経済・政治・国際

2023年4月19日 (水)

受け入れざるを得ない悲しい現実、アジアの中でも「小国」に転落する日本 日本は抜本的な意識の転換を

Images-14_20230418161901  日本は失われた30年と言われて久しくなります。バブル崩壊後の緊縮財政と、生産年齢人口の減少が重なり、それまでの右肩上がりの成長から、成長はほぼゼロという大きな変化の屈折点となりました。

 更にリーマンショック後の超円高が、日本企業の海外転出を加速させ、産業空洞化が進む中、コンクリートから人へのスローガンを掲げた、民主党が政権を握り、景気の後退に拍車をかけました。

 その後の安倍政権が起死回生を賭けた、アベノミクスもデフレ解消には至らず、企業の投資意欲を喚起できないまま今日に至っています。他国が成長を続ける中、日本だけが低成長の結果G7の中でも最も生産性の低い国になり、給与は上がらず、韓国や台湾にも抜かれる局面を迎えています。。

 こうした状況の詳細を、経済評論家の加谷珪一氏がJBpressに寄稿した記事から見てみましょう。タイトルは『受け入れざるを得ない悲しい現実、アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を』(4/17公開)で、以下に引用して掲載します。

 コロナ危機を経て、新興国が驚異的な経済成長を実現している。国内では日本のGDPがドイツに抜かされつつあることが話題となっているが、本当の脅威はそこではない。アジアやアフリカなど新興国の成長が本格化することで、大国の概念が大きく変わりつつある。日本は将来、インドネシアにも抜かれ、アジアの小国に転落する可能性が高く、それを前提にした戦略に転換する必要がある。(加谷 珪一:経済評論家)

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東南アジアが急激に豊かになっている

 フィリピン政府は2023年1月、2022年の実質GDP(国内総生産)成長率が前年比でプラス7.6%になったと発表した。この数字は、政府の目標値を上回っており、しかも過去2番目の大きさである。

 高成長を実現したのはフィリピンだけではない。同年におけるマレーシアの成長率はプラス8.7%、ベトナムの成長率はプラス8.0%、インドネシアは5.3%と軒並み高い数字が並ぶ。

 各国に共通しているのは消費の強さである。これまでアジアの新興国は、米国や日本、韓国の下請けとして工業製品を製造するケースが多く、基本的に輸出に依存していた。だが一連の高成長の原動力となっているのは内需であり、とりわけ個人消費の伸びが大きい。

 東南アジア各国が個人消費によって高成長を実現していることから分かるのは、各国で資本蓄積が進み、国内のインフラが整ったことで、国民生活が豊かになってきたという現実である。

 一般的に新興工業国は、輸出とそれを支えるための生産設備への投資で経済を伸ばしていく。かつての中国や日本がそうだったが、GDPに占める設備投資の比率が高く、個人消費はそれほど成長には寄与しない。だが十分に資本蓄積が進んでくると内需の寄与度が大きくなり、本格的な消費社会が到来することになる。

 こうした変化が発生するしきい値となるのは、1人あたりGDPで1万ドル前後と言われており、これは多くの文化圏に共通した現象である。1人あたりGDPが1万ドルを超えてくると、当該国は相当程度、豊かな生活を送れるようになり、消費パターンも先進国と似通ってくる。

 この法則は過去の日本にも当てはまる。日本の1人あたりGDPが現在価値で1万ドルに達したのは1960年代であり、70年代以降、国内の風景は一変した。筆者は1969年生まれだが、小学校に入学する頃までは街中は汚く、一部では戦後の貧しい時代の雰囲気を色濃く残していた。ところが70年代後半から社会は急速に豊かになり、施設も見違えるように立派になっていった。

 現在の中国における1人あたりGDPは1万2500ドルとなっており、しきい値を超えている。中国人の生活は劇的に変化しており、従来の中国とはまったく違う国になったと考えてよい。

 ひるがえって東南アジア各国の1人あたりGDPは、マレーシアが1万3000ドル、タイが7600ドルとなっており、マレーシアはすでに中国並みの豊かさを実現し、タイが準先進国入りするのも時間の問題である。

 ベトナムは4000ドル、フィリピンは3600ドル、インドネシアは4700ドルなので、1万ドルに到達するまでには少し時間がかかる。だが逆に言えば、1万ドルまでは青天井となる可能性が高く、当分の間、驚異的な成長を実現するだろう。

日本はインドネシアにも抜かされる?

 今の議論はあくまでも1人あたりGDP、つまり社会の豊かさに関するものだが、東南アジア各国の脅威はそれだけではない。中国ほどではないにせよ東南アジア各国は人口が多く、GDPの絶対値も大規模になる可能性が高いのだ。

 日本の人口は1億2500万人であり、相対的には人口が多い国である。日本が戦後、工業国として成長できた理由のひとつは人口の多さであり、低賃金を武器に大量生産を実現したことで先進国の仲間入りを果たした。ビジネスや外交において規模は重要であり、人口が多いことが強力な武器になるのは今の中国を見れば明らかだろう。

 東南アジアで最も人口が多いのはインドネシアで約2.8億もの人口を抱えている。ベトナムやフィピンもインドネシアほどではないが人口が多く、ベトナムは約1億人、フィリピンは1億1000万人、タイも7000万人なのでかなりのボリュームだ。

 多くの人口を抱えた東南アジア各国が今後、急激に成長し、豊かになってくると、中国のような爆買いを行うことは容易に想像できる。中国に加えて東南アジアが爆買いを開始した場合、アジアのビジネス環境が激変するのはほぼ間違いないだろう。

 特に脅威となるのがインドネシアである。

 インドネシアの1人あたりGDPはまだ5000ドルだが、今後、急激に豊かになり、今のタイやマレーシア並みに成長するのは確実である。3億人近い人口を抱えた国が経済成長すると、GDPの絶対値も大きな数字となる。多くの専門家が今後20年以内にインドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になると予想している。

 東南アジアではないが、意外なところではアフリカのナイジェリアもそれに該当する。

 同国はまだ貧しい新興国だが、人口は2億を超えた。東南アジアに続いて急成長を実現するのはアフリカ諸国と言われており、そうした新時代においてナイジェリアは大国になる可能性を秘めている。

日本は小国であるという現実を受け入れよ

 これまでの日本は、相応の人口を抱え、GDPの絶対値が大きかったことから、私たちは日本について大国であると認識してきた。だが、一連の現実からも分かるように、豊かさ(1人あたりのGDP)という点ではすでに台湾に抜かれ、韓国に追い付かれるのも時間の問題となっている。GDPの絶対値においても、新興国が驚異的なペースで規模を拡大させており、すでに日本は大国ではなくなりつつある。

 日本における最大の貿易相手国は輸出入とも中国となっており、望むと望まざるとにかかわらず、日本は中国を中心とするアジア経済圏に取り込まれつつある。中国の人口は14億、東南アジア全体では7億人近くの人口があり、各国が今後、急激に豊かになるという現実を考えると、アジア経済圏において日本は小国の1つに過ぎない。

 繰り返しになるが、外交や軍事力、ビジネスなど、対外的な交渉力や国家覇権という点では、1人あたりのGDPではなく、GDPの絶対値がモノを言う。戦後の国際社会はすべて米国を中心に回ってきたといっても過言ではないが、米国が世界のリーダーとして君臨できたのは、ひとえにその巨大な経済規模のおかげといってよい。

 日本は世界最大の経済大国である米国と同盟国であり、かつGDPの規模が米国に次いで2位であった。この絶対値の大きさがあらゆる面でメリットになっていたことは疑いようのない事実であり、残念なことに日本は中国と東南アジアの台頭によって、その両方(「同盟国である米国が突出して大きな経済規模を持っていたこと」と「GDPの絶対値」)を失いつつある。

 小国として経済や外交を運営するには、大国とはまったく異なるパラダイムが必要だが、日本人にその準備ができているとは思えない。これまでの価値観をすべてゼロにするくらいの意識改革を行わなければ、次の50年を生き抜くのは極めて難しいだろう。

 あのバブルの時代、土地代や株は天井知らずに上がり続け、物価高騰を上回る給与の上昇が、不動産やものの価格の上昇をまた招くという、今では考えられないような経済状況が続いたのです。

 ところが、土地の高騰を抑えるための金利引き締めと、マネー収縮政策がとられ、その前から下がり始めた株と共に、土地の価格も下げに転じました。それまでは土地の価格は上がるものだと信じ込んでいた多くの人たちは、何が起こったか分らないまま、唖然とこの現象を眺めていたものです。

 初めての経験とは言え、このとき景気を冷やしすぎるような政策をとらず、何らかの知恵を持ってソフトランニングさせていれば、その後の山一証券や拓銀などの大手三銀行の破綻も起きていなかったかも知れません。

 いずれにせよ、バブル崩壊に端を発した日本の長期の経済低迷を、何とかしなくてはなりません。少子化もそれに輪をかけているので、非常に困難な状況ですが、加谷氏の言うように、これまでの価値観をひっくり返すような意識改革を行わなければなりません。

 今まだ過去に蓄積した資産もあり、また一方で日本の持つ強みも残っています。それがある内に思い切った改革を政府、民間一体となってやることしか、失われた30年を成長軌道に乗せる道は無いと思われます。

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2022年9月21日 (水)

習近平はどうして「死に体」プーチンとの連携を強化するのか?

220916kmr_pxr01thumb720xauto514566  先日ウズベキスタンのサマルカンドで開催された、第22回SCO(上海協力機構)の会合で、習近平国家主席とプーチン大統領の首脳会談が行われました。その会談で『習近平氏は、第20回共産党大会に向けて、「箔をつける旅」だった。41回目となったロシアのウラジーミル・プーチン大統領との「友情」を確かめる場ではなく』と、一部メディアで報じられています。

 実際両国の立場は、かつてのソ連と改革開放前の中国との立場からは、完全に逆転しています。ましてやウクライナ侵攻後の、経済制裁で孤立したロシアにとって中国は、経済的に最も頼れる相手であって、尻尾を振らねばならない国となってしまっています。

 しかし中国にとって、どうしてここまで傷を負ったロシアを擁護する必要があるのでしょうか。そのあたりの事情をNewsweek日本版の記事から引用します。タイトルは『習近平はどうして「死に体」プーチンとの連携を強化するのか』(木村正人氏寄稿)です。

<ウクライナの戦場では苦戦が続き、外交的にも経済的にも苦境に陥っているプーチンのロシアを中国が変わらず支え続けるのにはしたたかな計算が>

[ロンドン発]ウラジーミル・プーチン露大統領と中国の習近平国家主席は15日、ウズベキスタンで開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせて会談し、「中露の友情」と包括的・戦略的協力パートナーシップを改めて強調した。中露首脳が対面方式で会談するのは北京冬季五輪に合わせた2月以来で、ロシアによるウクライナ侵攻後は初めて。

ロシア軍がウクライナの占領地域から潰走、その跡から440遺体を超える集団墓地が見つかるなど残虐行為がさらに浮き彫りになる中、習氏が敢えてプーチン氏と会談した理由は何なのか。ロシア大統領府の発表によると、プーチン氏は会談冒頭、「ウクライナ危機に関する中国の友人のバランスの取れた立場を高く評価している」と習氏に感謝の意を伝えた。

しかし戦局の混迷に「中国の疑問や不安は理解できる。この問題に関するロシアの立場を詳しく説明する」と取り繕った。ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台をきっかけに緊迫する台湾情勢について「ロシアは『一つの中国』の原則を堅持している。台湾海峡における米国とその衛星国の挑発を非難する」と中国の立場を支持した。

プーチン氏は「一極集中の世界を作ろうとする試みは醜く、圧倒的多数の国家にとって容認できないものだ」とする一方で、「昨年、中露の貿易額は35%増加し、1400億ドルを突破した。今年に入ってからの7カ月間で2国間貿易はさらに25%増加した。近い将来、貿易額を2000億ドル以上に増やせると確信している」と経済関係の強化に胸を張ってみせた。

習氏「相互の核心的利益に関わる問題で相互支援を拡大する」

中央アジアに一帯一路の一部である「シルクロード経済ベルト」を構築したい習氏は「歴史上前例のない地球規模の急激な変化に直面し、中国はロシアの仲間とともに責任あるグローバルパワーとしての範を示し、世界を持続可能な発展の軌道に乗せるために指導的役割を果たす」「相互の核心的利益に関わる問題で相互支援を拡大していく」と応じた。

中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」は「中露関係は歴史上最高の状態にある。首脳会談は2国間関係の着実な発展のための保証であり、中露関係が外部の雑音に影響されないことを示すものだ。中露を政治的・軍事的に結びつけて他の世界との間に楔を打ち込もうとする米欧の試みに対しても中国は警戒を強めている」という専門家の見方を伝えた。

「ロシアのウクライナ侵攻前、米欧は中露の接近を恐れて、その間に楔を打ち込もうとした。侵攻後は中露を一つの陣営とみなして国際社会と対立させようとしている。中国は自主外交を堅持し、ブロック対立やいわゆる同盟に反対している。中露関係はウクライナ紛争や(冷戦マインドの)米国の封じ込めに対応したものではない」との分析も紹介している。

環球時報は論説で「中露の包括的・戦略的協力パートナーシップは『非同盟、非対立、いかなる第三者も標的にしない』という原則に基づいている。中露はいわゆる反米同盟を形成したわけではない。米国はインド太平洋版NATO(北大西洋条約機構)を作ろうとしている。覇権主義に反対しながら、米欧の政治的なウイルスに抵抗するために団結した」と非難した。

プーチン亡き後のロシア

ウクライナ戦争は、わずか2~3日のうちにキーウを陥落して親露派政権を樹立するというプーチン氏の所期計画が破綻、士気が低いロシア軍は北東部ハルキウや南部ヘルソンでウクライナ軍に戦術的な敗北を喫している。プーチン氏はまさに「死に体」である。

米コンサルティング会社ウィキストラットは8月、プーチン氏が死亡した場合、ロシアがどうなるかというシミュレーションを実施している。

ロシアが西側に回帰するという劇的な戦略転換がない限り、ロシアの中国依存度は時間とともに高まるという点で参加した23カ国の専門家56人の見方は一致した。ウクライナ戦争がいくら長引いても中国は漁夫の利を得る。制裁が西側へのロシア産原油・天然ガス輸出に重大な影響を与えるため、ロシアは貿易面で中国に頼らざるを得なくなるからだ。

ウィキストラット社の報告書は「プーチン氏が死んでもロシアの戦争継続の決断に影響を与えるとは考えられない。プーチン氏の後継者が2014年にウクライナから奪取した領土について妥協することもないだろう。短期的には政権の安定が唯一の目標になる。ロシアの外交政策は他の利益や目標より体制の安定確保を優先させるだろう」と予測している。

報告書は「中国はプーチン氏の死を南シナ海でより積極的な政策を追求する好機とみるかもしれない。習氏は権力掌握と政治的抑圧をさらに強める可能性がある」「プーチン氏の後継者は北コーカサス、ヴォルガ地方や近隣諸国の緊張に対処しなければならない。新政権はモスクワとの関係を再定義しようとする国々にタカ派的な戦略を取る可能性が高い」という。

北朝鮮化するロシア

中国については「ウクライナ戦争が継続すれば、プーチン氏の後継者は中国からエネルギー価格の引き下げを迫られる可能性が高い。中国はプーチン氏の死とそれに伴う不安定な状況を自国の経済的立場を強化する好機ととらえるだろう」と分析する。ロシアは、中国に従属する北朝鮮の状況にますます似てきていると指摘する専門家さえいた。

『モスクワ・ルール ロシアを西側と対立させる原動力』の著書があるロシア研究の第一人者で、英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)上級コンサルティング研究員のキーア・ジャイルズ氏はシミュレーションの中で「ウクライナ戦争の行方がどう転んでも中国の利益になる」と話している。

ウクライナで早期和平が実現した場合、世界は安定と予測可能性を取り戻し、ロシアとの包括的・戦略的協力パートナーシップが軌道に乗り、中国に経済的利益をもたらす。戦争が継続すれば、ロシアの経済力・軍事力が弱体化し、ロシアがウクライナに侵攻したように、中国がロシアとの現・国境線の「歴史の過ち」を正す日が近づいてくることになる。

米欧との対立が深まる習氏にとって太鼓持ち役を担ってくれるプーチン氏ほどありがたい存在はいない。体制を維持する上でもプーチン氏は強力な盾になってくれている。

しかし「ロシアの国際秩序に対する破壊的な影響力が中国自身の政治的、経済的利益を侵害し始めたと認識すれば、中国は現在の立ち位置から一歩前進せざるを得なくなるかもしれない」とジャイルズ氏は指摘する。

 環球時報が報じている『非同盟、非対立、いかなる第三者も標的にしない』と言う文言が如何に空虚で嘘の塊であるか、また西側を「覇権主義」と言い切っていますが、中露こそ覇権主義の権化でしょう。この環球時報の記事は中露ともまさに「自己中で他責の国家」の象徴であることを示しています。

 それは別としてこのコラムの後段はプーチン亡き後や失脚後を取り上げていますが、習近平よりプーチンが先に亡くなるとは限らないのでは、と思いますね。「死に体」と言うことを強調しているのでしょうか。

 いずれにしろ中国がロシアウクライナ侵攻を、政治的に利用しているのはその通りでしょう。しかしその中国もこのブログで何度も紹介しているように、この先経済失速が必然だと思います。そのとき習近平も「死に体」となる可能性もゼロではないでしょう。

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2022年2月22日 (火)

日本企業は今こそ、最大のリスクをはらむ「中国事業」を見直そう

Swz3uoy7ro7d0rw1ev61ocgpk74qxm  北京冬季五輪が閉幕しました。様々な問題をはらんだ大会でしたが、習近平政権は大成功と囃し立てているでしょう。そうした中で、ロシアのウクライナ侵攻の動きが重なり、世界には一段と重苦しい空気が漂っています。

 ところで中国は先頃、2021年のGDP速報値を年率プラス8.1%と発表しました。中国の数字の信憑性は低く、こんなに成長するはずがないとの指摘もありますが、何しろ14億人が暮らすこの国の購買力は「凄い」の一言です。

 ですから世界の多くの国が、中国とのビジネスの維持拡大を期待し、様々なリスクがあろうと、簡単に切れない理由がそこにあります。しかし昨今急速に、海洋進出や台湾併合狙いなどの覇権主義に傾き、ウィグルや香港に代表される、国内の人権侵害が加速する中で、本当にこの国とビジネスを続けることがいいのか、再考の時期にさしかかっています。

 作家の江上剛氏が時事ドットコムニュースに寄稿したコラムに、その詳細を見てみます。タイトルは『日本企業が今こそ中国事業を見直すべきこれだけの理由』(2/20)で、以下に引用して掲載します。

 ◇

Img_ba58ab1c11ee4a61ea69d27e44950ad44670  1月14日付の日本経済新聞に「キリン、中国飲料の合弁解消へ」との記事が掲載されていた。キリンホールディングスが、中国の飲料大手との合弁事業を1000億円前後で、中国ファンドに売却するというものだ。(文 作家・江上 剛)

 記事によると、ビール大手は新興市場の取り込みを狙って、現地企業を相次ぎ買収したが、欧米大手などに押されて、事業の整理を迫られた結果らしい。今後は、海外戦略を見直し、高採算のクラフトビールなどに投資を振り向けるという。

 ◆夢を抱いていた頃

 私は、この記事をある種の感慨を持って読んだ。というのは、2006年に中国上海でキリンビールを取材したからだ。

 あの頃、日本企業は中国市場に夢を抱いていた。中国は、日本企業にとって、製造拠点から販売拠点に大きく様変わりしていた。

 10年には国内総生産(GDP)で日本を抜くことになるわけだから、まさに伸び盛りの市場だった。

 一方、日本は少子高齢化が進み、市場は縮小傾向にあった。

 ビールの消費量でいえば、中国は03年に3000万キロリットルを超え、世界一の消費大国になっていた。

 ◆掛け算の魔力

 中国は魔力に満ちた国である。だまされないぞと、いくら思っていても、見事にだまされてしまうのだ。

 興味深いエピソードがある。

 19世紀の半ば、英国の生地メーカーの経営者は、中国の人口の多さに魅了され、「中国人全員のシャツの裾を30センチほど長くさせられれば、ランカシャーの工場を1日24時間ぶっ通しで稼働させられるのに」と言った。

 中国の掛け算の魔力に魅せられたのだ。ところが、実際に中国市場に足を踏み入れると、それは全くの夢物語だったことに気付く。すぐに偽物が作られたり、安売りさせられたり、金の支払いが滞ったりと、散々な目にあって撤退することになるのだ。

 しかし、13億人に自社のビールを1本飲んでもらうだけで13億本も売れるという掛け算の魔力が、日本企業を引き付けてやまない。

 06年当時は上海でサントリービールが「三得利」ブランドでシェアを拡大していた。結局、15年に撤退することになるのだが、推定シェア60%だったというからすごいものだ。

 上海の街を歩けば、「三得利」の看板を至るところで見ることができた。日本のビール会社とは思えないほど、地元に定着していた。

 とにかく安い。当時の価格で1本3元(約50円)だった。撤退した理由は、低価格帯で勝負した結果、シェアの割にもうからなかったからだろう。

 ◆非常に難しい市場

 キリンビールも、中国の掛け算の魔力に魅入られた。1996年に中国に進出して10年が経過していたが、思うような成果を挙げられていなかった。

 個人的には、「麒麟」は中国の想像上の動物だから、名前が浸透しやすいと思ったのだが、そうやすやすとはいかなかったようだ。

 中国は広大で、地域によって人々の嗜好(しこう)も大きく違い、各種マーケティングデータを採っても、傾向をつかみにくかった。非常に難しい市場だったのだ。

 しかし、人口増の中国で勝たなければ、世界的なビール・飲料メーカーになれないと必死だった。

 当時、現地の経営トップが「中国市場はオリンピックと同じです。日本チャンピオンが必ずしも世界一にはならない」と言っていたのを思い出す。

 日本で圧倒的に強いブランドであるキリンビールでも、中国では大した存在ではなかったのだ。

 ◆あれから16年

 世界的ビールメーカーであるバドワイザーは、巨額の広告費を費やし、中国市場でシェアを獲得していた。

 また、オランダのハイネケンは、中国人の見栄を張りたい国民性にうまく食い込み、高級ビール市場で大きな地位を獲得していた。

 当時、中国人は人を集めて宴会をする時、ハイネケンビールの空き瓶を積み上げて数を競っていたのだ。

 キリンビールは、高級価格帯を狙うことにした。収益率が高いからだが、この価格帯には欧米メーカーの競合も多く、熾烈(しれつ)な戦いが予想された。自社ブランドの高級ビールを製造した。また、地元のトップブランドビール会社も買収した。

 当時の現地スタッフたちは、中国市場に投入する新ブランドのビールに自信たっぷりだった。彼らの成功を心から祈りながら、取材を終えた。

 あれから16年もたったのだ。撤退の記事を読み、彼らの戦いが終わったのを知った。勝利したのだろうか。敗れたのだろうか。記事の内容から推測すると、敗れたのだろう。

 中国の掛け算の魔力に魅入られ、足を取られ、抜けるに抜けられず…。私の取材から16年、中国進出から26年の戦いだった。

 今度は戦場をクラフトビールなどの新しい市場に移す。新たな戦いが始まるのだ。今度は、ぜひとも勝利してもらいたいと心から願っている。

 ◆本当に正しい選択?

 日本は少子高齢化で市場が縮小し、デフレが収まらず、魅力に乏しいと多くの経営者が語る。特に食品、衣料品などの消費財メーカーのトップが、そのように口にすることが多い。

 日本企業は、販売において、どれだけ中国に依存しているのか。週刊ポスト(21年5月)によると、TDKが53.0%、村田製作所が52.8%、日本ペイントが38.9%など、名だたる日本企業がかなりの割合で中国に依存している。ユニクロを展開するファーストリテイリングは19.0%だ。

 部品などのメーカーが多く、消費財メーカーはそれほど依存していないようだ。おそらく、中国人に日本ブランドは知られているだろうが、日常の食品や酒類などは、まだまだ中国メーカーのものを選択しているのだろう。

 こうなると、掛け算の魔力に魅入られて、これからもっと中国市場に生き残りをかける日本の消費財メーカーが増えてくるかもしれない。

 しかし、中国市場により肩入れすることが本当に企業の生き残り戦略として正しいのだろうか。

 ◆ますます特殊に

 今日、ファーストリテイリングでさえ中国市場では苦戦していると、今年1月14日付の日経新聞が伝えている。

 新型コロナウイルス禍の影響で、中国の都市でロックダウン(都市封鎖)が実施されたことが苦戦の原因だという。あくまで、コロナ禍という特殊事情であり、これが解消されれば、業績は回復すると見込まれているが…。

 中国は、掛け算の魔力で多くの企業を引き付けるが、習近平国家首席の呼び掛け一つで大きく変わる市場であることを、リスクとして承知しておかねばならない。

 例えば、沖縄県尖閣諸島問題で日中関係がギスギスした時は、日本大使館に多くの中国国民が押し寄せ、乱暴を働いた。その時も私は取材に行ったが、大使館員は中国の要人とも面談できない状態だった。

 新疆ウイグル自治区や香港の問題に口を出した途端、内政干渉だと中国高官が声高に非難し、外国企業を中国から排斥しようとする。中国国民も、それに同調して不買運動を行う。

 そのため日本企業は、ウイグルや香港の問題に口をつぐまざるを得ない。日本政府でさえ厳しいのだから、民間企業なら、なおさらだ。

 中国は、もともと特殊で魔力のある市場だったが、そこに習近平という皇帝のように振る舞う政治家が登場したことで、ますます特殊になってしまった。

 ◆「台湾有事」も念頭に

 「台湾有事」のことを考えておかねばならない。実際に中国が台湾に侵攻するかどうかは不確定であり、それを実行すれば、日米との関係が最悪になることは、習氏も分かっているだろう。だから、侵攻の可能性は少ないとはいえ、脅迫は強めるに違いない。

 習氏の中国は、自国の意見に逆らう国を認めない。台湾への脅迫が度を過ぎるようになった場合、日本政府も中国に対して今までのように曖昧な態度は取り続けられないだろう。

 そんなことをしていたら、日米同盟に亀裂が入るかもしれない。また、台湾擁護の日本国民の世論が沸騰し、中国に強硬な態度を示さざるを得なくなる。

 その場合、中国はどのような態度に出るだろうか。間違いなく日本の経済界、日本企業をより強く脅迫し、非難するに違いない。

 実際、日本の経済界は、政府に中国との関係を悪化させないでほしいと言っているようだ。

 ◆戦略の再考を

 中国は、今や特殊な国になった。どんな国も、中国の経済力、すなわちマネーの力にひれ伏すと思っている。その考えが、いかに間違っているか、全く気付いていない。

 日本なんか、札束で頬をたたけば、なんでも言うことを聞くと思っている節さえある。

 キリンビールの中国からの撤退の記事を読み、これは日本企業への警鐘であると思った。

 もし、販売面で中国依存度が高くなりつつある日本企業、あるいは日本市場を見限って中国依存度を高めようとしている企業は、いま一度、戦略の再考をすべきである。

 中国に依存し、彼らにひれ伏せばひれ伏すほど、日本市場や欧米市場、または他のアジア市場から排斥されるリスクが高まることになるだろう。

 ◆今年最大のリスク

 今年の最大のリスクは、コロナ禍ではなく、中国の存在であると言えるのではないか。自社がどの程度、中国に依存しているのか、仕入れと販売の両面で検証し、分散化を図ることに躊躇(ちゅうちょ)してはならない。

 中国との経済関係が全くなくなることを視野に入れても極端ではない。

 日本が中国に依存している以上に中国も日本に依存している。米国と関係が悪化すればするほど、日本に近づいて来るようになるだろう。日本との経済関係は、中国にとっても切っても切れないものだ。そんなデメリットなことをするはずがない。

 多くの日本人はそう考えているだろう。しかし、今や、今までの常識が通用しない特殊な大国になったことは事実だ。もう少し他国の意見にも耳を傾けるようになればいいのだが…。期待はできない。

 北京冬季五輪・パラリンピックがどんな形で終わるのか分からないが、大成功のラッパが吹き鳴らされることだけは想像に難くない。そうなれば、ますます他国の意見を聞かない、特殊な異形の大国と化する可能性が高い。日本企業は、それに対処せねばならない。

 ◇

 冒頭述べたように、北京五輪は幕を閉じました。来月パラリンピックが予定されていますが、それが閉幕した後の習近平政権は、秋の党大会に向かって、国民に対する受け狙いもかねて、台湾への威嚇行動と併合のロードマップを示していくでしょう。尖閣への威嚇行動も、ますます拡大していくことと思います。

 それに呼応するように、米中関係は更に悪化し、日米同盟の元日本の立ち位置の明確化を更に要求されるでしょう。そうなると今の岸田政権のような、曖昧な対中対応はできなくなるでしょう。

 もはや韓国は、経済の中国依存の所為で金縛りに遭いかけています。日本もそうならないとも限りません。中国に進出している企業は、できるだけ早い時期に中国から撤退し、日本に回帰するか他の国に拠点を振り返る必要があります。中国はもはや特殊な国、異常な国になっているのです。

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2021年10月 3日 (日)

甘利幹事長人事が持つ外交安全保障上の意味

Y  岸田総裁の下で、甘利幹事長、高市政調会長が誕生しました。親中派の二階氏から中国に距離を置く甘利氏への転換は、今後の対中政策を占う上で重要です。高市政調会長の存在も大きいでしょう。

 この幹事長人事が持つ意味を、Newsweek誌がアメリカからの見方で解説したコラム『甘利幹事長人事が持つ外交安全保障上の意味』(10/1)を公開していますので、以下に引用します。

<幹事長の席に誰が座るのかは、日本政府の対外政策・国内政策の全てに影響を与えることになる>

岸田文雄新総裁・新総理が誕生し、党役員人事及び組閣が進んでいる。今回の人事で日本の行く末を左右する最も重要な人事は自民党幹事長だ。

自民党幹事長は党公認権や政党助成金の扱いに関して絶大な権限を持つ。したがって、幹事長の席に誰が座るのかは、日本政府の対外政策・国内政策の全てに影響を与えることになる。

親中派として揶揄されてきた二階氏

日本の財界が自民党を支持していることは自明だ。そして、自民党幹事長が財界の意向を踏まえた意識決定を行うことは当然のことと言える。巨大な中国市場で鎬(しのぎ)を削っている日本企業が反中姿勢を取ることは考え難く、米中対立が激化していく中、自民党幹事長は中国との適度な協力関係を維持する困難な仕事が求められてきた。

2016年から幹事長ポストは二階俊博議員によって長期間独占されてきた。二階氏は自民党幹事長に求められる役割をこなしてきた人物であり、それ故に同氏は親中派として揶揄される立場に置かれていたと言えるだろう。ただし、安倍政権時代のように官邸の保守色が強い場合、二階氏による党運営が対中政策でバランスを取ることは必然であったように思う。

甘利新幹事長、日本の未来を変える出来事となる可能性

岸田総理の誕生によって、この幹事長ポストが二階氏から甘利明氏に受け渡されることになった。これは単なる権力の入れ替えというだけでなく、日中関係などに多大な影響をもたらすことになり、日本の未来を変える出来事となる可能性がある。

岸田総理は必ずしも対中姿勢で強い姿勢を取ってきた人物とは言えない。総裁選挙中に、岸田総理は中国の人権問題に対して強気の姿勢を示す発言をしていたが、言葉に真実味を帯びさせるだけの政治的の裏付けは十分ではない。

一方、甘利幹事長は自民党における経済安全保障の第一人者である。同氏は自民党で経済安全保障政策を主導する「ルール形成戦略議員連盟」会長として、対中サプライチェーンの見直しなどを積極的に打ち出してきた人物だ。同連盟は2017年に設立されて以来、感情的な反中議論ではなく、対中国を念頭に貿易・投資に関する法案策定や国際機関人事での競争力強化などを打ち出し、冷静かつ理知的に日本が国際社会でリーダーシップを発揮する動きを推し進めている。

甘利幹事長の誕生は経済安全保障議論を急速に加速させる可能性があり、日本が同盟国・友好国に対して同分野で主導権を発揮する動きが活発化になるだろう。財界の意向を考慮しつつも、安全保障上の観点から現実的な政策が党から打ち出されていくものと思う。

今後は党側からの経済安全保障の政策提言の重みが増す

また、対中世論を喚起するため、保守強硬派からの支持が厚い高市早苗氏が政調会長ポストについたことから、自民党内の対中融和を求める声が大きく後退することは自明だ。この面でも党内に対中強硬政策を止める要素は減少していくことになる。

したがって、安倍・菅政権時代と異なり、岸田政権では日米同盟を基軸とすることは当然として、官邸は中国をある程度安心させながら、党が対中強硬策を主導する形に転換する形となると筆者は予測している。

そして、安倍・菅時代は日本の安全保障政策の方向性を見極めるためには主に官邸の動きを追うことが重要であった。外交安全保障上の重要な方針のフレームワークは官邸側から打ち出されてきたが、今後は党側からの経済安全保障の政策提言の重みが増す形となるだろう。

我々は頭のスイッチを切り替えて、日本の外交安全保障政策の政策形成過程の枠組みを捉え直す必要がある。今回の幹事長人事が意味する外交安全保障上の変化のシグナルを敏感に感じ取ることは、日本の未来を考える上で極めて重要なことだ。

 ◇

 今まで中国重視で動いてきた財界を、思いとどまらせる効果を甘利氏、高市氏に期待すると同時に、最近とみに経済停滞の色が濃くなった中国から、企業の他国への転換や国内への回帰を促すことも期待したいと思います。安全保障上、サプライチェーンの見直しと経済依存度の縮小は、日本にとって重要な課題です。お二方に大いに期待したいと思います。

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2020年9月 6日 (日)

アベノミクス「日本型デフレ」との戦い、その成果と課題

2020083100179586fnnprimev0001view  今回は経済問題を取り上げます。と言っても私自身経済に強いわけでもなく、細かな議論には深入りはできませんが、各国とも新型コロナウイルスの感染拡大防止と、経済活動の持続の二兎を追わなければならない現状の中で、否応にも経済動向に目を向けていく必要性を感じます。

 今世界中が新型コロナウイルスの感染症との戦いの中で、大きな経済ダメージを受けています。日本も例外ではありません。そうした中で、発生源である中国が早々と感染を収束させ、経済活動をフル回転させようとしているのは、何とも皮肉なことです。

 日本は以前述べたように、30年前にバブルがはじけ、長期の経済停滞を余儀なくされています。最大の要因は需給ギャップです。そしてそれがもたらすデフレ経済が、企業マインドを委縮させ、ひいては雇用を悪化させ、購買力の低下を招き、経済の停滞が加速する負のスパイラルに陥ってしまうのです。

 民主党政権の崩壊とともに、政権の座についた安倍政権は、このデフレ経済を収束させるべく、大胆な経済政策つまりアベノミクスを打ち出しました。このアベノミクスは成功したのでしょうか。

1_20200905182901  賛否両論が渦巻いていますが、より客観的な目を、と言うことで今回は英フィナンシャル・タイムズ紙の記事を取り上げてみます。タイトルは『GDPのアベノミクスと「日本化」との戦い 景気停滞とデフレと超低金利、世界が学ぶべき6つの教訓』(JBpress 9/03)で、以下に引用します。

「Buy my Abenomics!(アベノミクスは買いだ!)」。安倍晋三首相は2013年、こう呼びかけた。そして我々は買った。

「何々ノミクス」というブランディングの歴史的な勝利で、安倍氏は「大胆な金融政策と機動的な財政政策、成長戦略」の三本の矢が日本の経済を一変させることを世界に納得させた。

 8年以上に及ぶ在任期間を経て辞任することになった今、審判を下す時だ。アベノミクスは成功したのか――。

 シンプルな答えは「ノー」だ。

 アベノミクスの中核的な目標は、2%のインフレターゲットだった。だが、新型コロナウイルスに襲われる前でさえ、日本のインフレ率はせいぜい1%程度にしか到達しなかった。これは失敗だ。

 だが、リーグ戦で勝てなかったサッカーチームと同様、敗北は必ずしもダメだったことを意味しない。ただ、不十分だったということだ。

 アベノミクスにも光った時はある。「日本化」――停滞へ向かう景気下降、デフレ、超低金利――と奮闘する世界にとって、アベノミクスには強力な教訓が詰まっている。

日銀のバズーカ、当初は奏功したが・・・

 1つ目の教訓は、金融政策は奏功する、ということだ。

 2013年に日銀が大量の資産購入に乗り出した当初の「バズーカ」は、極めて効果的だった。

 債券利回りは低下し、株式市場は活況に沸き、何より重要なことに円相場が1ドル=100円を超す円安に振れ、日本の産業に恩恵を与えた。

 融資も伸び、日本は安倍首相時代に記録的な就業率を謳歌した。金利が高く、円も強い方が日本は豊かになっていたと論じるのはほとんど不可能だ。

 2つ目の教訓は、弱い経済は増税に対処できないということだ。

 アベノミクスが失敗した日は、日本の消費税が2014年春に5%から8%へ引き上げられた日だ。

 消費増税は前政権によって計画されたものだが、増税の実行を決め、日本を景気後退に陥らせたことについては、安倍氏と日銀の黒田東彦総裁に責任がある。

 昨年、消費税が10%に引き上げられた追加増税も同じ結果をもたらした。

 刺激を約束しておきながら、抑制をもたらせば、得られる結果は失敗だ。端的に言えば、それがアベノミクスの物語だ。

信用がすべて

 これに続く3つ目の教訓は、信用がすべてだ、ということだ。アベノミクスが導入された当初、黒田氏は2年以内にインフレ率を2%に引き上げると約束した。必然的に、この誓いは守られなかった。

 消費増税が景気後退につながった後、黒田氏が2014年にくり出した2発目のバズーカ――資産購入のペースを早め、年間80兆円まで拡大した――は、1発目ほど効果がなかった。

 今頃はもう、魔法は解けてしまった。

 アベノミクスが自らの信用を落とした例は、これだけではなかった。

 例えば、政府は2%のインフレ目標に沿うように公的部門の賃金を引き上げなかった。だとすれば、なぜ、民間部門が安倍氏の賃上げ要求に応じるべきなのか。

 4つ目の教訓は、期待だけに頼ることはできない、ということだ。

 黒田氏は繰り返し、自分の政策は将来のインフレに対する国民の期待を高めることによって効果を発揮すると説明した。

 実際、当初はこれが起きたことを示す兆候があるが、2014年の景気後退によって、インフレ率が実際に上昇するという希望が潰えた。期待に頼るツールは決して、金利水準を直接変えるツールにはかなわない。

 米連邦準備理事会(FRB)が先週、将来のインフレ高進を容認することで現在の低インフレを埋め合わせる平均インフレ目標の採用を決めたことを考えると、これが特に重要な意味を持つ。

 FRBの高官は、日銀が2016年から、インフレ目標の「オーバーシュート型コミットメント」を掲げていたことに留意すべきだ。これは大した成果を上げなかった。

果たされなかった構造改革

 アベノミクスの5つ目の教訓は、景気刺激策は公的債務の問題を引き起こさず、逆に解決する、ということだ。

 1990年以降、国内総生産(GDP)比の日本の公的債務は果てしなく増加してきたが、例外だったのが、日銀が無分別にも利上げに踏み切るほど経済が強かった2005~07年と、アベノミクスが消費増税を容認できるほどのカンフル剤を提供した2013~19年だった。

 公的部門が貯蓄を増やせるのは、民間部門が貯蓄を減らす場合に限られる。経済の強さは、財政引き締めの前提条件なのだ。

 そして6つ目の教訓は、成長戦略の限界だ。

 安倍氏について日本で聞かれる最も一般的な批判は恐らく、構造改革の約束を一度として果たさなかったということだろう。

 確かに、月給制の労働者の保護を破り捨てるような急進的な対策は講じなかった。

 だが、日本の電力市場を自由化し、中国人観光客に門戸を開き、農業ロビー団体を封じ、2つの大型貿易協定に署名している。

 しかし、大半の経済成長は究極的に、人口の増加、教育の向上、資本の蓄積、そして何より重要なことに新規技術から生まれる。

 日本の人口は減少しているため、経済を確実に拡大させる唯一の「改革」は大規模な移民流入であり、安倍氏はいみじくも、その選択は経済の域を超えると感じた。

 もしかしたら、そもそも成長を取り戻す戦略を持っていると主張したところに安倍氏の過失があるのかもしれない。

 だが、そのような戦略が存在しなかったため、実現は問題にならなかった。

あとはヘリコプターマネーしかない?

 その結果、日本は今、どんな状況に置かれているのか。日本の課題はいまだかつてないほど大きい。

 全力を挙げたとされる景気刺激策が失敗した後、国民はもう新たな景気刺激策を信じないかもしれない。

 だが、インフレ率が目標を大きく下回っている現状は、果てしなく増加する公的債務によって不完全に埋められている慢性的な需要不足の症状だ。

 1つの選択肢は、時間が経つのを待ち、中銀の資産購入を続け、最善の結果を祈ることだ。

 これは2016年以降、日銀がとり続けているスタンスだ。

 もう1つの選択肢は、こうした資産購入を調整し、もっと緊密に政府支出と連動するようにすることだ。

 後者の道筋を選べば、未踏にして潜在的に危険なヘリコプターマネーの政策へさらに一歩近づくことになる。

 だが、安倍氏がかつてあれほど見事に売り込んだ希望を維持するためには、日本には、それ以外ほとんど選択肢がないのかもしれない。

 多少難解な表現があり、読みにくい文章だと感じました。それはさておき、経済は人の自由な動きに左右されるため、中国の様な統制経済下でもない限り、なかなか思うようにはならないと思います。ただこのFT誌の指摘のように、様々な理由はあるにせよ、生産性の向上を推し進めるための構造改革が弱かったのは事実でしょう。

 少子化による人口減少が続く日本で、GDPすなわち国民の総付加価値を上げる手段は、生産性の向上しかありません。ただそうは言っても年金や医療、介護に生活保護などの福祉関係にいくら資金を投じても、生産性は上がりません。そこに日本の構造的問題があると思われます。

 しかしこの記事のタイトルにあるように、「日本に学ぶべき」と言うその指摘は、いみじくも日本に今起きているその現象が、世界でも今後起きるであろうと言う見立てからきていると思います。つまり世界の最先端を行く人口減少社会と、その結果がもたらす負の経済循環、それに挑戦したアベノミクスの成果と課題から、よく学べと言うことでしょう。

 逆に言えば、日本にとって学ぶべき国は殆どないのかもしれません。そうであれば日本発の生産性向上のための特効薬を、何とか見つけなければならないでしょう。そうしなければ国全体のGDPだけではなく一人当たりのGDPさえ凋落の一途を辿る、つまり国全体が貧しくなっていくしかありません。過去の遺産だけで食いつないでいく日本にならないためにも、この課題は必須の課題だと思います。

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2020年9月 1日 (火)

長期戦略のない日本の政府・官僚の質の低さ、失われた20年も竹島問題等の外交課題も

Wdm0102thumb900xauto36496  失われた20年、それはバブルがはじけた時期と重なるように、少子高齢化の進展で人口減少(生産年齢人口は1995年、労働力人口は1998年、総人口は2008年にそれぞれピーク)が進み、ソ連の崩壊に伴うグローバル化の進展が一気に進んだ結果の所産だと思います。

 人口ボーナスがオーナスに反転、国家歳入の頭打ちが訪れるとともに、高齢者の増加に伴う福祉関係の歳出が激増し、一気に国家財政の悪化を招きました。

 一方土地や株式の暴騰を抑えるための緊急の金融緊縮政策が、逆にそれらの暴落を招き、これが戦後初めてのデフレへと一直線に進んだ結果、相対的な円の価値が急騰し、超円高の為替状況を作り出しました。

 このデフレ経済の中で、超円高と経済グローバル化の波が、輸出産業の業績悪化を急襲し、その対応のため海外移転が加速、それが国内の空洞化を招いたため、更なるデフレの状況をもたらしました。小泉政権による数年間の時期を除き、政治の混乱もこの状況に拍車をかけました。

 小泉政権の後を引き継いだ、第1次安倍政権はその継続を期待されましたが、相次ぐ閣僚の失態と持病に倒れ、福田、麻生と続いた政権も予期せぬ失策を重ねた結果、国民の自民党離れが一気に進み、あの民主党政権が誕生したのです。

 その悪夢のような民主党政権が倒れ、失われた20年を取り戻すべく、第2次安倍政権はアベノミクス3本の矢をもって、金融政策、財政政策、成長戦略をフル回転させて、デフレと円高を食い止めるため奔走しました。その結果デフレも円高も止めることができましたが、成長戦略は失速、そしてここへ来てのコロナ禍で、止め処がない財政出動を余儀なくされ、失われた30年と言う囁きが聞こえて来ています。

 こうした背景には、前にも述べたように政府、官僚に10年20年先を見据えた長期戦略がないこと。特に官僚には「先例踏襲」「形式主義」そして「事なかれ主義」が蔓延し、創意工夫やイノベーションを率先して取り組む姿勢が希薄なことが挙げられます(なぜそうなったかはいくつも要因がありそうですが)。

 その一つが近隣外交への戦後一貫した「謝罪」姿勢にも見えてきます。戦争責任と言うものの根本を検証する努力を忘れ、GHQの占領政策を無批判に受け入れ(これは仕方がなかったとは思います)、その影響をもろに受けた国内の売国分子を放置し、彼らが作り上げ火をつけた日本の戦争犯罪とその近隣諸国への拡散を、それこそ「事なかれ主義」をもって「謝罪」のみでやり過ごしてきた結果が、今の日韓、日中問題の根源となっているのでしょう。

 戦争責任の再検証を、その後出てきた「ヴェノナ文書」をも積極的に取り上げて、再考しようとしているのでしょうか。「事なかれ主義」ですから今度はアメリカやロシアに忖度して、表立ってやらないように思いますね。同時に韓国の歴史捏造について、折角「反日種族主義」という、韓国の学者による捏造歴史の素晴らしい否定証言が出てきたのに、その学者たちと連携して真の歴史を追求しようとしているのでしょうか。これもそんな動きは聞こえてきません。

 先日安倍首相のやり遂げられなかった3つの悲願、憲法改正と北方領土問題の解決と北朝鮮拉致被害者の奪還を取り上げましたが、その中には竹島と尖閣の問題がありません。いみじくもこの二つは日韓、日中の問題です。官僚が避けたい近隣諸国問題とも邪推できます。

 日本の失われた20年その時代に、日本の経済停滞に反して、ウォン安という追い風を受けながら破竹の勢いで経済発展していった韓国。アジアの金融危機では手痛いダメージを受けましたが、その後も含めて中国とともに東アジアの奇跡と言われる経済発展は、どうしてできたのでしょうか。

 韓国の代表的企業サムスンと竹島問題に関わった、下條正男拓殖大学教授が産経新聞に寄稿したコラム『「日本に学べ」の韓国が今は…サムスンの躍進と竹島の現状』(9/01)を以下に引用します。

 日本政府による新型コロナウイルス対策は、1980年代に韓国の三星(サムスン)電子の半導体工場で目撃した作業場と似ている。当時、三星グループでは、将来の海外進出に備えて龍仁(ヨンイン)の地に外国語生活館を建設し、外国語教育を始めていた。その初代の専任講師となり、日本の半導体工場に研修生を送る課程を担当するため、三星の半導体工場を視察することになった。(注・下條氏は1983年、韓国に渡り、三星綜合研修院主任講師。98年まで三星電子マーケティング室諮問委員を務めた)

歴然としている日韓の組織運営能力の差

 そこで見たのはマイクロチップに加工する工程のようで、かなり高温の作業場で切断作業が行われていた。だが室内を見ると換気扇が1つ作業場の片隅にあるだけで、熱を発する数台の機械には、排熱用のダクトが設置されていなかった。

 この状況は、陽性患者の管理を怠って「Go To トラベル」キャンペーンを強行し、感染症罹患(りかん)者を全国に拡散させた現在の日本と同じである。

 一方、韓国政府の新型コロナウイルス対策は徹底しており、三星グループの半導体事業の躍進も周知の事実である。竹島問題に関しても、奪われた日本側が無関心で、奪った韓国側の方が溌剌(はつらつ)として、日本批判を続けている。

 この違いはどこから来ているのだろうか。私の限られた経験から見ても、日韓の組織の運営能力の差は、歴然としている。

 私は1983年に三星グループの会長秘書室に所属し、翌年、韓国の大学に移ったが、三星との関係は1998年まで続いた。そのきっかけは、貸与された家電製品に関してまとめたリポートだった。そのリポートを研修生の1人が三星電子のマーケティング室に提出したことで、その室長から「会いたい」と連絡を受けたのが始まりである。

 大学に転職して、三星電子を訪れると、帰り際に当時の労働者の1カ月分相当の車代を渡された。その後、私は週に1回、三星電子のマーケティング室に通うことになるが、手ぶらでは行けないので、その都度、リポートを提出することにした。その提案の中には、キムチを製造する冷蔵庫や三星電子のアフターサービス制度の確立など実現したものも少なくない。

 だが三星電子での諮問活動は98年に終止符が打たれた。竹島問題に関する論争を韓国内で行ったからなのか、大学側から契約の打ち切りを通告され、帰国を余儀なくされたのだ。その間、室長も交代し、私の提案の一部は『ある日本人の発想』として小冊子にされた。

Images-2_20200901165401 島根県と日本政府の仕事ぶりにも大きな違い

 帰国後、島根県でも同様の体験をすることになるのである。2005年3月16日、島根県議会は「竹島の日」条例を制定するが、それはその2年前、同県・隠岐ノ島の西郷町(現在の隠岐の島町)で開催された講演会に呼ばれたのがきっかけだった。

 そこで島根県は2005年6月、「島根県竹島問題研究会」を発足させると、竹島問題に対する日韓の論点整理を求めた。その研究会では、研究会のメンバーの得意な分野で自由に研究することが許され、担当された歴代の県職員の方々のサポートも徹底していた。翌年、韓国の欝陵(うつりょう)島に渡り、現地調査ができたのも、島根県の協力があったからだ。

 さらに2007年、島根県では「竹島資料室」を開設した。これは県議会議員に設置を提案したところ、県の建物の空き室を転用したのである。霞が関に移転した日本政府の「領土・主権展示館」は、年間、億に近い賃料を払っているようだが、その金額は島根県の竹島関連予算の3年分に当たる。同じお役所でも、島根県と日本政府とでは大きな違いがある。

持続的な活動が期待できない日本政府

 島根県では、韓国の国策研究機関「東北アジア歴史財団」が小・中学、高校生対象の教科書(『独島を正しく知る』)を編纂(へんさん)すると、それを論破した『韓国の竹島教育の現状とその問題点』を刊行。韓国の中学生たちがその『独島を正しく知る』に依拠して、島根県の中学校に抗議の手紙を送ってくるようになると、『日韓の中学生が竹島(独島)問題で考えるべきこと』として、日韓の中学生が共に考える小冊子を作った。

 それは日本でも竹島教育が本格化し、副教材が必要だったからだ。その必要性を島根県に提案すると、実現してくれたのである。これらがいわゆる「島根県方式」である。

 この「島根県方式」は、国会議員の先生方に竹島問題や日本海呼称問題、尖閣問題の対処法を提案した時とは大きな違いがある。一部の国会議員を除き、提案すればそれを自身の業績とするか、一過性の問題にしてしまうのが常だからだ。

 それは無理もないことで、日本には「島根県竹島問題研究会」と類似の機能を持った研究機関がないからである。日本の役人がいかに優秀だとしても、2~3年で担当が代わるようでは、持続的な活動は期待できない。

 それに、近年の国会議員は「己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す」(自分が立ちたいと思えば人を立たせてやり、自分で行きつきたいと思えば人を行きつかせてやる)ことが、できなくなった。そのため、下問(かもん)(他人の意見を聞くこと)を恥じているのだろう。

 三星電子のマーケティング室の室長は、後に三星グループの技術部門のトップとなったが、さしずめ私はその掌で遊んだ孫悟空だったのかもしれない。そして今は、島根県の掌で踊っている。

 バブル崩壊まで、戦後の廃墟の中から涙ぐましい努力をして築き上げた日本の経済力と技術力。下條氏のコラムにもあるように、何の躊躇もなくお人好し丸出しで、中韓に資本の投下と技術を注入し、今や経済と軍事のモンスター中国と、反日を国是とする厄介者韓国を、育て上げてしまいました。

 そして下條氏は、日本の竹島問題の取り組みにおける県と国の違いを明示しています。県は県が続く限り県民の意思が長期間維持され、子供も巻き込んでの対応を続けていますが、国の政治家や官僚は、「一部の国会議員を除き、提案すればそれを自身の業績とするか、一過性の問題にしてしまうのが常だからだ」、「日本の役人がいかに優秀だとしても、2~3年で担当が代わるようでは、持続的な活動は期待できない」と指摘しているように、そもそも「国の領土を守る」と言う信念も乏しくかつ思い入れも少なく、それを長期間維持していく環境もなければ、「事なかれ」で終わってしまうのでしょうね。

 ですから国のトップが率先して事を構えなければ、絶対に前に進みません。外務省のホームページに「竹島の領有権に関する我が国の立場と韓国による不法占拠の概要」として見解を載せていますが、「平和的解決」を謳うだけで「何もしない」ことの言い訳にしているようにも思えます。

 確かに官僚はものすごく忙しいそうです。その大きな理由は「野党の馬鹿げた質問」の答弁づくりに奔走していることが大きな要因の様です。そんな馬鹿げた質問には、かつての吉田茂首相のように、「バカヤロー」と言って済ませたいですね(その後国会は解散になったようですが)。

 その馬鹿げた仕事を国会改革も含めてやめさせて、結果として彼らに時間を与え、現場をよく観察させ、民間からもどんどん新しい人材を取り入れ、専門家として仕事に打ち込むようお互いに政策競争させながら、「先例踏襲」「形式主義」そして「事なかれ主義」を打ち破っていかなければ、日本の未来は真っ暗でしょう。

 失われた40年、50年そしてついには崩壊、とならないためにも霞が関改革は緊喫の課題です。もちろん国会改革も。

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2020年5月18日 (月)

「国家はなぜ衰退するのか」、2千年以上続く日本を守るために考えよう

51mqkkgj0ul_sx309_bo1204203200_  昨日は「日本復活の処方箋」というタイトルで出口治明氏の講演内容を引用して論じましたが、様々な要因で日本の未来に暗雲が立ち込めているという意味での前提がそこにあり、それへの警鐘の意味を込めて記述したものです。

 ところで日本は、2千年以上その国体を継続した世界でも唯一の国と言われています。その他の国々はこの間に、生まれては消えて、つまり日本のように継続した国はないと言うことです。

 他の国に滅ぼされたとか、王や為政者が代わったとか、統治形態がまるっきり変わったとか、いずれにしても日本のように天皇というひとつの冠のもとに、継続してその国体を保った国はないのです(終戦直後はかなり危うかった経緯はありますが)。

 何故続かなかったか、その最大の要因は戦争でしょう。勝者が敗者を駆逐し、その国のトップを抹殺し、勝者と入れ替わる。敗者はそこで国の断絶を余儀なくされます。次には植民地化、先住民の土地や資源や住民を収奪凌辱し、宗主国の傀儡国にする。そして中国に代表される易姓革命、次のトップが前のトップとその一族を滅ぼしてトップの入れ替えが起こり、体制も変えていく。

 しかし20世紀に入ってからは、新しく独立した国は数多くありますが、滅んだり新たに植民地になった国は殆どありません。しかし国同士の様々な意味での格差は広がりました。その最大の格差要因は経済力です。つまり富める国と貧困にあえぐ国。もちろんその中間もありますが、なぜこのような格差が生じたのでしょう。その解の一つをダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソンが著した「国家はなぜ衰退するのか」に求めることができます。

 彼らは象徴的な例として、アメリカとメキシコの国境に位置する町、ノガレスを取り上げます。アメリカではアリゾナ州、メキシコではソノラ州に属するその町は、国境を境にフェンスで区切られていますが、もともと同じ民族であり、同じ文化を持っていたようです。ところがその昔メキシコだったこの地は1853年にこの二つの国に別れました。その後現在に至って、アメリカ側の住民はメキシコ側の住民より3倍の所帯収入を得、インフラも充実、一方メキシコ側の住民は大人の殆どは高校すら卒業していない、公衆衛生は劣悪で乳児死亡率は依然として高い、と言ったような格差が生じているようです。

 その要因は何か、一括りでいうと「公平、開放的な経済制度と収奪する経済制度」ということなのでしょう。この本の書評を公開した原真人氏の見解は次の通りです。

書評 自由・公平な制度が経済発展もたらす

 世界には豊かな国と貧しい国がある。その差はどこから生まれるのだろうか。素朴だが、深遠な問いだ。つい決定論に走りやすいこの設問に、本書は、国家の経済的命運は経済的な制度が決める、つまり自発的な努力によって豊かになれるのだという仮説を示す。

 ノーベル賞受賞の経済学者たちから大きな反響があったこの話題の書は、著者らが15年かけた共同研究の成果を一般読者に向けてまとめたものだ。英国の名誉革命や日本の明治維新、世界各国の過去300年の歴史を「制度」という視点から解釈し直した。

 これまで国家間の格差の要因にはもっともらしい説がいくつもあった。地理説は進化生物学者のジャレド・ダイアモンドも提唱しているし、信仰や風習などの文化的要因、遺伝的要因に理由を求める説もあった。為政者無知説は経済学者に支持が多いという。本書はそのいずれも退ける。

 実証研究から浮かびあがるのは豊かな国には自由で公平、開放的な経済制度があることだ。所有権が守られ、分配ルールが確立した社会では技術革新が起き、新産業が勃興(ぼっこう)しやすい。逆に貧しい国には権力者が国家を食い物にして民衆から収奪する経済制度がある。

 本書がもう一つ強調するのは、経済制度を決めるのはその国の政治制度だということだ。豊かな経済をつくりあげたとしても、法の支配や政権交代が可能な民主制度の支えがなければ、結局それを維持できず国家は衰退してしまう。

 本書の制度説は、一見ごく当たり前のようにも見えるのだが、実は多くの「常識」を覆す問題提起をはらんでいる。

 たとえば米国の対中外交やイラク政策の根底にある近代化理論。すべての社会は成長とともに民主化に向かう、というこの考えを、本書は「正しくない」という。

 また近年急成長する中国などの新興国は、いずれ先進国の経済水準に追いつくだろうと多くの人は信じている。ならば日本もやがて中国に追いつかれ、賃金や物価は中国並みになるのだろうか。それまで日本のデフレは続くのか。

 本書の見解に従うなら、必ずしもそうとは言えない。中国の国家資本主義はいまは強さが目立つものの、民主化されていない政治制度のもとでバラ色の未来は描けない、と著者らはみる。私たちは中国発のデフレに極度におびえる必要はないのかもしれない。

 昨今、世の中では効率が悪い民主主義や、政府の意にそわない頑固な中央銀行への批判が絶えない。だがそれらは長い目でみるなら、豊かな経済社会の礎を築くのに必要な機能なのだ。そんな点も含め、この本には、そこかしこに論争のタネが仕込まれている。

 確かにアフリカや東南アジア、中東、南米に見る最貧国の多くは、為政者が独裁、収奪的で、国民の事より、自身や一族の利益を第一に考える傾向にあると言えるでしょう。それも発展途上の特徴であり、過渡期だと言えるかもしれません。

 しかし今、日本や欧米の先進国の経済発展した制度や技術はいつでも移転可能でしょう。国民教育やインフラの整備にいくら時間がかかるとも、数十年のスパンで考えれば、韓国やマレーシアなどの成功例を見れば、可能だと思われます。

 しかし恐らくこれらの国の為政者は、そんな長いスパンで考えることを忌避するのでしょう。自身の時代にしか目が届かないのかもしれません。そして自身や一族の蓄財に走る。国民は如何に貧困生活にあえいでも、自己の周りがハーレムであればいい。そもそも一代で成り上がった指導者はそういう罠に陥りがちです。

 また資源の多い国であれば、米中欧などの巨大資本が虎視眈々とその資源を狙い、為政者を傀儡化して、つまり賄賂のようなものを渡して、お互いの利益を得る。そういった構図かも知れません。いずれにしろ、国を思い国民を思う「偉人」のような指導者が出てくるのを待つしかないのが現実でしょう。残念ながら「自発的な努力によって豊かになれる」というのはこうした指導者の下でなければ無理なような気がします

 以上述べてきたことを総括しても、日本は世界でもかなり大きな成功を収めた国の一つではないでしょうか。公平、開放的な経済制度は一応合格点でしょうし、しっかりとした法治国家でもあります。しかし上述のような、他の国を食い物にして日本を守ることは法的にも国民信条から言ってもできません。資源なき日本はそれ以外の方法で、国を永続させねばならないのです。

 それは従来から言われているように、科学技術の発展向上に基づく産業の育成です。特にこれからは情報技術の向上が欠かせません。すでに米国のみならず中韓などより遅れを取っています。そして少子化のくい止めです。いくら技術を向上し産業を発展させようとしても、人がいなければ絵に描いた餅でしょう。さらに言えば・・・。

 2千年以上国体が続いているのは本当に誇るべきだと思います。しかしその誇るべき国を危うくする要因はいくつかあります。その要因に向かって効果的に対応できるかどうかが、これからの日本の最大の課題でしょう。

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