菅政権の最注目政策「デジタル庁」 積年の課題に、ついに手をつけた
菅政権が発足して注目の省庁を担う閣僚が2人います。河野太郎行政・規制改革相と平井卓也デジタル改革相です。そのうち平井氏が担うデジタル庁は全くの新設です。
日本は民間はさておき、行政のIT化やICT化は世界の先進国の中でも、かなり遅れているようです。それが行政のスピードを遅らせ、又無駄なコストの発生につながっています。
最近の例では特別給付金の支給の対応があります。これは地方自治体の例で、私事で恐縮ですが、申請から受け取り(銀行振込)までなんと20日弱を要しました。申請した日が、ちょうど申請者が集中した日だったこともありますが、いかにも時間がかかりすぎです。
恐らく申請書の準備発送にも、多大な行政の手がかかっているはずですし、返送された申請書のチェックにも、結構記入ミスがあったり、時間がかかっていたようです。これなどすべてネットで申請ページを作り、マイナンバーのような識別コードでオンラインで処理できれば、至極簡単に済むはずです。記入ミスだって入力中に警告が出せますし、何より発送や受け取りの手間が省けます。正直今頃何をやっているのだという気が強くしました。
識者はネット難民の存在や、不正防止のための本人確認、そしてセキュリティーだのプライバシーだの御託を並べますが、それは技術や工夫でカバーできるでしょう。どうしてもツールが使いこなせない高齢者には、今までの対応が必要ですが、それでもかなりの手間が省けるでしょう。これは一つの例にすぎませんが、他にも幾らでも同様な例があります。それらに対しこのような膨大な時間とコストの無駄を省かなければ、いくら節税と言ってもまるで穴の開いたバケツです。ムダ金がどんどん捨てられて行きます。
ですからこれからの行政のICT化、デジタル化は必須だと思います。しかしそれは以前から言われていることであって、未だにこの例のように進んでいません。その辺りの事情をジャーナリストの佃均氏が、現代ビジネスに寄稿したコラムから見てみます。タイトルは『菅政権の最注目政策「デジタル庁」に待つ茨の道 積年の課題に、ついに手をつけた』(9/15)で、以下に引用します。
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菅義偉官房長官が「デジタル庁」創設を検討――9月6日に第一報が流れた直後から、筆者の周辺では「どの省にぶら下げるのか」「長官はだれになるのか」の話題が飛び交った。早速、経産省、総務省、内閣府、内閣官房などの様子を探ったのだが、「話せることは何もありません」と素っ気ない。
新型コロナウイルス対策が引き金になって、これまで日本政府が標榜してきた「世界最高水準の電子政府」が掛け声に過ぎなかったことが露呈した。1人10万円の特別定額給付金の支給遅れと混乱、感染者情報管理システム「HER―SYS」や感染者接触確認用のスマホアプリ「COCOA」の機能不全、小中高校のオンライン授業で明るみに出たネットワーク環境の未整備などだ。
こうしたタイミングだっただけに、各省庁が持つデジタル関連の部局を集約して「デジタル庁」を創設する、という構想は時宜を得たものと受け止められた。ITの専門家ですら、フェイスブックやツイッターなどで「大いに歓迎」と公言している。新内閣の目玉施策として、まずは成功といったところだろう。
「デジタル庁」と似たような話はこれまでに何度もあった。古くは1985年の電気通信事業法と電電公社民営化の際、次は2000年の省庁再編の時だ。「情報省」に一元化したらどうか、いやそれではスパイの巣窟みたいなので、「情報通信省」はどうか……等々、出ては消え、消えては出た構想の既視感がある。
おそらく「デジタル庁」の基盤となるのは、まずは総務省の旧郵政セクション(情報流通行政局、総合通信基盤局、国際戦略局およびサイバーセキュリティ統括官)と経産省の商務情報産業局だ。
しかし単にオフィスを一つにするだけでは同床異夢、呉越同舟、船頭多くしてのコトワザ通りになってしまう。一方、組織をバラバラにすると施策の連続性が保てるか懸念される。予算の組み立て方、施策の実施方式など、各省が培ってきた文化があるし、若手官僚の士気がダウンすることにもなりかねない。
5年ほど前、あるIT関係の民間団体が総務・経産大臣に「情報通信省の創設」を提唱したところ、「まずはあなたたち民間で先行してやってください」と言われた、との裏話もある。政治家の側も官僚の縦割り意識に染まってしまうのは、官僚の協力を得るためにやむを得ないのか、それとも洗脳されてしまうのか、いずれにせよ「脱・縦割り」は口で言うほど簡単ではない。
2年や3年では軌道に乗らない
それでも「デジタル庁」を本気で目玉施策に据えるなら、菅氏は1年こっきりの暫定政権で終わる気はない、ということだ。これまで誰もなし得なかった「行政事務のIT革命」「デジタルガバメント」を実現するには、人手の作業(手書きの書類、押印、対面型手続き)を前提としている法律や制度、手続きを変えていかなければならないからだ。霞が関だけでなく、全国1740の地方公共団体、その外郭団体までに徹底するには、2年や3年で済むわけがない。
安倍首相が退陣表明したあと、霞ヶ関や永田町では「官邸を牛耳ってきた経産省が衰退し財務省が復活する」とか、「IT/ICT施策における総務省の巻き返しが始まる」などと喧伝された。それは、事態を下克上に見立てた演出のようなものかもしれない。
しかし菅氏が見据えているのは、安倍政権が「ポストコロナの1丁目1番地」と位置付けたデジタルガバメントの実現に違いない。7月17日、経済財政諮問会議が発表した「経済財政運営と改革の基本方針2020~危機の克服、そして新しい未来」(骨太方針2020)で打ち出した「デジタルニューディール」こそが施策の本丸にほかならない。
ある意味、民間のデジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)は放っておいても進む。資本の論理と自由競争のなかで、デジタル化、DX化に乗り遅れれば、市場からの退場を余儀なくされるかもしれないからだ。政府の役割は、自由競争のアクセルを踏むための規制緩和と、行き過ぎた競争にブレーキをかける規制強化のバランスだ。
行政には、こうした競争原理が作用しない。あるのは「こうしなければならない」「これをやってはいけない」という規制ばかりで、しばしばそれが「四角四面で、融通が効かないお役所仕事」と批判される。しかし法治国家である以上、行政は法律に基づいて、正確に遂行されなければならない。
しかし、実はこうした「規則だらけ」の行政事務こそ、ITがフルに本領を発揮するフィールドなのだ。行政事務は法律と細則に基づいて処理されるからである。「法律は行政ITシステムの仕様書」と片山卓也氏(東京工業大学名誉教授、元北陸先端科学技術大学院大学学長)は指摘する。
もし行政手続きがネット化されたら…
縄張り争いで表向き「犬猿の仲」とされる経産省と総務省だが、「行政事務と行政手続きのDX化が喫緊の課題」という認識では一致している。政府機関システム基盤として新たに採用したAWS(Amazon Web Service)のパブリッククラウドを基礎に、総務省は電子行政システムの共通仕様を、経産省は官―民のシステム連携(ワンストップ/アトワンス/押印レス)を進めている。
ただ、両省が政策連携を話し合っているかというと、そうではない。実は内閣官房のIT総合戦略室が、両省の仲介役ないし司令塔の役目を果たしてきた。その裏付けは、2000年11月に制定された「IT基本法」(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)だ。
「IT基本法」は文字通り、IT/ICT/デジタルデータの利活用に関する基本的な指針をまとめたものの総称で、詳細は個別の法律となる。昨年12月に施行された「デジタル手続法」(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律)がそのひとつで、個人の確定申告で領収書を不要としたり、マイナンバーとマイナポータルで押印を撤廃するなど、すでに実効性を持っている。
2018年8月現在、23府省が所管する約4万6000種類の行政手続きのうち、0.9%にあたる580種類の手続きが、総申請件数の99%を占めている。例えば確定申告、法人登記、不動産登記、住民票、戸籍にかかわる各種の手続きだ。マイナンバーとマイナポータルを活用すれば、対面型手続き、押印、書類添付が撤廃できる。行政続きの99%は、将来的にネットで完結できるのではないか、というのが内閣官房の考え方だ。
行政手続きのデジタル化には、人名・地名、固有名詞に使われている旧字体や異字体(いわゆる外字)はどうするのか、という問題がネックとなってきたが、IT総合戦略室は2017年に「MJ縮退文字」を用意した。明治以来の戸籍から拾った約6万の異字体を、1万種の標準字体にひも付けした文字コードの体系だ。
MJ縮退文字の字種数は、清・康熙帝の康熙55年(1716年)に成立した『康煕字典』の約5万字種を軽く上回る。経産省の外郭団体である情報処理推進機構(IPA)が2002年から15年の年月をかけて完成させ、現在は文字情報技術促進協議会から行政機関や民間企業に無償で提供されている。
この外字問題が技術的にクリアされたからこそ、2018年に安倍首相は「行政文書のデジタル化」「紙文書の廃止」を宣言し、「世界最先端IT国家創造宣言」という壮大な計画を打ち上げることができた。安倍総理の退陣表明を契機に「安倍政権にレガシーはあるのか」という批判も起きているが、菅氏がこれを引継ぎ完成させれば、ひょっとすると、意外なレガシーとなるかもしれない。
マイナンバーは結局どうする?
ただし、以上はすでに処方箋が出ているテーマで、「デジタル庁」をわざわざ創設してまで達成することかどうか、という疑問は残る。どうせならこれまでの電子行政システムを根本から見直し、例えば、いまだに有効性が疑問視されているマイナンバーカードの普及を断念するという荒技もあるだろう。まだまだ本格普及には至っていないブロックチェーンを、OECD先進国の先頭を切って実用化するという決断があってもいい。
実際、マイナンバーカード交付率の伸び悩みは決定的だ。総務省によると、今年3月1日時点の1973万枚(15.5%)から、8月1日には2324万枚(18.2%)と、5か月で350万枚増加した。だが特別定額給付金、マイナポイントという誘導策を講じても、月平均でたった70万枚の増加では、「2022年3月末までに9000万枚から1億枚」とする目標には程遠い。
そうこうしているうちに、カード不要論も出てくるに違いない。すでに銀行が預金通帳を廃止し、キャッシュカードなしで送受金できる時代だ。マイナンバーカードのデータをスマホに入れ、例えば指紋認証でログインするという奥の手もある。発注済みのICカードに要する費用は損切りして、数千万枚のカードを新規発行するコストと手間を省いてはどうか。
これまで何をやってもうまく行かなかったことを、「改善と改良」で解決しようとするのは止めたほうがいい。「イット革命」から20年来、遅々として進まなかったIT/ICT政策を変質・転換させるには、根本的に発想を見直して、総務・経産両省の官僚とは別の人材でスタートするのがいいかもしれない。
さて、以下はすべて予想の話ではあるが、デジタル庁の長官は誰になるのか。
政治家なら、岸田派ながら元IT担当大臣で「デジタル手続法」を成立させた平井卓也衆院議員の再起用があるかもしれない。民間からなら、元大林組で現内閣情報通信政策監(政府CIO)の三輪昭尚氏の横滑りもあるだろう。内閣官房には優秀なCIO補佐官が手ぐすねをひいている。
そして新庁は総務省か経産省の外局、というのが常識的なところだが、菅氏が本気で「省庁の縦割り打破」を貫くのなら、財務省に附属させるという奇手は……ないか。いずれにせよ、これが日本のIT政策を実効性あるものにできる最後のチャンスだ。
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佃均氏の予想で平井卓也氏は当たりです。デジタル庁の所属は未定で将来は省への格上げを狙っているようです。NHKニュースから引用します。
平井デジタル改革担当大臣は、初閣議のあとの記者会見で、デジタル庁の新設について、「大きなミッションになる。来年の通常国会までに関連する法案はいろいろあると思うが、IT基本法の改正やデジタル庁の設置法などを一気にやらないといけないので時間はタイトだがスピード感をもって臨みたい。既存の官庁と同じようなものを作るつもりは全くなく、民間からも新しい人材をたくさん取り入れ新しい省庁を作りたい」と述べました。
つまりこれから新しく省庁づくりをするようです。ですから佃均氏の予想通り数年がかりの大プロジェクトになりますね。途中で頓挫、またはしり抜けにならないよう、しっかり取り進めていただきたいものです。菅政権の長期化も視野に入れての省庁づくりかも知れませんが。
またまた私事ですが、少し前、ある委員会の地域の代表として、市役所の方たちを交えて仕事をしたことがあります。その時市から出された資料はすべてペーパー。毎月トータル数十ページものペーパーを、テーマごとに仕分けたものを20人以上の委員に配るわけです。そのための市役所の職員の手間は、想像を絶するものがあると思います。
すべての委員がタブレットを持参し、資料をデジタルデータで受け取れば、コピー、仕分け、配布の手間は一度に省けます。このペーパー文化から崩していかなければなりません。やはり数年はかかるのは間違いないでしょうか。それでも進める価値はあります。平井大臣にはぜひ頑張って欲しいものです。
ついでですが行政改革の面では、まずは官僚の仕事改革。国家官僚の多忙な第一の要因は、野党の国会質問の答弁づくりだと聞きます。これには国会改革が伴わなければなりません。国会は一つの会議体ですから、民間で行われているように、議論(質疑応答を含む)の対象はテーマの範囲内に限り、かつ質問側はA4のペーパー1枚に要約したものを予め提出しておき、答弁側もできるだけ官僚の手を煩わさずに、自分の言葉で簡潔に答える、そういう当たり前の会議体にすべきでしょう。そうすれば官僚の仕事はかなり整理され、本来の仕事に打ち込めます。現場、現物、現実を見る時間も持てるようになり、仕事の質の向上が図れるでしょう。
まあ前例踏襲の長き文化を変えるのは大変です。しかしこれも一歩一歩進めなければなりません。国会の真の目的は最適な予算づくりと、国民のための法案作りです。政府非難の応酬や政局の利用の場となっている今の国会を、真の目的に合わせる仕組みづくりも、菅政権に期待したいものです。
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