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2023年5月10日 (水)

対中国「半導体戦争」が激化…!米日台韓「CHIP4」がもたらすハイテクデカップリングは世界をどう変えるか

23_20230506165301  軍事にも民生にも欠くことが出来ない先端半導体。中国封じ込めのための米日台韓が共同で、対中デカップリングを模索しているようです。これに対し中国は当然猛反発していますが、ことの行方は、今後の世界の安全保障環境に影響が及ぶことは間違いないでしょう。

 この辺の事情を、現代ビジネス編集次長の近藤大介氏が、同紙に記事を寄稿していますので、以下に引用します。タイトルは『対中国「半導体戦争」が激化…!米日台韓「CHIP4」がもたらすハイテクデカップリングは世界をどう変えるか』(5/02公開)です。

中国半導体産業協会の「厳正な声明」

中国も4月29日から、GW(黄金週間)の5連休に入っている。ただ「労働者の国」を標榜しているので、「労働節暇日」(メーデーの休日)と呼ぶ。

その5連休に沸き立つ前日の4月28日、日中関係に再び、「激震」が走った。中国半導体産業協会が、中国語・英語・日本語による「厳正な声明」を発表したのだ。

中国の公的機関が日本語で声明を出すなど、極めて異例のことだ。一体何が起こっているのか? 少し長くなるが、以下にその全文を掲載する。

〈 2023年3月31日、日本政府は、半導体製造装置の輸出規制対象を6分類23品目に拡大するための外国為替及び外国貿易法の改正案を公表しました。当該装置は、世界の半導体産業のエコシステムにさらに大きな不確実性をもたらします。

中国半導体産業協会は、貿易の自由化を妨げ、需給関係を歪めるこの措置に反対しています。日本政府が自由貿易の原則を遵守し、中国と日本の半導体産業間の協力関係を損なう輸出規制措置を濫用しないことを求めます。

当協会は、この23品目に対する規制措置について、日本の経済産業省に意見を提出しました。主な内容は次のとおりです。

・規制対象が広範囲に及び、国際社会で一般的に認められている品目リストを遥かに明らかに上回り、関係企業は非常に困っています。

・規制アイテムに関する表現が曖昧で、成熟プロセスのサプライチェーンに悪影響を及ぼす可能性があります。規制の拡大化とサプライチェーンの寸断を防ぐために、規制アイテム数を減らすべきです。

・規制措置により、日本の関係企業の利益が大きく損なわれ、研究開発や技術の進化を支える原資となる利益が十分に確保できないため、国際市場における日本企業の競争力が低下します。

中国と日本の半導体産業は相互に依存しあい、促進しあう関係にあります。中国は上流の原材料、コンポーネントやパッケージング領域で一定の強みを有すると同時に、豊富な半導体応用場面と世界最大の半導体市場を持っています。また、日本は半導体装置、材料、特定の半導体製品、およびハードウェアインテグレーションを長所としています。

設備や材料に対する中国企業の需要が増え続け、日本の半導体企業も中国市場を非常に重視しているため、両国の半導体産業には深いつながりがあり、良好な協力信頼関係が築かれています。日本政府がこの良好な協力関係を破壊する動きに固執する場合、当協会は900社の会員企業の正当な権利と利益を守るために、断固たる措置を取るよう中国政府に呼びかけざるを得ません。

日本政府が当協会の意見を真剣に検討し、両国半導体産業の発展を支援し、促進することに取り組むことを願っています。また、半導体業界が市場原理に基づく分業体制を共に擁護し、手を携えて世界の半導体産業チェーンとサプライチェーンの繁栄と安定を維持していくことを期待します。

中国の半導体産業は一貫して対外開放と協力を堅持してきました。ここに、関係する全ての企業、団体、業界関係者に対し、今回の改正案がもたらす両国半導体産業への悪影響を軽減するために、声を上げていくことをお願いします。2023年4月28日 〉

以上である。重ねて言うが、中国から日本へのこのような形での「公開要請」は見たことがない。半導体業界の専門用語が織り込まれたりして、分かりにくい部分もあるが、以下に経緯を振り返ってみたい。

「CHIP4」による「中国包囲網」強化

事の発端は、中国だけでなく、世界中の半導体業界に激震が走った昨年10月7日に遡る。

この日、アメリカ商務省産業安全保障局(BIS)が、中国を念頭に置いた半導体関連製品(物品・技術・ソフトウエア)の輸出管理規則(EAR)の強化を発表した。そこには、こう記載されている。

〈 今回の目的は、アメリカ政府内で、先端集積回路、スーパーコンピュータおよび半導体製造装置が、(中国の)大量破壊兵器(WMD)の開発を含む軍の現代化および人権侵害に寄与する影響を検証した結果である。中国政府は軍民融合戦略の実施を含め、アメリカの安全保障と外交的利益に反する形で、防衛力の現代化に莫大な資源を投入している 〉

つまりアメリカは、中国の軍事的脅威を取り除くには、あらゆる最新兵器の「心臓部」である先端半導体に規制をかけて、中国が最新の半導体を入手・製造できなくすればよいと考えたのだ。先端半導体とは、演算用のロジック半導体の場合、回路線幅が14nm(ナノメートル)以下の半導体を指す。

この時の発表では、具体的な規制品目リストを掲げ、エンティティリスト(制裁リスト)に入れた中国の主な半導体関連企業28社に、アメリカ関連の技術やソフトウエアが行かないようにした。かつアメリカ人がこれら企業に関わることも規制した。

さらにアメリカは、日本、オランダ、台湾、韓国など、先端半導体関連の技術を有する国・地域にも、協力を求めてきた。

経済産業省が2021年6月にまとめた「半導体戦略」によれば、1988年に世界の半導体産業における日本のシェアは50.3%あった。だが1990年代以降、凋落が始まり、2019年には10.0%まで落ち込んだ。世界のシェア5割が1割になったのだから、これは深刻だ。

だが、日本はまったくダメかと言うと、一部においてはいまだ精彩を放っている。例えば、MLCC(積層セラミックコンデンサ)の分野では、村田製作所が世界シェア約4割を維持している。

また、半導体製造装置の分野でも、東京エレクトロンが17.0%のシェアを持っている(2021年)。これはアメリカのアプライドマテリアルズ22.5%、オランダのASML20.5%に次いで世界3位だ。

こうした理由からアメリカとしては、日本、オランダ、台湾、韓国を加えることができれば、「中国包囲網」を構築できると判断したわけだ。いわば「半導体版NATO」のような半導体同盟で、「CHIP4」(アメリカ・日本・台湾・韓国)と呼ばれている。

西村経産相が「日本政府の決断」を発表

昨年12月9日、ジーナ・レモンド米商務長官が西村康稔経済産業大臣と電話会談を行い、プレッシャーをかけた。年が明けた1月5日には、訪米した西村経産相とレモンド長官がワシントンで会談。アメリカから日本へのプレッシャーは、さらに強まった。

こうした水面下における日米政府間の折衝の結果、年度末にあたる3月31日に、西村経産相が定例会見の中で、「日本政府の決断」を発表した。「今日は私から5点、発表があります」と前置きした上で、わざわざおしまいの5点目にさりげなく紛れ込ませる用意周到さだった。

「5点目、半導体製造装置の輸出管理強化についてであります。高性能な先端半導体、これは軍事的な用途に使用された場合、まさに国際的な平和及び安全の維持を妨げるおそれがあるわけであります。

厳しさを増す国際的な安全保障環境を踏まえて、今般、軍事転用の防止を目的として、ワッセナー・アレンジメント(通常兵器の輸出管理に関する主に西側諸国42ヵ国による申し合わせ)を補完するとともに、半導体製造装置に関する関係国の最新の輸出管理動向なども総合的に勘案しまして、これまで対象としてこなかった高性能な半導体製造装置を輸出管理の対象に追加することにいたしました。

具体的には外為法に基づきます貨物等省令を改正し、新たに23の半導体製造装置につきまして、全地域向けの輸出を管理対象に追加する予定であります。(中略)

輸出管理の在り方につきましては、かねてから様々な機会を通じて同盟国、同志国と意見交換を行ってきているところであります。その中で我が国の今般の措置の考え方や内容につきましては一定の理解が得られていると考えております。

また、そうした国々と連携し、今回の措置をワッセナー・アレンジメントに反映させていくことについても同時並行的に取り組んでいきたいと考えております。

我が国は半導体製造装置の分野におきまして極めて高い優れた競争力を有しております。軍事転用の防止を目的とした今回の措置によって、技術保有国としての国際社会における責任を果たしていきたい、そして国際的な平和及び安全の維持に貢献をしていきたいと考えております」

記者からは当然のように、「これは中国を念頭に置いたものですか?」という質問が出た。それに対し西村経産相は、「全地域向けの輸出を管理対象に追加をするということで、特定の国を念頭に置くものではありません」と答えた。さらに別の記者が突っ込みを入れると、こう答えた。

「世界中の国々の大半の160程度の国、地域は包括許可の対象としておりませんので、御指摘の中国もこの160の中に含まれます。含まれますけれども、特定の国を念頭に置いたものではないということで、その上で、まさに軍事転用のおそれがあるかないかという点を見ていくことになります」

どこからどう見ても中国を対象にした措置であるのに、西村経産相はあくまでも、このように主張した。そこで記者は、「日本の半導体製造装置の輸出で中国から約3割と、国別ではですけれども、今後この対中輸出にどのような影響が出るとお考えでしょうか?」と、角度を変えて質問した。この点について西村経産相の回答は、以下の通りだ。

「御指摘の全体への影響、様々企業ともコミュニケーション取っていますけれども、全体としては国内企業への影響は限定的であると認識しております」

中国側の手厳しい批判

このように西村経産相は、最後までふにゃらかした回答に終始したが、「事実上規制対象にされた」中国側は、間髪を入れず猛反発した。同日の中国外交部定例会見で、早くも毛寧報道官が吠えた。

「全世界の半導体の産業チェーンとサプライチェーンの形成と発展は、市場の規律と企業の選択が、ともに作用する結果によるものだ。

経済貿易と科学技術の問題を、政治化、道具化、武器化し、全世界の産業チェーンとサプライチェーンの安定を破壊することは、人々に損害を与え、自己を害するだけだ!」

4月1日に訪中した林芳正外務大臣は、翌2日に秦剛外相、李強首相、王毅中央外交工作委員会弁公室主任と会談したが、ここでも半導体規制について、手厳しい批判を浴びた。特に秦剛外相からは、強烈なセリフが飛び出した。

「日本は『為虎作倀』をしてはならない!」

私は、この成語を聞いて驚いた。若い時分に北京大学に留学していた時、ある授業で教授が「為虎作倀」(ウエイフーズオチャン)を口にした。意味不明だったので、授業後に教授のところへ行ったら、丁寧に教えてくれた。

「古代の中国では、虎は人間を食う動物として恐れられていた。人間は虎に食われると、その魂が虎のもとへ行く。そして今度は虎のために、次の人間の居場所を手引きしてやるのだ。『虎の為に倀(チャン)を作る(行う)』の『倀』とは、そうした人間のあさましい行為を指す。

この成語は品のよいものではないから、決して他人に対して使ってはいけないよ」

そのような成語を、中国の外相が日本の外相に向かって使ったのだ。それだけ中国側は、日米が一体化した「中国包囲網」に焦りを覚えていたとも言える。

北京の日本大使館のホームページによると、4月12日に北京で、垂(たるみ)秀夫大使と王受文中国商務部国際貿易交渉代表兼副部長との意見交換会が行われた。両国5人ずつが厳しい表情で向かい合った写真とともに、こんな文章が記されている。

〈 4月12日、垂秀夫大使は王受文・商務部国際貿易交渉代表兼副部長との間で、日中間の経済関係における関心事項について広く意見交換を行いました。具体的には、邦人拘束事案、投資環境整備、半導体関連の輸出管理、CPTPP、日本産食品に対する輸入規制の早期撤廃等について、率直な意見交換を行いました 〉

ここで最初に記された「邦人拘束事案」というのは、3月25日に第一報が報じられて日本中が震撼したアステラス製薬幹部社員の北京での拘束問題を指すと思われる。だが、その案件は「反スパイ法違反容疑」(中国外交部の3月27日の会見)であり、中国商務部とは無関係だ。そのため、やはり半導体の輸出規制問題が、メインテーマだったと見るべきだろう。

なりふり構わぬプレッシャー

もう一度、冒頭の中国半導体産業協会の「厳正な声明」を見てみたい。

まず、「主な内容」の第一項で、「(中国の)関係企業は非常に困っています」と記している。中国の半導体産業の苦悩を、正直に吐露しているのだ。「泣きの手に出ている」とも言える。

続いて、「規制アイテム数を減らすべきです」と記している。「規制するな!」という、中国外交部お得意の「戦狼(せんろう)外交的手法」ではなく、「少しばかり減らして下さい」と「懇願の手に出ている」のである。

そして第三項が、「国際市場における日本企業の競争力が低下します」。つまり、「そんなことしたらあなたも損しますよ」という「警告の手に出ている」わけだ。

こうした三つの項目を列挙した上で、こう結論付けている。

「日本政府がこの良好な協力関係を破壊する動きに固執する場合、当協会は900社の会員企業の正当な権利と利益を守るために、断固たる措置を取るよう中国政府に呼びかけざるを得ません」

これは、「恫喝(どうかつ)の手に出ている」と受け取れる。

いま一度、「厳正な声明」を整理すると、「苦悩」→「懇願」→「警告」→「恫喝」という流れである。これらは一体、何を意味するのか? 日本政府関係者に聞くと、次のように答えた。

「昨年10月のアメリカの半導体規制は、中国にボディブローのように効いてくるかと思ったら、実際はノックダウン級の必殺パンチだった。アキレス腱を刺された巨竜は、いまのたうち回っているのだ。この先、『CHIP4』が完成したら、巨竜の息の根は止まる。だから日本、台湾、韓国に、なりふり構わぬプレッシャーをかけてきているのだ」

台湾には、先端半導体の受託製造で世界の約6割を握るTSMC(台湾積体電路製造)が存在する。TSMCは2020年以降、「アメリカを取るか中国を取るか」という選択を迫られ、「アメリカを取る」道を選んだ。

昨年12月6日、5nmの先端半導体を製造するTSMC米アリゾナ工場の開設式典に臨んだ創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が、「グローバリズムも自由貿易も、もうほとんど死んだ」と発言したのは、その象徴的な出来事だった。 

韓国については、先週4月26日にホワイトハウスで開かれた米韓首脳会談で、尹錫悦大統領はジョー・バイデン大統領に「踏み絵」を踏まされた。中国で先端半導体の工場を稼働させているサムスン電子とSKハイニックスは、この先、「抜本的出直し」を迫られることになるだろう。

アメリカの圧力が中国を目覚めさせた

それでは、このまま中国の半導体業界は潰滅することになるのか?

前出の日本政府関係者は、「あくまでも個人的な見解」と断った上で、こう述べた。

「確かに短期的に見ると、中国の半導体業界は、満身創痍とも言える打撃を受けている。だがアメリカからの圧力が、中国を目覚めさせたのも事実だ。これまで安易にアメリカや日本の半導体関連製品を買っていた中国が、政府のふんだんな資金をつぎ込んで、必死に国産化の道を歩み始めた。

逆説的だが、長期的に見た場合、アメリカの圧力が、中国の半導体産業が加速的に発展する最大の原動力となるのではないか。いつか中国の技術が世界最先端になり、ブーメランのようにわれわれを覆っていく。そんな一抹の不安を感じざるを得ない」

いずれにせよ、もはやハイテクを巡るデカップリング(分断)は、不可逆的な流れになってきた。

 中国の半導体国産化を、記事では将来技術的に世界最先端となる事を予想していますが、2nmの半導体は、日本はおろか米国も未だに未達で、製造装置も一から国産化しなければならない中国が、おいそれとそのレベルには到達できないと思いますね。

 いままでパクりで技術フォローしてきた中国と、侮ってはいけませんが、いくら潤沢な資金力を持っていると言っても、経済が低成長領域にはいり、膨大な不動産債務を抱え、人口も減少を開始し、これから高齢者が爆発的に増える中国は、軍事費や治安維持費に加え、技術開発ばかりに資金投入は出来なくなるのではないかと思います。日本に30年前に起きた、失われた○○年が始まることを予想することは、あながち間違っていないのではないでしょうか。

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