なぜ電気料金は値上がりし続けるのか、妥当な制度設計を欠いたFITと電力自由化、「脱原発」と叫ぶだけでは変わらない
原発再稼働が思うように進まない中、日本の電気料金は世界でもトップクラスの高さを示しています。これまでもその料金は上がり続けてきました。その要因は何なのか。
電気料金の高騰は、そのまま企業の競争力を低下させ、国民の生活に負担を生じさせます。シード・プランニング社のリサーチ&コンサルティング部、主任研究員の関瑶子氏が、この問題を取り上げJBpressに寄稿していますので紹介します。タイトルは『なぜ電気料金は値上がりし続けるのか、エネルギー敗戦国に残された選択肢 妥当な制度設計を欠いたFITと電力自由化、「脱原発」と叫ぶだけでは変わらない』(5/04公開)で、以下に引用して掲載します。
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電気料金の高騰が止まらない。もちろん、政府も手をこまぬいているわけではなく、2022年10月に「電気・ガス価格激変緩和対策」を閣議決定した。これは電気・都市ガスの小売事業者に対し、2023年1月以降の電気・都市ガスの使用量に応じて、補助金を給付するものだ。それを原資として消費者への値引きが行われるので、一時的には消費者の負担は緩和される。
しかし、これは本質的な解決策ではない。先進国たる日本でなぜ電気が足りない事態になったのか。電力自由化の効果はあったのか。なぜ原子力発電所を再稼働させる必要があるのか──。『電力崩壊 戦略なき国家のエネルギー敗戦』(日本経済新聞出版)を上梓した竹内純子氏(国際環境経済研究所理事/東北大学特任教授/U3イノベーションズ合同会社共同代表)に聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター・ビデオクリエイター)
──まず、昨今の電気料金高騰の理由について教えてください。
竹内純子氏(以下、竹内):電力料金値上がりの理由は、主に二つあります。一つ目として、原子力発電を停止させているため火力発電への依存度が上昇し、燃料費がかさむようになったことが挙げられます。
火力発電は、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃やして発電します。日本はそれらの資源を海外からの輸入に頼っています。化石燃料を安定的かつ安価に調達することは容易なことではありません。これは、今回のロシアによるウクライナ侵攻でもよくわかったと思います。
そのため、化石燃料を必要としない再生可能エネルギー(以下、再エネ)と原子力の活用を推進していくことが求められてきました。
原子力発電ではウランという燃料を必要とします。原子力発電では、少量の燃料から莫大なエネルギーを生むことができ、いったん燃料棒を原子炉に入れると2~3年程度の発電が可能です。
そのため「準国産エネルギー」として自給率にカウントするというのが国際的な考え方です。燃料代がほとんどかからないため、設備を動かせば動かすほど、安い電気を供給できるというわけです。
しかし、2011年の福島原発事故を受けて、日本ではほとんどの原子力発電所が稼働停止、ないしは廃止措置中という状況に陥り、火力発電への依存度が7割にもなっています。昨今のエネルギー資源の価格高騰の影響から逃れられない状況にあるのです。
電気料金値上がりのもう一つの要因は、再エネの普及を後押しすることを目的に施行された全量固定買取制度(FIT)です。この制度により、再エネによって発電された電気を、地域の大手電力会社が固定の価格で買い取ることが義務付けられました。
火力発電や原子力発電と比較し、再エネはコストが高かったので、再エネ事業者に対し金銭的な援助が必要とされました。そこで消費者が、火力や原子力など他の電源と再エネとの価格差を「賦課金」として、通常の電気料金に加えて支払うことになったのです。2022年時点で、賦課金は一般世帯で年間1万円を超える負担になっています。
──再エネは燃料が不要でCO2の排出もないことから、良いイメージを持つ人も多いかと思いますが、再エネに対しては、様々な課題が指摘されています。電気料金高騰以外に、どのような問題や課題があるのでしょうか。
FITが日本列島と日本社会に与えた爪痕
竹内:再エネに限らず、エネルギー関連施設は基本的に迷惑施設です。私は長く電力会社の用地部門にいましたが、電柱1本をわずかに動かすだけでも、地域住民の了解をいただくのは大変なことです。再エネの普及に賛成していても、自宅の裏山に太陽光パネルが敷き詰められたら、多くの人は嫌がるのではないでしょうか。
本来であれば、再エネ発電事業者にも、地域との協調や自然環境への配慮を求めるような制度設計をするべきでした。しかし、再エネ導入を急ぐあまり、そのような制度的手当てが欠落してしまっていた。土砂流出や濁水の発生、景観悪化などへの懸念から、太陽光発電を規制する条例を導入した自治体は今や208に上ります(2022年時点)。
また、FITによる補助が余りに手厚かったため、投資目的で参入した事業者も多くいました。将来、再エネの設備が老朽化した時に、彼らが再投資するかどうかは不透明です。
──日本では、2016年4月に電力小売完全自由化(以下、自由化)が開始しました。自由化により電気料金が安くなるとほとんどのメディアが報じていました。自由化は、実際のところ電気料金にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。
竹内:自由化に期待される効果は、主に二つあります。一つ目は、競争によって事業の効率化が進み電気料金が下がること。二つ目は、消費者が好きな小売事業者を選んで電気を買えるようになることです。
ただ、自由化によって電気料金が引き下げられるか否かは、日本に先立ち自由化を実施した欧米諸国の経験を分析しても定かではありません。むしろ化石燃料価格が上昇局面になると、その上昇を上回るような電気料金上昇がみられます。
また、日本の小売電気事業者は2022年時点で733に上ります。そのほとんどが、自前の発電所を持っているわけではありません。彼らは、市場で電気を調達して売るだけです。このような状態を「消費者が選択肢を手にした」と言えるのか、疑問に思います。
──欧米諸国の経験の分析から、自由化により電気料金が上昇する可能性は十分に予測できたということですね。それにもかかわらず、なぜ日本は欧米諸国を追いかけるように自由化に踏み切ったのでしょうか。
電力会社に対する懲罰的な意味合いがあった電力自由化
竹内:そこが、自由化について最も反省と検証を要する点だと思います。
自由化は、福島原発事故と計画停電を起こした電力会社への「懲罰」的な意味を含んでいたと言われています。電力会社にムチをふるうことで、それまでの電力行政への批判を回避する政治的な動きがあった、という話を関係者から聞いたことがあります。
そんないい加減な動機で、電力という重要なインフラの制度設計を行って、果たして国民を幸せにする制度ができるのでしょうか。
──自由化以前は、大手電気事業者は、値上げの際に経済産業大臣の認可を必要とする「規制料金制度」によって電気料金を決定していました。規制料金制度の下では、総括原価方式によって電力会社の利益が保証されます。そのため、電気事業者が過剰な設備投資を行う可能性がある、という点が規制料金制度のデメリットとして指摘されていました。
竹内:総括原価方式とは、必要な原価に加えて「適正利潤」を上乗せし、それらが回収できるよう料金を決定する方式です。公共性の高いガスや水道料金、NHKの受信料なども総括原価方式によって決められています。
ここで重要なのは、「適正利潤」とは、ほぼ資金調達コスト(支払利息や配当)だということです。
設備産業である電気事業において、電気料金を抑制するための重要なポイントの一つが資金調達コストの抑制です。借金の利率を低く抑えるということですね。投資を必ず回収できるという制度により、低利での資金調達を実現し、安定的な設備投資を可能にしたのです。
社会が成長し、電力需要が伸びている時代は、安定的な設備投資が必要です。ただ、社会の成長が停滞してくると設備投資が過剰になるという危険性もはらんでいます。電力需要の伸びの停滞と共に規制料金制度から自由化に移行することはメリットもあります。しかし、2016年以降の自由化には課題も多く、制度の再設計が必要です。
特に、自由化したにもかかわらず、大手電気事業者は規制料金での販売や供給義務を残されるといういびつな制度になっています。
──昨今は、電力需給ひっ迫が話題になっています。先進国である日本で「電気が足りない」という事態になった理由について、教えてください。
火力発電所の廃止が急増する当たり前の理由
竹内:電力需給ひっ迫の原因としては、まず、原子力発電所のほとんどが停止していること、そして、電力自由化と同時に再エネの導入を急速に進めたことが挙げられます。
東日本大震災前には、原子力発電所は日本の電力需要の3割程度をまかなっていました。2023年現在、そのほとんどが稼働していません。サッカーでいえば11人中3~4人がベンチに下がっている状態です。
加えて、東日本大震災後、再エネが急速に普及しました。太陽光発電の導入量は中国、アメリカに次いで日本は世界第3位です。
天気が良く太陽光発電が好調で、かつ電力需要が少ない時間帯では、太陽光発電が電力需要の大半をまかなうことは、現在では珍しくありません。
そうしたタイミングでは、火力発電は控えに回らざるを得ません。稼働率が下がることで利益を出せなくなった火力発電所は、維持管理費用を捻出することすら困難になります。そのような状況に陥った火力発電所の廃止が急増しています。
天気が悪く太陽光発電では電力供給不足となる場合には、火力発電に働いてもらう必要があります。しかし、稼働率が低い設備は、平時は「無駄な設備」です。事業者にとっては重荷以外の何物でもありません。
脱原子力に加え、電力自由化と再エネの大量導入を同時に進めれば、供給力不足になることは明らかでした。
──日本では、1961年に原子力損害賠償法が制定されました。この法律によって、原子力災害発生時には、たとえ無過失であっても原子力発電事業者がすべての賠償責任を負うということが定められました。なぜ、日本政府は原子力発電事業者に「無限責任」という義務を負わせるのでしょうか。
原発事故で民間事業者に無限の賠償責任を負わせる異質さ
竹内:原子力災害発生時に、民間事業者に無限の賠償責任を負わせる日本の制度は異質であろうと思います。
日本が原子力基本法を定め、戦後復興・経済成長のために原子力を使うという覚悟を決めたのは1955年のことです。原子爆弾を投下されてから、わずか10年後。今以上に、原子力技術に対する抵抗は大きかったに違いありません。しかし、戦争に負け、焼け野原となった日本が経済成長をしていくためには、安価で潤沢なエネルギーを確保しなければならなかった。
発電所の安全に一義的な責任を負うのは発電事業者です。従って、無過失であっても事故発生時の賠償責任を発電事業者が負うのは各国共通の制度です。ただ、公共性の高い電気事業は、国がその必要性を認め、民間事業者にその事業を営むことを認めるのであれば、一定以上の被害については国が責任を負うとするのが一般的です。
しかし、日本で原子力損害賠償制度が定められた当時、大蔵省(当時)は国が責任を負うことは何としてでも避けたいと考えました。その結果、日本の原子力損害賠償制度は、賠償額に制限のない責任を民間の発電事業者に負わせる制度となったのです。
原子力は、あらゆる面で国の覚悟を必要とする技術です。
──自由化により、原子力発電は数ある発電手法との競争の渦に放り込まれました。無限の賠償責任という「しんどさ」を背負わせたまま、民間の原子力発電事業者をそのような競争に放り込んでいいのでしょうか。
竹内:政府は、電力の安定供給確保や脱炭素などの観点から原子力発電を再エネと同じく脱炭素電源として活用することを決めました。しかし、もし私が電力会社の社長だったら、国の責任を明確化してもらわない限り、その方針に協力することはできないだろうと思います。
──原子力発電所の運転期間は、原子炉等規制法により原則40年、最長60年とされています。しかし政府は、60年を超える運転を認める方針を明らかにしました。
60年を超える原子力発電所の稼働は無謀か?
竹内:原子力発電所の運転期間を延長するためは、高い安全性が求められます。従って、科学的な知見に基づく議論が必要です。
一般的に、設備の寿命は当初の導入技術や設置条件、メンテナンスや使用条件によって大きく異なるため、一律に定めることは困難です。車検に合格すればどんなクラシックカーでも走行可能であることが良い例でしょう。
諸外国でも原子力発電所の運転期間を安全規制によって制限する例はありません。運転が許可される期間(ライセンス期間)を定め、定期的に設備の安全性を確認し、運転継続の是非を判断しています。IAEA(国際原子力機関)のデータでは、高経年化した原子力発電所の稼働率は「低下していない」ことが示されています。
日本の原子力発電所の運転期間制限は、2012年の与野党共同提案の議員立法による原子炉等規制法改正時に盛り込まれたものです。当時の国会での議論を振り返ると、驚くべきことに40年、60年といった年限に「科学的根拠はない」と明言されています。
技術の新陳代謝を促進し、安全性や効率性を高めていくことが基本中の基本です。しかし、「まだ使える」原子力発電所を早期に廃止することは、国民や経済にとってはマイナスです。最も安価なCO2削減策は、既存の原子力発電を最大限に活用することであるというのは、国際的な共通認識です。アメリカでは、80年間運転の許可を得る発電所が既に6基存在します。
日本では、福島原発事故の経験以降、莫大な安全対策投資をしています。議論の経緯を改めて見直し、原子力の利用と安全規制の最適化を進める必要があるでしょう。
──今後の世界のエネルギー政策のあるべき姿について教えてください。
エネルギー政策で重要な「安定供給」「経済性」「環境性」
竹内:エネルギー政策を考える際には「安定供給」「経済性」「環境性」の3つが重要です。
エネルギーは必要な時に必要な量を確保することが最も重要ですので、「安定供給」は大前提です。また、需要家が許容できる価格にエネルギー価格を収められなければ、特に経済的弱者に打撃を与えるので「経済性」の視点も重要です。「環境性」は気候変動や地域との協和です。
これらすべてを兼ね揃えた理想のエネルギー源を、人類はまだ手にしていません。従って、3つの要件を最も満足させるためには、複数ある発電手法の中でどの電源をどの割合で利用するか、というバランスを考える必要があります。エネルギー政策は、ゼロか100かの議論では決められないということです。
また、年間で1兆kWh近い電力を消費している国は、中国、アメリカ、ロシア、インド、そして日本のわずか5カ国です。それにもかかわらず、日本は自国の領土内で、石油も天然ガスも、石炭も得られない。その上、国土が狭く、また、平野部が少ないために再エネを増やしていくにも限界があります。こうした自らの制約条件から目を背けずに向き合うことが重要です。
その上で、強みである省エネ技術を活かす方策を考えること、そして腰を据えて社会変革に取り組むことです。エネルギー転換は、社会変革そのものです。
政策提言だけでは社会を変えることはできない。エネルギー・環境分野にベンチャー・スピリットを吹き込みたい。そう考え、私はU3イノベーションズ合同会社を創業しました。
政策と産業の両面から、エネルギー転換を切り口に、持続可能な社会への変革に携わっていきたい。これが、私の目標です。
◇
エネルギー政策は「安定供給」「経済性」「環境性」の3つが重要だと竹内氏は言います。太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーは、「安定供給」「経済性」いずれにも難があるではありませんか、そして太陽光発電は「環境性」にも疑問がつきます。
その自然エネルギーを、福島原発の事故の後、むやみに増やしてしまった政策が、今の電力料金高騰の一因でもあるのです。まさにこのブログでも指摘しているように、農業政策と同様、政治の不作為の結果と言えるでしょう。
食料・エネルギーという国の安全保障の根幹にも関わる問題を、政治の不作為で今日のような状況に貶めたのは、極めて残念です。電力について言えば、原発再稼働を可能な限り早急に取り進め、無限の賠償責任を国と共同責任というように、変更すべきでしょう。いずれにしろ世界トップクラスの電力料金を早く引き下げてもらいたいものです。
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