軍事

2023年3月 6日 (月)

なぜロシア軍はこれほど弱いのか、中国人民解放軍が徹底分析 台湾統一を見据え、ロシアの失敗から多くを学ぶ目的

14_20230304140501  ロシアのウクライナ侵略戦争は1年を超え、ロシアは圧倒的な戦力の差がありながら苦戦を強いられています。今は東部バフムトでウクライナ軍に総攻撃をかけていますが、まだ陥落はしていないようです。この先春になれば欧米からの戦車のウクライナ提供が本格化します。果たしてこの先どうなるのか予断を許しません。

 ところで欧米のウクライナ支援もありますが、何故ロシアがこれほど苦戦しているのでしょうか。そしてその状況を中国が詳細に分析しています。ハーバード大学アジアセンター・シニアフェローで前陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏がJBpressに寄稿した記事に、その詳細を見てみましょう。タイトルは『なぜロシア軍はこれほど弱いのか、中国人民解放軍が徹底分析 台湾統一を見据え、ロシアの失敗から多くを学ぶ目的』(3/04公開)で、以下に引用します。

 ロシア・ウクライナ戦争(=露宇戦争)が勃発してから1年が経過した。ロシアのウクライナ侵略直後、世界中の多くの専門家は「ロシアが短期間でウクライナを占領するだろう」と予想していた。

 しかし、米国の統合参謀本部議長マーク・ミリー大将が「ロシア軍は、戦略的にも作戦的にも戦術的にも失敗している」と発言したように、ロシア軍はこの戦争で大苦戦し、多くの失敗を繰り返している状況だ。

 世界中の軍事関係者は、露宇戦争から多くの教訓を引き出そうとしている。特に中国にとって、これらの教訓はより重要な意味を持つ。

 なぜなら、中国は大規模な戦争の経験がなく、過去数十年間の急速な人民解放軍(=解放軍)近代化のためにロシアの兵器とドクトリンに大きく依存してきたからである。

 そのロシアが始めた戦争の帰趨は、中国が目指す台湾統一のための軍事作戦と密接な関係があるからだ。

 本稿においては、解放軍が露宇戦争、特にロシア軍をどのように分析し評価しているか、解放軍の機関紙である『解放軍報』を根拠に明らかにしたいと思う。

露宇戦争は長期戦の様相

 ウラジーミル・プーチン大統領はロシア軍に対して、「ドンバス地方の2州(ドネツク州、ルハンシク州)の3月末までの完全占領」を命じている。

 この命令を受けたロシア軍は、ドンバス2州においてほぼ全力で攻撃している。

 しかし、多大の犠牲を伴ったロシア軍の攻撃は順調に実施されているとは言えない。

 確かに最大の激戦地であるバフムト正面では、民間軍事会社ワグネルを中心としたロシア側の攻撃が徐々に進捗し、ウクライナ軍を包囲する態勢ができつつある。

 一方、ロシア軍が重視しているドネツク州南西部の要衝ウフレダル(Vuhledar)では数千人の犠牲者を出して攻撃が頓挫している。

 ルハンシク州のクレミンナやスバトベ正面でも大きな部隊が攻撃しているが、ウクライナ軍の激しい抵抗に遭遇し、攻撃は進捗していない。

 つまり、露宇戦争の現状は「膠着状態にある」と言わざるを得ない。

ロシア軍の人員・兵器の損耗は大きい

 ロシア軍がこの戦争で被った人員と兵器の大量損耗は、今後の戦況に大きな影響を与えることになる。

 英国防省によると、2月末の時点におけるロシア軍の死傷者は20万人で、死者数は6万人に上る可能性があるという。

 この6万人という数字は、第2次世界大戦以降の戦争で死亡したロシア兵士の数よりも多い。

 戦略国際問題研究所(CSIS)のリポートは次のように分析している。

「ウクライナ戦争でのロシア軍の死者数は6万から7万人だ。ロシア軍の毎月の死者数は、チェチェン戦争での死者数の少なくとも25倍、アフガニスタン戦争での死者数の35倍である」

 ロシア軍の兵器の損耗であるが、オープンソースの情報を分析している組織「Oryx」の分析によると「ロシア軍はウクライナで毎月約150台の戦車を失い、2022年2月以降、合計1779台の戦車を失っている」という。

 一方、エコノミスト誌によると、ソ連は1940年代、月に1000台の戦車を生産することができた。

 現在、ロシアには戦車会社がウラルバゴンザボード(UralVagonZavod)1社しかなく、毎月20台前後の新型戦車を生産することができるが、1つの会社がウクライナ戦争における膨大な需要に追いつくのは困難である。

 ウラルバゴンザボードはまた、毎月8両の古い戦車を改修しており、ロシアの他の3つの修理工場は毎月17両ほどを改修している。

 ロシアは近い将来、新たに製造される毎月20両の戦車に加えて、毎月約90両の戦車を復活させることができる可能性はある。

 しかし、ロシアはウクライナで毎月約150台の戦車を失っており、再生可能数は損失数には及ばないだろう。

 つまり、経済制裁下における兵器生産の限界により、戦車以外の兵器においてもその損耗を穴埋めできない状況だ。

 その結果、ミサイルや弾薬は不足し、戦車等の主要兵器が不足する状況である。

 ロシアは、イランや北朝鮮から弾薬や兵器を入手する努力をしているが、それでは不足を賄えない状況だ。

 そこで注目されるのが、中国からの弾薬や兵器の入手である。

 もしも中国が武器や弾薬を大量にロシアに提供すると、露宇戦争に根本的な影響を与えることになる。

 そのため、ジョー・バイデン政権は何が何でも中国の武器等の提供を阻止しようとして、その帰趨が注目される。

 いずれにしても、中国がロシアの戦争遂行能力に大きな影響を与える可能性があり、中国がロシアの運命を左右する存在であることは確かだ。

16_20230304140901 ロシア軍にダメ出しする『解放軍報』

 解放軍は、露宇戦争におけるロシア軍の動向に注視し、その教訓を将来の台湾統一作戦に生かそうとしている。

 解放軍の『解放軍報』は2023年1月12日付の記事で、苦戦するロシア軍に対してダメ出しを行っている。

 その記事は、露宇戦争におけるロシア軍の問題点を率直に指摘した興味深い内容であるので紹介する。

  • ロシア核戦力の統合

・『解放軍報』の記述内容

 通常戦力が立ち遅れるロシア軍にとって、核戦力は米国やNATO(北大西洋条約機構)との戦略的に対等な立場を維持するために不可欠な戦力になっている。

 ロシア軍は、戦略核戦力の「3本柱」へのコミットメントを維持し、2022年に核兵器の近代化率を91.3%に高めた。

 この年、最初の戦略爆撃機「Tu-160M」が航空宇宙軍に引き渡され、955A(ボレイ)型戦略原子力潜水艦「スヴォーロフ」が北方艦隊に編入され、大陸間弾道ミサイル(ICBM)サルマトが戦闘任務に就いた。

 また、ロシアは核封じ込めを効果的に補完するものとして、極超音速兵器に代表される非核兵器の封じ込め戦力を拡充し、「核と通常戦力」による2重封じ込め戦略効果を狙ってきた。

 また、核演習によって核戦力を誇示し、核戦力の運用能力の向上を図り、「第3次世界大戦は核戦争になる」と西側諸国に警告を発した。

 一方、実戦では戦略爆撃機による巡航ミサイルの発射、極超音速ミサイル「キンジャール」の反復使用などで決意を示し、NATOの直接軍事介入を抑止した。

 ロシアはNATOに対する効果的な戦略的抑止力を確保するために、主権と領土保全、国際戦略バランスの重要な保証として、戦略核戦力の「3本柱」を維持し続けるであろう。

・筆者の解説

 プーチン大統領が戦争の終始を通じて多用しているのが「核のカード」である。ロシアは、通常兵力ではNATOに劣っており、NATOとの均衡を保つために核抑止力に依存している。

 ロシアは、「核演習を行い、核戦力の戦闘態勢を高め、第3次世界大戦は核戦争になると警告する」ことで西側諸国のウクライナへの支援を抑止している。

 つまり、プーチンの核の脅しにより、バイデン政権は「F-16」や「ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)」のウクライナへの供与を拒否している。

 私はこの状況を「プーチンの核の脅しによる認知戦がバイデン政権に対して効果を発揮している状況だ」と表現している。

『解放軍報』の記事では、ロシアが通常弾頭の極超音速ミサイルを使用することで、「NATOの直接軍事介入を抑止した」と記述しているが、私はこの記述に反対する。

 私は、ロシアの極超音速ミサイルの効果は限定的だったと思っている。やはり、非核ではなく核ミサイルの抑止効果の方が圧倒的に大きいのだ。

  • 陸上部隊を中核とした諸兵連合作戦の態勢構築

・『解放軍報』の記述内容

 ロシア・ウクライナ戦争は、依然として陸上での勝敗が戦局のカギを握っていることをロシアに十分認識させた。

 戦争開始当初、ロシア軍は作戦目的達成のため、大隊戦術群(BTG)を中核とした多領域連合作戦(多域联合作战)を行おうとした。

 しかし、NATOの作戦支援に力を得たウクライナ軍を前に、諸兵連合作戦(CombinedArmsOpearation)能力の不足、戦争継続能力の不備など、BTGの弱点が次々と露呈された。

 また、ロシア軍の諸兵連合作戦能力は限定的であり、ロシア軍は効率的な諸兵連合作戦を行うことができない状況だ。

 報道によると、陸上戦場における戦闘指揮関係を合理化するため、ロシア軍は陸軍を中核とする連合戦力システムを再構築し、戦術作戦レベルで部隊の高度な指揮統一を実現しようとしている。

 そして、ロシア軍伝統の大軍団作戦の優位性を最大限に発揮して戦場における主導権を獲得しようとしている。

 そのための第1の方策は、旅団の師団化プロセスの推進である。

 旅団には柔軟性はあるが、規模が小さ過ぎて戦力に限界があり、長期にわたる高強度の消耗戦に効果的に対処することができない。

 ロシア軍は師団を復活させる方針で、7個歩兵旅団を歩兵師団に拡大し、新たに3個歩兵師団を編成するほか、空挺部隊も2個空挺突撃師団の編成を増やす、さらに既存の海軍歩兵旅団をベースに5個海兵師団を編成する予定だ。

 第2の方策は、各集団軍に航空・宇宙軍を割り当てて作戦を行うことである。

 露宇戦争において、ロシアの航空宇宙軍の出撃回数は少なすぎ、精密打撃の効果がなく、陸軍との連携も限定的であった。

 この点で、ロシアは各集団軍に混成航空師団と陸上航空旅団を1個ずつ配置し、空地での統合作戦を確保する方針である。

 第3の方策は、西方戦略方面への兵力配置の最適化である。

 フィンランドやスウェーデンのNATO加盟後に出現する脅威に対処するため、ロシア軍はモスクワとレニングラードの2つの軍管区を新設する計画で、西部軍管区はウクライナ方面の脅威への対処に特化する可能性がある。

・筆者の解説

 ゲラシモフ参謀総長が鳴り物入りで導入した大隊戦術群(BTG)は現在、解体されている。

 記事で書かれているように、諸兵連合作戦能力の不足、戦争継続能力の不備など、BTGの弱点が次々と露呈され、BTGは解体されている。

 バフムトなどの激戦地では、BTGに代わる小規模な突撃部隊を多数編成して、人海戦術による波状攻撃を行っている。

『解放軍報』は、ロシアが諸兵連合作戦の問題解決に苦戦していることを認め、「ロシア軍は諸兵連合戦の効果的な実行ができていない」と述べている。

 西側のアナリストは、戦場におけるロシアの航空戦力の不在を推測している。この点がロシア軍の最大の問題点である。

『解放軍報』は、ロシア空軍は「出撃回数が少なすぎる」と批判し、「精密攻撃の効果が不十分で、陸軍との連携も限定的だった」としている。

  • 情報化作戦能力の欠如

・『解放軍報』の記述内容

 ロシア軍の情報化作戦能力の不足により、特別軍事作戦においては従来の機械化戦争の戦法が継続されている。

 ロシア軍は戦略・戦術を積極的に調整し、作戦のスピードアップ化を図り、情報化作戦能力の向上に力を注ぐべきだ。

 第1は、指揮・通信システムにおける情報レベルの向上である。

 ロシア軍は指揮自動化システムの適用範囲を拡大し、大隊以下の戦闘部隊に指揮自動化システム端末と新世代デジタル無線を優先的に装備すべきだ。

 人工知能の技術を積極的に導入し、戦闘システムの有効性を向上させるべきだ。

 第2は、戦場状況認識能力を向上すべきだ。

 主に分隊や小隊の戦闘部隊に無人機を装備し、戦場の偵察ネットワークを統合し、秘匿された通信チャンネルを通じてリアルタイムで情報を伝達し、「偵察と打撃」間のループの有効性を大幅に向上させるべきだ。

 第3は、ドローンなどの知的戦闘装備の開発を加速し、戦略ドローン、監視ドローン、徘徊型自爆ドローンの開発を中心に進め、特に精密誘導砲弾の生産を拡大することである。

 また、ロシア軍の初期作戦や動員過程の後方支援に生じた問題や矛盾を受け、ロシアは軍事産業化委員会の役割を重視し、特別軍事作戦の材料や技術的なニーズに焦点を合わせている。

 高度な医療キットや防弾チョッキなどの装備を部隊に提供している。

 同時に、「外注」の後方警備のシステムをさらに最適化し、軍独自の「随伴」装備の整備と警備能力を向上させ、各レベルの修理部隊を復活させ、警備能力を戦場のニーズに合わせるとしている。

・筆者の解説

 解放軍では、作戦の発展段階を「機械化→情報化→智能化」と表現している。

 情報化作戦の典型は米軍の湾岸戦争やイラク戦争における作戦であり、ICT(情報通信技術)の進歩に伴い可能になった先進的な作戦である。

 情報化戦争を可能にするのが指揮・統制・戦闘システムの開発と配備である。

 この解放軍の分析でも、「ロシア軍の情報化戦闘能力は不十分である」と評価している。

 ロシアは情報化戦を効果的に実行できないので、この理解によれば、「機械化戦の伝統的な戦術に頼らざるを得なかった」ということになる。

 1990年代から2000年代にかけてバルカン半島や中東に展開した米軍の研究から、中国共産党は、将来の戦闘は情報を核として行われ、「非接触戦争」に大きく依存するだろうと考えるようになった。

 これは紛争地域周辺から行う長距離精密打撃を意味する。ロシアが長距離精密打撃により、どの程度ウクライナでの作戦に成功したのか、解放軍は疑問視している。

 情報化戦におけるロシアの現在の不備に対処するため、中国側は3つの分野に優先的に取り組むべきだと分析している。

 それは、大隊以下の戦闘部隊への指揮自動化システム端末の装備を優先して、指揮自動化システムの利用拡大をすること。そして無人機の導入拡大である。

 無人航空機(UAV)は分隊や小隊レベルで使用し、戦場の状況把握やリアルタイム情報の伝達により「偵察と打撃ループ(侦察-打击回路)」を改善する。

 つまり、リアルタイムの目標情報に基づき、迅速な火力打撃により目標の迅速な撃破を実現するということだ。

 ロシア陸軍は、ISR(情報・監視・偵察)のプラットフォームを使用し、最下層の部隊や指揮官に権限を与え、目標捕捉、偵察、攻撃を迅速化することの価値を認識するに至った。

 解放軍は、米国の無人偵察機と攻撃用ドローンの導入についてはすでに研究しており、中国の巨大な国内ドローン産業とともに、中国軍のあらゆるレベル、各兵科における高レベルのドローン使用を加速させるものと思われる。

 結論として、解放軍はロシア軍の作戦を情報化作戦に至らない古い機械化作戦レベルであると批判しているのだ。

結言

 中国共産党は将来的な台湾統一を睨んで、露宇戦争の動向をよく観察している。『解放軍報』の分析記事は、露宇戦争におけるロシア軍の軍事的失敗を率直に認めている。

 つまり、ロシア軍は、解放軍にダメ出しされているのだ。

 露宇戦争においては、表面上はロシアに有利に見える烈度の高い戦争も、エスカレートするリスクを伴う長い消耗戦に陥りやすい可能性が非常に高い。

 中国の指導者たちが、これを単に克服すべき一連の軍事技術上の問題と見ているのか、それともそもそも戦争は避けるべきだという警告なのか、いずれの結論に達するかが注目される。

 いずれにしても、露宇戦争で明らかになった問題点を改善するために、北京の政治家や戦略家が日夜努力していることが、中国語の文献から読み取れるのである。

 中国がこのロシアの侵略戦争を仔細に研究しているのは、想像に難くありません。台湾統一を視野に戦略を立てる過程で、参考にしようとしているのでしょう。更には直接の参戦者ではありませんが、ウクライナに武器等を支援しているアメリカやイギリスも、この戦争を仔細に分析し、逐次メディアに公開しています。

 日本にもNIDSという防衛研究所がありますが、詳細な分析を行っているのでしょうか。殆どメディアに研究や分析の結果が公表されていませんが、内密に進めているのでしょうか。『ウクライナ戦争の衝撃』という研究者の執筆した書籍が刊行されていますが、それは戦況の仔細な分析や戦略的レベルの研究ではないようです。研究実態は分りません。

 いずれにしろ中国が台湾統一を目指して戦況分析をするのに対し、日本も台湾有事を想定してあらゆる角度からシミュレーションが必要でしょう。ただそのためにロシアによるウクライナ侵略戦争の分析が、はたして貴重な情報となるかどうかは分りませんが。

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2022年12月19日 (月)

北朝鮮の常軌を逸したミサイル発射の影で、交されたロシアとの「悪の取引」

3_20221218135301  ロシアがウクライナ侵略を開始してもうすぐ10ヶ月になります。未だ停戦交渉の糸口はつかめず、ロシア、ウクライナ双方とも一歩も引かぬ状況で膠着状態が続いています。ロシアは1月入って、さらなる攻撃の準備を進めていると言い、終わりの見えない戦いが続きます。

 この秋のウクライナの反転攻勢に対抗し、ロシアはウクライナのインフラ設備へ、多数のミサイル攻撃を続け、冬期に入ったウクライナの電力危機を誘うという、戦争犯罪を続けています。

 こうした中、北朝鮮がロシアに急接近、そのあたりの事情をモラロジー研究所教授で麗澤大学客員教授の西岡力氏が、月刊hanadaプラスに寄稿していますので以下に引用します。タイトルは『ロシアと北朝鮮の「悪の取引」』です。(左上の図は「新・悪の枢軸国」)

米韓軍事演習への対抗措置として、4日間で39発のミサイル乱射した北朝鮮。その常軌を逸した行動の裏には、ロシアの影が――。

常軌を逸したミサイル発射

北朝鮮は連日、ミサイル乱射、海上への砲撃、戦闘機の大量演習を続けている。

11月7日、朝鮮人民軍総参謀部の発表によると、10月31日から11月5日行われた米韓軍事演習「ビジラント・ストーム」に対抗し、「3時間47分にわたって500機の各種戦闘機を動員した空軍の大規模な総戦闘出動作戦」を断行、2~5日の4日間で39発のミサイル(弾道ミサイル14、地対空ミサイル23、巡航ミサイル2)と46発のロケット砲を発射したという。

彼らは米韓軍事演習への対抗措置だと主張するが、4日間で39発のミサイル乱射は常軌を逸している。今年のミサイル発射(11月9日まで)は92発だ。その背景にはなにがあるのか。私はある関係筋から、極秘情報を入手した。実はロシア側から、米国の関心を分散させるため、半島で軍事緊張を高めて欲しいという依頼があったというのだ。

10月1日、ハバロフスクで北朝鮮人民軍とロシア国防省の秘密会談が開かれた。北朝鮮からは李泰燮(イ・テソプ)総参謀長らが参加したという。

そこで、ロシア側は米国のウクライナへの関心を分散させるため朝鮮半島で軍事的緊張を最高度に高めることと、北朝鮮が保有する放射砲砲弾の提供などを要請し、見返りとして年間10万トンの精製された石油(ガソリン、軽油、ジェット燃料など)を提供、ウクライナ戦争終了後には最新鋭戦闘機を提供すると提案した。金正恩総書記は石油と最新戦闘機が欲しいのでこの提案を歓迎。北朝鮮は、局地戦は出来ないがミサイル乱射などそれ以外の方法で軍事的緊張を高めると約束した。

常軌を逸した人民軍の行動はこの密約が背景にあったわけだ。

「試射」「訓練」でもない

北朝鮮が提供することになった砲弾は、1960年代から80年代までソ連からもらっていたソ連製の220ミリと120ミリ砲弾だ。地下倉庫に長期間保管されており、湿気などのため不発が多い。

2010年の延坪島砲撃では不発率5割だった。厳密な検査をして不発ではないと判断されたものだけを中国船に積んで密輸しているという。不発率5割の半世紀前の古い砲弾の見返りに石油をもらうという金正恩にとって大変有利な取引だ。

すでにかなりの量の石油が、ナホトカ港から船で北朝鮮の羅津港に運び込まれている。ナホトカにはシベリアからパイプラインで石油が運ばれていて、大きな石油タンクに保管されている。燃料不足でこれまで満足に空軍演習をすることが出来なかった北朝鮮がここにきて、大量の戦闘機を飛ばしているのはロシアから提供されたジェット燃料のおかげという。

プーチン大統領は戦況が芳しくないウクライナ戦争の局面を打開するため、金正恩総書記に急接近しているのだ。核兵器を使うと公言する二人の独裁者がここにきてお互いの利益のために急接近し、それを習近平の中国が隠れながら一部支援しているという構図が見えてくる。

今年のミサイル発射を振り返ると、11月2日から5日までの39発のミサイル発射が、従来のパターンではないことがわかる。

従来の北朝鮮のミサイル発射には大きく分けて2種類ある。国防科学院による開発段階での「試射」と、完成して軍に引き渡され実戦配備後の人民軍による「訓練」だ。

核ミサイル開発は人民軍が担当していない。労働党中央委員会の軍需工業部が担当する。同部の下で実際の開発にあたっているのが国防科学院だ。だから、国防科学院が完成していないミサイルを実験のために発射するのは「試験発射」「試射」と発表される。そして、開発が終わるとミサイルは人民軍に引き渡され、実戦配備される。

それから発射される場合は、実験ではなく軍事演習になるので、人民軍による「訓練」とされる。その区別は明確だ。

休戦ラインを越えて着弾

北朝鮮は今年11月9日までに約九十二発の弾道ミサイル、地対空ミサイル、巡航ミサイルを発射した。そのうち、1月から4月までの17発中15発は国防科学院の「試射」だった(1月14日の2発は「鉄道機動ミサイル連隊の検閲射撃訓練」)5月から8月の16発は公式報道がなかったが、やはり、大部分が国防科学院の試射である可能性が高い。

ところが、9月25日から10月9日までの14発の発射は金正恩総書記が現地で指導した「戦術核運用部隊の軍事訓練」だと公表された。開発中のミサイルの「試射」ではなく短距離と中距離、つまり韓国、日本、グアムを狙う核ミサイルを撃つ訓練、「核攻撃軍事演習」だったことが明らかになったのだ。その上、模擬核弾頭を付けた、ともされた。

戦術核運用部隊の名前が表に出て来るのも初めてのことだ。人民軍は陸軍、海軍、空軍、戦略軍、特殊作戦軍の5軍体制を取っている。そのなかでも核ミサイルを運用するのは戦略軍と言われているが、「戦術核運用部隊」がどの軍に所属しているかは明らかになっていない。

しかし、11月2日から5日までの39発のミサイル発射は「試射」や「訓練」、はたまた「核攻撃軍事演習」でもなく、さらに上のフェーズ、「朝鮮人民軍の軍事作戦」だった。

39発の発射のなかでも注目すべきは、鬱陵島方向に飛んできた短距離弾道ミサイルだ。2日午前8時51分に元山から日本海側に短距離弾道ミサイルを三発発射、そのうち1発が、NLL(北方限界線)を越えて鬱陵島方向に飛んできて、手前で落ちた。そのため、鬱陵島では空襲警報がかかり住民が避難した。

NLLとは朝鮮戦争休戦時に制海権を握っていた米軍が引いたライン、事実上の海の休戦ラインだ。これまで北朝鮮はNLLの南側にミサイルを撃ち込んだことはなかった。

それに対抗して韓国軍がNLLの北側に3発の空対地ミサイルを射ち込む。今度はそれに対抗して北朝鮮が同日午後「南朝鮮地域の蔚山市の前方80キロ付近の水域の公海上に2発の戦略巡航ミサイルで報復打撃を加えた」と7日に公表。2発の巡航ミサイルがそれぞれ発射されるときの様子と空中を飛ぶ様子の写真まで出した。

中国の台湾侵攻もあり得た

蔚山は韓国の東南部に位置する工業都市。そこからわずか80キロしか離れていない海に北朝鮮がミサイルを2発撃ってきたというのだからすさまじい軍事挑発だ。

ただ、巡航ミサイル発射当日、韓国側からはその発表がなく、北朝鮮の発表後、韓国軍は彼らが言うところの巡航ミサイルの着弾はなかった、と否定している。

韓国軍はNLLを超えて着水した短距離弾道ミサイルの残骸を水中から確保し、形状と特徴からソ連製のS-200地対空ミサイル(SA5地対空ミサイル)だったと明らかにした。

S-200は1960年代にソ連が開発し、80年代に北朝鮮がソ連から持ち込んだ旧式のミサイルだ。韓国の中央日報は「60年代開発のくず鉄ミサイル」と書いた。

従来の「試射」や「訓練」ではなく、「軍事作戦」によるミサイル発射で、かつてないほど軍事的な緊張を高めたのだ。プーチンとの取引を金正恩が忠実に実行したと見て間違いないだろう。

実は、ウクライナ戦争開始前後からロシアは北朝鮮に接近していた。ウクライナ戦争の開戦直後に、私が入手した内部情報によると、プーチンは開戦前に金正恩に対して、「1週間以内にウクライナを占領する計画だ」と伝えていた。ウクライナがこれほど英雄的に抗戦するとは想像していなかったのだ。様々な情報から、プーチンが早期に戦争で勝利できると考えていたことは明らかになっているが、北朝鮮内部情報でもそれが裏打ちされたと言える。

その情報によると、ロシアが計画通り1週間で戦争に勝利すれば、中国が台湾との戦争に突入し、北朝鮮は米軍を攪乱する局地戦を行うことが謀議されていたという。中国は早ければ今年末か来年に台湾侵略を計画していた。その作戦にあたって、中国が北朝鮮に対して朝鮮半島で局地戦を起こして米軍を攪乱して欲しいと依頼していたという。

中国の台湾侵略と同時に人民軍は西海五島地域での局地戦を検討していた。五島を同時に攻める作戦やペンニョンドを攻める作戦などが案として上がっていた。北朝鮮からすると五島は喉に刺さったとげであり、機会があれば占領したいと狙っていたからだ。

ところが、予想に反してロシア軍は苦戦した。そのため、中国の台湾侵攻も計画修正が不可避で、北朝鮮も中国の戦争に加担したら自分たちだけが損害を受けると考えるようになった。つまり、ウクライナの英雄的な抗戦が東アジアの平和を守ったのだ。

当惑する金正恩

矢板明夫産経新聞台北支局長も、ロシア側の内部情報として、私とほぼ同じ情報を入手、月刊『正論』(2022年6月号)でこう述べている。

〈ロシア側の内部情報によると、習近平は今秋に台湾侵攻することを考えていたと言います。

 ウクライナが二、三日で制圧されたら、同じように台湾もやれる、と習近平は選択肢の一つとして考えていたのだと思います。……しかし現在、ロシアは思いのほか苦戦しています。ウクライナの非常に強い抵抗に遭うし、国際社会がこれほどウクライナを支援するとはプーチンも習近平も考えていなかったはずです。……習近平の台湾攻略の野望が今回の失敗・苦戦によって完全に白紙に戻った、ということが中国への最大の影響になるでしょう〉

北朝鮮内部情報とロシア情報がほぼ一致しており、この情報の信憑性は高い。

金正恩政権はウクライナ戦争に高い関心を持っていた。ロシア軍の戦いぶりは朝鮮人民軍の戦闘力が試されているという側面がある。彼らの軍隊はロシアの兵器で武装しているからだ。

金正恩は戦争開戦直後に朝鮮人民軍参観団をウクライナのロシア軍に随行させ、人民軍の偵察総局と総参謀本部から合計20人程度が参加した。ロシア軍の装備とウクライナに提供された西側の兵器の実戦での状況を検討し、戦争過程を把握し北朝鮮に適用することが目的だ。

その結果、肩担ぎ型の対戦車ミサイルのジャべリンやドローンなどによってロシア軍が大きな被害を受ける場面が平壌に報告された。

報告を聞いて、金正恩と人民軍首脳部は軍事大国と言われていたロシアの弱さに当惑した。

ウライナ侵略戦争でロシア陸軍の弱さを見て、金正恩は同じロシア製兵器で武装している北朝鮮陸軍が予想外に弱いことを知ってしまった。それまで米軍さえ撤退させれば奇襲攻撃で韓国を占領できると考えてきたのだが、韓国軍単独でも北朝鮮軍は敗退する可能性が高いという不都合な真実に直面したのだ。

6月の党中央軍事委員会で、通常兵力では韓国単独でもかなわないから核ミサイル開発に集中する方針を非公開で決めたという。9月に核使用の法律を作って自分の命を守ることを最優先とし、自分に危害を加えるならば核で反撃するぞというメッセージを出したのも同じ脈略だ。

「悪の取引」を許すな

3月、ロシアは、ウクライナがなかなか降伏しないことに焦り、北朝鮮と中国に軍事支援を求めていた。ロシアのショイグ国防相が3月、北京を訪れ、中国人民解放軍幹部と北朝鮮人民軍幹部と秘密会談を持った。

ショイグ国防相は訪朝を希望したが、コロナ問題で外国人の入国を拒んでいる北朝鮮が北京での会談を逆提案したという。そこでショイグ国防相は中国にミサイルなどの提供を求め、拒絶されている。

北朝鮮には特殊部隊の派兵とミサイルとその部品の提供を要請し、北朝鮮は検討すると答えたが、実際は拒絶した。金正恩はロシア軍が予想に反して弱いのを目にして、ロシアを全面的に支持すると表明しつつ、戦争への介入を避けるという方針を決めていたからだ。

しかし、今回、金正恩はプーチンの頼みを受け入れ、くず鉄ミサイルを軍事作戦として発射しまくり、不発率5割の砲弾を密輸出することでロシアの戦争を助けた。その見返りが、金正恩が喉から手が出るほど欲しい精製石油と最新鋭戦闘機だった。北朝鮮との武器取引は国連制裁違反だ。また、精製石油の北朝鮮への輸出も国連制裁により厳しい上限がある。

ロシアは国連常任理事国として自国も賛成して決めた国連制裁を公然と破っている。我が国は米国、韓国とも協力してその明確な証拠をつかみロシア、北朝鮮の「悪の取引」を止めさせるために全力を尽くすべきだ。

 令和版「悪の枢軸」の中朝露3国が、日本の脅威になっていますが、北朝鮮は核しかないことがはっきりしています。そして米韓に盾になってもらいましょう。ロシアはまさかウクライナ戦争の終結を待たず、日本へ攻撃という両面作戦はないでしょう。たとえ終結したとしても疲弊した戦力ではそれも難しい。問題は中国です。

 いくら中国経済がここに来て停滞の様相を帯びているにしても、日本を遙かに上回る底力があり、かつ軍事力は桁が違います。核ミサイルも豊富にある現状から、日本が2027年にGDP2%の軍事費を達成しても、到底及びません。そこは日米同盟を軸にクワッドの枠組みで強固な協力関係を持つと共に、核共有も早急に実現しれなければならないでしょう。将来的には核保有も視野に入れる必要もありそうです。

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2022年10月14日 (金)

ウクライナ善戦の陰で“爆売れ”の「韓国兵器」 日本の軍需産業完敗は誰のせいだ

2210031629_7714x476  戦後GHQに植え付けられた「軍=悪」のマインドセット。未だに日本学術会議が軍事研究に否定的な見解を出しているように、大学の研究では軍事研究は抑制されています。企業においても軍需品を開発製造している会社には「死の商人」の汚名をそそぐ反戦団体が日本中で闊歩しています。

 9条の改正も未だに実現せず、非核三原則も後生大事に守り続ける日本。その日本が急速に進む周辺の安全保障環境の悪化から、防衛費増額へ重い腰を上げ始めたのは最近になってからです。ましてや軍需品の海外への輸出など周回遅れもいいところです。

 そうした中で隣の韓国は軍需品の輸出へ向け大きく羽ばたいています。中国同様、日本が最貧国の一員だったこの国を援助し育て上げたのに、30年間日本がデフレでもたついている間に、その韓国から多くの分野で敗れ始めた現実があります。

 韓国の軍需品の輸出の実態について週刊新潮が記事を掲載しています。タイトルは『ウクライナ善戦の陰で“爆売れ”の「韓国兵器」 日本の軍需産業完敗は誰のせいだ』で、以下に引用します。

ウクライナ軍の巻き返しにより、部分的動員を余儀なくされたロシア

 北東部で攻勢に出たウクライナ軍が、ハルキウ州で広大な領土を奪還。ロシアは部分的動員を発令するなど、苦境に立たされている。その反撃の契機には、諸外国からの武器援助があった。

 ***

 特に隣国ポーランドは、旧ソ連製の戦車「T-72」を約240両も提供したとされる。

 しかし、ポーランドもまた、NATO諸国の中でロシアとの最前線に立つ国である。このように大量の兵器をウクライナに渡してしまっても大丈夫なのか。

ポーランドが韓国から4兆円規模の兵器を購入

「実はその穴を韓国が埋めているんですよ」

 と語るのは、さる防衛産業関係者。

「今年7月、ポーランドは韓国から戦車980両、自走砲648門、戦闘機48機を購入する基本契約を結びました」(同)

 すべて履行されれば、総額4兆円規模の超大型取引となるが、ポーランドだけでなく、近年、韓国の軍需産業が世界各国の熱い視線を集めているという。

「昨年末には、オーストラリアが韓国製の自走砲など約870億円分の購入を決定。韓国軍需産業の昨年の輸出総額は1兆円に上ります」(同)

 背景には産官学が一体となった韓国の輸出戦略がある。

 実は豪州との取引も、文在寅大統領とモリソン首相(ともに当時)の首脳会談で決まったことだ。

かたや日本は100億円のレーダーがほぼ唯一の実績

「韓国はトップセールスで契約を取り、相手国に合わせた柔軟な仕様変更にも応じる。かたや日本は豪州への潜水艦輸出、インドへの飛行艇輸出など、話が持ち上がっては立ち消えに」(同)

 そもそも日本の場合、殺傷能力のある武器は原則として輸出が認められない。

 最近ではフィリピンが三菱電機製のレーダー3基(約100億円)を導入したのがほぼ唯一の実績だ。

「トルコは三菱重工に戦車用エンジンの売却を断られ、代わりに韓国製を導入した。日本政府もさすがに危機感を覚えて、今後は“国主導”で武器輸出に関与する方針です」(同)

 K-POPに半導体、スマホと同様、ここでもメイド・イン・ジャパンは後れを取ってしまっている。技術面で劣るというよりも、軍事技術や産業に反射的にアレルギーを示す世論や政策のせいという面は大きい。

 果たして、ウクライナ軍のような捲土重来を実現することはできるのだろうか。

 私見ですが、今実際にウクライナのように他国に攻められたら、日本は最も弱い国の一つと言えるのではないでしょうか。なにしろ77年戦闘に出くわしていない日本、更にはWGIPにより教育、メディア、産業の奥深くに染みこんだ「軍=悪」というマインドセットが、未だに底流に奥深く行き渡っています。(そこには「軍」は攻めるものであって、同時に守るものだと言う考えが欠けていることも一因でしょう)。GHQの日本弱体化計画が奏功し、未だにその呪縛から解き放たれていません。逆に「9条教」は未だに健在です。

 何も武器輸出を急速に増やさなければならないというのではありません。少なくともG7に名を連ねているのであれば、せめて英仏並の軍事力を持つことは当然だと思うべきでしょう。地政学的な安全保障環境に於いて日本は英仏より厳しいのですから。そして政府は総力を挙げて国全体に浸透している、「軍=悪」というマインドセットを取り払う努力をしなければならないと思います。

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2022年9月 3日 (土)

スタートした新型国産長射程ミサイル開発。その能力は?

Img_598a4b630dc68bf13c9ffa49a7376ba71733  政府は今月1日、「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の年末までの改定に向けて実施した、有識者意見聴取の要旨を公表しました。この中で防衛費のGDP比2%への増額については「妥当だ」などと支持する意見が多数記されました。3倍への増額提案もあったようです。

 そして来年度の防衛費の概算要求では5兆6千億円となり、過去最高額となるようですが、GDP比2%となると10兆円を超えます。これを5~10年以内に達成するのは、ハードルも高いようですが、日本周辺の安全保障環境を考えると、必達が望まれます。

 そうした中、防衛省が強化を狙うミサイル開発戦略が、発表されました。その詳細を、防衛関連に詳しいフリーライターの深川孝行氏が、JBpressに寄稿した記事から引用して紹介します。タイトルは『中国・北朝鮮のミサイルへの反撃を狙う、国産「改・長射程ミサイル」の威力 スタンド・オフ兵器や超高速兵器の開発に力を入れる防衛省の真意とは?』です。

日本が整備を進める「スタンド・オフ・ミサイル」とは?

 今年8月、令和5(2023)年度の防衛予算概算要求の概要が明らかになった。ウクライナ侵略戦争や中国による台湾有事、加速する北朝鮮の核・ミサイル開発などを背景に、防衛省は“強気”の5.6兆円を計上した。

 この金額はもちろん過去最高額である。その予算で目指している装備の中で最も注目すべき点は、「反撃能力」(敵基地攻撃能力)拡充のために「スタンド・オフ・ミサイル」という一般にはあまり馴染みのないアイテムの整備を目指していることだ。「スタンド・オフ」とは「離れたところに立つ」という意味合いで「敵の射程距離外」を指し「アウトレンジ」と同義語である。

 具体的には現用の「12式地対艦誘導弾(ミサイル)」の能力向上型である「12式(改):仮称」をできるだけ早く完成させて「反撃能力」の主役に据え、中国や北朝鮮が増強に血道を上げる長距離ミサイルへの対抗馬、「抑止力」として祭り上げる狙いがあるようだ。現在ウクライナに対し長距離ミサイルの無差別攻撃を続けるロシアの“戦争のリアル”を見せつけられ、「平和ボケ」から目覚めた日本側の慌てふためきぶりも何となく感じられて興味深い。

 ベースとなる12式誘導弾は2012年度から陸上自衛隊が配備を進める国産の地上発射型対艦ミサイルで、前作の「88式地対艦誘導弾(SSM-1)」が原型だ。中国の脅威を受ける南西諸島での運用を想定し、88式と同じくキャタピラ(装軌)式の装甲車よりも軽量で空輸もしやすく、足も速くて調達費やランニングコストも安く済む大型トラック搭載の装輪式なのが特徴だ。外観はウクライナ戦争で一躍有名となったアメリカ製「HIMARS」(ハイマース:高機動ロケット砲システム)と非常に似ている。

 内陸の森林地帯に身を潜め、敵艦の方向に発射されたミサイルは敵のレーダーを回避するため地上数十mの低空を這うように飛んでいく。地上発射型でかつ山間部での使用が前提の場合は、起伏の激しい地形をクリアできる能力が不可欠で、この技術を有するミサイルは世界的にも極めて珍しい。この種の兵器にこれまであまり関心を持っていなかったアメリカが、中国海軍に対抗するため海兵隊が地上発射型の対艦ミサイルを導入する際、12式を大いに参考にしたとも言われている。

改良型「12式誘導弾」の驚くべき威力

 12式は、事前にインプットした地図データと照合し、GPSからの情報も合わせながら最適な飛翔ルートを選び出し、微調整を繰り返しながら標的の手前数十kmまで到達すると今度は自前のレーダーを使って自ら標的を探知して突進する。「アクティブ・レーダー・ホーミング(ARH)」と呼ばれる誘導方式で、ミサイル発射後は操縦が不要な「撃ち放し(ファイア&フォーゲット)」兵器の典型でもある。

 敵に発見されて反撃を受けないように、操作要員はトラックとともにすぐにその場を離れて身を隠すことができる。「12式」の飛翔速度はマッハ1を少し下回る時速1000km程度、射程は200km以上(一説には250km)と予想され、尖閣諸島~八重山群島(石垣、西表、与那国各島など)間の約150kmを想定したものと考えていいだろう。

 12式(改)は12式を叩き台に射程やステルス性能の大幅アップ、地上発射型の他に艦艇(艦対艦型)や航空機からでも発射できるマルチ・プラットフォーム化としたのが大きなポイントである。

 とりわけ最大の売りである900km(一説には1500km)という長射程を実現するため「巡航ミサイル」に“変貌”している。原形の12式の外観は典型的な「ペンシル型」で“細身”なのに対し、12式(改)はひと回り以上大きくてごつく、ミサイル本体の中央付近に折り畳み式(発射後に展開)の大型の主翼を有し、高性能のジェットエンジンを使って時速1000km程度の亜音速(音速よりやや遅い速度)で飛び続けることができる。このため、もはや「使い捨ての自爆ジェット・ドローン」と言っていいだろう。

 ただし1000km先の目標までは1時間ほどかかるため、航行する艦船を標的にしたとしても1時間もたてば当初の位置から数十kmも動いてしまう。このため、哨戒機やドローン、潜水艦などでモニターしている最新位置情報を衛星を介して適宜受け取りながら、飛翔ルートを修正できる「UTDC(アップ・トゥ・デート・コマンド)システムも搭載するようだ。

 また巡航ミサイルの特徴として、事前にインプットされた飛翔コース・プログラムに従い、一見目標とは無関係の方向に飛び、大きく迂回しつつジグザグかつ飛翔高度も頻繁に変更しながら、最後は目標の“後頭部”に命中、という離れ業もこなす。ただし迂回したり空気の密度が濃い低空を飛び続けたりすればその分燃料を消費してしまうので、「最大射程1500km」とはいうものの、実際は「6掛け」程度に考えたほうがいい。

 前述のようにミサイルは高高度を飛べばそれだけレーダーにキャッチされやすいのだが、12式(改)はレーダー反射を極限まで抑えたデザインに加え、おそらくレーダー波を吸収する特殊素材を盛り込んでステルス性能をアップさせているため、高高度を飛び続けたとしても既存のミサイルに比べて発見される確率はかなり低くなるはずで、これは実戦での飛距離アップにも直結する。

 なお12式(改)の実戦配備は当初2026年度を予定していたが、これを2年も前倒しして2024年度には実戦配備するという。自衛隊が予定を繰り上げて新装備を配備するのは異例だ。また一部報道では継線能力の確保、つまりは「弾切れ」を防いで戦い続けられるようにするため1000発以上の保有を目指しているという。

高性能化が著しい中国軍の対空ミサイルに対抗

 ここで「なぜ多額の費用を注いでミサイルの長距離化を図らなければならないのか」という素朴な疑問がよぎるだろう。

 これには「反撃能力」との看板どおり、仮に中国や北朝鮮が日本国内にミサイル攻撃を仕掛けたり、または仕掛けようとした場合、12式(改)の「対地バージョン」を使い、相手側の領空・領海には侵入せず、はるか遠方の“安全圏”から相手側の内陸の発射台をピンポイント攻撃できるぞ──という抑止効果を大いに狙っているのである。

 だがその一方で、特に中国軍のレーダー能力や対空ミサイルの射程距離が近年アップしているため、既存の射程500km未満レベルのミサイルの場合、これを搭載するプラットフォーム(艦艇や航空機など)自体が相手側の対空/対艦ミサイルの餌食になる危険性が高くなってきているから、という事情もある。

 加えて「実は防衛省は12式(改)の“潜水艦発射型”も当然念頭に置いているはず」と推測する向きもある。スタンド・オフ・ミサイルをどれだけ装備しても、これを搭載する航空機や艦艇、トラックは案外上空から「丸見え」なので狙い撃ちにされる危険性がかなり高い。その点、海中に潜む潜水艦は探知されにくいため、「最後の切り札」としての抑止効果は抜群だろう。米・ロ・中・英・仏の核保有5カ国がいずれも核ミサイル搭載型の原子力潜水艦を核戦力の1つとして保有しているのは、まさにその理屈である。

 そして日本もこれにならい、当初は潜水艦の魚雷発射管から発射されるようなバージョンを開発、さらに前述の核保有国が装備する弾道ミサイル原潜のように、艦の中央部に12式(改)用の垂直発射システム(VSL)を複数並べた潜水艦を新造し、潜水艦内に収納できるミサイル数を増やして、反撃能力の強化に努めることも視野においている可能性は高いだろう。

 なお防衛省はすでに数年前から各種スタンド・オフ兵器や超高速兵器の開発・調達に力を入れ、12式(改)の他にも、

  • 「JSM」:ノルウェー製のF-35ステルス戦闘機用の空対艦/空対地巡航ミサイルで射程500km
  • 「JASSM(ジャズム)」:アメリカ製のF-15戦闘機用の空対地巡航ミサイルで、長射程型の「JASSM-ER」の射程は900km
  • 極超音速誘導弾:国産開発中の地対地ミサイルで飛翔速度はマッハ5以上、高高度を飛ぶがコースを頻繁に変えられる
  • 高速滑空弾:国産開発中で対地/対艦用弾頭をロケットで高高度に打ち上げ、上空で切り離しグライダーのように滑空しつつGPSなどを使いながら目標に命中させる、射程は500km前後か

 などを2020年代に目白押しで配備する目論見だ。

弾道ミサイルとの比較は“ナンセンス”

 一部メディアは12式(改)の導入を「中国とのミサイルギャップを埋める」と報じている。

 アメリカ国防総省の資料などによれば、中国の中距離弾道ミサイル(IRBM:射程3000~5500km)は1900発だと推測するが、世界的権威である『ミリタリーバランス2022年版』では、IRBMは110発以上、射程距離1000km~3000kmの「準中距離弾道ミサイル」(MRBM)194発、同1000km未満の「短距離弾道ミサイル」(SRMB)189発、GLCM(地上発射型巡航ミサイル)108発と推測し、何ともはっきりしないのが実情だ。

 それ以前に、基本的に核爆弾の搭載を念頭に置き比較的長射程を狙う弾道ミサイル(野球ボールをフライで投げるように弾道は重力に従って放物線を描く)と、巡航ミサイルの12式(改)では、そもそも兵器システムとしては別次元のものであるため、比較するのはナンセンスだろう。ちなみに日本がこの「ミサイルギャップ」に真剣に対抗するとなれば、純軍事的に考えて、やはり核搭載を前提に置いた「弾道ミサイル」以外にないだろう。

 それでも、手札として1000km超のミサイルが皆無の日本が、自前で保有に漕ぎつけたという「アナウンス効果」はインパクトがあるはずだ。

 また、あまり注目されないが「国産」の意義も案外大きい。防衛省はアメリカ製の空対艦ミサイルLRASM(ロラズム:射程900km)の採用を検討していたが、アメリカ側は日本の足元を見たようで、既存のF-15戦闘機に大幅改造を加えてLRASMを搭載できるようにするためのコストを当初800億円と表明していたものの、部品が足りないだの、飛行試験に変更があるなど“難癖”がついて最終的に5000億円以上にも膨れ上がる始末。さすがの防衛省もこの取引をご破産とした。

 この事例からも分かるように、同盟国といえども「兵器取引はあくまでもビジネス」ということを肝に銘じるべきで、外国製のスタンド・オフ・ミサイルを導入する際の価格交渉の“取引材料”としても国産武器の開発は必須なのである。

 加速し始めた日本の長射程ミサイル戦略に、中国や北朝鮮はいかなる反応を示すだろうか。

 ロシアのウクライナ侵攻問題に端を発した、世界の民主主義国家陣営と権威主義国家陣営の対立は先鋭化し、中国の台湾への侵攻意思を表す台湾海峡での度重なる軍事演習や、北方領土領域で展開される中露軍の軍事演習、そして北朝鮮でのミサイル発射実験や予想される核実験など、日本を取り巻く安全保障環境は悪化の一途を辿っています。

 こうした中で、日本も同盟国アメリカの庇護の元にいるという考えを捨て、自前の抑止力を急速に高める必要があります。この防衛相のミサイル開発計画もその一環でしょう。ただ何れにしても中露に対して周回遅れの感は否めません。

 しかし一つの光は国産技術による開発です。今後は多くの武器は官民挙げて国産で進めるべきでしょう。エネルギーや食料など国民生活に必須のアイテムが外国に依存している中、国民を守る武器や兵器も外国に頼っていたら、日本は今後とも真の主権を維持するのが困難になります。むしろ同盟や協力関係にある国へ提供できるだけの武器を開発することが望まれます。

 もちろん開発の協力関係は続けるべきでしょう。米英豪に続いてイスラエルやカナダ、台湾、インドなど、多くの国と共同で先端技術を開発し、製造は日本で実施して製造技術力も保持していければ、言うことはありません。戦後77年日本も普通の国、強い国を目指す元年になることを願います。

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2020年5月10日 (日)

中国の生物兵器開発の歴史と実体を中国独立系メディアが明かす

Chinamilitary006  4月初日、このブログで『新型コロナ禍を「世界戦争」にしたWHOと中国の大罪』というタイトルで取り上げた、中国武漢のウイルス研究所「P4」に関して、さらに詳細を伝える記事がJAPNForwardに記載されていたので紹介します。タイトルは「中国の軍事研究者たちはこの20年、生物兵器開発に注力してきた」で、筆者はモニカ・チャンソリア(日本国際問題研究所上級海外フェロー・インド)です。

「中国の独立系メディア「財新」は、中国の研究所が2019年12月末までに謎のウイルスを非常に高い感染力の新たな病原体として確認していたことを明らかにした。ウイルスは、後にCOVID-19として識別された。しかし、研究所は当時、さらなるテストの中止、サンプルの破棄、そして情報を可能な限り秘匿するよう命じられた。

今回のパンデミックの発信地である中国・武漢の衛生当局は、2020年1月1日以降、原因不明のウイルス性肺炎を特定するサンプルを破壊するよう研究所に要求したのだ。中国政府は、人から人への感染が起きている事実を3週間以上も認めなかった。

「財新」は、非常に重要な初期の数週間に、こうした致命的で大規模な隠蔽工作が行われた明確な証拠を提示し、それによって大流行、すなわち、その後、世界に広がり文字通り「世界閉鎖」を引き起こした大流行を制御する機会が失われたと結論付けた。

『超限戦』-ルールを超えた戦争

20年以上前から中国では軍事研究の分野で、西側諸国によって定められたルールを超えた戦争の準備をすべきであるとの主張がなされてきた。今、改めてそれらの文献を検証するのは意義があることだろう。

1996年、中国人民解放軍空軍の2人の将校、喬亮(少将)と王湘穂(大佐)は、台湾を威圧するために行われた軍事演習に参加した。演習は、台湾総統選挙の準備が行われている最中に実施された。すぐに米国はこの地域に2隻の空母部隊を派遣し、世界は、東アジア地域における大国の勢力争いが復活したのを目の当たりにした。

それをきっかけに、2人の将校たちは中国東南部の福建省にある小さな村で研究を始めた。そして、最終的に、『超限戦:対全球化時代戦争与戦法的想定』(ルールを超えた戦争:グローバル時代における戦争と戦法の評価)と題した著書を解放軍文芸出版社から共著で出版した。

『超限戦』の中心的主題は、中国が「自衛のためにすべての境界と規制を超える戦争」を行う準備をすべきであるということだ。喬亮と王湘穂は著書の中で、既存の戦争についてのルールや国際法、国際協定は、西側諸国がつくり、米国が新時代の軍事技術と兵器の競争をリードしていると主張する。20年以上前に書かれた本の中で、喬亮と王湘穂は、巨額な開発費を要する最先端の兵器が中国経済の崩壊を招きかねないと言及した。

手段を選ばぬ戦争の革命

『Unrestricted Warfare(際限なき戦争)』と題した英訳版はさらに、地理的な安全は時代遅れの概念であると述べた。そのうえで、国家の安全保障に対する脅威は、国境を越えた侵略からではなく、非軍事的行動からもたらされる可能性があると強調。安全保障には、地理、政治、経済、資源、宗教、文化、情報、環境、そして地球に近い範囲の宇宙空間が含まれなければならないと主張した。

化学兵器、生物兵器、地雷の禁止など、戦争を規制する法を受け入れるか否かは、自国の国益に合致しているか否かに左右されていると力説。大国は他国をコントロールするために、化学兵器と生物兵器を禁じていると言明した。

これらの議論から導き出される核心は、中国は西側諸国が数十年かけて作り上げた国際法や規範に縛られることなく、自由に意思決定をし、戦争の手段を選択すべきであるということだ。『超限戦』は、枠にとらわれず思考せよ、と主張している。

最も重要なのは、『超限戦』が敵の脆弱な部分を予想外の方法で狙うことを目的とした非対称の戦争(交戦者間の戦力、戦術などが大きく異なる戦争)の概念を強調した点だ。これには、ゲリラ戦争やテロ行為、ネットワークへのサイバー攻撃が含まれる。

喬亮と王湘穗は、戦闘以外の行動を含んだ戦争、そして非軍事と軍事行動を組み合わせた「戦争の革命」が必要だと訴えた。戦争は、ステルス戦闘機と巡航ミサイルの融合にとどまらず、生物化学や財政、そしてテロ行為を含むかもしれないという憂慮すべき主張を展開した。

バイオテクノロジーの優位性獲得戦争

10年以上後の2010年10月に新華社通信から出版された『制生権戦争』(バイオテクノロジーの優位性獲得戦争)は、生物工学が未来の戦争に与える影響について論じた。

中国人民解放軍第三軍医大学の主任医師である郭継衛教授によって書かれたこの本では、伝統的な軍事的思考の衰退に焦点を当て、軍事的思考の新たな傾向、目に見えない戦場、そして予期せぬ変化に着目した。

その後、2015年に、当時の人民解放軍軍事医学科学院の院長であった賀福初は、生物工学が国防上の新たな戦略的指揮において高い地位を占めるだろうと論文で主張した。これは生体素材から、「脳を制御する」兵器にまで及ぶ。その後、賀福初は、北京に本部を置く軍の最高レベルの研究所、人民解放軍軍事科学院の副院長に就任した。

2015年10月の軍機関紙「解放軍報」で言及されているように、過去20年間の中国の文献は、生物工学、工学、情報技術の相互統合が将来の軍事革命の新しい戦略的ドクトリンになる可能性を強調している。これらの文献は一貫して、生物の兵器化が非伝統的な戦闘様式とともに新時代の戦闘の中心になるだろうと述べている。

戦争の7領域に入る生物学

新時代の防衛分野でもっとも重要なのは生物工学の分野だ。生物の多様性と技術革新は、生物工学的軍事革命を再定義するだろう。2016年以来、中国中央軍事委員会は軍事脳科学、高度な生物模倣システム(バイオミメティクス)、生物学と生体素材、そして新時代の生物工学技術に資金を提供してきた。

さらに重要なことは、第一線から引退した将官で人民解放軍国防大学の前学長、張仕波は2017年の 『戦争新高地』(国防大学出版局)で、生物工学が戦争の新たな7領域のひとつだと言明。現代の生物工学の発展が、「特定の民族への遺伝的攻撃(特定種族基因攻撃)」へとつながる兆候を示し始めていると訴えている。

最近では、国防大学が発行した権威ある書物である2017年版『戦略学』に、軍事闘争の領域としての生物学に関する新たな章が導入された。そこには、「特定の民族への遺伝的攻撃」を含む、将来的な生物工学的戦争について説明されている。

現代の生物工学と遺伝子工学における進歩は、憂慮すべき影響を軍事情勢に与えているのだ。同書は、生物学の進歩が戦争の形態、及び性格に変化をもたらしていると一貫して主張、戦略分析と研究を通して、中国軍のこの分野への関心をうかがい知ることができる。

中国の第13次5カ年計画

軍事と民間の融合に関する中国の国家戦略(軍民融合)は、生物工学を優先事項にあげている。その結果、2017年9月の軍事と民間の統合開発に関する第13次5カ年特別計画が、党中央委員会、中華人民共和国国務院、中央軍事委員会で策定され、中国は軍事と民間の統合開発戦略の完全な実施に向けて動き出した。

この2017年の計画の主な課題は、主要な技術―軍事―民間統合プロジェクトの実行にある。

軍民融合に携わる一連の企業は、国家研究開発計画にしたがって生物工学の分野でいくつかの展開を行っている。それらの技術はデュアルユース(軍事と民間の双方に用いることのできる技術)が可能であり、研究開発は益々加速している。科学的、技術的成果における新しい生産性と、軍事的有用性が形成されている。

この計画はまた、軍民双方の科学技術革新を後押しし、基礎研究と最先端の技術研究のバランスを調整することを目的としている。したがって、国防研究プロジェクトの支援に重点をおきながらも民間の基礎研究を行うため、基礎研究の軍民統合特別基金が設立された。生物工学的な学問の領域を超えた研究や、軍事に応用するための破壊的技術(disruptive technologies)の研究結果が期待されているのだ。

この記事で詳しく言及したように、この20年ほどの間、中国では軍事思想家と研究者によって戦争における生物工学的分野の重要性が指摘されてきた。現在のCOVID-19の状況と、この背景を考慮すると、中国軍の生物工学に対する関心を研究することは、ますます重要になっている。

中国の軍事戦略家たちが「遺伝子兵器」と「無血の勝利」の可能性に言及していることは確固たる事実だ。中国の研究活動とその倫理観への疑問、不透明性のために、この問題はますます難しいものになっている。

上記で引用、言及した資料は、化学兵器や生物兵器などの「国際法および戦争の規則によって許可されていない兵器」を含め、可能な限り多くの兵器を保有し、使用をためらわない中国の動きを擁護するものだ。

これらの文献が主張し求めている危険な提案は、禁止された化学兵器と生物兵器に関する中国の将来の行動について、私たちに警鐘を鳴らしている。

 どこまで信ぴょう性があるかは分かりませんが、少なくとも武漢のウィルス研究所では、生物化学兵器の研究は一切行われていない、と断言はできないでしょう。

 いずれにしろこの分野や情報科学分野への中国の傾倒はすさまじいものがあると思われます。そしてそれは従来の物理的な兵器にもまして、より防御しにくいものになるでしょう。

 生物兵器は今回の新型コロナウイルスの全世界への感染拡大に見るように、使用すればその影響は使用した国にもブーメランのようにおよび、限定使用が極めて難しいとも思われます。しかし今後さらなる研究で、例えばそのワクチンだけをその国が秘匿して保有すると言った方策も取りえます。いずれにしろ無視できない兵器です。

 「9条があれば平和は守れる」と言った方たちは、隣の国でサイバー兵器や生物兵器など、すさまじい勢いで兵器開発を続けている現状を少しでも考えて見てはいかがでしょうか。「9条」など木っ端微塵に吹き飛んでしまうでしょう。

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2019年9月 7日 (土)

核兵器「作る能力」だけは持て

Img_0_m  今回は核兵器に関するテーマです。正確に言えば作る能力に関してですが、防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛氏にコラム『核兵器「作る能力」だけは持て』(正論)を取り上げます。

 トランプ米大統領は昨年10月20日、旧ソ連との間で1987年に締結されたINF(中距離核戦力)全廃条約からの離脱方針を表明していたが、今月2日にそれが実行された。

 憂鬱な季節が再来する。

 ≪苦しんだ当時の西ドイツ≫

 INF全廃条約が結ばれたのは87年12月だが、最も困難な立場に苦しんだのは当時の西ドイツである。第二次大戦後にドイツは東西に分断され、それぞれが対立する軍事同盟(北大西洋条約機構<NATO>、ワルシャワ条約機構)に属しそれぞれに米国、ソ連の中距離核が配備されていたからだ。

 東にはソ連の中距離核SS3が、西には米国の中距離弾道核パーシングIIや、地上発射式巡航ミサイルのトマホークが配備されていた。

 これに心を痛めたシュミット西独首相はNATOに働きかけ、「二重決議」の生みの親となる。一方でワ条約機構に核軍縮を呼びかけ、他方で東側の軍縮意欲を刺激するため、西側に米国の中距離、準中距離弾道核を配備するとの計画である。

 米ソ交渉は難渋を極めた。が、西ドイツは苦しみ甲斐(がい)があった。というのも、ソ連の中距離核・SS20の射程は最短で2700キロ、最長で5000キロとみられていたが(英国国際戦略研「ミリタリー・バランス」1980/81年版)、かりにSS20がソ連西端のミンスクに配備されると、西ドイツのミュンヘンには容易に到達するはずだったからである。

Download-3_20190903184601  今日の問題に立ち戻る。米国がINF全廃条約から離脱した前日、トランプ大統領は声明を発し、「(ロシアによる)条約違反は相応の結果を伴わなければならない。ほぼ6年間の外交交渉と30回以上の会談を重ねて、INF全廃条約を受け入れるよう説得したがそれは不可能であった。もういい」と述べている。

 他方、ロシアのプーチン大統領は8月5日声明で、INF全廃条約が消滅した結果、「万人にとって根源的な危険」が生じていると語っている。必要なのは、国際安全保障政策における「コモンセンス」だというわけで、米露両国間に一致が生まれないなら、軍拡競争が再開されるだろうという。

 要するに、米露首脳間で雪解けが始まる気配は、当分、ない。

 ≪ロシア、中国、北朝鮮の動向≫

 INF全廃条約はその第2条5項で、中距離ミサイルとはその射程が「1000キロメートルを超えるが、5500キロメートルを超えない」地上発射弾道ミサイルと規定している。

 現在、中距離弾道ミサイル保有国は英国、イスラエル、イラン、インド、北朝鮮、ロシア、中国、パキスタン、フランスの9カ国である。このうち、INF全廃条約誕生以前に中距離ミサイルを持っていたのは、英国、ロシア(ソ連)、中国、北朝鮮、フランスの5カ国である。

 日米間には日米安保条約があり、英仏はG7(先進7カ国)首脳会議でわが国と同席する。ロシアはG8時代にはそのメンバーであったが、2014年以降は参加資格を停止されている。とすればロシア、中国、北朝鮮の3カ国はわが国にとっての同盟国ではない。だから、わが国はこの3カ国に対しては、安全保障政策上、特段の注意を払う必要がある。

 これまでのところ、最も新しい「防衛白書」(平成30年版)には「北朝鮮の核・ミサイルに対する認識」として、「北朝鮮が核・ミサイルの廃棄に向けて具体的にどのような行動をとるのかをしっかり見極めていく必要」が強調されている。当然のことだ。

 ≪極東配備ならわが国に到達≫

 中国については、「従来から、具体的な装備の保有状況、…国防予算の内訳の詳細などについて明らかにしていない」し、その「公表国防費は、1989年度から毎年速いペースで増加しており、…1989年度から30年間で約51倍、2008年度から10年間で約2・7倍となっている」とある。

 中距離ミサイルについてはどうか。同じく平成30年版「防衛白書」には、北朝鮮の保有する「スカッドERは、…射程は約1000キロに達するとみられており、わが国の一部がその射程内に入るとみられる」とあり、同じくノドンについては「射程約1300キロに達するとみられており、わが国のほぼ全域がその射程内に入るとみられる」(傍点筆者)とある。

 中国についても、「わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収めるIRBM/MRBM(中距離/準中距離弾道ミサイル)…は、通常・核両方の弾頭を搭載することが可能」だと書かれている。

 ロシアについてはストルテンベルグNATO事務総長が8月7日、新型中距離ミサイル・SSC8の配備がINF全廃条約違反と断定、「これは世界の安全を損なう」と批判した。中距離ミサイルである以上、極東に配備されれば、わが国にも到達する。

 核兵器を「作らず、持たず、持ち込ませず」、でいいか。「作らず」とも、「作る能力」だけは持つべきだろう。私の持論である。

 私も佐瀬氏の意見に賛同します。核保有国そして弾道ミサイル保有国に西側全面を囲まれた日本が丸腰では、いかにも心もとない。いくら日米同盟のもと、米軍の核に頼る、いわゆる核の傘についても、当然のことながら日本の管理下にはありません。国の安全保障の根幹的な部分を他国に頼るなどと言うことは、独立国として如何なものでしょうか。

 このブログで再三申し上げていますが、国の外交交渉力は経済力より軍事力のほうが遥かに強力です。ロシアや北朝鮮を見れば一目瞭然です。逆に憲法の制約もあり、軍事力の後ろ盾が弱い日本は、常に他国から舐められ強請られタカラれてきているではありませんか。

 まずは非核三原則を撤廃し、核の保有の議論を始めるべきです。そしてそのためには佐藤氏の主張するように作る能力の保持に向けてスタートを切りたいものです。

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