受け入れざるを得ない悲しい現実、アジアの中でも「小国」に転落する日本 日本は抜本的な意識の転換を
日本は失われた30年と言われて久しくなります。バブル崩壊後の緊縮財政と、生産年齢人口の減少が重なり、それまでの右肩上がりの成長から、成長はほぼゼロという大きな変化の屈折点となりました。
更にリーマンショック後の超円高が、日本企業の海外転出を加速させ、産業空洞化が進む中、コンクリートから人へのスローガンを掲げた、民主党が政権を握り、景気の後退に拍車をかけました。
その後の安倍政権が起死回生を賭けた、アベノミクスもデフレ解消には至らず、企業の投資意欲を喚起できないまま今日に至っています。他国が成長を続ける中、日本だけが低成長の結果G7の中でも最も生産性の低い国になり、給与は上がらず、韓国や台湾にも抜かれる局面を迎えています。。
こうした状況の詳細を、経済評論家の加谷珪一氏がJBpressに寄稿した記事から見てみましょう。タイトルは『受け入れざるを得ない悲しい現実、アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を』(4/17公開)で、以下に引用して掲載します。
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コロナ危機を経て、新興国が驚異的な経済成長を実現している。国内では日本のGDPがドイツに抜かされつつあることが話題となっているが、本当の脅威はそこではない。アジアやアフリカなど新興国の成長が本格化することで、大国の概念が大きく変わりつつある。日本は将来、インドネシアにも抜かれ、アジアの小国に転落する可能性が高く、それを前提にした戦略に転換する必要がある。(加谷 珪一:経済評論家)
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東南アジアが急激に豊かになっている
フィリピン政府は2023年1月、2022年の実質GDP(国内総生産)成長率が前年比でプラス7.6%になったと発表した。この数字は、政府の目標値を上回っており、しかも過去2番目の大きさである。
高成長を実現したのはフィリピンだけではない。同年におけるマレーシアの成長率はプラス8.7%、ベトナムの成長率はプラス8.0%、インドネシアは5.3%と軒並み高い数字が並ぶ。
各国に共通しているのは消費の強さである。これまでアジアの新興国は、米国や日本、韓国の下請けとして工業製品を製造するケースが多く、基本的に輸出に依存していた。だが一連の高成長の原動力となっているのは内需であり、とりわけ個人消費の伸びが大きい。
東南アジア各国が個人消費によって高成長を実現していることから分かるのは、各国で資本蓄積が進み、国内のインフラが整ったことで、国民生活が豊かになってきたという現実である。
一般的に新興工業国は、輸出とそれを支えるための生産設備への投資で経済を伸ばしていく。かつての中国や日本がそうだったが、GDPに占める設備投資の比率が高く、個人消費はそれほど成長には寄与しない。だが十分に資本蓄積が進んでくると内需の寄与度が大きくなり、本格的な消費社会が到来することになる。
こうした変化が発生するしきい値となるのは、1人あたりGDPで1万ドル前後と言われており、これは多くの文化圏に共通した現象である。1人あたりGDPが1万ドルを超えてくると、当該国は相当程度、豊かな生活を送れるようになり、消費パターンも先進国と似通ってくる。
この法則は過去の日本にも当てはまる。日本の1人あたりGDPが現在価値で1万ドルに達したのは1960年代であり、70年代以降、国内の風景は一変した。筆者は1969年生まれだが、小学校に入学する頃までは街中は汚く、一部では戦後の貧しい時代の雰囲気を色濃く残していた。ところが70年代後半から社会は急速に豊かになり、施設も見違えるように立派になっていった。
現在の中国における1人あたりGDPは1万2500ドルとなっており、しきい値を超えている。中国人の生活は劇的に変化しており、従来の中国とはまったく違う国になったと考えてよい。
ひるがえって東南アジア各国の1人あたりGDPは、マレーシアが1万3000ドル、タイが7600ドルとなっており、マレーシアはすでに中国並みの豊かさを実現し、タイが準先進国入りするのも時間の問題である。
ベトナムは4000ドル、フィリピンは3600ドル、インドネシアは4700ドルなので、1万ドルに到達するまでには少し時間がかかる。だが逆に言えば、1万ドルまでは青天井となる可能性が高く、当分の間、驚異的な成長を実現するだろう。
日本はインドネシアにも抜かされる?
今の議論はあくまでも1人あたりGDP、つまり社会の豊かさに関するものだが、東南アジア各国の脅威はそれだけではない。中国ほどではないにせよ東南アジア各国は人口が多く、GDPの絶対値も大規模になる可能性が高いのだ。
日本の人口は1億2500万人であり、相対的には人口が多い国である。日本が戦後、工業国として成長できた理由のひとつは人口の多さであり、低賃金を武器に大量生産を実現したことで先進国の仲間入りを果たした。ビジネスや外交において規模は重要であり、人口が多いことが強力な武器になるのは今の中国を見れば明らかだろう。
東南アジアで最も人口が多いのはインドネシアで約2.8億もの人口を抱えている。ベトナムやフィピンもインドネシアほどではないが人口が多く、ベトナムは約1億人、フィリピンは1億1000万人、タイも7000万人なのでかなりのボリュームだ。
多くの人口を抱えた東南アジア各国が今後、急激に成長し、豊かになってくると、中国のような爆買いを行うことは容易に想像できる。中国に加えて東南アジアが爆買いを開始した場合、アジアのビジネス環境が激変するのはほぼ間違いないだろう。
特に脅威となるのがインドネシアである。
インドネシアの1人あたりGDPはまだ5000ドルだが、今後、急激に豊かになり、今のタイやマレーシア並みに成長するのは確実である。3億人近い人口を抱えた国が経済成長すると、GDPの絶対値も大きな数字となる。多くの専門家が今後20年以内にインドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になると予想している。
東南アジアではないが、意外なところではアフリカのナイジェリアもそれに該当する。
同国はまだ貧しい新興国だが、人口は2億を超えた。東南アジアに続いて急成長を実現するのはアフリカ諸国と言われており、そうした新時代においてナイジェリアは大国になる可能性を秘めている。
日本は小国であるという現実を受け入れよ
これまでの日本は、相応の人口を抱え、GDPの絶対値が大きかったことから、私たちは日本について大国であると認識してきた。だが、一連の現実からも分かるように、豊かさ(1人あたりのGDP)という点ではすでに台湾に抜かれ、韓国に追い付かれるのも時間の問題となっている。GDPの絶対値においても、新興国が驚異的なペースで規模を拡大させており、すでに日本は大国ではなくなりつつある。
日本における最大の貿易相手国は輸出入とも中国となっており、望むと望まざるとにかかわらず、日本は中国を中心とするアジア経済圏に取り込まれつつある。中国の人口は14億、東南アジア全体では7億人近くの人口があり、各国が今後、急激に豊かになるという現実を考えると、アジア経済圏において日本は小国の1つに過ぎない。
繰り返しになるが、外交や軍事力、ビジネスなど、対外的な交渉力や国家覇権という点では、1人あたりのGDPではなく、GDPの絶対値がモノを言う。戦後の国際社会はすべて米国を中心に回ってきたといっても過言ではないが、米国が世界のリーダーとして君臨できたのは、ひとえにその巨大な経済規模のおかげといってよい。
日本は世界最大の経済大国である米国と同盟国であり、かつGDPの規模が米国に次いで2位であった。この絶対値の大きさがあらゆる面でメリットになっていたことは疑いようのない事実であり、残念なことに日本は中国と東南アジアの台頭によって、その両方(「同盟国である米国が突出して大きな経済規模を持っていたこと」と「GDPの絶対値」)を失いつつある。
小国として経済や外交を運営するには、大国とはまったく異なるパラダイムが必要だが、日本人にその準備ができているとは思えない。これまでの価値観をすべてゼロにするくらいの意識改革を行わなければ、次の50年を生き抜くのは極めて難しいだろう。
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あのバブルの時代、土地代や株は天井知らずに上がり続け、物価高騰を上回る給与の上昇が、不動産やものの価格の上昇をまた招くという、今では考えられないような経済状況が続いたのです。
ところが、土地の高騰を抑えるための金利引き締めと、マネー収縮政策がとられ、その前から下がり始めた株と共に、土地の価格も下げに転じました。それまでは土地の価格は上がるものだと信じ込んでいた多くの人たちは、何が起こったか分らないまま、唖然とこの現象を眺めていたものです。
初めての経験とは言え、このとき景気を冷やしすぎるような政策をとらず、何らかの知恵を持ってソフトランニングさせていれば、その後の山一証券や拓銀などの大手三銀行の破綻も起きていなかったかも知れません。
いずれにせよ、バブル崩壊に端を発した日本の長期の経済低迷を、何とかしなくてはなりません。少子化もそれに輪をかけているので、非常に困難な状況ですが、加谷氏の言うように、これまでの価値観をひっくり返すような意識改革を行わなければなりません。
今まだ過去に蓄積した資産もあり、また一方で日本の持つ強みも残っています。それがある内に思い切った改革を政府、民間一体となってやることしか、失われた30年を成長軌道に乗せる道は無いと思われます。
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