中国は人口減による衰退論に猛反発 本当は他国に触れられたくない“縮みの現実”とは
人口減少と高齢化の進展、不動産バブルの崩壊、若者の失業率増大、財政赤字の急増、そしてアメリカなどによる半導体など先端技術の封じ込めと、3期目に入った習近平政権の目の前に、暗雲が立ちこめ始めています。
こうした中、中国当局は躍起となってそうした懸念をもみ消そうとしています。その実態を経済産業研究所のコンサルティングフェローの藤和彦氏が、デイリー新潮に投稿したコラムに見てみましょう。タイトルは『中国は人口減による衰退論に猛反発 本当は他国に触れられたくない“縮みの現実”とは』(5/01公開)で、以下に引用して掲載します。
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足元の最大の不安材料はデフレ懸念
国連経済社会局は4月24日、「インドの人口が4月末までに中国を追い抜き、世界最多となる」との予測を発表した。今後の見通しについても「インドで数十年にわたり人口が増加し続けるのに対し、中国は今世紀末までに10億人を割り込む」としている。
国連の予測は19日に国連人口基金が公表したデータに基づく客観的なものだ。だが、中国政府は「西側メディアが中国を中傷するため、人口減少による中国衰退論を意図的に喧伝している」と猛反発している。
中国の今年第1四半期の経済成長率は前年比4.5%増となり、昨年第4四半期の2.9%増から加速した。これを受けて、米国の大手金融機関は中国の経済成長率を相次いで上方修正しており、国際通貨基金(IMF)も「中国はインドともに今年の世界経済を牽引する」と予測している。
「ゼロ・コロナ政策を解除した中国の景気は回復する」との見方が出ているのにもかかわらず、なぜ中国政府は「衰退論」に過剰反応しているのだろうか。
中国経済にとって足元の最大の不安材料はデフレ懸念だ。成長率が上振れしているのにもかかわらず、物価の下落傾向が強まっている。
不動産バブルの崩壊により、で生産者物価指数(PPI)は昨年後半以降、マイナスの状態が続いている。消費者物価指数(CPI)も3月、前年比0.7%増にまで低下している。
中国政府は「デフレは起きていない」と主張しているが、専門家は「中国経済の深い部分にまでデフレ圧力が浸透している」と分析している(4月19日付ロイター)。
若者のキャリア・パスにも「縮み」の現象が
デフレとは「物価が持続的に下落している現象」であり、日本語では「経済収縮」と訳される。平たく言えば「経済が持続的に縮んでいく」ことだが、中国経済は至るところで「縮み」傾向が目立つようになっている。
この傾向が最も顕著なのは個人消費だ。日本を始め先進国の国内総生産に占める個人消費の割合は5割を超えるが、中国の比率は4割に満たない。このことは中国経済が抱える構造的な弱点とされてきたが、足元の状況はむしろ悪化している感がある。
不動産バブルの崩壊がもたらす資産デフレが悪影響を与えており、中国の家計は将来のリスクに備えて貯蓄を大幅に増やしている。中国の家計貯蓄は昨年、17兆8000億元増と過去最大の伸びを示した。今年第1四半期にさらに9兆9000億元増加し、増加幅は2021年通年の伸びに匹敵する。
この大きく膨らんだ貯蓄を消費などに振り向けるため、中国政府は銀行に対して預金金利をさらに引き下げるよう指示しているが、成果が上がるとは思えない。3月の失業率は16歳から24歳までが19.6%と記録的な水準に達しており、雇用不安が続く状況で中国人の貯蓄志向が変わるとは思えないからだ。
中国の若者のキャリア・パスに「縮み」の現象が生じていることも気になるところだ。
高学歴の若者たちが高給取りの仕事を捨て、低賃金の肉体労働の仕事に転職して慎ましく生きていくという選択を取り始めている(「クーリエ・ジャポン」4月20日配信記事)。若者がキャリア・ダウンを志向するのは「ラットレース(ハードワークをしても豊かになれない状態)は意味がない」との認識が広まっているからだという。
「縮み」傾向の下、中国の海外旅行者の数もピーク時の水準を大きく下回っており(「ロイター」4月19日配信記事)、中国人観光客の増加による日本のインバウンド需要の拡大は期待外れに終わってしまうのかもしれない。
足かせは中国を巡る地政学リスク
中国経済を牽引していた輸出も「縮み」始めている。
予想に反し、中国の3月の輸出は増加に転じた。6カ月ぶりのことだが、「コロナ以前の水準にまで回復することは難しい」との予測が一般的だ。
その要因の1つとして、中国の人件費上昇がある。これを受けて、製造業の生産拠点が東南アジアに多く移転した。
今年4月、中国最大の貿易見本市である広州交易会が4年ぶりに開催されたが、出展した中国の輸出企業は環境の激変ぶりを痛感しており、今後、輸出部門で大幅なリストラが実施されるのは必至の情勢だ。
中国経済の成長に貢献してきた海外からの投資マネーも縮んでいる。
習近平国家主席を筆頭に中国の当局者らが異口同音に中国経済の復活を宣言し、規制強化で招いたダメージの修復に取り組んでいるが、中国ハイテク企業からの投資の引き揚げが止まらない(「Bloomberg」4月14日配信記事)。
足かせとなっているのは中国を巡る地政学リスクだ。外国勢の資金引き揚げが進み、中国株の下落が続いている。
「Bloomberg」の記事はモルガン・チェースの調査を引用し、投資家が「最も撤退する可能性が高い新興国」として挙げたのは中国だったとしている。中国経済は回復しつつあっても、「投資家の頭に浮かぶのは米中関係や台湾問題」だからだ。
中国の科学技術分野の論文発表数は米国に次いで世界第2位となり、「科学技術大国」のイメージが強まっているが、実態は違うようだ。
研究の不正が横行し、中国の研究者たちが「偽造論文」を世界中にまき散らしている実態が明らかになっており(「クーリエ・ジャポン」4月23日配信記事)、「科学技術大国」中国に対する期待も今後、大きく縮むことになるだろう。
このように、中国経済の縮み(衰退)は深刻だ。中国政府が声高に衰退論を否定するのは、このことを誰よりもよく知っているからではないだろうか。
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独裁国家に共通するのは、自国の弱点を隠し、時として真逆の主張をしたり殊更必要以上に否定をしたりすることです。中国の「衰退の否定」もその流れにあるのでしょう。
日本は既に30年前に、デフレの渦中に入ってしまいましたが、そのときの状況、つまり労働力人口の減少や不動産バブルの崩壊と言ったところが、今の中国でも全く同じ状態になっていることです。これから中国でもデフレが続くことが十分予想されます。
何度も言うようですが、チャイナリスク(政治リスク)に加え、デフレに陥った(と思われる)この国から、事業の撤退や投資の回収を急いだ方がいいでしょう。そうした中で、本当に衰退が進めば、覇権の弱体化にもつながり、世界にとってはこの上ない朗報となると思います。
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