政策課題

2021年12月 8日 (水)

「文通費」:税金浪費の議員へのお手盛り、廃止しかない

2021111523333910006_l  たった一日(実際は数時間)の国会議員在職でも、「文書通信交通滞在費」、いわゆる「文通費」を100万円満額支給、という現行法に待ったをかけるように、現国会で維新と国民民主が共同で日割り法案を提出しようとしています。

 ただこういう議員に直結する法案は、全会一致が通例のようで、すぐには成立しない事情もあるとか。しかし果たしてこの「文通費」、実際に必要なのでしょうか。政治評論家の筆坂秀世氏が、JBpressに寄稿したコラムを取り上げてみます。タイトルは『国会議員に「文書通信交通滞在費」はいらない理由 領収書添付などでごまかしてはならない』(11/30)で、以下に引用して掲載します。

 ◇

国会議員にいくら国費が投入されているか

 国会議員の歳費や諸手当は多すぎる。「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」によれば、「議員は129万4000円を、それぞれ歳費月額として受ける」とある。一般的に言えば給料である。これに6月と12月に期末手当が支給される。最近で言えばそれぞれ300万円強である。合算すると年間2150万円を超える額が支給されていることになる。

 この他に、いま問題になっている「文書通信交通滞在費」が議員個人に月額100万円、年間1200万円支給されている。これですでに3350万円になる。

 この他に「立法事務費」というのがある。これは国会の各会派に支給される。会派とは、議院内で活動を共にしようとする議員のグループで、2人以上の議員で結成することができる。会派は、同じ政党に所属する議員で構成されるのが普通だが、政党に所属していない議員同士で会派を組んだり、複数の政党で1つの会派を構成したりすることもある。委員会の委員・理事、質疑時間の割り当てなどは、会派の所属議員数に比例して会派ごとに割り当てられる。現在の衆議院で言えば自民党は単独で会派を構成しているが、立憲民主党は「立憲民主党・無所属」という会派名で届け出ている。

 この会派に、議員1人当たり毎月65万円の立法事務費が支給されている。自民党の場合だと衆議院の議席数は262人なので毎月1億7030万円が支給されている。衆議院全体だと議席数が465だが無所属が4人いて、会派を構成していないので461人分の2億9965万円が支給されている。参議院は、会派を構成している議員数が235人なので毎月1億5275万円が支給されている。立法事務費だけでも毎月衆参両院に4億5000万円以上が支給されている。年間約54億円だ。

 国会は立法府だから、立法に関する調査研究の推進に資するため必要な経費の一部だと説明されている。各会派は立法事務費経理責任者を定め、同経理責任者が扱うことになっているが、実態としては各党の本部の収入に計上され、本部経費に充当されている。この資金も使途の公開は義務付けられていない。不透明な資金なのだ。

 文書通信交通滞在費が問題なら、この立法事務費も根本的に見直すべきだ。

 日本共産党を除く各政党には、年間約300億円の「政党交付金」も支給されている。熱心に立法調査を行うのなら政党交付金でまかなうのが筋だろう。そもそも巨額な資金を使うほど地道な立法調査活動をしているとは到底思えない。

 この他にも、公設秘書3人の給与が税金でまかなわれている。平均年収は930万円というから相当なものだ。

お手盛りで作ってきたルール

 日本維新の会の新人議員がたった1日で100万円も支給されるのはおかしい、と問題を提起した。これは良い提起であった。この提起が契機となって、文通費をまとめてではなく、在職日数に応じて日割りで支払えるよう、来月召集の臨時国会で歳費法が改正される見通しだという。だがこの程度のことで、改革した・改善した、などとは到底言えない。もっと根本的な見直しが必要だ。

 国会法第38条に、「議員は、公の書類を発送し及び公の性質を有する通信をなす等のため、別に定めるところにより手当を受ける」とあるのが月100万円支給の根拠だ。では「公の書類」とは何か。「公の性質を有する通信をなす等」とは、どういうことか何らの規定もないのだ。要するに、非課税のつかみ金を国会議員に渡すためにお手盛りで作ってきただけのことなのだ。

 2008年1月に、鈴木宗男衆院議員がこの問題で政府への質問主意書を提出し、次のように問いかけている。

(1)法的根拠及びその使用目的について政府、内閣は承知しているか。

(2)その使途を報告する義務は課されていないが、その理由を政府、内閣は承知しているか。

(3)予算額及び予算項目、そしてその積算根拠を明らかにされたい。

(4)国民の視点からすれば国会議員の特権と映ると考えるが、政府、内閣はどう考えるか。

 これに対する当時の福田康夫内閣の回答は、(1)については、「公の書類云々」の法律に書かれていることのみ。(2)については、承知していない。(3)については、月100万円に衆参両院の議員数と12カ月を乗じたもの。(4)については、具体的な使途については承知していないが、各議員において制度趣旨を踏まえた使途に用いられているものと考えている。その取り扱いは国会で議論を、という木で鼻をくくるようなものだった。

 国会においてお手盛りで決めたものだから、そもそも法的根拠も積算根拠もないのだ。

国会議員にはJRや私鉄の無料パスが交付されている

 国会議員には、新幹線のグリーン車などJR全線の無料パス、JR全線無料パスと月3往復分の航空券(地元が飛行機を利用する地域の議員)、などが交付されている。このために国会の予算からJRと航空各社に合せて年間13億円の支払いが行われている。

 国会議員は私鉄やバスも乗り放題である。国会議員には、私鉄各社に乗ることができる「鉄道軌道乗車証」と、全ての路線バスに乗ることができる「バス優先乗車証」も交付されているからだ。日本バス協会は、「各社の経営状況が厳しく、2005年から衆院に無料パスのとりやめをお願いしているが、話が進んでいない」という。また各会派には、衆参両院からそれぞれ議員数に合わせて、公用車も配備されている。

 有料なのはタクシーくらいのものだ。この国会議員になぜ交通費を支給する必要があるのか。不要であることは、あまりにも明白だ。地元事務所で保有している自動車の費用だと言うかも知れないが、それは政治活動としてみずからの資金でまかなうべきものだ。

 さらに滞在費は、まだ議員宿舎が整備されていない時代の産物なのだ。しかしいまは、衆議院には新赤坂宿舎、旧赤坂宿舎、青山宿舎に490戸の宿舎が用意されている。参議院も新清水谷宿舎、麹町宿舎で100戸以上が用意されている。それぞれ豪華すぎると批判されている。

国会議員の「公の書類」とは何か

 11月16日放送のTBS系情報番組「ゴゴスマ~GOGO!Smile」に出演していた元自民党衆院議員の金子恵美氏が、文書通信交通滞在費について「100万で足りない人も多い。文通費自体が必要ないって考え方はちょっと違って、マジメに熱心に活動している人にとっては、100万でも足りないぐらい」と主張していたが、それを聞いて少し驚いた。100万円でも足りない人というのは、一体、何にどれぐらい使っているのか教えてもらいたいものだ。マジメに活動しているそうだから、ぜひ公開されるよう働きかけていただきたいものである。

 国会議員の「公の書類」とは何か。思いつくのは国会の本会議や委員会の発言録ぐらいのものだ。こんなものを大量に送っている議員など見たこともない。公の性質を有する通信とは何か。通信の秘密があるので、そんなものチェックしようもない。

 参議院の比例当選議員は、全国が“地元”である。換言すれば地元が存在しないのが比例当選の参院議員なのだ。多少狭くはなるが衆議院のブロックで当選した比例議員も似たようなものだ。公の書類などを送る必要性はまったくない。

 そもそも全国の有権者相手に公の文書を送付していては、億単位の費用が必要になる。そんなことをするわけがないのだ。通信費等も同様である。その比例議員にも同じように100万円が支給されている。どう考えてもおかしい。つまり文書・通信・交通・滞在費のすべてが不要なのだ。

 ◇

 私も筆坂氏の見解に賛同します。コロナ禍で職を失い、収入が途絶えている人も多い中、国会議員だけがお手盛りの報酬を自動的に得ていることには、国民の多くが疑問を持つでしょう。特に立憲民主党や社民党など、弱者に寄り添うと日頃訴えている党の議員ではなく、維新の議員が取り上げたのも、彼等の金銭感覚が麻痺している証拠だと思います。

 ここは日割りではなく是非廃止にして欲しい。そして全会一致などという悪習はやめて、できればこういう議員の利害に直結する法案は、利害なき第三者機関に諮問し、答申を得る制度に変えるべきだと思いますね。

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2021年11月16日 (火)

高市政調会長「10万円相当給付」合意への不満

Takaichi  日刊ゲンダイと言えば、左派(リベラルと言いたくないのでこの表現)の代表のようなタブロイド紙ですが、その記事の中に面白いのがありましたので取り上げます。

 タイトルは『高市政調会長「10万円相当給付」合意の内幕暴露 “蚊帳の外”に不満MAXで岸田首相に反乱か』(11/15)で、以下に引用します。

 ◇

 19日の経済政策決定まで、まだひと悶着ありそうだ。

 18歳以下を対象にした10万円相当の給付は、先週、岸田首相と山口代表との自公党首会談で、年収960万円以上の世帯は対象外とする所得制限を付けることで合意し、条件の「世帯」について岸田は児童手当のしくみと同じ「世帯主単位」だと明言。これだと、夫婦共に年収950万円を稼ぎ、世帯年収が1900万円でも支給対象になってしまうため、ネット上は批判で大荒れだったが、与党の政策責任者である高市政調会長までこれに噛みついた。12日放送のインターネット番組で「共働き家庭でそれぞれが960万円くらい稼いでいたらすごい金額になる。個人の収入だと非常に不公平が起きてしまう」と不満タラタラだったのだ。

 高市氏は公明党が選挙公約にした「18歳以下への10万円給付」に最初から反対し、「自民党の公約とは全く内容が違います」とバッサリ切り捨て、「自民党議員の事務所に抗議が殺到している」とツイートするほどだった。そうやって大騒ぎした結果、公明案は「所得制限付き」に修正されたわけだが、高市氏は納得していないようだ。

「幹事長同士で話をする」に不満タラタラ

 ネット番組の司会の櫻井よしこ氏に対し、「岸田首相から『幹事長同士で話をする』と電話があった。公約を書いた当事者(政調会長)同士だとハブとマングースの戦いになってしまうと、岸田首相と山口代表の判断だったのだろうと推測するが……」などと内情を暴露した上で、週明けの自民党内での政策を議論する会議で、世帯主単位の所得制限について異論が出る可能性を示唆したのだった。

「高市さんは暗に『なぜ政策責任者の私を外すのか』と訴えているのでしょう。岸田首相が高市さんを党三役に就けたのは、安倍元首相に配慮しただけ。政策通の茂木幹事長には、高市さんを抑える役目も期待している。外されたことが分かった高市さんが、このままおとなしくしているはずがなく、ネット世論をバックに反乱を起こしかねません」(自民党関係者)

 安倍元首相も、林外相の起用などの人事で岸田に対して不満を募らせている。今後、自民党内は「岸田・茂木vs安倍・高市」の暗闘が激しくなりそうだ。

 ◇

 ハブとマングースの戦いの方が、見応えもあり、死闘の末有効な案に落ち着いたのかも知れません。岸田首相への記者の質問に対し、首相は「所帯、所帯」と二度言った後に「所帯主」と答えているあたり、彼自身にも迷いがあったのでしょう。

 いずれにせよ、やはり党三役となれば幹事長が上という認識があります。従って、こと政策に関しても、政調会長より幹事長の方に決定権があるようです。であれば、次の党役員改選では高市氏に幹事長になってもらいたいですね。そして3年後には首相に、と言うのが我々の共通の願いでもあります。

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2021年9月25日 (土)

高市早苗氏の一推し政策、サナエノミクス「日本経済強靱化計画」

7_20210925092301  今回は再び高市早苗前総務大臣の政策課題を取り上げます。高市氏の経済政策は「日本経済強靱化計画」と名付けられましたが、原則として安倍政権下の「アベノミクス」を継承し、「サナエノミクス」として拡大発展させ、具体的な政策を盛り込みました。

 その「日本経済強靱化計画」の全貌が、月刊hanadaプラスに記載されていますので、以下に引用します。タイトルは『【わが政権構想】日本経済強靭化計画』(9/3公開)です。かなり長文なので、お忙しい方は太字の項目タイトルを追って、飛ばし読みいただければと思います。

「安倍さんに『出馬してください!』と何十回お願いしても『100%ない』とおっしゃるので、7月下旬、もうこれが最後との思いで、もう一度お願いしました。そこできっぱり断られたので、『そんなんやったら、私、出たるからな』と安倍さんに言うたんです。止められもせず、勧められもしませんでしたが。勉強会を何度も重ねて、一緒に政策作りにも励んできました。『書き溜めてきた政策はどうすればいいんですか』と安倍さんに尋ねたら、『高市さんが発表すればいいじゃない』と(笑)」(月刊『Hanada』2021年10月号より)。独占無料公開! 高市早苗議員が日本を強くする「経済強靭化計画」のすべてを語った!

*****

『サナエノミクス』は『ニュー・アベノミクス』

私の経済政策は、『ニュー・アベノミクス』と呼んでも良いものだと思います。

『アベノミクス』は、第1の矢が「大胆な金融緩和」、第2の矢が「機動的な財政出動」、第3の矢が「民間活力を引き出す成長戦略」でした。『サナエノミクス』は、第1の矢が「大胆な金融緩和」、第2の矢が「緊急時に限定した機動的な財政出動」、第3の矢が「大胆な危機管理投資・成長投資」です。

この3本の矢を総動員して、物価安定目標であるインフレ率2%の達成を目指します。日本銀行のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)政策の下で、残存期間10年の国債の利回りをゼロ近傍に固定している状況では、「金融緩和」のみに頼って物価安定目標を達成することは極めて困難です。

『アベノミクス』の第2の矢「機動的な財政出動」は、デフレ脱却のためのマクロ経済政策を担う需要拡大のためのものでした。残念ながら、財務当局がこだわった「PB(プライマリー・バランス=基礎的財政収支)黒字化目標」の下、結果的には緊縮財政を継続せざるを得ない結果となり、物価安定目標の達成を困難にしました。

『サナエノミクス』の第2の矢「緊急時に限定した機動的な財政出動」は、あくまでも災害、感染症、テロ、紛争、海外の景気低迷などの要因による「緊急時の迅速な大型財政措置」に限定することとします。

『アベノミクス』の第3の矢「民間活力を引き出す成長戦略」は、規制緩和などで創意工夫を促進し、より生産性の高い産業・企業に生産要素(労働・資本)が流れやすいようにして経済全体の生産性を向上させようとする「改革」が主でした。

働き方改革、農政改革、電力・ガス小売全面自由化、貿易自由化などが、安倍内閣の成果として象徴的でした。今後も、十分なセーフティネットを前提に、真に必要な「改革」については、個別の法制度整備によって対応を続けるべきであることに変わりはありません。

『サナエノミクス』では、第3の矢「大胆な危機管理投資・成長投資」が、大規模な財政出動や法制度整備を伴うものであり、重要な位置付けとなるのです。

第3の矢「大胆な危機管理投資・成長投資」

「危機管理投資」とは、自然災害や疾病、サイバー攻撃や機微技術流出を含む経済安全保障上の課題、テロ、国防上の脅威など様々な「リスクの最小化」に資する研究開発の強化、人材育成、安全と安心を担保できる製品・サービスの開発や社会実装、重要物資の調達などに資する財政出動や税制措置を行うこと。

「成長投資」とは、日本に強みのある技術分野をさらに強化し、新分野も含めて、研究成果の有効活用と国際競争力の強化に向けた戦略的支援を行うことです。

「危機管理投資」によって世界共通の課題を解決できる製品・サービス・インフラを生み出すことができた場合には、国際展開を行うことによって「成長投資」にもなるのです。

自然災害でもサイバー攻撃でも、事前の備えにかかるコストより、復旧にかかるコストと時間のほうが膨大です。「危機管理投資」の恩恵は、これから生まれる未来の納税者にも及ぶものです。

また、「危機管理投資」も「成長投資」も、雇用を生み、個人や企業の所得を増やし、消費マインドを改善させ、製品・サービスの輸出も見込めることから、結果的には税収増を目指すものです。

真に力強い経済を目指すためにはインフレ率3%以上が理想ですが、先ずは物価安定目標であるインフレ率2%を達成するまでは、時限的に「PB規律」を凍結して、戦略的な「大胆な危機管理投資・成長投資」に係る財政出動を優先する。

頻発する自然災害やサイバー攻撃、感染症、エネルギー制約、高齢化に伴う社会保障費の増大など困難な課題を多く抱える現状にあって、政策が軌道に乗るまでは、「追加的な国債発行」は避けられません。

イェール大学の浜田宏一名誉教授が「政府の財政収支を気遣うあまり、現在苦しむ人を助けず、子供の教育投資を怠って、生産力のある人的資本を残さないでもよいのか」と表現しておられたのが分かりやすい。

こう書くと、「日本国が破産する」と批判される方が多いでしょう。

しかし、国債発行は「避けるべきもの」ではなく、「必要な経費の重要な財源として活用するべきもの」。もちろん、債務残高対GDP比については注視していきます。

特に、

「日本では、日本銀行に通貨発行権があり、自国通貨建て国債を発行できることから、デフォルトの心配がない幸せな国であること」

「超低金利の現在がチャンスであり、PBが赤字でも名目金利を上回る名目成長率を達成していれば、財政は改善すること」

「企業は、借金で投資を拡大して成長するが、国も、成長に繫がる投資や、将来の納税者にも恩恵が及ぶ危機管理投資に必要な国債発行については、躊躇するべきではないこと」

を、強調しておきたい。

自国通貨を持つ米国(ドル)、英国(ポンド)、日本(円)では、中央銀行が自国通貨を発行できる。買いオペをして、国債と通貨を交換することができる。国債を発行して政府支出を行えば、マネーストックは増えます。「政府の借金」が増えることは、「国民の資産」が増えることです。

『財政法』第4条が「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。 ただし、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」と規定していることから、「建設国債なら良いが、赤字国債の発行は違法ではないか」と質されることもありますが、特別に赤字国債の発行を認める『特例公債法』(年度毎に名称は区々)を制定した上で「国会の議決を経た金額の範囲内」での発行は可能となっています。

財政当局も含め多くの方が、「子や孫にツケを回すことになるので、国債発行は望ましくない」と言われるけれど、将来世代が税金で償還するとしても、償還を受ける世代もまた同世代だ。

将来世代に負担を残すことになるのかどうかは、国債発行によって金利が上がるかどうかで判断するべきです。金利が上がれば、民間投資が阻害され、将来の消費可能資源が減ってしまう。しかし、現在のような超低金利下では、そのようなことは起こりません。

金利が一定の下で貨幣供給を続けると、インフレが止まらなくなるという指摘もある。そのような場合には、「危機管理投資」と「成長投資」について、柔軟に年間投資額を調整すればよい。

「強い経済」は、中期的には財政再建に資するものであり、将来世代も含めた全世代の安心感を創出するための社会保障を充実させる上でも不可欠です。外交力や国防力、科学技術力や文化力の強化、そして豊かな教育の実現にも直結する。

『サナエノミクス』においては、歳出分を全て国債に頼るわけではありません、「分厚い中間層を再構築するための税制改正」の考え方についても書かせていただきます。

育児や介護をしながら働く人たちをサポート

育児や介護や看病をしながら働く方が多い中、「ベビーシッターや家事支援サービスの利用促進策」として、利用代金の一部を税額控除することを提案します。

実は、自民党政調会長在任中に、「ベビーシッター等減税」を内閣への提言書に盛り込んだことがありました。

ところが、「ベビーシッターや家事支援サービスを利用できる人は高額所得者が多く、金持ち優遇批判を受ける」「そもそもベビーシッターや家事支援業には国家資格がなく、税制優遇の対象としにくい」などの指摘を受け、同年の厚生労働省の税制要望事項にはなりませんでした。

その代わり、内閣府が「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業」を開始し、企業が「公益社団法人 全国保育サービス協会」に申し込めば、2,200円の割引券(月、一家族24枚上限)が受け取れる施策ができた(対象児童1人につき1日2枚使用可能)。しかし、割引券等取扱事業者以外のベビーシッターには利用できず、そもそも本事業をご存知ではない事業者や従業者が多いのではないかと感じています。

現在は国家資格がありませんが、ベビーシッターについては「公益社団法人 全国保育サービス協会」が独自資格を付与しているし、家事支援サービスについては「公益社団法人 日本看護家政紹介事業協会」による家政士社内検定がある。

厚生労働省が所管する『職業能力開発促進法』に基づく『省令』の改正を行い、前記の2団体が有するノウハウを活用しながら「国家資格」にした上で、利用者が直接、税額控除を受けられる方法に変更したほうが、使い勝手が良い。

育児、介護、看病をしながら働く方々をサポートする環境作りも、大切な「成長投資」だと考えてます。

「災害損失控除」の創設を

これは税理士の先生方からのご指摘で気付いた課題です。

個人が災害により被害を受けた場合、現行の「雑損控除制度」では、課税所得の計算上、災害による損失と盗難・横領による損失を同じ取扱いにしている。

しかし、災害による損失は、盗難・横領による損失よりも多額になることが多い。保険金で損額が全額カバーされるわけでもない。その場合の救済策として、雑損控除から自然災害による損失を独立させて「災害損失控除」を創設するべきだというお話でした。

災害による担税力の喪失を最大限に勘案する観点から、先ず災害の有無に関わらず適用される他の所得控除を適用し、最後に「災害損失控除」を適用する順番とする。

激甚災害によって被害を受けた場合、生活基盤の再建には長期間を要する。よって、当年分の所得金額から災害損失と純損失を控除し切れない場合の繰越控除期間は、現在の3年よりも延長し、東日本大震災時に認められた5年にする。

自然災害が多発する昨今、多くの方々が望んでおられる税制改革案だと納得しました。

「内部留保課税」よりも、「現預金課税」で

次に、嫌われる増税の話です。

昨今、「厳しい景況下でも企業の内部留保は増えている。従業員の賃金増や設備投資を行わず企業が貯めこんでいる。内部留保課税をするべきだ」という声をよく伺います。「内部留保」とは、企業が得た利益から株主への配当金、税金や役員賞与金など社外流出分を引いた利益留保額で、「利益剰余金」と呼ばれます。

企業の危機対応や成長投資などに使われるが、リーマンショック以降、海外子会社への投資や海外企業に対するM&Aに活用され、固定資産を取得している場合もあり、必ずしも企業内貯蓄として現金が余っていることにはならない。

東京財団政策研究所研究主幹の森信茂樹氏によると、2015年に韓国で、設備投資や賃上げを行わずに内部留保を積み上げる企業への懲罰的な課税として「企業所得還流税制」と呼ばれる内部留保課税が3年間の時限措置として行われたものの、結局、設備投資も賃上げも実施されず、留保金課税を避けるために配当の増加で利益処分を増やしたということでした。

「内部留保」は貸借対照表では「貸方」ですが、私は、むしろ貸借対照表では「借方」の「現金・預金」に着目している。

『法人企業統計調査』の2021年1~3月期を見ると、前年同期に比べて「現金・預金」が約34兆円増え、総額235兆円を超えている。仮にこの「現金・預金」だけに1%課税しても、2兆円を超える税収になる。ただし、資本金1億円未満の企業は課税対象外にするという方法も考えらます。

企業規模別の統計は、2019年度分が最新データ。同年度の法人企業の「現金・預金」の総額は、221兆2,943億9,100万円。資本金1億円未満の企業の「現金・預金」総額122兆7,305億400万円を除くと、98兆5,638億8,700万円。ここ数年間の増額傾向を考えると、現状、概ね100兆円と推測できます。仮に1%の課税で1兆円、2%の課税で2兆円ということになる。

ただし、「現金・預金」への課税であれ、「内部留保」への課税であれ、法人課税された後のものなので、「二重課税だ」という不満は出ると思います。

仮に「従業員への分配」を進めることだけを目的にするのならば、各種特別措置を廃止して法人税率を一律25%にして、5%以上の昇給を実施した企業については5%の減税措置を講じる方法もある。

「炭素税」の在り方

これも、増税の話になります。

菅内閣が「2050年カーボンニュートラル」という大きな目標を表明したことから、「炭素税」の議論が活発になってきている。

現在の日本で「炭素税」と呼べるものは、CO2排出量に比例して課税されている「地球温暖化対策税」です。石油石炭税の上乗せ税率として、2012年に導入されました。

「地球温暖化対策税」では、全ての化石燃料に対してCO2排出量1トンあたり289円が課税されています。英国では約2,600円、フランスでは約5,600円、スウェーデンでは約1万5,000円という水準だそうだから、日本は極端に低い。

この「地球温暖化対策税」の税率を引き上げるというシンプルな方法も考えられますが、その税収は「エネルギー特別会計」に繰り入れられて、地球温暖化対策に充当される。

事業者の税負担が増え、消費者に転嫁される可能性が高い場合、その税収の使途は、所得税減税で家計負担を軽減したり、法人税減税で企業の負担を軽減したり、産業構造転換に使ったり、納得感のあるものにできるほうが望ましい。

すると、使途が限定されてしまう「地球温暖化対策税」の引上げ以外の方法を考慮したほうが良い。

現行の「石油石炭税」については、CO2排出量1トンあたりの税負担が、品目ごとにバラバラで不公平感が大きい。原油・石油製品は779円、ガス状炭化水素は400円、石炭は301円。この格差をなくすような「炭素税」を設け、原油・石油製品は低額に、石炭は高額に設定する方法もあるでしょう。

公平で、使途についても納得感があり、事業者の技術革新を促し、成長に繫がるような税制を構築しなければならない。

今後も専門家による様々なアイデアが出てくると思うので、よく注視しながらベストな税制を考えていきたいと思います。

「金融所得税制」の在り方

引き続き、増税の話です。

金融所得税制については、「逆進性」が大きい。不満は出ると思いますが、この時期には増税をさせていただきたい。

マイナンバーを活用して金融所得(配当所得と譲渡益)を名寄せして、50万円以上の金融所得の税率を現状の20%から30%に引き上げると、概ね3,000億円の税収増になります。2021年度(予算)の配当所得と譲渡益に係る財務省資料の数字を基に試算です。

「給付付き税額控除」の導入を

私は、「格差の是正」を目指す場合にも、「勤労インセンティブを促す」税制にすることが必要だと考えます。

低所得の方に対しては、勤労税額控除である「給付付き税額控除」を導入して支援したい。一定額を下回る所得層に対して還付金を給付するもので、税制を社会保障に活用するので、行政コストも安く済む。

「給付付き税額控除」が最初に議論されたのは麻生内閣の時でしたが、当時は正確な所得の把握が課題だった。2016年に導入されたマイナンバー制度により、正確な所得把握の条件は整っているし、銀行口座情報をマイナンバーに紐づけることによって迅速な給付が可能です。

日本経済が成長軌道に乗れば、将来的には、所得税課税最低限の引き下げとセットで所得税率を一律10%程度にすることで、所得税収総額は減らさずに、各人が努力しただけ報われる税制とすることが私の理想です。

「払う人」と「貰う人」の2分化が進み過ぎると、リスクをとって努力する人が日本に残らなくなってしまう。しかし、コロナ禍の現状では、前記の方法で財源を確保して、「分厚い中間層」を再構築するための格差是正策を断行する必要がある。

危機管理投資=成長投資

私が特にこだわっている第3の矢「大胆な危機管理投資・成長投資」に話を戻し、幾つかの例を紹介しましょう。

□必需品の国内生産体制構築に向けた投資

昨年来、私達は、マスク、消毒液、防護服、ゴーグル、人工呼吸器、麻酔薬、注射器、パルスオキシメーター、非接触体温計などの不足を経験しました。新型コロナウイルス感染症の軽症から中等症の患者に対応する治療薬を輸入しなくてはならなかったことも、不安を拡げた。半導体も世界中で不足していた。

特に大半を中国からの輸入に頼っていた衛生・医療用品については、サプライチェーンの脆弱性を思い知りました。米国には、『国防生産法』という法律があり、政府に、緊急時に産業界を直接統制できる権限を付与しています。

昨年3月、当時のトランプ大統領は、同法に基づき、自動車大手GMに対して、人工呼吸器の製造を命じました。

今年1月に就任したバイデン大統領も、同法に基づき、医薬品メーカー、メルクの工場を、ライバル企業J&Jのワクチン生産に転用し、米国内のワクチン生産を加速させた。米国政府は、メルクがワクチン生産や瓶詰めをする設備を導入できるよう、1億500万ドル(約116億円)を支出しました。 

日本の法律では、民間企業に対して、特定の製品を作ることや国内生産を強制するような対応はできません。しかし、私は、感染症や大規模災害の発生など緊急時でも「生活・医療・産業に必要な物資」の国内生産・調達を可能にする施策を確立することが必要だと考えます。

具体的には、「生産協力企業への国費支援策の具体化」「研究開発拠点・生産拠点の国内回帰を促す税財政支援策の構築」「基礎的原材料の確保」などが、「危機管理投資」になります。

□情報通信機器の省電力化研究への投資

社会全体のデジタル化が進む中、消費電力が急増しつつあることに危機感を抱いています。

情報通信関連の消費電力は、2030年には現在の約30倍以上に、2050年には約4,000倍以上に激増するという予測があります(国立研究開発法人 科学技術振興機構)。特にAI(人工知能)、データセンター、ネットワーク系、スーパーコンピュータの消費電力が大きい。

たとえば、「アルファ碁」を1時間稼働させると、60世帯が1時間に使用する電力を消費すると言われます。今や日常的に利用する製品・サービスにもAIが搭載されており、AIの省電力化は急務です。

また、昨今は、経済安全保障を意識して、「データセンターの国内回帰」を求める声が高まっています。特に消費電力が多いサーバを中心にデータセンターの省電力化も急務です。

裾野が広い情報通信産業における「省電力化研究開発の促進」とともに、「安定的な電力供給体制の構築」を急がなければ、生活や産業が成り立たなくなる時が迫っています。

この分野への国費投入は「危機管理投資」ですが、世界中が同様の課題に直面することから海外展開ができるので「成長投資」にもなり得る取り組みです。

太陽光パネルのリサイクル技術開発への投資

太陽光パネルの耐用年数は20年から30年とされているので、2012年の「再生可能エネルギー固定価格買取制度」創設から計算すると、約10年後には、耐用年数を迎えた初期型パネルの大量廃棄が始まるでしょう。現在でも、自然災害によって損壊した太陽光パネルの廃棄は行われています。

太陽光パネルには、鉛やセレンなど有害物質を含む製品があり、適切に処分しないと「土壌汚染」が発生。建物から取り外しても、日光が当たる限り太陽光パネルは発電を続けるので、パネル面を表に向けたまま廃棄した場合、「感電の危険」があります。

多くの皆様の安全に関わる課題だと考えたので、総務大臣在任中だった2017年に、行政評価局長に対し、「太陽光発電設備の廃棄処分等に関する実態調査」を指示。その結果、「産廃処理事業者が、有害物質の含有可能性を認識せずに破砕し、遮水設備のない処分場に埋め立てていた」ケースが報告されました。

また、「産廃処理事業者が有害物質の含有状況を確認しようとパネルメーカーに照会したのに、メーカーが情報開示を拒否した」という悪質なケースも。

事業者によると、太陽光パネルのリユース・リサイクルを実施する事業者はほとんどないそうです。パネルの2割を占めるアルミフレームはリサイクルに回りますが、7割を占めるガラスは、分解が容易ではなく、再生利用先の確保も困難なので、破砕され、埋められます。

リサイクルを推進するためには、強力接着されたガラスや結晶シリコンなどの分解技術の開発や、コスト面の課題を克服する必要があるということでした。

私は、製造業者を含む関係事業者による使用済みパネルの回収・適正処理・リサイクルシステムの構築のために必要な「法制度整備」を、特に経済産業省に強く求め続けてきましたが、未だ実現していません。

太陽光パネルのリサイクルに必要な技術の開発は、約10年後に迫った大量廃棄の発生に備えた「危機管理投資」であり、世界の太陽光発電市場の大きさを考えると「成長投資」にもなる取り組みだと考えます。

この他、感染症収束後には大量廃棄が見込まれる「アクリル板の処分方法」についても、環境に優しい処分方法の研究や地方自治体への財政支援も、国が行うべき「危機管理投資」だと思います。

防災・食・住の変革に対応できる投資

気象庁の『地球温暖化予測情報第9巻』と環境省の『2100年未来の天気予報(夏)』を併せ読むと、衝撃的な日本列島の姿が容易に想像できてしまい、怖くなります。

地球温暖化対策が上手くいかない場合、55年後(2076年)から79年後(2100年)の変化として、全国平均4・5度以上の気温上昇により、局地的に1時間に100ミリの激しい雨が降り、最大瞬間風速70メートルから90メートルの台風に襲われ、農産物の品質や収穫量も変わってしまう。

風速70メートル超の風や1時間に100ミリを超える雨は、「土木」や「建築」に根本的な変革を促します。しかも、いきなり55年後に起きる変化ではなく、年々気候は変動していくわけですから、生命を守るために、「厳しい気候にも耐え得る土木・建築技術の研究開発」と「防災対策への大胆な投資」を急がなくてはなりません。

「防災対策」は、10年間で約100兆円規模の『中期計画』を策定し、技術革新とともに計画を更新しながら継続していくべき重要な「危機管理投資」です。

気候変動によって、「食」も「住」も、現在とは大きく変わるでしょう。世界的な「水ストレス人口の増大」も避けられません。55年というと長いようですが、国民の「食」と「住」が変わるには、1世代の時間が必要。今から優先順位を決め、取り組みを加速させるべきです。

「農業」については、気候変動に対応しつつ、データを駆使し、生態系を持続させる形に転換させることになるでしょう。  

農地や牧地に止まらず河川流域全体や市街地全体を再設計する「グリーンインフラ技術」が注目されています。同じ変化に見舞われる諸外国に関連技術や産業は輸出できるので、同分野への投資は「危機管理投資」と同時に「成長投資」にもなる。

これらの課題については、現内閣では政策が体系化・具体化されていないので、集中的な検討をしなければなりません。

「老朽化した集合住宅の増改築投資」も、喫緊の課題です。

国土交通省が老朽化した集合住宅の建て替えを促進するために容積率を増やす『省令』 『告示』の改正を行うことが追い風になるはずですが、「空き住まい部分の買い取り」「増改築」「管理・売却の代行」を一体的に行う仕組みを整備する必要があります。UR(都市再生機構)の機能を強化し、実施自治体を支援する財政措置を新設することが現実的です。

現状の防災対策としては、地方自治体には「使えるものは、使う」という観点から、国の施策も積極的に活用していただきたい。

たとえば、私自身が発案し、『地方財政法』を改正し、令和2年度に創設した「緊急浚渫推進事業」を早期に活用した地方自治体では、昨年の7月豪雨で被害が出ませんでした。「浚渫(しゅんせつ)」というのは、河川や貯水池などの水底の土砂を掘り取ることで、河川の流路を拡げたり、深度を増したりすることができます。

主要河川と言われる1級河川は、『河川法』によって国土交通大臣が指定し、浚渫などの維持管理費用も国土交通省が措置する。しかし、2級河川と1級河川の一部区間は都道府県知事が指定し、準用河川は市町村長が指定することとなっており、維持管理費用は国庫補助事業の対象とならず、地方自治体の厳しい財政事情から、十分な対応ができていませんでした。

近年の豪雨災害では、市町村管理の小さな河川の越水でも命に関わる被害が出ており、地方自治体が自ら防災事業に取り組める環境を整えることが急務です。

「緊急浚渫推進事業」の「浚渫」とは、河川、ダム、砂防、治山に係るもので土砂の除去・処分、樹木伐採などを含め、事業費総額は5年間で約4,900億円規模。令和3年度からは、農業用ため池も対象に追加されました。

各地の川底を掘って発生した土砂については、土質などの情報を公表することにより、地方自治体や建設事業者が他の事業に広く有効活用できる仕組みも構築。

富山県立山町では、浚渫事業により発生した土砂を企業団地の造成事業に活用し、宮崎県では、津波避難のための高台整備事業、道路改良事業、河川堤防整備事業に活用しました。徳島県は、四国横断自動車道の工事に活用しています。土質にもよりますがが、土砂の売却によって地方自治体の新たな財源を生む可能性もある。

日本に強みがある技術を活かす投資

私は、「日本に強みがある技術」について、研究成果の有効活用や国際競争力強化に向けた戦略的支援を長期的に行うことが、「成長投資」の目玉になると考えています。たとえば、「電磁波技術」では、神戸大学の木村建次郎教授の手による「マイクロ波マンモグラフィー」に注目しています。

癌組織と正常組織のマイクロ波の反射の違いを利用し、散乱したマイクロ波から癌組織を瞬時に3次元映像化するもの。販売は来年以降になるそうですが、多くの医療機関が導入して「痛くない乳癌検診」「被曝しない検査」が実現したなら、どれほど多くの女性が幸せになることでしょう。

痛みが酷い現在のマンモグラフィーへの恐怖から乳癌検診を先送りしてしまう私のような女性が多いと思いますが、現状では約40%に止まる乳癌検診の受診率が上がることによって早期発見に繫がり、医療費の節約にもなる。

手術費用と治療薬費用を合わせると、年間約632億円の医療費削減効果が見込めます。しかも、世界中に輸出できる医療機器になります。

また、空港などのセキュリティゲートでも、超高感度磁器計測および画像再構成理論を適用した凶器探知なら、無人で機械判定ができ、立ち止まらない検査も可能です。

バイオ関連では、タンパク質の3次元構造解析が可能な「クライオ電子顕微鏡」を実用化・市場導入し、次世代の創薬研究開発の基盤構築に貢献したのは、日本電子。30年以上の産学官連携による研究開発が成功した「成長投資」の好事例です。

光学顕微鏡ならばミクロンレベルだが、電子顕微鏡は1ナノメートル(100万分の分1ミリ)で、原子1個が見えます。供給できるのは世界で3社しかない。電子顕微鏡は、創薬に加え、多分野の材料開発に不可欠。半導体分野でも、半導体デバイスがナノレベルに小さくなっていることから、開発や品質管理に使われています。

日本電子のコアテクノロジーには、核磁気共鳴装置(NMR)もあり、科学技術を前に進める分析の母となりそうです。日本電子の栗原権右衛門会長によると、「過去には政府の『設備整備予算』がついていたが、同政府予算は大幅に減額されている」ということでした。

「成長投資」で応援するべき分野です。

半導体分野と産業用ロボット

世界的に不足している「半導体分野」でも、日本は一定の優位性を維持しています。

ロジック半導体(演算処理)は、自動車とFA用マイコンについて日本企業の世界シェアを見ると、ルネサスが1位。パワー半導体(電力の制御や供給)の世界シェアは、

 

NANDフラッシュメモリ(データ記録)の世界シェアは、キオクシア(旧東芝メモリ)が2位。CMOSイメージセンサの世界シェアは、ソニーが1位。半導体分野で、日本で作れないのは、シングル・ナノのチップ。世界では、TSMC、サムスン、インテルの3社だけが供給している。

半導体は、パソコン、スマートフォン、IoT、DC/HPC、5Gインフラ、電動車、自動走行、スマートシティ、AI、ロボティクスと、日本と世界の成長を支える製品・サービスに欠かせません。

今後、「設計・製造」はもとより、「設計支援」(回路設計図・電子設計自動化支援ツール)、「製造装置」(成膜・エッチング・露光・塗布・現像・洗浄)、「素材」(シリコンウェハ・レジスト)についても、強いプレイヤーを育成するための支援を行うことが、「危機管理投資」にも「成長投資」にもなるでしょう。

また、日本メーカーの「産業用ロボット」は、世界シェアの6割弱を占めている。

世界のロボット4大メーカーは、日本のファナック(シェア1位)と安川電機、スイスのABB、中国のクーカ(ドイツのメーカーを中国が買収)。

世界の産業用ロボット販売台数は、2013年から2017年の5年間で2倍に増加しており、今後も年平均14%増が見込まれています。

産業用ロボットの最大の納入先は自動車産業ですが、電機・電子部品、金属製品、産業機械、家電、物流、航空、宇宙、プラスチック、医薬品、化粧品、食品、農業など、幅広く自動化の展望が開けているので、引き続き成長が期待できる分野です。

順調に見えるロボット分野にも、課題があります。システムインテグレーターの不足です。少人数の個人事業主が多く、資金繰りも厳しい。人材育成と資金繰り支援は、「成長投資」になるはずです。

量子技術、漫画、ゲームも日本の強み

「マテリアル(工業素材)」も強く、日本の輸出総額のうちマテリアルは自動車と並んで2割を超えています。例えば、「液晶ディスプレイ」に使われるマテリアルについて、日系企業の世界シェアを見てみましょう。

「偏光板保護フィルム」では、富士フイルムやコニカミノルタなどで世界シェアは10割。「ガラス基板」では、AGC(旧旭硝子)や日本電気硝子などで5割。「偏光板」では、日東電工や住友化学などで6割。「ブラックレジスト」では、東京応化、三菱ケミカル、日鉄ケミカル&マテリアルなどで7割。「カラーレジスト」では、JSR、住友化学、トーヨーカラーなどで7割。

モビリティ、エネルギー、デバイス・センサー、食料など、私達の暮らしに欠かせない分野で「マテリアル」の重要技術領域は非常に多いのです。

今後、資源代替・使用量削減・易分別設計など「マテリアルの高度循環のための技術開発」や、MI、計測・分析、スマートラボ、製造プロセス、安全評価技術など「共通基盤技術の開発」を国が支援することは、有効な「成長投資」となります。

「量子工学」は、国家安全保障の帰趨を制する技術。欧米や中国は「量子技術」を国家戦略上の重要技術と位置付け、戦略策定、研究開発投資の拡充、拠点形成を急いでいます。   

日本でも安倍内閣が昨年1月に『量子技術イノベーション戦略』を策定した。当時の総務大臣だった私は、「量子セキュリティ技術」の研究開発の中核拠点をNICT(国立研究開発法人 情報通信研究機構)に整備することとし、運営交付金43・9億円を計上しました。

量子技術においても、「基礎理論」や「基盤技術」では、日本が優位性を持っており、欧米からの関心は高い。私は、安全保障の観点から、特に「国産の量子コンピュータ開発」を急ぐ必要があると考えています。

今年、IBMの実機が日本に導入されましたが、私は、理化学研究所、日立、富士通、NECには、十分にハードウェアを開発できる技術と人材があると思っています。しかし、個社の経営陣が巨額の開発費を使うプロジェクトを決断するのは困難でしょう。

スーパーコンピュータ「富岳」の開発も終わり、次の大型国家プロジェクトとして、理化学研究所と企業群を中心に「量子コンピュータ開発機構」を設立し、3年間で3,000億円規模の集中支援を行い、国産の量子コンピュータを開発、社会実装することは、日本が急ぐべき「危機管理投資」だと考えます。

さらに量子技術イノベーションを進め、量子暗号通信、量子計測・センシング、量子マテリアル、量子シミュレーションなどの技術領域を国が支援することは、「成長投資」になる。食品・薬品などの微量異物検知、認知症やうつ病の解明、創薬への活用など、生活を安全で豊かにするのが量子技術です。

「漫画」「アニメ」「ゲーム」も、日本の強みであり、担い手の育成と起業支援の仕組み作りは「成長投資」になる。

先ず、高等教育機関で、著作権や契約などに関する法律教育を行う。次に、外資とのイコールフッティング(競争条件同一化)や海外配信網の整備などを支援する。さらに、資金面では、投資家の税負担軽減策として、「寄付税制」を所得控除から税額控除にする。法人課税の繰り延べ、遺産からの控除、相続課税の繰り延べなどの方法もあります。

感染症対策の強化に向けた投資

内閣が懸命に取り組んでいるワクチン接種の促進やマスク着用の徹底など「感染者数を減らすための取組」は変わりなく大切ですが、「重症者数・死亡者数の極小化」に向けた対策の重点化が必要。軽症から中等症Ⅰの患者対象の治療薬である「抗体カクテル」(カシリビマブ、イムデビマブ)を、早期に幅広く処方できるようにするべきです。

治療薬の処方が可能な場所を「感染症患者を受け入れている有床の医療機関」と「自治体が指定した医師滞在の宿泊療養施設」に限定したままでは、治療薬が効かない段階に病状が進んでしまうので、「治療薬投与後の経過観察宿泊場所」や「移送手段」を確保した上で、総合病院外来の医師、無床の開業医師、患者宅を訪問して下さっている医師の皆様による処方を可能にするべきだと考え、8月上旬から厚生労働省に要請してきました。

容態によっては、中等症から重症用の治療薬「レムデシビル」、中等症Ⅱから重症用の治療薬「バリシチニブ」、重症用の治療薬「デキサメタゾン」の処方も必要です。

課題は、海外企業が開発した「抗体カクテル」「レムデシビル」「バリシチニブ」の供給量。厚生労働省に問い合わせましたが、「いずれも、全世界向けの供給量が限られている中、投与対象となる患者数の見込みに対応できる量の確保に努めているところです」との回答でした。

治療薬やワクチンについては、一刻も早い「国内生産体制」を確立しなくてはなりません。「創薬力の強化」は、エボラ出血熱など死に至るまでの時間が短い感染症への備えとしても、重要な危機管理です。

医療分野の研究助成金の規模は、米国が日本の22倍。医療・創薬分野の基礎研究と臨床研究については、国が「危機管理投資」「成長投資」として大胆に支援するべきです。

また、他の病気の治療薬の中で新型コロナウイルス感染症の治療にも有効だとして製薬会社から承認申請がされている薬がある。「緊急時に新薬を迅速に実用化できる薬事承認制度」の確立を急ぎたい。

感染症患者の宿泊療養施設としてホテルを活用する場合には、国がホテルの本来の営業利益や風評被害に対する十分な補償も行い、「自宅療養者を皆無にする」くらいの取り組みが必要。国が管理する研修施設や都道府県の公的施設の活用も進めるべきです。

また、早期に自らの症状を知り、保健所が迅速に対処方法を判断できるようにするための措置としては、全世帯に1個ずつ、「パルスオキシメーター」(経皮的動脈血酸素飽和度測定器)を配布するべきです。

全世帯ということになると、恐らく国内の在庫では不足しており、相当な生産拡大をしなければなりません。生産協力企業の設備投資に対する財政支援措置は「危機管理投資」になります。新型コロナウイルス感染症が収束したとしても、様々な疾病時に活用できるので、一家に1個の備えは無駄にならないと思う。

また、公務員の増員に対する批判があるのは承知していますが、検疫所や保健所の体制拡充と感染症病床の6割を有する公立病院の維持は、重要な「危機管理投資」です。

コロナ禍によって、飲食業や観光関連産業のみならず、取引先を含め、幅広い産業が深刻なダメージを受けました。事業継続や雇用維持が困難になった事業者も多く、失業や休業によって生活に困窮しておられる方々も居られます。

これまで内閣は、生活を守るための「緊急小口資金・総合支援資金」「住居確保給付金」「子育て世帯生活支援特別給付金」「給付型奨学金」等や、雇用を守るための「雇用調整助成金」「産業雇用安定助成金」「休業支援金・給付金」等や、事業を守るための「地方創生臨時交付金の協力要請推進枠」「一時支援金」「持続化補助金」など、各種支援施策を実施してきました。

今後は、「事業再建や事業再構築(業態転換・新分野展開)に向けた支援の強化」「生活に困窮しておられる方々への支援の強化」のために、大胆な予算措置が必要です。感染症収束後には、買い物、外食、旅行など、我慢していた消費が爆発的に増える「消費急増期」が到来する。その時に経済の担い手となる事業主体が消滅していては話になりません。

むしろ国が手厚い財政支援を行い、地方でも、今のうちに「選ばれる商品・サービス」の準備を行っていただけるような環境を整えることが、中期的に日本経済の回復に資する「成長投資」になるのではないでしょうか。

人材力の強化

「危機管理投資」「成長投資」の成功のためにも、全世代の安心感を創出するためにも、鍵となるのは、「人材力の強化」です。

第1に、実学重視のルートを多様化すること。高専や専門高校の拡充と、実業志向の大学への編入拡大など、進学ルートを増やすべきです。大学でも、最先端の設備を使った人材育成が必要です。

学生が、海外進出した日本企業でインターンとして学べるような取り組みも進めたい。東京大学は、「空気の価値化」をテーマにダイキンと10年間で100億円の連携をしているが、学生50人がダイキンの海外拠点に招かれ、海外ビジネスの最先端を体感している。学生の育成、共同研究、起業家育成を、大学と企業が共同で進めている好事例です。

第2に、学校教育におけるデジタル対応力の強化が必要です。

私が長年にわたって提唱してきた「プログラミング教育」は、ようやく昨年から義務教育課程に導入されました。今後は、AIを活用した多様な分野のイノベーションが期待できるので、「AI教育」の導入を進めるべきです。

AIを理解する上で欠かせない「線形代数」(行列)の、高校数学への再導入も必要であり、大学では、AIを使った商品・サービスの提案やソリューションの提供を行う「AIソリューション・プランナー」を育成することも重要です。

地方では、県立大学、高専、農業・商業・工業高校などでデジタル教育を充実することにより、地域産業振興に繫がります。

第3に、社会人が大学や大学院に入り直す「リカレント教育」だけではなく、社会人が働きながら教育を受け続ける「持続教育」を拡充すること。特に、国際ビジネスに対応できる教育、技術革新のスピードに即応できる教育の充実を期待したい。

第4に、若手研究者のための安定的雇用機会を増やす。

第5に、「フリーアクセスができる教材クラウドの作成」により、様々な事情を抱える方々の学びの機会を増やす。

第6に、生命や財産、健康を守るために、幅広い世代を対象にした「防災教育」「防犯教育」「消費者教育」「投資教育」「情報セキュリティ教育」「食育」「文化・スポーツ活動」を支援する。

第7に、初等中等教育、高等教育、地域学習などの場で、卒業・修了などの節目に必ず「社会制度教育」を実施することを提唱します。

生活保護の申請方法が分からずに亡くなったり、育児や介護の負担に耐え切れなくなったり、生活苦から進学を諦めたりする方が居なくなるように、生活・進学・育児・介護・障碍への支援策など利用可能な施策の周知を徹底することが大切です。

 ◇

 これだけの政策課題を積み上げたことに敬意を表したいと思います。更にこれ以外にも、コロナ対策、少子化対策、年金と福祉、安全保障、外交課題など幅広い分野にわたって知見を有する人は、おそらく野党はもちろん、自民党にも少ないのではないでしょうか。

 記事の冒頭で安倍元首相に「出ます」と言ったら、止められもせず、勧められもしなかった、と書き留めていますが、今や安倍元首相の猛烈な推しを得ている高市氏、追い上げ急な状況ですが、総裁へのハードルは高いでしょう。しかし日本再興の信念を持って、29日の投票まで存分に持論を展開していただきたいと思います。

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2021年9月14日 (火)

高市早苗氏:中国に日本の技術を盗まれないために

9-1_20210914100801  自民党総裁選に出馬表明をした高市早苗氏。以前にも彼女の記事を取り上げましたが、彼女の政権構想の中でも対中政策の部分に注目してみたいと思います。経済・技術両分野で今や最大の競争相手となった中国。しかもその発展を成功させたのは、多分に日本を含む欧米先進国からの技術の「パクリ」にあるというのは、言を俟たないでしょう。

 高市氏は、そうした中国の今後に警鐘を鳴らし、「我が政権構想」の一つとして月刊hanadaプラスに寄稿しています。今回はその部分を取り上げます。タイトルは『中国に日本の技術を盗まれないために』(8/25)で、以下に引用して掲載します。

 ◇

驚異の「極超音速兵器」に日本の技術

「極超音速兵器」は、マッハ5以上で飛翔します。弾道ミサイルに比べると、複雑な軌道を描くことができ、飛翔高度が低くレーダー探知距離が短いので、現存の防空システムによる迎撃は困難だと指摘されています。

中国では、軍需産業、国防科学技術大学(軍系大学)の他、国防7校と呼ばれる大学、中国科学院などが「極超音速兵器」の研究開発に従事しています。米国も「極超音速兵器」を開発しているが、現時点では中国に凌駕されていると聞きます。

この「極超音速兵器」開発の鍵となるのが、「スクラムジェットエンジン」と「耐熱素材」の技術です。これらの関連技術を支える日本の大学や研究機関に、中国人技術者が多数在籍していました。

なかには、日本の国立大学在籍中に日本政府の科学研究費補助金を受領し、JAXA関連施設にも出入りし、中国に帰国後は極超音速分野の新型実験装置の開発に成功した中国科学院の研究員もいました。この実験装置がJAXAの実験装置と類似しているとの指摘もあります。

北京理工大学(国防7校)副教授の専門はロケットエンジン燃焼ですが、もともと同大学の兵器発射理論・技術の修士課程に在籍した後、日本の国立大学で燃焼工学を専攻し博士となり、同大学の助教を務めました。

また、ハルビン工業大学(国防7校)教授の専門はセラミックスですが、日本の国立研究開発法人の研究員を務め、中国の国防科技イノベーショングループに所属し、多機能耐熱セラミック複合材料研究を行っています。

さらに、西北工業大学(国防7校)教授の専門は航空エンジン高温部品冷却技術ですが、日本の国立大学の研究員を務め、中国では「国防973プロジェクト」「国防基礎預研」「航空発動機預研」に従事しています。

この他にも、「極超音速兵器」に必要な「推進装置」「設計」「耐熱材料」「流体力学実験」などについて、中国科学院・力学研究所や国防7校の研究者が日本の学術機関に在籍し、帰国後に中国の大学や研究機関で極超音速関連研究に従事している事例が散見されます。

日本の大学や研究機関においては、海外人材受け入れ時のスクリーニング(身辺調査)が甘いので、日本の技術が中国の武器・装備品の性能向上を下支えしてしまっている可能性が高くなっています。

次のような法整備が必要です。

新しい法整備とスクリーニング

第1に、『国家安全保障・投資法』の制定が必要だと考えます。

現状、日本の外資規制については、『外国為替及び外国貿易法』『鉱業法』『電波法』『放送法』『日本電信電話株式会社等に関する法律』『航空法』『貨物利用運送事業法』『船舶法』の8本の法律で対応していますが、これらを統括し、『政令』によって対象分野の追加を容易にするべきです。

「外資による企業買収・合併や外国企業を買収・合併する場合のルール策定と審査体制の強化」と「安全保障貿易管理規程の整備と運用体制の強化」を行っておく必要があります。

米国では、既に人民解放軍との関係を有する中国企業への輸出規制や投資規制などを進めています。

第2に、『経済安全保障包括法』の制定も必要です。

現在の『不正競争防止法』では、日本の学術機関の研究成果が外国政府や軍に利用されることを防ぎ切れません。未だ製品化が決まっていない段階の大学での研究は殆ど「営業秘密」に指定されていない上、外国人研究者が祖国の国益に貢献する行為を「図利加害目的」(不正な利益を得る目的または損害を加える目的)とは断定できないからです。

復旦大学解放軍暗号研究共同イノベーションセンター代表を務める中国人専門家が日本の大学院で暗号技術に係る共同研究に参加した事例、イラン人研究者が日本の大学で超音速飛行体を扱う研究室に在籍した事例などがありましたが、現行法では黙認する他ないのです。

『経済安全保障包括法』では、先ず「研究申請窓口の一元化」を行い、先端技術・機微技術・戦略物資の研究を実施している学術機関・研究機関・企業を国が把握できる法的根拠を作ります。

また、学術機関・研究機関・企業が「機密にアクセスできる人材を認定」するためのスクリーニングを実施する制度も導入します。外国人ならば、入国前の査証審査時の要件とするべきです。

本気で迅速に取り組まなければならない

英国では、外務・英連邦・開発省(外務省)が大学院生レベルの44分野の理系研究者をスクリーニングする制度(Academic Technology Approval Scheme)があり、「ATAS証明書」がなければ査証の申請ができません。EU加盟国や日米など38カ国の国籍保有者は対象外です。

サダム・フセイン時代のイラクの女性科学者で、「世界で最も危険な女性」とも呼ばれた炭疽菌・ボツリヌス菌など微生物学の専門家が英国に留学していたことが分かって以来、先ずは各大学によるスクリーニングが始まりました。

2007年からは『移民法』に基づく規則の付属書にATASを位置付け、根拠法に基づいて外務省が責任を持つ現制度になりました。

ただし、審査時の申請内容が「身分事項」「研究内容」「発表論文」「推薦人2人の身分事項」「研究資金の財源」に限定されており、「共産党員か否か」「千人計画参加経験の有無」「研究成果の提供を本国に約束したか否か」といった項目が含まれていないことから、「知的財産の流出防止には不十分」との指摘がなされている。企業や研究機関の外国人研究者が対象外だという課題もあります。

フランスとイタリアでは、査証申請を受けた段階で、外務省がスクリーニングを実施し、治安・情報機関に対する照会も行っています。また、『経済安全保障包括法』には、研究者や社員に対する「秘密保全義務」と「罰則」も規定します。

『経済安全保障包括法』は、包括法なので複数の法律を改正できます。特許制度の見直しも可能です。現状では、日本の先端技術・機微技術は全て公開されてしまい、中国人民解放軍や北朝鮮軍に悪用される可能性が高いのです。軍事転用可能な技術を指定し、非公開にする「秘密特許」を可能にしたいと考えています。

日本が法制度整備や体制拡充など経済安全保障の強化に本気で迅速に取り組まなければ、同盟国・友好国の信頼を得ることができなくなり、日本企業との取引や日本の研究機関との共同研究を躊躇する国や組織が出てくる可能性もあります。

日本を守るためにも、日本の持続的成長への道を絶たないためにも、時間との闘いです。

 ◇

 日本はかつて技術分野でも世界の先端を走っている時期がありました。それも主として米国の技術を研究し応用し活用した部分が多いのも事実です。しかしそれが中国の「パクリ」とは異なるのは、主に民生品への応用技術だと言うことと、ソ連を中心とする共産主義国家と対峙して、同じ民主国家間での舞台で行われた技術競争という性格があります。

 しかし今日の中国との間の技術競争は全く性格が異なります。特に中国側の狙いは軍事への応用を前面に出していることです。憲法の制約もある日本では軍事技術の開発は完全に遅れを取っていますが、一方民生技術に優れた面が多い。その民生技術をパクられ、中国の軍事力の強化に応用されているのが実態です。そこに高市氏は警鐘を鳴らしているのです。

 高市氏は対中国政策だけではなく、日本を強靱化するための様々な政策提案をしています。このブログの目指す方向とも一致していますので、山際澄夫氏と同様、「高市総理」を待望します。

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