技術、戦略

2021年9月 8日 (水)

半導体に素材、EV部品……中国・国産化の標的は日本企業か?

P1_20210907131201  前回、日中韓のGDPの変遷を取り上げましたが、特に中国の経済力はここ40年の間に爆発的に増加しました。その40年前、経済力もしかりですが、技術力も全くの開発途上国だった中国。それが持ち前の「パクリ力」と国内の「購買力」で、今や日欧に迫りつつあります。

 その中国の現状を、日経ビジネスの記事から拾ってみました。元経産相で現明星大学教授の細川昌彦氏のコラム『半導体に素材、EV部品……中国・国産化の標的は日本企業か?』(9/6)がそれで、以下に引用します。

 ◇

 耳目が海外のアフガンと国内の政局に注がれている中で、中国は米中対立への手を着実に打っている。経済面では国産化政策を着実に加速しているのだ。米中対立の長期化を覚悟して、中国は従来のグローバルな供給網から中国中心の供給網・自立へと脱皮を急ぐ。そのカギを握るのが先端技術の獲得だ。そしてその標的になりそうなのが日本企業だ。

国産優先で外資企業を揺さぶる

 8月、中国が政府調達で国産を優先して、外国製品の排除を進めているとの報道があった。中国政府が5月に地方政府へ通知した内部文書を入手したことによるものだ。報道によると、医療機器をはじめとする先端機器で、41分野の315品目が対象になっている。中国の国産製品を政府調達の調達条件とする狙いは何か。

 注意しなければならないのは、こうした方針は以前からあり、決して新しいものではない。報道された内部文書自体も「2021年版」となっており、同様の文書はこれまでも通知されている。むしろ何故この時期に、こうした内部文書が報道されているかだ。中国政府の意図の方が重要だ。

 それは明らかに先端技術を有する外資企業を中国国内での生産に追い込む狙いだ。それによって外資企業の有する先端技術の獲得を狙っているだけに、外資企業にとって技術流出のリスクをはらむ。

 しかも外資企業が中国生産したからといって、必ずしも“中国製品”として扱われるわけではないことは要注意だ。実態は事実上中国企業が生産する“中国ブランド“が優先される。中国生産を始めてから「見込み違いだった」では後の祭りだ。「国産優先に対しては中国生産すればよい」と単純に誤解している日本の経営者も多い。

 さらに中国の場合、政府調達の意味合いは欧米、日本等とは比較にならないほど大きい。公表されているものだけで総額は約56兆円で、うち地方政府が9割強を占めるとされている。例えば医療機器だと購入する病院の多くは公的だ。また民間企業による調達も政府調達の基準に事実上「右へ倣え」と影響されるので、インパクトは大きい。

 米国はバイデン政権が製造業を保護するため自国製品を優遇する政府調達を拡大する「バイ・アメリカン」の強化を打ち出している。あたかもこれに対抗して「バイ・チャイナ」を打ち出したかのように見えるので、国際的な批判をかわせるとの計算も働いているだろう。

 しかも世界貿易機関(WTO)の政府調達協定では内外企業の差別を禁じているが、中国はこれに加盟していないので、大胆な内外差別がまかり通ってしまう。

警戒すべき外資誘致モード

 今年1月、在中国欧州商工会議所が「デカップリング」と題する、注目すべきリポートを公表している。その中で中国が進める国産化政策についても分析して、欧州企業に警鐘を鳴らしている。

 中国は国産化戦略のターゲットとなる産業を国家安全保障に関わる重要度で選び出している。そしてそれぞれの産業ごとに具体的な発展行動計画が策定されている。

 日本企業にとって重要なのは外資企業に対する政策だ。中国企業が競争力を有するかどうかで、産業ごとに外資に対して「誘致」か「排除」かの政策モードを使い分けているのだ。

 前者は半導体(製造装置、材料)、電子部品(5Gの中核部品など)、新素材(電池素材、磁性素材など)、工作機械・産業用ロボット、新エネルギー車、バイオ医薬・高性能医療機器、スマート工場などだ。

 例えば、昨年10月には電気自動車(EV)の国産化を確認して、それに向けて磁石、モーターなどの基幹核心技術の自主化レベルを引き上げる目標を掲げている。

 電子部品産業については今年1月に自前の国内供給網の整備をめざした強化計画を公表している。対象部品として半導体に加えて、プリント基板、センサー、磁石、磁性材料、電池材料、製造設備、ソフトウエアなどだ。

 8月には国有企業96社に対して、工作機械、半導体、新素材、新エネルギー車の4分野について中核技術の開発を加速するよう指示を出したと発表した。ただし、これらは一部にすぎない。

 こうした一連の国産化政策を急ぐ中で、中国にとってボトルネックになっている技術を獲得するために外資を積極誘致しているのだ。そしてこれらの産業分野の多くは日本企業が先端技術の強みを有している分野であることに注目すべきだ。まさに中国が日本企業に秋波を送っているゆえんだ。もちろんこうした分野の日本企業の買収も技術獲得のための選択肢の一つであるので、身構える必要がある。

 外資に対して、研究開発拠点を中国に置くことを条件に優遇税制を適用するというのも要注意だ。技術漏洩のリスクがつきまとう。特に半導体などの製造装置や部材の分野を標的にしているようだ。さらに今月から施行されたデータ安全法によって研究開発のデータが中国外に持ち出せなくなるリスクまで念頭に置いておく必要がある。対象となるデータがあいまいで、運用が不透明であるからだ。

「誘致」から「排除」へ手のひら返し

 後者の排除モードに入った産業分野としては、高速鉄道、次世代通信機器、AI/ビッグデータ、量子などだ。高速鉄道はかつて前者の誘致モードで積極的に外資を誘致したが、中国企業に技術が渡って競争力を持つと、外資は必要なくなり、逆に排除モードに転じた典型例だ。日本企業も技術の提供と引き換えに中国市場に参入したものの、後に中国の技術力の高さを理由に中国市場から排除されて“お払い箱”になった苦い経験がある。

 最近では、かつて日本企業が圧倒的な競争力を有していた高性能磁石もそうだ。中国市場を獲得したい日本のある磁石メーカーは積極的な誘致を受けて、2016年に中国磁石メーカーと合弁会社を設立して、ネオジム磁石の生産を始めた。しかし、日本からの製造装置の販売もあって、数年であっという間に中国企業が技術を獲得して競争力を有することとなったのだ。当時の日本企業の経営判断、日本政府の政策判断の是非を厳しく検証すべき事例だろう。

 中国はさらにその供給網の下流にある、日本企業の技術にも着目している。EVの中核部品であるモーターだ。同様のことが繰り返されないようにすべきだろう。

 中国は当初は「誘致モード」でも中国企業に技術が渡ると手のひらを返したように「排除モード」に変わる。日本企業は異なる産業で同じ轍(てつ)を踏んでいるのだ。民間企業も他の産業で起こったことを学習せず、役所も人事異動で担当が変わって教訓が引き継がれない。日本にはそうした構造的な問題があるようだ。

「技術仕分け」と「分断対策」が必要

 こうした中国の内製化の動きにどう向き合うべきだろうか。

 「欧米企業は中国市場にどんどん出て行っている。日本企業だけ慎重にしていると出遅れる」

 こうした声もしばしば聞こえてくる。しかし単純な中国での生産量、販売量だけで判断すべきではない。問題はどういう技術の製品で出て行っているかだ。産業分野によっても違うだろうが、欧米企業が最先端の技術まで中国に出しているかどうかをよく見て判断すべきだ。

 一般論で恐縮だが、企業としては技術の機微度を分析して、「出してもいい技術」と「そうでない技術」を仕分けすることが必須だ。そのうえで中国市場を積極的に取っていく。そうした判断のツメができているかどうかだ。これを具合的に当てはめていくことはもちろん難しいが。安全保障上機微な技術は外為法で規制されているが、その対象は限定されている。問題はそうした規制がない最先端の生産技術が狙われており、そこで経営判断が問われている。

 しかも競合する日本企業同士、外資企業同士で疑心暗鬼になって、なし崩し的に技術を出していくことになるケースがいかに多いことか。前述の高性能磁石はそうした例だ。中国も当然、孫氏の兵法の分断作戦で、そこを揺さぶってくる。

 企業同士の情報交換も大事になってくるが、これには独禁法違反の懸念から躊躇(ちゅうちょ)する向きもある。しかし懸念払しょくの工夫もできる。欧州連合(EU)などは現地商工会で欧州企業が集まってこうした意見交換を積極的に行っている。日本も現地の公的出先機関などがそうした場を設定して、対処すべきだろう。こうしたことを言うと、「かえって日本企業が中国政府ににらまれる」といった慎重論を唱える人もいる。それこそ中国の思うつぼだろう。

 ◇

 1国で、世界の人口の18%が住み、世界のGDPの16%を占めている中国、この購買力と経済力を持ってすれば、世界の企業を誘引するパワーは絶大です。日本も(欧米も)そのパワーに引き込まれ、過去多大な投資と技術をつぎ込みましたが、いつの間にかその技術をパクられ、今では経済的のみならず、一部の技術では後れを取ってしまっています。

 更にこの記事にあるように、日本の現在でも世界の先頭を走っている素材や技術まで、中国の後塵を拝する恐れがないとは言えません。このブログで何回も取り上げていますが、何とかして中国からの経済的依存関係を脱しなければいけません。特に先端技術分野においては、前回取り上げた韓国と同様、非中三原則(教えない、助けない、関わらない)を覚悟を持って推し進めることが必要でしょう。

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