日本在住の外国人経営者が指摘する、日本の農業の問題点 今のままでは少子化のうねりの中で壊滅してしまう
日本の農業はそれぞれの農地が非常に狭く、収益性が低いのと、その所為も含めて後継者不足が足枷となり、国の安全保障の根幹となる3大要素のひとつ、食料安全保障に赤信号をともす結果となっています。
その大きな要因は農地の集約化とそれを支える大規模経営化が進んでいないことでしょう。それには農林族、農水省、JAによる利益誘導トライアングルの存在があります。彼等が農業の発展を阻害してきたからです。
このブログでも何度か農業の問題を取り上げましたが、今回は小西美術工藝社社長のD・アトキンソン氏が月刊hanadaに寄稿した記事に焦点を当てます。タイトルは『農業復活の鍵は耕地面積の集約』で、以下に引用して掲載します。
◇
日本は「農業後進国」
最近、食料不足対策として、栄養豊富で効率よく生産できる食用コオロギが世界的に注目されており、国内でも粉末化して食品への利用が進められています。 徳島県のある県立高校では、食用コオロギの粉末を使って調理実習を行い、希望者が試食。ネット上で「子どもにゲテモノを食わすな」などと批判が上がり、高校にクレームが殺到。コオロギ食の是非について、議論が紛糾しました。
私自身は、コオロギ食に必ずしも反対ではありませんが、食料安全保障を考えるならば、もっと先に目を向けるべきものがある。
農業です。
あとを継ぐ人がいないため、日本では放置される農地が毎年増加しています。政治家は、業界団体の旧体制を守ることだけしか考えておらず、農業は一向に成長していきません。私が本でそう書いたら、一部から「日本は農業大国だ」などと反論がきた。
「実際に、一戸あたりの経営耕地面積(農林業経営体が経営する耕地の面積)はどれくらいあるのだろう」
ふとそう思って調べてみたら、驚愕しました。日本は農業大国どころか、「農業後進国」レベルの耕地面積しかなかったからです。
具体的に数字を見てみましょう。
全国一戸あたりの経営耕地面積は3.2ヘクタールですが、北海道の平均が20.5ヘクタールで、平均をグンと押し上げています。北海道を除いた都府県で見ると、平均は1.4ヘクタール。これが大きいのか小さいのか、感覚的にわからなかったので、国際比較してみると、日本は先進24ヵ国中、下から2番目でした
国別で見ると、イギリスは70.86、フランスは45.04ヘクタール、農業大国とはいえ国土が日本の約9分の1しかないデンマークも49.78へクタールあります。欧州の平均を見ると39.4へクタールで、日本の10倍です。一方、日本と同じくらいの耕地面積は、ミャンマー、インド、フィリピン、パキスタンと、みんな発展途上国でした。
それほど、日本の戸あたりの経営耕地面積は小さいのです。
多くの農家が趣味レベル
耕地面積が小さいと何が問題なのかといえば、生産性が上がらなくなるからです。
たとえば、かつて、8時間かかっていた農作業が、機械化によって2時間で終わるようになったとします。耕地面積が4倍あれば、これまでと同じ作業時間で生産性が4倍になる。しかし、耕地面積が狭いと、機械化して2時間で終わらせても、それ以上やれることがない。生産性は上がらないところか、機械化したコストの分だけマイナスです。
つまり、耕地面積が狭ければ狭いほど、どんなに機械化し、効率を高めようとも、生産性に限界がある。どんなに補助金を出しても、経済合理性を高められません。 生産性が上がらないと得られる所得は低迷して、若い人は農業を選ばなくなります。
これは、中小企業問題とまったく同じ構造です。一つひとつの会社が小規模だと、大きな投資をやったり輸出したりすることができず、生産性が上がらないのです。
食料安全保障の観点からも、経済成長の観点からも、私は農地を集約して、生産性の高い農業を目指すべきだと考えています。
しかし、農家自ら率先して農地を集約し、成長するような行動に出ることは期待できません。
いまの農業の基幹従事者の69.6%(41.4万人)が65歳以上の高齢者。高齢者でも農業が続けられるのは、面積が小さく作業量が少なくて済むからで、これからわざわざ面積を広くしようとは思わないでしょう。
おまけに、農家はそれほど稼がなくても餓死する心配がありません。農作物は自分たちでつくっているし、家も代々の持ち家で家賃もかからないから、必要最低限の作物を育てて売ればいいと考えている。多くの農家は、稼業ではなく、趣味レベルで農業をやっているといいます。
集約が進まない理由
そもそも、なぜここまで農地は細切れにされているのか。
それには戦後、GHQによる農地改革が関係しています。GHQは、農地を所有しながら自らは耕作をしない地主と、土地を借りる代わりに農作物の大半を地主に納める小作農との格差を縮めようと、一世帯が所有できる農地を家族が自ら耕作できる面積に制限。政府は地主から小作地を強制的に買い取り、小作人に売わたしました。
結局、これがいまの小さな農業につながっているのです。
41.4万人もの高齢者の農地(平均耕地面積3.2ヘクタール)がこのまま引き継がれなかったとしたら、132万ヘクタールもの農地が遊休農地になります。
繰り返しますが、小さい面積ではどんなに努力しても売り上げに限界がありますから、よほど情熱のある若者でなければ、農地を受け継いで農業をしようと思わないでしょう。
日本は太陽の陽もたくさんそそぎ、雨もよく降る。農業に適した気候で、真面目に取り組めば農業大国になれるポテンシャルを秘めています。日本のフルーツは訪日観光客からの評価も高く、海外需要も見込める。自分たちが最低限生活できる分だけなどと言わず、メガファーム化で大量生産、輸出もして、どんどん成長していけばいい。
そのために、農地の集約は必須。政府が率先して農地を買い取り、集約して、農業をやりたい若者に売るなど、新たな農地改革をやるべきです。
農業政策において保守的な欧州も昔から集約化を進めており、1980年~2000年の間に、平均耕地面積が30.9ヘクタールから43.3ヘクタールに拡大しています。
結局、日本で集約が進まないのは、農協など「現状維持」をしたい人々が反対しているからです。
農協としては、小規模農家の会員がたくさんいたほうが影響力を保てる。実際に、農業の企業参入に反対したり、大きく成長した農家は、会員からはずしたりしています。
農地を貸したい人から借り受け、必要とする農家に転貸する「農地バンク」という公的事業もありますが、あまり普及していません。 先述したように、農家自身が農地を拡大したい、成長したいと思っていないからでしょう。
意欲ある若い世代が農業に参入してくれればいいですが、農家になるための条件や申請書類のハードルが高いことに加え、農家になったとしても、農協からは条件の悪い土地しか紹介してもらえないという話もあります。
補助金は衰退を促進する
補助金などの優遇政策で保護されてきた点でも、農業と中小企業は似ています。 2015年の経済協力開発機構(OECD)の報告書では、日本の農家収入の約半分を公的補助金などが占め、この割合はOECD加盟国平均の二倍以上だと指摘。
農家の収入の半分を税金で補うことに、いったいどんな経済合理性があるのか。疑問を抱かざるを得ません。
中小企業政策でも、間違った補助金が見られます。「中小企業は弱いから守らないといけない」と、成長を促進するための補助ではなくて、現状維持させるための補助金が多い。
農業も、1ヘクタール程度では発属性がないのに、現状維持させるために補助金を出す。これでは、いつまでたっても農業は改善しません。人口減少の下、若い人はこの発展性のない制度の犠牲者になりたくないから、あとを継ぐ人はいなくなる。
結果として、現状維持の補助政策はその業界の衰退を促進するだけに終わります。
アメリカは合理的で、逆に大規模な農業を行うメガファームをメインに、補助金を出しています。 約202万の農場のうち98%は個人事業で、大型農場は3%しかありません。この十年間、平均して年2.1兆円もの補助金の大部分が、上位3%の農家に充てられているのです。
しかも、補助金の申請はかなり複雑で、個人事業主ではほとんど手に負えません。アメリカ政府に近い知人に、複雑にしている理由を訊いたら、わざと複雑にしていると言っていました。申請のプロフェッショナルを雇えないような農家は、そもそも申請すらできないようになっているのです。
日本も、もう小規模農家への優遇策はやめるべきでしょう。
こう言うと、「弱者切り捨てだ」と反論がくるかもしれませんが、小さなところを守ることで、食料安全保障が脅かされ、経済成長も阻害しています。日本人全体が割を食っているのです。
悪循環を断ち切れ
中小企業問題で、私は連携や合併企業数を集約していかなければならないと主張すると、「潰せというのか!」「淘汰論者め!」「日本では集約はできない」と批判されましたが、農業の問題についてツイッター」に書いたら、同じような批判がきました。
「日本は平地が少ないから、集約は「無理」。
日本ではよく見られるゼロか百の極端な議論です。
日本の農地のほとんどが平地以外にある事実もなければ、耕地面積を集約できない事実もありません。実際、日本の30ヘクタール以上の経営耕地面積は、2010年の26.2%から2020年には36.3%まで上がっています。
ただ、もともと大きな耕地を持っている農家の話なので、小規模農家の集約も加速させていかなければいけない。
私はなにも、1.4ヘクタールの平均耕地面積を一気に50ヘクタールにしろと言っているわけではありません。1.4ヘクタールを2ヘクタールに、2ヘクタールを2.5ヘクタルに...と少しずつでも集約していこうと言っているのです。
「農家は淘汰されるべきだというのか」という批判もありますが、そんな話をしているのではありません。
別に廃業せずとも、農地の集約は可能です。先述したように、政府が農地を買い上げて集約、意欲ある若者に売るというのがベストですが、所有者が違う隣接する二つの農地があったとしたら、たとえば企業が間に入って、二つの農地を一括管理。農家にも働いてもらい、毎月、給料を支払う。農家に企業の「社員」になってもらうイメージです。
企業は社員の給料を支払わなければならず、「必要最低限」などと言っていられませんから、生産性の高い農業をせざるを得なくなる。
集約のやり方はいろいろあるのです。
農家や農協はいまのままでも困らないでしょうが、日本全体では話が違います。
これから日本は未曾有の少子高齢化社会に突入します。これまでの社会保障などインフラを維持するためには、生産性を高め、経済成長していかなければいけません。しかし、中小企業問題が象徴するように、小規模なものが多すぎることで、日本の成長は阻害されています。
私は別に、小規模の農家を営んでいる人を批判しているわけではありません。ただ、成長性、発展性がないのに、補助金を出すなど優遇するのは経済合理性がなく、おかしいと言っているだけです。
日本では、経済合理性がない分、補助金を出して補填する、補助を受けた側は補助金があるから経済合理性を追求しない、という悪循環がよく見られます。この悪循環が続けられたのも、人口増加ボーナスによる経済成長があったから。少子高齢化社会に突入するこれからの時代は、そうはいきません。
この考え方を批判する人に訊きたい。大半の農家は高齢者で、若い人は農業を選ばない、耕地面積はどんどん減っていく、補助金を出しても中身がよくなっていない、農業をやっている人の所得は十分ではない、食料自給率は悪化の一途…この現状の何がいいのですか、と。
経済成長できないままこの悪循環を続ければ、守ろうとしていた「弱者」もろとも、日本は滅びるでしょう。
◇
D・アトキンソン氏はイギリス生まれで、オックスフォード大学を卒業後、いくつかの会社を経て、1992年ゴールドマン・サックス社に入社、その後2009年に日本の小西美術工藝社に入社し現在社長である、日本在住の外国人経営者です。
その彼が経営者の視点から、日本の農業の問題点を鋭く突いて、改善の提案をしています。日本人にも同様の視点を持つ人もいて、指摘もしているのでしょうが、何しろ冒頭述べたように、農林族の政治家と農水省の官僚、そして小規模農家の会員によって構成されているJAの、補助金と票の強い結びつきが、改善の目を潰してきたのが戦後の日本農業の実態でしょう。
しかしアトキンソン氏の言うように、今のままでは、少子化の大きな波の中で、後継者はいなくなり、明日の農業は壊滅状態になってしまうでしょう。収益力の高い農業を目指し、新たな雇用を創出していくことが、必要不可欠です。そのためには、経済合理性を生かせる規模の拡大化と同時に、大規模農地は必要としないが、高付加価値を生み出す農作物の、先端農業技術の開発促進が待ったなしだと思います。
(よろしければ下記バナーの応援クリックをお願いします。)
(お手数ですがこちらもポチッとクリックをお願いします)
« 「カネがない男は結婚できない」超高額結納金に苛まれる中国結婚絶望事情 風習と経済状況が人口減少を加速する | トップページ | 伊東博敏氏:熱海土石流、リニア、太陽光……静岡・川勝平太知事への反発はなぜ強まり続けるのか »
「食料安全保障」カテゴリの記事
- 日本在住の外国人経営者が指摘する、日本の農業の問題点 今のままでは少子化のうねりの中で壊滅してしまう(2023.04.08)
- 日本が直面する食品輸入に関する4つの危機 東大教授が警鐘鳴らす、「世界で最初に飢えることになる」(2023.03.16)