中国の獄中から帰還した邦人が暴露「公安調査庁に中国のスパイ」は事実なのか 今こそインテリジェンス体制の整備を
スパイ天国と言われて久しい日本。他の先進国や中国はスパイ防止法を制定保持し、インテリジェンスにも力を入れているのに、日本は周回遅れの状況です。
更に中国は最近、反スパイ法を強化する決定を行っています。
そんな中で国際ジャーナリストの山田敏広氏が、驚くべき情報をJBpressに寄稿しました。タイトルは『中国の獄中から帰還した邦人が暴露「公安調査庁に中国のスパイ」は事実なのか 爆弾“証言”で日本の情報機関は大混乱、今こそインテリジェンス体制の整備を』(4/28公開)で、以下に引用して掲載します。
◇
実はいま、日本の“スパイ史”に残るような大変な出来事が起きている。
2022年10月、中国と日本の架け橋として活動していた「日中青年交流協会」の元理事長である鈴木英司氏が、中国でスパイ活動の罪で6年間投獄された後に解放され、帰国した。鈴木氏は2016年に逮捕されるまで、200回以上も中国を訪れて日中の交流のために活動していた人物だ。
日中のために尽力していた鈴木氏が実刑判決を受けるのは、親中派の人々にとって衝撃的だったという。その鈴木氏が『中国拘束2279日』(毎日新聞出版社)という本を上梓した。中国当局から「日本の公安調査庁のスパイ」と認定されて有罪判決を受けた鈴木氏は、この本の中で明確に自身は「スパイじゃない」として“ぬれ衣による逮捕・拘束”だったと批判している。
その鈴木氏の帰国とその著書が、いま日本のインテリジェンスに携わる人々の間で大きな波紋を呼んでいるのだ。
例えば、著書で鈴木氏はある「疑惑」を主張している。その疑惑とは、本の帯にも書かれている「公安調査庁に中国のスパイがいる」というものだ。事実であれば日本の情報機関である公安調査庁にとっては一大事であり、その存続すら揺るがしかねない大スキャンダルとなる。
そこで、本稿では次の2点について、筆者の取材からの情報も合わせて考察してみたい。
日中友好活動に長年携わってきたのに
1つ目は、鈴木氏が、日本のために働いたスパイだったのかどうかだ。もう1つは、先に述べた公安調査庁の内部に中国のために働く「二重スパイ」がいるのかどうか、である。
まず簡単に、鈴木氏の来歴を見ていきたい。
著書によれば、鈴木氏は大学卒業後に労働組合職員となる。少年時代から中国に対する関心を持っていたところ、上部団体の日本労働組合総評議会(総評)が中国の労働組合のナショナルセンター・中華全国総工会と交流を開始したことで、その事務局を担当。それを機に度々訪中するようになる。社会党の竹内猛衆議院議員(当時)の秘書を務めた時期もある。また竹内氏の秘書になる前から、社会党の土井たか子衆議院議員(当時)とも親しく、土井事務所が発行した通行証で国会にも通っていたという。
2016年、日中青年交流協会の理事長として日中交流イベントの打ち合わせのために北京を訪問したところ、帰国直前になって、中国の情報・防諜機関である北京市国家公安局に拘束された。
そして裁判で有罪となり、6年間刑務所で過ごした。中国と日本のために尽力してきた鈴木氏の失望感は計り知れない。
公安調査庁はスパイ組織か
本から抜粋すると、有罪になった罪状はこうだ。
(1)中国政府が「スパイ組織」と認定する公安調査庁から、鈴木氏が「任務」を請け負い情報を収集し報酬を得ていた
(2)2013年12月4日、鈴木氏が北京で湯本淵(タン・ベンヤン)さん(在日中国大使館の元公使参事官で、すでに中国に帰国)と会食した際、湯さんから北朝鮮関係の情報を聞き、その内容を公安調査庁に提供した
(3)提供した内容は「情報」であると中華人民共和国国家保密局に認定された
ここからわかるように、中国当局は鈴木氏を「公安調査庁のスパイ」と認定している。念のために公安調査庁について説明すれば、法務省の外局で国内外の情報を収集・分析している“スパイ機関”だ。アメリカのCIA(中央情報局)からは、日本側のカウンターパートの一つと認識されている。事実、公安調査庁の職員はCIAで情報収集研修をするなど関係は近い。
公安調査庁は、基本的には対外情報活動はしていないことになっているが、実際は中国などで情報活動を行ってきた。事実、これまで中国当局に逮捕されてきた邦人の中にも、「公安調査庁のスパイ」だった人物が存在する。
ところが鈴木氏は、公安調査庁をスパイ組織であるとは思っていなかったようだ(少なくとも、そう主張している)。
鈴木氏は著書でこう述べている。「『公安調査庁はスパイ組織でもなければ、謀略機関でもない。CIAとはまったく違う』と主張したが、どうやら中国政府は公安調査庁をスパイ機関と認定しているようだった」
残念ながら、この言い分は世界的には通用しない。他国から見れば公安調査庁は、れっきとした日本の情報機関=スパイ機関である。
鈴木氏は、その公安調査庁の職員らと情報交換をしていたことは認めている。しかも、中国での取り調べの際に、公安調査庁の職員たちと見られる20人ほどの顔写真を中国当局から見せられて、そのうち4人は知り合いであると答えている(なぜ中国当局が写真を持っていたのかの疑問はまた後に触れる)。
それだけ公安調査庁の職員と接触があれば、鈴木氏を「公安調査庁のスパイ」とする中国の認識のほうが世界の常識に近いと言わざるを得ないのではないだろうか。筆者は中国の肩を持つ気はないが、いくら鈴木氏が「公安調査庁が情報機関だとは知らなかった」と抗弁しても、それだけでは中国当局を納得させられないだろう。
長年にわたって監視されていた鈴木氏
さらに、(2)については、2013年12月に、北京で在日中国大使館にも勤務していた中国人外交官である湯本淵氏と食事をしているときに、鈴木氏は北朝鮮情勢について質問したという。その質問が、スパイ活動の一環で、その情報を公安調査庁に提供したと認定されている。
実はこの会食の場には、毎日新聞の政治部副部長(当時)も同席していたと、鈴木氏は明らかにしている。そういう縁から、今回の本も毎日新聞出版社から出版されたのかも知れない。
この食事の席で湯氏から聞いた内容が公安調査庁に伝わったのか否か、あるいは伝わっていたとしたらどう伝わったのかは明らかになっていない。ただ、もし何かしらの形で伝わっていたのなら言い訳は難しいだろう。ちなみに判決文によれば、中国当局は2010年から鈴木氏を公安調査庁のスパイであるとみて捜査を行っていたという。目をつけられていたということだ。
公安調査庁との間で金銭授受は本当になかったのか
筆者は、鈴木氏が解放され帰国してから、政府関係者や公安関係者、警察などに取材を続けてきた。ある公安関係者は、匿名を条件にこう語っている。
「中国に利することになるのであまり言いたくはないですが、鈴木さんは公安調査庁から金銭を受け取っていました。さらに中国で捕まっている間も、鈴木氏側に(政府から)補償がなされていたと認識している」
この“証言”だけでは断定はできないだろうが、事実とすれば鈴木氏は公安調査庁のエージェントとして中国で活動していたことが疑われる。
この点について、鈴木氏はどう答えるのか。筆者はそれを確認すべく、鈴木氏へのインタビュー申請をしたが断られた。
もっとも鈴木氏は著書の中で、「私は公安調査庁から任務を言い渡されたこともなければ、報酬を受け取ったこともない」「もし公安調査庁がスパイ組織だと知っていたら、そもそも私は同庁の職員とは付き合わない。任務ももちろん帯びていない。任務だとすれば、私の旅費、ホテル代を公安調査庁が支払い、何々について調べろと命じられ、私がそれに応え、さらにレポートにして出すだろう」と否定してはいる。
ただ別の公安関係者たちからはこんな声も聞かれる。
「日本政府は、海外で情報活動していることを建前上、認めていないので、政府は鈴木氏の(公安調査庁から依頼を受けたことはないとの)発言を否定することはできません」
もしも公安関係者の金銭提供の話が事実だとすれば、これは情報機関から金銭を受け取っていたことになり、それは「スパイ活動」と指摘されても仕方がない。世界的に見れば、それが普通である。もちろん愛国的に、情報提供に金銭を受け取らない協力者もいるが……。この点についての真偽は、今後も取材していきたい。
中国情報当局は公安調査庁関係者の写真を撮りまくっている
本稿で考察する2点目は、鈴木氏が主張する「公安調査庁に中国のスパイがいる」という問題だ。本当にいれば、大変な事態で、公安調査庁の内部情報が筒抜けになっている可能性がある。
ただ鈴木氏がそう主張する根拠は少し弱いと言わざるを得ない。
鈴木氏は、取り調べで公安調査庁の職員たちと見られる20人ほどの顔写真を中国当局から見せられたとし、そんな写真を持っている中国当局は、公安調査庁に協力者がいるのではないかと指摘している。
もちろん、その指摘が事実である可能性がある。
ただこの話を聞いて思い出したのが、筆者が5年ほど前に、公安調査庁職員から聞いた話だ。
その当時、公安調査庁は、中国の関係者が日本国内の公安調査庁の関係施設に出入りする人たちの顔写真を望遠レンズを使ったりしながら撮影していることを把握していると言っていた。それについては、2020年に出版した拙著『世界のスパイから喰いモノにされる日本』にも書いている。であれば、公安調査庁職員の顔写真を豊富に持っていても不思議はない。
さらに、鈴木氏は著書の中で、裁判所に向かう護送車に乗り込んで座ると、なんとその向かい側の席にやはり当局に拘束されて手錠をはめられて座っている湯本淵氏とバッタリ再会したと書いている。そして護送車の中で、スパイ容疑の被告である鈴木氏に、中国人容疑者である湯本淵氏がこう語りかけたという。
「日本の公安調査庁の中にはね、大物のスパイがいますよ。ただのスパイじゃない。相当な大物のスパイですよ。私が公安調査庁に話したことが、中国に筒抜けでしたから。大変なことです」
「日本に帰ったら必ず公表してください」
筆者はこのやり取りにも違和感を抱いている。こんな偶然を、果たして中国当局が許すのだろうか。普通に考えれば、当事者同士で会話をさせれば、口裏を合わせられる可能性もある。結果的に、鈴木氏は湯本淵氏との約束をメディアでの活動や今回の出版で果たしている。
これを機に日本のインテリジェンス体制を見直すべき
また鈴木氏の出版やメディアでの活動は、日本の情報機関の活動に大きな影響を及ぼしている。公安調査庁では、まず中国国内の情報活動を停止することになったという。「公安調査庁内部に中国のスパイがいる」と大々的にぶち上げられたのだから致し方あるまい。そして、本当に中国人スパイが紛れ込んでいるかどうかは別として、これが日本のインテリジェンスにとっては大打撃であるのも間違いない。
逆に言えば、鈴木氏が本当に公安調査庁のスパイだったのか否かはともかく、中国当局としては日本の情報活動を強く牽制することができたことになる。
日本は、世界各国が当たり前のようにやっているサイバー攻撃やハッキングによるサイバースパイ工作も他国に対して仕掛けることができないし、海外でのインテリジェンス活動も“表向き”は行っていないことになっている。その上、今回の件で重要なライバルである中国からの情報もこれまで以上に得られなくなる。少し前には、ロシアのウラジオストクでも日本人領事がスパイ容疑で一時拘束されたこともあり、ロシアにおける情報活動の動きも鈍っている。
果たしてこのままで日本の安全保障や経済安保は大丈夫なのだろうか。むしろ、いま日本のインテリジェンス分野は重大な岐路に差し掛かっていると認識すべきなのではないだろうか。
筆者は、日本は最近起きている数々のスパイ関連の問題から目を背けず、正面から日本のインテリジェンス活動をどうしていくのかを協議すべき時に来ていると考えている。今こそ、日本がインテリジェンスの世界でも「普通の国」になるチャンスとも言える。
たとえばこうだ。日本に対外インテリジェンス機関を設立し、反スパイ法を制定する。そうして日本政府が公式に国外での対外スパイ活動をバックアップし、日本のためのインテリジェンス収集や工作活動までできる諜報員を育てていく。国家予算をつけ、活動の範囲や保護規定もはっきりと決めることで、海外でインテリジェンス活動をする邦人の保護活動にも寄与することになるだろう。
いま動かなければ、鈴木氏のように中国でスパイとして拘束されてしまう邦人(もちろん日本の情報機関の協力者ではない人も含む)は今後も後を絶たないだろう。
◇
スパイ防止法がなく、海外での諜報活動をおこなう機関もなし、更にはサイバー攻撃も出来ない日本は、まさにスパイ天国であり、またそう言われても仕方がないでしょう。
特定秘密保護法でさえ、成立するまでの野党やメディアの徹底的な反対運動があったような国で、スパイ防止法を制定しようとすれば、またもや反対の大合唱が起こるものと思われます。
しかしそんな反対を押し切ってでも、スパイ防止法を制定し、海外諜報機関を設立し、サイバー防御と攻撃が出来る組織と要員を準備しなければ、普通の国にはなり得ません。中国その他の非友好国からの情報攻撃にさらされている現状を、是非変えていく必要が強く求められます。
(お手数ですがこちらもポチッとクリックをお願いします)
« 小西、杉尾、石垣、福山、蓮舫議員の国会質問に見る、立憲民主党という存在の耐えられない軽さ | トップページ | 中国、もう一つの安全保障上のリスク:「世界一の技術力とシェア8割」 日本の国境を脅かすドローン大国化 »
「情報・インテリジェンス」カテゴリの記事
- 中国の獄中から帰還した邦人が暴露「公安調査庁に中国のスパイ」は事実なのか 今こそインテリジェンス体制の整備を(2023.05.02)
- 中国の情報収集、国家をあげての「秘密工作」あの手この手、平和ボケ日本は最大の得意先(2023.02.28)
- 中国に加担する日本メディアと情報工作に弱い日本社会が、中国の日本へのステルス侵攻を加速している(2023.01.22)
- 高市早苗氏:セキュリティ・クリアランス制度の導入に、止まない首相への不満(2022.10.16)
- 世界の要人が丸裸!中国が集めていた驚愕の個人情報、安倍元首相の情報も(2020.09.19)