技術、戦略

2023年5月10日 (水)

対中国「半導体戦争」が激化…!米日台韓「CHIP4」がもたらすハイテクデカップリングは世界をどう変えるか

23_20230506165301  軍事にも民生にも欠くことが出来ない先端半導体。中国封じ込めのための米日台韓が共同で、対中デカップリングを模索しているようです。これに対し中国は当然猛反発していますが、ことの行方は、今後の世界の安全保障環境に影響が及ぶことは間違いないでしょう。

 この辺の事情を、現代ビジネス編集次長の近藤大介氏が、同紙に記事を寄稿していますので、以下に引用します。タイトルは『対中国「半導体戦争」が激化…!米日台韓「CHIP4」がもたらすハイテクデカップリングは世界をどう変えるか』(5/02公開)です。

中国半導体産業協会の「厳正な声明」

中国も4月29日から、GW(黄金週間)の5連休に入っている。ただ「労働者の国」を標榜しているので、「労働節暇日」(メーデーの休日)と呼ぶ。

その5連休に沸き立つ前日の4月28日、日中関係に再び、「激震」が走った。中国半導体産業協会が、中国語・英語・日本語による「厳正な声明」を発表したのだ。

中国の公的機関が日本語で声明を出すなど、極めて異例のことだ。一体何が起こっているのか? 少し長くなるが、以下にその全文を掲載する。

〈 2023年3月31日、日本政府は、半導体製造装置の輸出規制対象を6分類23品目に拡大するための外国為替及び外国貿易法の改正案を公表しました。当該装置は、世界の半導体産業のエコシステムにさらに大きな不確実性をもたらします。

中国半導体産業協会は、貿易の自由化を妨げ、需給関係を歪めるこの措置に反対しています。日本政府が自由貿易の原則を遵守し、中国と日本の半導体産業間の協力関係を損なう輸出規制措置を濫用しないことを求めます。

当協会は、この23品目に対する規制措置について、日本の経済産業省に意見を提出しました。主な内容は次のとおりです。

・規制対象が広範囲に及び、国際社会で一般的に認められている品目リストを遥かに明らかに上回り、関係企業は非常に困っています。

・規制アイテムに関する表現が曖昧で、成熟プロセスのサプライチェーンに悪影響を及ぼす可能性があります。規制の拡大化とサプライチェーンの寸断を防ぐために、規制アイテム数を減らすべきです。

・規制措置により、日本の関係企業の利益が大きく損なわれ、研究開発や技術の進化を支える原資となる利益が十分に確保できないため、国際市場における日本企業の競争力が低下します。

中国と日本の半導体産業は相互に依存しあい、促進しあう関係にあります。中国は上流の原材料、コンポーネントやパッケージング領域で一定の強みを有すると同時に、豊富な半導体応用場面と世界最大の半導体市場を持っています。また、日本は半導体装置、材料、特定の半導体製品、およびハードウェアインテグレーションを長所としています。

設備や材料に対する中国企業の需要が増え続け、日本の半導体企業も中国市場を非常に重視しているため、両国の半導体産業には深いつながりがあり、良好な協力信頼関係が築かれています。日本政府がこの良好な協力関係を破壊する動きに固執する場合、当協会は900社の会員企業の正当な権利と利益を守るために、断固たる措置を取るよう中国政府に呼びかけざるを得ません。

日本政府が当協会の意見を真剣に検討し、両国半導体産業の発展を支援し、促進することに取り組むことを願っています。また、半導体業界が市場原理に基づく分業体制を共に擁護し、手を携えて世界の半導体産業チェーンとサプライチェーンの繁栄と安定を維持していくことを期待します。

中国の半導体産業は一貫して対外開放と協力を堅持してきました。ここに、関係する全ての企業、団体、業界関係者に対し、今回の改正案がもたらす両国半導体産業への悪影響を軽減するために、声を上げていくことをお願いします。2023年4月28日 〉

以上である。重ねて言うが、中国から日本へのこのような形での「公開要請」は見たことがない。半導体業界の専門用語が織り込まれたりして、分かりにくい部分もあるが、以下に経緯を振り返ってみたい。

「CHIP4」による「中国包囲網」強化

事の発端は、中国だけでなく、世界中の半導体業界に激震が走った昨年10月7日に遡る。

この日、アメリカ商務省産業安全保障局(BIS)が、中国を念頭に置いた半導体関連製品(物品・技術・ソフトウエア)の輸出管理規則(EAR)の強化を発表した。そこには、こう記載されている。

〈 今回の目的は、アメリカ政府内で、先端集積回路、スーパーコンピュータおよび半導体製造装置が、(中国の)大量破壊兵器(WMD)の開発を含む軍の現代化および人権侵害に寄与する影響を検証した結果である。中国政府は軍民融合戦略の実施を含め、アメリカの安全保障と外交的利益に反する形で、防衛力の現代化に莫大な資源を投入している 〉

つまりアメリカは、中国の軍事的脅威を取り除くには、あらゆる最新兵器の「心臓部」である先端半導体に規制をかけて、中国が最新の半導体を入手・製造できなくすればよいと考えたのだ。先端半導体とは、演算用のロジック半導体の場合、回路線幅が14nm(ナノメートル)以下の半導体を指す。

この時の発表では、具体的な規制品目リストを掲げ、エンティティリスト(制裁リスト)に入れた中国の主な半導体関連企業28社に、アメリカ関連の技術やソフトウエアが行かないようにした。かつアメリカ人がこれら企業に関わることも規制した。

さらにアメリカは、日本、オランダ、台湾、韓国など、先端半導体関連の技術を有する国・地域にも、協力を求めてきた。

経済産業省が2021年6月にまとめた「半導体戦略」によれば、1988年に世界の半導体産業における日本のシェアは50.3%あった。だが1990年代以降、凋落が始まり、2019年には10.0%まで落ち込んだ。世界のシェア5割が1割になったのだから、これは深刻だ。

だが、日本はまったくダメかと言うと、一部においてはいまだ精彩を放っている。例えば、MLCC(積層セラミックコンデンサ)の分野では、村田製作所が世界シェア約4割を維持している。

また、半導体製造装置の分野でも、東京エレクトロンが17.0%のシェアを持っている(2021年)。これはアメリカのアプライドマテリアルズ22.5%、オランダのASML20.5%に次いで世界3位だ。

こうした理由からアメリカとしては、日本、オランダ、台湾、韓国を加えることができれば、「中国包囲網」を構築できると判断したわけだ。いわば「半導体版NATO」のような半導体同盟で、「CHIP4」(アメリカ・日本・台湾・韓国)と呼ばれている。

西村経産相が「日本政府の決断」を発表

昨年12月9日、ジーナ・レモンド米商務長官が西村康稔経済産業大臣と電話会談を行い、プレッシャーをかけた。年が明けた1月5日には、訪米した西村経産相とレモンド長官がワシントンで会談。アメリカから日本へのプレッシャーは、さらに強まった。

こうした水面下における日米政府間の折衝の結果、年度末にあたる3月31日に、西村経産相が定例会見の中で、「日本政府の決断」を発表した。「今日は私から5点、発表があります」と前置きした上で、わざわざおしまいの5点目にさりげなく紛れ込ませる用意周到さだった。

「5点目、半導体製造装置の輸出管理強化についてであります。高性能な先端半導体、これは軍事的な用途に使用された場合、まさに国際的な平和及び安全の維持を妨げるおそれがあるわけであります。

厳しさを増す国際的な安全保障環境を踏まえて、今般、軍事転用の防止を目的として、ワッセナー・アレンジメント(通常兵器の輸出管理に関する主に西側諸国42ヵ国による申し合わせ)を補完するとともに、半導体製造装置に関する関係国の最新の輸出管理動向なども総合的に勘案しまして、これまで対象としてこなかった高性能な半導体製造装置を輸出管理の対象に追加することにいたしました。

具体的には外為法に基づきます貨物等省令を改正し、新たに23の半導体製造装置につきまして、全地域向けの輸出を管理対象に追加する予定であります。(中略)

輸出管理の在り方につきましては、かねてから様々な機会を通じて同盟国、同志国と意見交換を行ってきているところであります。その中で我が国の今般の措置の考え方や内容につきましては一定の理解が得られていると考えております。

また、そうした国々と連携し、今回の措置をワッセナー・アレンジメントに反映させていくことについても同時並行的に取り組んでいきたいと考えております。

我が国は半導体製造装置の分野におきまして極めて高い優れた競争力を有しております。軍事転用の防止を目的とした今回の措置によって、技術保有国としての国際社会における責任を果たしていきたい、そして国際的な平和及び安全の維持に貢献をしていきたいと考えております」

記者からは当然のように、「これは中国を念頭に置いたものですか?」という質問が出た。それに対し西村経産相は、「全地域向けの輸出を管理対象に追加をするということで、特定の国を念頭に置くものではありません」と答えた。さらに別の記者が突っ込みを入れると、こう答えた。

「世界中の国々の大半の160程度の国、地域は包括許可の対象としておりませんので、御指摘の中国もこの160の中に含まれます。含まれますけれども、特定の国を念頭に置いたものではないということで、その上で、まさに軍事転用のおそれがあるかないかという点を見ていくことになります」

どこからどう見ても中国を対象にした措置であるのに、西村経産相はあくまでも、このように主張した。そこで記者は、「日本の半導体製造装置の輸出で中国から約3割と、国別ではですけれども、今後この対中輸出にどのような影響が出るとお考えでしょうか?」と、角度を変えて質問した。この点について西村経産相の回答は、以下の通りだ。

「御指摘の全体への影響、様々企業ともコミュニケーション取っていますけれども、全体としては国内企業への影響は限定的であると認識しております」

中国側の手厳しい批判

このように西村経産相は、最後までふにゃらかした回答に終始したが、「事実上規制対象にされた」中国側は、間髪を入れず猛反発した。同日の中国外交部定例会見で、早くも毛寧報道官が吠えた。

「全世界の半導体の産業チェーンとサプライチェーンの形成と発展は、市場の規律と企業の選択が、ともに作用する結果によるものだ。

経済貿易と科学技術の問題を、政治化、道具化、武器化し、全世界の産業チェーンとサプライチェーンの安定を破壊することは、人々に損害を与え、自己を害するだけだ!」

4月1日に訪中した林芳正外務大臣は、翌2日に秦剛外相、李強首相、王毅中央外交工作委員会弁公室主任と会談したが、ここでも半導体規制について、手厳しい批判を浴びた。特に秦剛外相からは、強烈なセリフが飛び出した。

「日本は『為虎作倀』をしてはならない!」

私は、この成語を聞いて驚いた。若い時分に北京大学に留学していた時、ある授業で教授が「為虎作倀」(ウエイフーズオチャン)を口にした。意味不明だったので、授業後に教授のところへ行ったら、丁寧に教えてくれた。

「古代の中国では、虎は人間を食う動物として恐れられていた。人間は虎に食われると、その魂が虎のもとへ行く。そして今度は虎のために、次の人間の居場所を手引きしてやるのだ。『虎の為に倀(チャン)を作る(行う)』の『倀』とは、そうした人間のあさましい行為を指す。

この成語は品のよいものではないから、決して他人に対して使ってはいけないよ」

そのような成語を、中国の外相が日本の外相に向かって使ったのだ。それだけ中国側は、日米が一体化した「中国包囲網」に焦りを覚えていたとも言える。

北京の日本大使館のホームページによると、4月12日に北京で、垂(たるみ)秀夫大使と王受文中国商務部国際貿易交渉代表兼副部長との意見交換会が行われた。両国5人ずつが厳しい表情で向かい合った写真とともに、こんな文章が記されている。

〈 4月12日、垂秀夫大使は王受文・商務部国際貿易交渉代表兼副部長との間で、日中間の経済関係における関心事項について広く意見交換を行いました。具体的には、邦人拘束事案、投資環境整備、半導体関連の輸出管理、CPTPP、日本産食品に対する輸入規制の早期撤廃等について、率直な意見交換を行いました 〉

ここで最初に記された「邦人拘束事案」というのは、3月25日に第一報が報じられて日本中が震撼したアステラス製薬幹部社員の北京での拘束問題を指すと思われる。だが、その案件は「反スパイ法違反容疑」(中国外交部の3月27日の会見)であり、中国商務部とは無関係だ。そのため、やはり半導体の輸出規制問題が、メインテーマだったと見るべきだろう。

なりふり構わぬプレッシャー

もう一度、冒頭の中国半導体産業協会の「厳正な声明」を見てみたい。

まず、「主な内容」の第一項で、「(中国の)関係企業は非常に困っています」と記している。中国の半導体産業の苦悩を、正直に吐露しているのだ。「泣きの手に出ている」とも言える。

続いて、「規制アイテム数を減らすべきです」と記している。「規制するな!」という、中国外交部お得意の「戦狼(せんろう)外交的手法」ではなく、「少しばかり減らして下さい」と「懇願の手に出ている」のである。

そして第三項が、「国際市場における日本企業の競争力が低下します」。つまり、「そんなことしたらあなたも損しますよ」という「警告の手に出ている」わけだ。

こうした三つの項目を列挙した上で、こう結論付けている。

「日本政府がこの良好な協力関係を破壊する動きに固執する場合、当協会は900社の会員企業の正当な権利と利益を守るために、断固たる措置を取るよう中国政府に呼びかけざるを得ません」

これは、「恫喝(どうかつ)の手に出ている」と受け取れる。

いま一度、「厳正な声明」を整理すると、「苦悩」→「懇願」→「警告」→「恫喝」という流れである。これらは一体、何を意味するのか? 日本政府関係者に聞くと、次のように答えた。

「昨年10月のアメリカの半導体規制は、中国にボディブローのように効いてくるかと思ったら、実際はノックダウン級の必殺パンチだった。アキレス腱を刺された巨竜は、いまのたうち回っているのだ。この先、『CHIP4』が完成したら、巨竜の息の根は止まる。だから日本、台湾、韓国に、なりふり構わぬプレッシャーをかけてきているのだ」

台湾には、先端半導体の受託製造で世界の約6割を握るTSMC(台湾積体電路製造)が存在する。TSMCは2020年以降、「アメリカを取るか中国を取るか」という選択を迫られ、「アメリカを取る」道を選んだ。

昨年12月6日、5nmの先端半導体を製造するTSMC米アリゾナ工場の開設式典に臨んだ創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が、「グローバリズムも自由貿易も、もうほとんど死んだ」と発言したのは、その象徴的な出来事だった。 

韓国については、先週4月26日にホワイトハウスで開かれた米韓首脳会談で、尹錫悦大統領はジョー・バイデン大統領に「踏み絵」を踏まされた。中国で先端半導体の工場を稼働させているサムスン電子とSKハイニックスは、この先、「抜本的出直し」を迫られることになるだろう。

アメリカの圧力が中国を目覚めさせた

それでは、このまま中国の半導体業界は潰滅することになるのか?

前出の日本政府関係者は、「あくまでも個人的な見解」と断った上で、こう述べた。

「確かに短期的に見ると、中国の半導体業界は、満身創痍とも言える打撃を受けている。だがアメリカからの圧力が、中国を目覚めさせたのも事実だ。これまで安易にアメリカや日本の半導体関連製品を買っていた中国が、政府のふんだんな資金をつぎ込んで、必死に国産化の道を歩み始めた。

逆説的だが、長期的に見た場合、アメリカの圧力が、中国の半導体産業が加速的に発展する最大の原動力となるのではないか。いつか中国の技術が世界最先端になり、ブーメランのようにわれわれを覆っていく。そんな一抹の不安を感じざるを得ない」

いずれにせよ、もはやハイテクを巡るデカップリング(分断)は、不可逆的な流れになってきた。

 中国の半導体国産化を、記事では将来技術的に世界最先端となる事を予想していますが、2nmの半導体は、日本はおろか米国も未だに未達で、製造装置も一から国産化しなければならない中国が、おいそれとそのレベルには到達できないと思いますね。

 いままでパクりで技術フォローしてきた中国と、侮ってはいけませんが、いくら潤沢な資金力を持っていると言っても、経済が低成長領域にはいり、膨大な不動産債務を抱え、人口も減少を開始し、これから高齢者が爆発的に増える中国は、軍事費や治安維持費に加え、技術開発ばかりに資金投入は出来なくなるのではないかと思います。日本に30年前に起きた、失われた○○年が始まることを予想することは、あながち間違っていないのではないでしょうか。

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2022年12月30日 (金)

ベルリン「水槽破裂」事故が象徴する、ドイツ全体の“老朽化”と“機能不全” 政治家は「中国依存」を憚らず

7_20221229152601   約2週間前の出来事でした。ドイツのベルリンでアクアリウムが突然崩落し、中にいた魚たちが殆ど全滅しました。幸い人身事故はなかった模様です。

 ドイツと言えば機械や車、化学製品など、技術を売り物にした国家というイメージがあります。EUの中心国家、そのドイツで起こったこの事故、一体どうなっているのでしょうか。

 作家でドイツ在住の川口・マーン・惠美氏が、現代ビジネスに寄稿した記事にその詳細を見てみましょう。タイトルは『ベルリン「水槽破裂」事故が象徴する、ドイツ全体の“老朽化”と“機能不全” 政治家は「中国依存」を憚らず』(12/23公開)で、以下に引用します。

6_20221229152601 約1500匹の魚もろとも…

12月16日早朝5時43分、ベルリンのど真ん中でアクアリウムが崩落した。ドーナツのように丸く建てられたラディソンホテルの、ドーナツの穴の部分の真ん中に聳え立つ円筒形のアクアリウムだ。

地上より5mほどのところから始まる円筒形の水槽は、高さ14m(16mという報道も)で、直径11.5m。そして、最大のアトラクションが、その水槽のど真ん中に組み込まれたやはり円形のエレベータ。エレベータの壁は透明である。

つまり、何が凄いかと言うと、エレベータに乗って水槽内を上下する間に、その透明の壁を通して、さまざまな魚が泳いでいるのが触れそうなほど間近に見えること。水槽はいくつかに区切ってあり、本物の珊瑚の間に熱帯魚が泳いでいたり、サメが横切ったり……。

一方、水槽を囲む形のドーナツ型のホテルでは、外側の部屋からはベルリンの素晴らしい景色が堪能でき、内側の部屋からは、アクアリウムの幻想的な風景が楽しめる。贅沢なアイデアだ。

また、ホテルに泊まらず、このアクアリウムのエレベータだけ楽しみたければ、世界50ヵ所以上でスペクタクルな水族館を展開している「シーライフ」(スコットランド発祥)に19ユーロを払って申し込めばよかった。

ところが前述のように、その巨大な水槽が17日早朝、突然破裂し、100万リットルの塩水が溢れ出た。辺り一帯が地獄絵のような大混乱に陥ったことは想像に難くない。約1500匹の魚も、ほぼ全尾がご臨終。

不幸中の幸いは、早朝だったため、水槽の下にも、その付近にも誰もいなかったこと。ホテルの部屋にも直接の影響はなかったが、地下には浸水したという。

2003年の12月に完成したこのアクアリウム、周りを壁などに支えられない独立型の水槽としては世界最大という触れ込みだった。

水深が14mと言われていたので、水槽の底には1平米あたり14トンの圧力がかかることは、中学生でもわかる。だからこそ、それを支えている技術の凄さに、私など数字に弱い人間でさえ感心したのである。

しかも、当時、設計をした建築家が、使われているアクリルグラスは、“たとえピストルで打っても穴が開くだけで絶対安全”と太鼓判を押していたので、余計に感心した。20年には大点検も行われたというが、結局、ピストルで打たなくても、水槽は勝手に崩壊した。

原因に関してはこれから調査が始まるが、今のところ、素材疲労が疑われているという。おそらく今後、アクリルグラスのメーカーやら、建築家やら、施工した建設会社やら、運営会社やらの間で、熾烈な責任のなすりつけ合いが始まるのだろう。

シーライフは早速、「19ユーロはエレベータの使用料で、我が社は水槽には関知していない」という声明を出した。それにしても、水族館の水槽が破裂するなど、何だか発展途上国のようである。

鉄道も郵便も、質の低下が甚だしい

ドイツはこの頃、何だかおかしい。

私がドイツに渡った80年代の初めごろ、ドイツ鉄道は遅れず、日独間の郵便事情はこれ以上は望めないほど正確で、人々はおおらかだった。

しかし、現在のドイツ鉄道は民営化されたものの、その公共性を重視し、株主は国となっている。ところがが、肝心のその国が儲けることに熱心らしく、投資を怠り、設備は老朽。人員削減に励みすぎた帰結として、定時に着く電車が珍しいほどの惨状となった。

病欠が重なるとルーティーンが回せなくなり、客がすでにホームで待っているとき、突然、遠距離の特急電車の運休が知らされることさえ珍しくない。乗っている客はそこで降ろされ、後のケアもない。おそらく多くの日本人は、私が嘘を書いていると思うだろうが、これは実体験だ。

その上、暑くなるとクーラーは故障するし(これも複数回の実体験)、寒くなるとポイントが動かなくなる。それどころか脱線(これは家族の実体験)や、単線の場所での正面衝突まで起こる。さらにいうなら、私は列車を利用することは非常に稀である。それでも乗るたびに何かしら、日本では想像できないような不思議なことが起こるのである。

一方の郵便も、民営化後の質の低下は甚だしく、普通郵便が遅れたり、着かなかったりは毎度のことで、最近は、家族が書留で送った手紙までなくなった。こうなると、大切なものは一切郵便では送れなくなる。

ベルリンで2020年に開港したベルリンの新空港は、着工が06年で、当初の完成予定は11年だったが、期日は7回も延期され、ようやく開港したのが20年。当初17億ユーロだった工費は最終的に65億ユーロとなった。

また、17年に柿落としとなったハンブルクのコンサートホール、「エルプフィルハーモニー」も、最終的に7年の遅延だった。

こちらも7700万ユーロの予定が十倍以上の7億8900万ユーロに膨張。途中で取りやめることも検討されたが、やりかけの高層ビルを取り壊すには、経費はやはり同じぐらい掛かるため、やるしかない!という決死隊のようなプロジェクトだった。

なお、完成後のエルプフィルハーモニーは、過去の不都合は全て忘れるほど素晴らしいホールであることも付け加えておきたい。

首都ベルリンのカオス

ちなみに、ドイツの都市の中で、カオスで一番有名なのが首都ベルリン。01年以来、社民党が政権を持ち、しかも16年からは緑の党、左派党との3党連立が続く。左派党というのは、旧東独の独裁党の流れを引くいわば共産主義者の党なので、ベルリンはドイツでも稀な真っ赤な都市となっている。

真っ赤であることと関係しているかどうかは定かではないが、ベルリン市は財政が破綻しているばかりか、市の行政もまともに機能しない。役所は事務処理が追いつかなくなると、あっさりと窓口を閉めてしまうため、出向いてもダメ、電話も繋がらないのは日常茶飯事。運が悪いと、紛失した免許証の再発行に数ヵ月もかかったりするという。

ただ、何と言ってもベルリン・カオスの極め付きの事件は、21年9月26日に行われた選挙だった。ベルリンは特別市で、独自の政府と議会を持ち、州と同じ権限を有するが、この日は、4年に一度の国政総選挙と、ベルリン市議会議員の選挙、区の選挙、おまけに国民投票が同時に実施された。

ところが、これが破綻した。投票所前が長蛇の列で待ち時間が2時間になったのは序の口で、まもなく投票用紙が足りなくなったり、18歳からしか投票できない国政選挙の投票用紙が、州選挙の投票に来た16歳の人間に配られたり、さらには、配られた投票用紙が違う区のものだったりと、信じ難い事態が続出。

結局、投票用紙切れで閉鎖された投票所が73ヵ所。投票用紙をコピーして使ったというケースもあったというから噴飯物だ。また、慌てて車で投票用紙を取りに走り、中断していた投票を始めたら、18時を過ぎても行列が縮まらず、時間を勝手に延長した投票所もあったというから想像を絶する。

では、そのために何が起こったかというと、何も起こらず、不適格なやり方で選ばれた議員たちが、当然のように区議会に、市議会に、国会に、今も座っている。

そこで、これはおかしいと声を上げたごく少数のジャーナリストらが地道な調査を続けた結果、投票結果の数字の多くが赤ペンで修正されていたことまでが明るみに出た。

結局、彼らの訴えが功を奏し、先月11月の半ば、ベルリン市の憲法裁判所が、市議会と区議会の選挙結果を無効とし、90日以内のやり直しを命じた。これもどこかの発展途上国のようだが、正真正銘、ドイツの首都での話だ。

政治家は堂々と中国依存を主張し

選挙は言うまでもなく、民主主義の要。本来なら、地方選よりも重要である国政選挙の方もやり直さなければならないはずだが、こちらはベルリン市の裁判所の管轄ではないため、時間が掛かりそうだ。

ただ、どんなに時間が掛かっても、正当性の欠ける議員が政治をしている事態は修正されなければならない。そうでなければ、ドイツの議会自体の正当性に疑問符がつくことになる。ただ、これが最終的にどう解決されるのかは闇の中だ。

ドイツはそうでなくても今、混乱している。やはりかなり赤い現在のドイツ政府(社民党、緑の党、自民党の三党連立)は、電気が足りないというのに、原発も石炭火力も止めるという方針を変えず、暖房の温度を低くしろとか、手は冷たい水で洗えというのが解決策だ。

このままいけば、電気とガスの逼迫と高騰、および将来の価格の高止まりは確実で、ドイツは産業国を離脱する方向に進むしかない。中小企業ではすでに倒産が始まっており、体力のある企業は、安価で安定した電気の保証される外国への逃避を考えている。

現在、その最も有力な候補地が中国である。ドイツの繁栄は中国なしにはあり得ないと、すでに堂々と主張する政治家もいる。

中国依存と機能不全。大丈夫だろうか、ドイツは……?

日本はまだ電車もちゃんと走るし、郵便も届く。選挙も、水族館の水槽も大丈夫だと信じたい。しかし、肝心のところは、日本もやはりドイツと同じく中国依存になりそうな予感もする。かなり憂鬱である。

 日本も中国依存になりそうな、ではなくて、経済面ではかなり中国に依存しているところがあります。これから我々が何とか、その依存を脱却しなければならない時期に来ていると思いますが、ドイツ同様、親中派の議員も多いのが気になります。そして原発停止に石炭火力縮小、何だか似ているような気がします。

 冒頭述べたようにドイツのイメージは、技術立国というものでした。川口氏によれば、ベルリンに限ってかも知れませんが、そのイメージが完全に崩れ去る記述です。それが政治の混乱と言うより、政治の左傾化が招いていることが、大きな要因のように思います。

 日本も十数年前、民主党政権時代に混乱を来しましたが、その後の安倍元政権が立ち直しました。ただメディアや学界は相変わらず左に染まっていますので、安心はできません。加えて高度成長期に建設したインフラが寿命を迎えつつあり、かつ少子化のため人材の枯渇も心配されます。

 従って、ドイツが対岸の火事だとは思えないところもあり、しっかりと政策を練り上げて対処しなければ、日本も危うくなる恐れは十分ありそうです。加えて安全保障面の課題もあり、これからの10年は日本にとってまさしく正念場となるでしょう。

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2022年11月26日 (土)

日本半導体産業の復活を実現できるか、次世代半導体の会社「ラピダス」への強い期待とその勝算は?

35  このブログのメインテーマは「強い日本の復活」です。それは防衛力、外交力が筆頭に来ますが、それを支える産業競争力は欠かせない重要な要素です。そしてかつて世界を席巻したにもかかわらず、今や米国のみならず韓国、台湾までにも後塵を拝してしまった、産業の米と言われる半導体の復活が、強く求められています。

 そうした中、次世代半導体の会社「ラピダス」の設立が発表されました。エルピーダメモリーの破綻や、ルネサスエレクトロニクスの苦戦など、集合型(日の丸)半導体メーカーの失敗を繰返さないよう、革新的な経営が求められています。

 この「ラピダス」に関する概要を、元経済産業省中部経済産業局長で明星大学経営学部教授の細川昌彦氏が、日経ビジネスに寄稿した記事から引用します。タイトルは『日の丸半導体」の失敗から学ぶ、半導体新会社ラピダスの勝算は』です。

 次世代半導体の新会社ラピダスが設立された。2ナノメートル(ナノは10億分の1)プロセスのロジック半導体を開発して、2027年ごろの量産を目指す計画だ。

 日本は先端半導体の量産で国際競争から脱落して、「失われた20年」ともいわれている。そうした中、ラピダスは半導体産業の起死回生の期待を背負って発足した。今後10年間で5兆円の設備投資を計画している。日本政府が相当の資金を支援しなければ難しいだろう。もちろん課題山積でいばらの道だが、日本にとってラストチャンスだとの危機感がある。

 この新会社について、かつての”日の丸半導体“の失敗を引き合いに出して、「同じことを繰り返すのか」との批判が目に付く。しかも批判だけして代替案を示さない。各国が半導体産業の囲い込みに躍起となっている中で、日本が手をこまぬいているとどうなるかは明らかだ。

 そもそも今回の新会社は、かつての“日の丸半導体”とは根本的に異質なプロジェクトだ。どう違うのか。

デジタル産業のためのプロジェクト

 まず、トヨタ自動車、NTT、デンソー、ソニーグループなどが株主に名を連ねていることに注目すべきだ。これを役所の声掛けへの「お付き合い」だと批判する論者もいるが、全くこれは当たらない。このプロジェクトの本質が見えていないのだろう。これらの企業は本気だ。半導体産業のためのプロジェクトではなく、デジタル産業のためのプロジェクトだからだ。

 国全体のデジタル投資の遅れが「失われた30年」の大きな原因の一つであった。今後の成長には産業全体でのデジタル投資が急拡大することが必要だ。半導体はそうしたデジタル投資の主要プレーヤーを顧客として成長する産業だ。

 かつては家電が半導体の主要ユーザーであったことで日本の半導体産業は育った。しかし2000年代に入ると、パソコンやスマートフォンに半導体需要が移り、これらのグローバルメーカーは大量の半導体を必要とした。

 しかし日本には米国のアップルや韓国のサムスン電子のようなグローバルメーカーが育たなかった。例えば、世界初のNAND型フラッシュメモリーを日本が開発したにもかかわらず、それを活用したデジタルカメラや携帯音楽プレーヤーといった最終製品で日本は負けてしまった。それが半導体産業の衰退の一因でもある。

 今後のデジタル社会の基盤となるのは、自動運転やデータセンター、工場のデジタル化、スマートシティなどだ。半導体はそうしたデジタル分野で必要になる。

 今回、トヨタやNTT、デンソー、ソニーなどがラピダスの株主になった理由はそこにある。これらの企業がユーザーとなるからだ。それぞれの分野で次世代のデバイスを開発して新たなデジタル産業をけん引する。そのためには、ニーズに応じた独自機能を盛り込んだ半導体の開発がカギを握る。

 多品種少量の半導体製造をコミットし、スピーディーに供給してくれる半導体製造会社が不可欠だ。だからこれらユーザー企業は本気で株主になったのだ。当初は10億円ずつの出資でも、今後、継続的に多額の投資を行う覚悟が必要なのは当然だ。

 従ってラピダスは、これまでのパソコン、スマホをターゲットとした汎用の半導体を大量生産するビジネスモデルとは一線を画して、専用の半導体を多品種少量生産するビジネスモデルを志向する。台湾積体電路製造(TSMC)やサムスン電子とは競合せず、差別化をしようとしている。

かつての「自前主義」からの決別

 第2のポイントは、日本企業だけによる「自前主義」ではないことだ。ラピダスは日米連携、さらには欧州も巻き込んだ日米欧連携のプロジェクトだ。

 米国企業(おそらくIBMだろう)の研究成果である次世代トランジスタ技術を活用した微細化技術、そしてそれを可能にするオランダの半導体装置メーカーASMLの極端紫外線(EUV)の露光装置の技術がなければ、このプロジェクトは成り立たない。

 これらは資金さえあれば入手できるわけではない。これまで水面下で国が前面に出て交渉して実現したものだ。EUV露光装置は世界からの注文が集まっており、本来であれば何年も待たなければ入手できないところ、2024年末には日本で初めて導入できる見込みだ。

 そしてその際のカギは「相互補完」だ。国際連携を可能にしているのは日本自身が強みを持っているからだ。装置、材料メーカーの技術力を背景に、後工程での積層化技術を持っていることが、相手方にも魅力となっている。

 経済安全保障が急務の国際情勢の中で、国家レベルで日米連携は急速に進められた。5月の連休には萩生田光一前経産相が訪米して、レモンド米商務長官と次世代半導体の開発について日米連携の基本合意をした。その際、ニューヨーク州アルバニーにあるIBMの研究施設を視察している。

 さらにそれを受けて5月のバイデン大統領との日米首脳会談では、次世代半導体開発の日米連携を進めることを合意した。日米連携が政治的に明確にもコミットされたのだ。

 プロジェクトの体制としては、量産技術のための研究開発の拠点「技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)」が年内に設立される。これも米国や欧州の関係機関と連携する。

 政府も3500億円の予算を投入する。この研究開発拠点での技術開発プロジェクトでパイロットプラントを作って開発し、ラピダスで量産の製造ラインを作って事業化する。まさに2つが車の両輪となる構想だ。問題は、目標とする5年でどこまで達成できるかだが、決して楽観できるわけではない。

国策としての本気度

 政府が拠出する700億円についても誤解がまん延している。この金額だけを見て「1桁、2桁少ない。政府の本気度を疑う」と厳しい批判を浴びせる。しかしこれは単に第1段階としての“手付金”であることを理解していない。工場の建設まで含めたプロジェクト全体は兆円単位の資金が必要で、これで済むはずがない。

 初期段階から米国企業の技術を使用するライセンス料や、1台200億円もするEUV露光装置の前払い金が必要になる。しかもこの700億円を「補助金」としているのは明らかに誤報だ。これは委託費で、国の関与は根本的に違うことを見逃している。

 今後、第2段階ではこの新会社に対して国は出資も視野において経営に責任を持つことも検討されるだろう。上場による資金調達もあり得る。

 こうして国策としての位置づけを明確にして、所詮民間主体への補助金止まりであった、かつての“日の丸半導体”とは次元を異にする。

 2012年に経営破綻したエルピーダメモリを教訓にすべきだとする論者もいる。しかしこれまで述べた本質的な違いを見れば、これも当たらない。エルピーダは1999年にNECと日立製作所のDRAM事業、そして2003年に三菱電機のDRAM事業を統合してできた。いわば半導体メーカーだけの組織だ。しかも複数の出身母体による「たすき掛け人事」など一つにまとまることが難しく、経営破綻してしまった。

 それに対しラピダスはユーザー企業8社が出資しており、あくまで人材は外部から集めることになる。エルピーダとは状況はまるで違う。

いばらの道を覚悟

 これから待ち構える巨額の資金調達以外にも課題は山積している。既に述べたように、多品種少量生産での差別化戦略は理にかなっている。その顧客は当面、株主に名を連ねたデジタル産業をけん引するプレーヤーだ。

 ただし、さらにラピダスが成長するためには海外も含めたグローバルな顧客開拓が必要だ。そうした時に、出資するユーザー企業と競合する企業からも果たして受注できるか。いくら多品種少量といっても、量を確保してこそコスト低減ができて国際競争力につながる。

 人材も大きな課題だ。多数の半導体のエンジニアが必要になってくる。

 まずは即戦力だ。かつて日本の半導体産業が元気であった時代に活躍していたエンジニアは、その後の衰退期に活躍の場を韓国、台湾に求めて流出していった。そうした貴重な人材を再度日本に呼び戻すことができるかどうかだ。

 さらに若者の育成も必要だ。台湾のTSMCが熊本に進出することで、九州では大学や高等専門学校などで人材育成を急いでいる。東北も半導体分野に注力している。ラピダスは今後、将来の工場建設の候補地を選定するだろう。その際、人材獲得できるかどうかも大事な要素になる。

 もう一つの課題は設計だ。ラピダスのビジネスモデルでは、ユーザー企業のニーズを半導体の回路設計に落とし込むための設計段階がカギになる。そうした企業や人材をどこに求めるか。シリコンバレーの企業や人材を活用することも大事だ。こうした人材面でも「日の丸半導体」の自前主義から脱却すべきだ。

 難題でも国の命運を背負っている。国策として国費を投入するからには、やり切るしかない。

 半導体については韓国、台湾のみならず、最近は中国にも急追されています。日本と中国を比較すれば、その政治体制から自ずと違いが出てくる要素もありますが、日本は何しろ政治の関与が中途半端で、かつ戦略性がありません。その点をしっかり見据えて、この会社を育成すべきだと思います。

 細川氏の記述通り、これが「ラストチャンス」と考えて、企画力、設計力やそれを支える人材の確保など、政業一体となって、かつての半導体王国の復活を願いたいものです。

 そしてこのビジネスモデルを成功に導き、先端デジタル製品の分野にも応用して、日本の技術立国の立場をより強いものにしてもらいたい。もちろんこの分野のみならず、エネルギー開発や農業開発にも、応用すべきところは応用して、強い日本の復活を心から願いたいと思います。

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2022年8月30日 (火)

「日韓トンネル」、何故消え去らない荒唐無稽なこの構想

2_20220829155501  約40年前から持ち上がり、消えては浮かぶ「日韓トンネル」構想。多額の費用がかかる割には、日本にとって殆ど何もメリットがないこの構想が、何故未だにくすぶっているのかでしょうか。この構想、あの旧統一教会ともつながりがあると言います。

 そのあたりの詳細を、フリーランスの日野百草氏がNEWSポストセブンに寄稿した記事から引用して紹介します。タイトルは『総工費10兆円の「日韓トンネル」構想 技術的には可能でも必要とは思えない』です。

約40年前に着工したものの停滞している大プロジェクト「日韓トンネル」は、総工費が約10兆円と言われている。1961年に建設開始し1988年に開通した青函トンネルの建設費が7455億円かかったことを思うと、いかに大規模なものかが分かるというものだ。俳人で著作家の日野百草氏が、旧統一教会との接点によっていま注目を集めている日韓トンネル実現の可能性について聞いた。

* * *

「日韓トンネルですか。調べてみましたけど、日本の技術なら可能です。でも、何もメリットはないでしょう」

海洋土木に強みのある中堅建設会社の施工管理技士が語る。こういった内容では学者より海洋土木の現場を知る技術者のほうが、経験に裏打ちされた肌感など有意に思う。ちなみに本稿、専門用語や業界特有の言い回しなどは適時置き換えている。ヒアリングの本旨はあくまで「日韓トンネルは実現可能か、必要か」という点にある。

日韓トンネルとは日本の佐賀県唐津市から壱岐、対馬を経て韓国の釜山まで海底トンネルでつなぐとされる壮大な計画である。その全容は全長270km、海底距離150km、最大水深170m、予定工費10兆円(諸説あり)とされる巨大プロジェクトであり、今年6月にも「日韓トンネル実現九州連絡協議会」を中心に総会が開かれるなど再び脚光を浴びている。

1980年ごろから計画されていまだに実現を見ないこの計画だが、宮崎県知事に再出馬する予定のタレントで元衆議院議員、東国原英夫も前知事時代の2010年、この日韓トンネルを「僕個人の夢物語」として中国メディア「サーチナ」に熱く語るなど(実際に通るのは佐賀県なのだが……)、当時は九州の政財界を中心に一定の支持を集めていた(今は「反対の立場」と8月25日に釈明)。

一方、韓国側でも世界平和統一家庭連合、いわゆる旧統一教会などを中心として日韓トンネル実現のために資金を集め、関連団体による試掘をおこなったとされる。2008年に自民党の衛藤征士郎(日韓議員連盟)や民主党(当時)の鳩山由紀夫らを発起人とした日韓海底トンネル推進議員連盟が立ち上がり、韓国側にも日韓トンネル研究会(日本にも同名の研究会はある)という旧統一教会による事業団体がある。

こうした熱心な方々には申し訳ないが正直、筆者の感想としては荒唐無稽としか思えない。しかし日本の技術なら可能、とはどういうことか。

「日本の海洋土木は世界でもトップレベルです。青函トンネルの時代からずっとそうです」

青函トンネルの開通はよく覚えている。小学生のころ、建築関係の仕事をしていた父に連れられて『海峡』という映画を観た。全体的に冗長なのはともかく、最後の貫通では素直に喜んだ。時を経て1988年3月に青函トンネルが開通、本当にやったんだな、日本は凄いなと思った。

◆日本の海洋土木はいまも世界トップレベル

「トルコのボスポラス海峡の海底トンネルも日本が手掛けました。大成建設は世界最深度への沈設も成功させました」

ヨーロッパとアジア(オリエント)を隔てるボスポラス海峡はトルコのイスタンブールにある。この要衝にトンネルを作ることはトルコ150年の夢と言われた。強潮流で水深の深い箇所のあるボスポラス海峡に沈設することは難しいとされてきたが2011年2月、日本は大成建設を中心にこの夢を実現した。「地図に残る仕事」というキャッチフレーズでこのプロジェクトを紹介したCMは記憶に新しいだろう。

「ユーロトンネルも日本の技術が貢献しています。川崎重工のTBMが使われています」

かつて「ナポレオンの夢」と呼ばれたユーロトンネルはドーバー海峡、イギリスとフランスの間をつなぐ50.49kmの海峡トンネルである。TBMとはトンネルボーリングマシン(全断面トンネル掘進機)のことで巨大なカッターヘッドで岩盤をドリルのように掘削する超大型トンネル掘進機である。古くからの爆破(発破)作業を伴うことなく高速掘進が可能で、掘削そのものを完成断面にできる。

「日本の技術力低下がよく言われますが、海洋土木はいまだに世界トップレベルにあります。個人的には技術面では日韓トンネルの接続は可能だと思います。その意味では、決して荒唐無稽ではありません。しかし実現度としては、おっしゃる通り荒唐無稽でしょうね」

青函トンネルもユーロトンネルも、ボスポラス海峡のトンネルもその膨大な費用と時間に見合うからこそ実現した。日韓トンネルはそれに見合わないということか。

Post_221190_3 「まず地理的な問題があると思います。壱岐、対馬を通って韓国の釜山ですよね。いま見せていただいた東国原さんの『新幹線、あるいは高速道路』という意見をとるなら、それを通したところでどれだけの経済効果があるのか。言い方が難しいですが唐津と釜山ですよね、日本と韓国と大きく置き換えても10兆円でやるか、となる人もいるでしょう」

いずれも重要な都市ではあるが、10兆円の大工事となると確かに難しいかもしれない。

「現実のインフラ効果は極めて限定的に思います。ドーバーはロンドンに近いですし、大陸側のカレーもパリはもちろんダンケルクからブリュッセルやロッテルダムもありますよね。多くの国がフランスを通ってユーロトンネルを使うというメリットもあるでしょう。しかし日韓トンネルはあくまで2国間に限った話です。せめて北朝鮮が通れるような国であるなら効果も期待できるでしょうが、現実的ではないでしょう」

なるほど、多くの国と接するからこそ高価な海底トンネルも費用対効果に見合うということか。釜山や唐津がそれぞれ首都に近いのならともかく、地勢的にも10兆円に見合うかどうかは難しいところだろう。何より日本と韓国という国レベルですら「2国間のトンネル」でしかない。日本は単独の島国だし、韓国と中国・ロシアの間は北朝鮮が「うんち」(人気ゲーム『桃太郎電鉄』シリーズで「うんちカード」を使うことにより線路の通せんぼをする「うんち」のこと)のように陸路を通せんぼしている。この状態で日韓トンネルを通しても極めて限定的な2国間のトンネルでしかなくなる。ましてやその「うんち」はゲーム中と違い、いつ消えてくれるかわからない。

「これは私の専門外なので一般人の意見として言わせてもらいますが、日韓関係を考えたら10兆円も出してトンネルで繋がりたいか、という意見もあるでしょう。調べてみましたが、なぜか日韓トンネル構想は日本側が言い出したことになっていて、韓国は仕方なく繋がってやるという姿勢のようです。費用面でも日本が不利な条件で、お花畑な日韓友好で血税を出すわけにはいかないでしょう」

前述のようにそれを出したがっている、出したがっていた日本の政治家がいることはともかく、現実的にはそうした反対の声も大きいだろう。費用の負担面でも韓国側が3割、日本側が7割(8割案も)など、なぜか日本の負担が多い計画案が多い。それなのに韓国与党の「共に民主党」は「日本だけに有利な事業」(中央日報、2021年2月8日)として、日本が通したがっているという体にしている。

確かに戦前、大東亜縦貫鉄道という日本と朝鮮半島を結ぶ計画があったが、それは朝鮮半島が日本領で中国の一部も日本の傀儡政権である満州国だったからこそ自国領および属国をつなぐ意味があったわけで、そんな大昔の話を持ち出して「日本がトンネルで韓国と繋がりたがっている」という体をとられても反対する人たちにとっては迷惑な話である。また韓国と北朝鮮はいまだに「休戦」状態である。トンネルとはいえ地続きとなると日本の防衛体制も再構築しなければならない。

◆本当に10兆円でおさまるのか

「あと技術的な面ですが、先ほど日本の技術なら『可能』とは言いましたが大変な作業であることは事実です。途中に有用な島を挟むとはいえ青函トンネルの4倍の長さですからね。水深200mの箇所もありますから新たな工法が必要となるかもしれません。コロナ禍ですし作業員の数や安全を考えれば10兆円では済まないと思います」

この10兆円というのも古くから言われているもので、現在の鋼材、セメント材、アスファルト合材など建設資材の高騰をみればその金額で済むとは思えない。ましてやそれだけの大工事をするだけの見返りがあるか、結局のところそれに尽きるのかもしれない。アメリカやロシアにはベーリング海峡にトンネルを作ると称して資金を募る詐欺商法が古くからあるが、日韓トンネルもそれと同じとまでは言わないが、そのベーリング海峡トンネルと同様に「荒唐無稽」であることには変わりがないのかもしれない。

「日本のゼネコン、マリコンもそれだけの大きな仕事があれば受注したいでしょうし、施工管理者や作業員たちもやるからにはやってやる、とはなるでしょう」

巨大プロジェクトに夢を見るのは、技術者として当然かもしれない。

「でも日本の状況を考えれば『ほかにすることはないのですか』でしょう。福岡から釜山まで飛行機で50分とかですよ。関空なら1時間半、成田でも2時間半です。東京から博多まで新幹線で移動する人が少ないのに、日韓トンネル通したとして、東京から釜山、ソウルまで電車で行きますかね、物見遊山か一部のマニアでもなければ使わないと思いますよ」

計画によれば日韓トンネルを新幹線が走れば1時間15分ほどで結ばれるという。東京から博多まで新幹線「のぞみ」で単純計算して約5時間+1時間としても、6時間以上もかけて釜山に行くひとはあまりいないように思う。国土交通省によれば東京から福岡は飛行機移動が90%を超える。また物流面のメリットで言えばコンテナ海運が主流の中、いまさら10兆円かけて貨物列車というのもこの計画のみで考えれば非現実的だろう。

「せっかくなのでもうひとつ、個人的な意見を言わせてもらえば日本の海洋土木の技術的の向上や、他国への技術面での売り込みという点ではこれだけの空前絶後のプロジェクト、価値があるとは思います」

確かに、青函トンネルにもその意味はあった。世界に日本の海洋土木技術を見せつけた。

「それなら壱岐を経由して対馬まででいい、という考え方もあります。最初から採算度外視なら日本の技術向上と国防のために対馬まで東水道(対馬海峡の日本側)のみ海底トンネルを作るというのもありだと思います」

対馬市議会は2013年に日韓トンネルの早期実現を求める意見書を採択している。対馬は韓国人の人気観光地として知られるが、古くから日本を守る国防の島でもある。しかし人口はピーク時の7万人から3万人あまりとなってしまった。

「実のところ、技術的に一番ハードルが高いのは対馬から釜山の深度だと思うのです。ルートにもよりますが西水道(対馬海峡の韓国側)は200メートル級の深度で遮られています。東水道なら深いところでも100メートル前後、これでも大変ですが、やる前提なら対馬まででよいのでは。もっとも、いずれにしろ資金面で難しいと思いますが」

一部政治家や研究者の間でさかんに起こる「日韓トンネル」計画。しかしネットも含めた一般国民は日韓両国とも反対か興味なし、もしくは「非現実的」と笑うような代物である。

それでも九州の地方議員や研究者を中心に「日韓トンネル推進会議」的な団体があり、今年の6月11日にも「日韓トンネル実現九州連絡協議会」(会長・梶山千里九州大学名誉教授)の総会が開かれている。この計画を本気で実行しようとしている人々もいる。

10兆円で韓国と地続きになるとされる日韓トンネル、このコロナ禍と少子化、福祉政策をはじめとする財政危機の中、本当に必要なのだろうか。

 もちろん必要ではないでしょう。逆に今までの日韓関係を考えれば、むしろ安全保障上あってはならないと思います。対馬がますます属国化するでしょうし、佐賀県も危うくなります。韓国の反日団体が国境の検問所をくぐり抜けて押し寄せるかも知れません。折角の四方が海という安全保障の要諦が崩れることにもなります。

 このリターンなき荒唐無稽な構想は、天文学的な費用を要することもあり、簡単には日本の国会でも了承されないでしょうし、またコンセプトの曖昧さから日本国民の多くが賛成しないと思います。たとえ一部の利害関係者が賛同してもこの構想は潰すに越したことはありません。

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2021年9月 8日 (水)

半導体に素材、EV部品……中国・国産化の標的は日本企業か?

P1_20210907131201  前回、日中韓のGDPの変遷を取り上げましたが、特に中国の経済力はここ40年の間に爆発的に増加しました。その40年前、経済力もしかりですが、技術力も全くの開発途上国だった中国。それが持ち前の「パクリ力」と国内の「購買力」で、今や日欧に迫りつつあります。

 その中国の現状を、日経ビジネスの記事から拾ってみました。元経産相で現明星大学教授の細川昌彦氏のコラム『半導体に素材、EV部品……中国・国産化の標的は日本企業か?』(9/6)がそれで、以下に引用します。

 ◇

 耳目が海外のアフガンと国内の政局に注がれている中で、中国は米中対立への手を着実に打っている。経済面では国産化政策を着実に加速しているのだ。米中対立の長期化を覚悟して、中国は従来のグローバルな供給網から中国中心の供給網・自立へと脱皮を急ぐ。そのカギを握るのが先端技術の獲得だ。そしてその標的になりそうなのが日本企業だ。

国産優先で外資企業を揺さぶる

 8月、中国が政府調達で国産を優先して、外国製品の排除を進めているとの報道があった。中国政府が5月に地方政府へ通知した内部文書を入手したことによるものだ。報道によると、医療機器をはじめとする先端機器で、41分野の315品目が対象になっている。中国の国産製品を政府調達の調達条件とする狙いは何か。

 注意しなければならないのは、こうした方針は以前からあり、決して新しいものではない。報道された内部文書自体も「2021年版」となっており、同様の文書はこれまでも通知されている。むしろ何故この時期に、こうした内部文書が報道されているかだ。中国政府の意図の方が重要だ。

 それは明らかに先端技術を有する外資企業を中国国内での生産に追い込む狙いだ。それによって外資企業の有する先端技術の獲得を狙っているだけに、外資企業にとって技術流出のリスクをはらむ。

 しかも外資企業が中国生産したからといって、必ずしも“中国製品”として扱われるわけではないことは要注意だ。実態は事実上中国企業が生産する“中国ブランド“が優先される。中国生産を始めてから「見込み違いだった」では後の祭りだ。「国産優先に対しては中国生産すればよい」と単純に誤解している日本の経営者も多い。

 さらに中国の場合、政府調達の意味合いは欧米、日本等とは比較にならないほど大きい。公表されているものだけで総額は約56兆円で、うち地方政府が9割強を占めるとされている。例えば医療機器だと購入する病院の多くは公的だ。また民間企業による調達も政府調達の基準に事実上「右へ倣え」と影響されるので、インパクトは大きい。

 米国はバイデン政権が製造業を保護するため自国製品を優遇する政府調達を拡大する「バイ・アメリカン」の強化を打ち出している。あたかもこれに対抗して「バイ・チャイナ」を打ち出したかのように見えるので、国際的な批判をかわせるとの計算も働いているだろう。

 しかも世界貿易機関(WTO)の政府調達協定では内外企業の差別を禁じているが、中国はこれに加盟していないので、大胆な内外差別がまかり通ってしまう。

警戒すべき外資誘致モード

 今年1月、在中国欧州商工会議所が「デカップリング」と題する、注目すべきリポートを公表している。その中で中国が進める国産化政策についても分析して、欧州企業に警鐘を鳴らしている。

 中国は国産化戦略のターゲットとなる産業を国家安全保障に関わる重要度で選び出している。そしてそれぞれの産業ごとに具体的な発展行動計画が策定されている。

 日本企業にとって重要なのは外資企業に対する政策だ。中国企業が競争力を有するかどうかで、産業ごとに外資に対して「誘致」か「排除」かの政策モードを使い分けているのだ。

 前者は半導体(製造装置、材料)、電子部品(5Gの中核部品など)、新素材(電池素材、磁性素材など)、工作機械・産業用ロボット、新エネルギー車、バイオ医薬・高性能医療機器、スマート工場などだ。

 例えば、昨年10月には電気自動車(EV)の国産化を確認して、それに向けて磁石、モーターなどの基幹核心技術の自主化レベルを引き上げる目標を掲げている。

 電子部品産業については今年1月に自前の国内供給網の整備をめざした強化計画を公表している。対象部品として半導体に加えて、プリント基板、センサー、磁石、磁性材料、電池材料、製造設備、ソフトウエアなどだ。

 8月には国有企業96社に対して、工作機械、半導体、新素材、新エネルギー車の4分野について中核技術の開発を加速するよう指示を出したと発表した。ただし、これらは一部にすぎない。

 こうした一連の国産化政策を急ぐ中で、中国にとってボトルネックになっている技術を獲得するために外資を積極誘致しているのだ。そしてこれらの産業分野の多くは日本企業が先端技術の強みを有している分野であることに注目すべきだ。まさに中国が日本企業に秋波を送っているゆえんだ。もちろんこうした分野の日本企業の買収も技術獲得のための選択肢の一つであるので、身構える必要がある。

 外資に対して、研究開発拠点を中国に置くことを条件に優遇税制を適用するというのも要注意だ。技術漏洩のリスクがつきまとう。特に半導体などの製造装置や部材の分野を標的にしているようだ。さらに今月から施行されたデータ安全法によって研究開発のデータが中国外に持ち出せなくなるリスクまで念頭に置いておく必要がある。対象となるデータがあいまいで、運用が不透明であるからだ。

「誘致」から「排除」へ手のひら返し

 後者の排除モードに入った産業分野としては、高速鉄道、次世代通信機器、AI/ビッグデータ、量子などだ。高速鉄道はかつて前者の誘致モードで積極的に外資を誘致したが、中国企業に技術が渡って競争力を持つと、外資は必要なくなり、逆に排除モードに転じた典型例だ。日本企業も技術の提供と引き換えに中国市場に参入したものの、後に中国の技術力の高さを理由に中国市場から排除されて“お払い箱”になった苦い経験がある。

 最近では、かつて日本企業が圧倒的な競争力を有していた高性能磁石もそうだ。中国市場を獲得したい日本のある磁石メーカーは積極的な誘致を受けて、2016年に中国磁石メーカーと合弁会社を設立して、ネオジム磁石の生産を始めた。しかし、日本からの製造装置の販売もあって、数年であっという間に中国企業が技術を獲得して競争力を有することとなったのだ。当時の日本企業の経営判断、日本政府の政策判断の是非を厳しく検証すべき事例だろう。

 中国はさらにその供給網の下流にある、日本企業の技術にも着目している。EVの中核部品であるモーターだ。同様のことが繰り返されないようにすべきだろう。

 中国は当初は「誘致モード」でも中国企業に技術が渡ると手のひらを返したように「排除モード」に変わる。日本企業は異なる産業で同じ轍(てつ)を踏んでいるのだ。民間企業も他の産業で起こったことを学習せず、役所も人事異動で担当が変わって教訓が引き継がれない。日本にはそうした構造的な問題があるようだ。

「技術仕分け」と「分断対策」が必要

 こうした中国の内製化の動きにどう向き合うべきだろうか。

 「欧米企業は中国市場にどんどん出て行っている。日本企業だけ慎重にしていると出遅れる」

 こうした声もしばしば聞こえてくる。しかし単純な中国での生産量、販売量だけで判断すべきではない。問題はどういう技術の製品で出て行っているかだ。産業分野によっても違うだろうが、欧米企業が最先端の技術まで中国に出しているかどうかをよく見て判断すべきだ。

 一般論で恐縮だが、企業としては技術の機微度を分析して、「出してもいい技術」と「そうでない技術」を仕分けすることが必須だ。そのうえで中国市場を積極的に取っていく。そうした判断のツメができているかどうかだ。これを具合的に当てはめていくことはもちろん難しいが。安全保障上機微な技術は外為法で規制されているが、その対象は限定されている。問題はそうした規制がない最先端の生産技術が狙われており、そこで経営判断が問われている。

 しかも競合する日本企業同士、外資企業同士で疑心暗鬼になって、なし崩し的に技術を出していくことになるケースがいかに多いことか。前述の高性能磁石はそうした例だ。中国も当然、孫氏の兵法の分断作戦で、そこを揺さぶってくる。

 企業同士の情報交換も大事になってくるが、これには独禁法違反の懸念から躊躇(ちゅうちょ)する向きもある。しかし懸念払しょくの工夫もできる。欧州連合(EU)などは現地商工会で欧州企業が集まってこうした意見交換を積極的に行っている。日本も現地の公的出先機関などがそうした場を設定して、対処すべきだろう。こうしたことを言うと、「かえって日本企業が中国政府ににらまれる」といった慎重論を唱える人もいる。それこそ中国の思うつぼだろう。

 ◇

 1国で、世界の人口の18%が住み、世界のGDPの16%を占めている中国、この購買力と経済力を持ってすれば、世界の企業を誘引するパワーは絶大です。日本も(欧米も)そのパワーに引き込まれ、過去多大な投資と技術をつぎ込みましたが、いつの間にかその技術をパクられ、今では経済的のみならず、一部の技術では後れを取ってしまっています。

 更にこの記事にあるように、日本の現在でも世界の先頭を走っている素材や技術まで、中国の後塵を拝する恐れがないとは言えません。このブログで何回も取り上げていますが、何とかして中国からの経済的依存関係を脱しなければいけません。特に先端技術分野においては、前回取り上げた韓国と同様、非中三原則(教えない、助けない、関わらない)を覚悟を持って推し進めることが必要でしょう。

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