしょうね。それによって覇権の動きが弱まれば幸いなのですが。
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