民族弾圧、ジェノサイド

2023年4月 2日 (日)

軍政下のミャンマーの惨状第二弾、日本人も投獄された「生き地獄」の刑務所のその実態

Nwdpan41qq_wm4ppt4qisk9g6ddrbnsrb4wonnb7  3日前、軍事政権下のミャンマーの惨状を、このブログで取り上げました。そのミャンマーでデモの撮影中に拘束された映像ジャーナリストの大塚智彦氏が、投獄されましたが、昨年恩赦で釈放されました。

 テレビ朝日でも数日前、釈放された本人が生出演し、身をもって体験した刑務所内の状況が、報道されました。一方インドネシア在住ジャーナリストの大塚智彦氏が、月刊hanadaプラスにミャンマーの状況を寄稿していますので、その記事を掲載します。タイトルは『ミャンマー刑務所の生き地獄|大塚智彦』(2/13公開)で、以下に引用します。

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いま、どんどん明らかになるウイグル人権弾圧の実態。 しかし、ミャンマーでも目を覆いたくなるような人権弾圧が……。

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2021年2月、ミャンマーではミン・アウン・フライン国軍司令官らによるクーデターが勃発、ノーベル平和賞受賞者で民主化運動の旗手とされたアウン・サン・スー・チーさんが実質的に率いる民主政府が転覆され、以来、軍事政権が続いている。

スー・チーさんら民主政府幹部や与党「国民民主連盟」(NLD)関係者はクーデター当日に身柄を拘束、スー・チーさんは19の容疑で訴追を受け、合計33年の禁固刑で刑務所での日々を送っている。

軍政は、民主政府復活やスー・チーさんらの釈放を求める市民によるデモや集会を暴力、拷問、虐待、そして殺害という強権弾圧で抑え込もうとしているため、対立が激化。民主政権時代から、国境周辺で軍との戦闘を続けてきた北部カチン州の「カチン独立軍」(KIA)や中東部カヤー州の「カレン民族解放軍」(KNLA)、西部チン州の「チン民族戦線」などの少数民族武装勢力に加えて、クーデター発生後に地下潜伏したり国外に逃れたりした民主派勢力が組織した「国民統一政府」(NUG)傘下の武装市民組織「国民防衛隊」(PDF)の武装市民らと衝突、戦闘も激化していて、ミャンマーは実質的な「内戦」状態に陥っている。

軍政は、PDFによる神出鬼没の都市街戦や山間部での待ち伏せ攻撃などのゲリラ的戦法に手を焼いている。PDFのメンバーや関係者、シンパなどの摘発に乗り出しているが、その過程で無実、無抵抗、非武装の一般市民への暴力的尋問が横行、抵抗する市民の殺害、疑わしき市民の逮捕が各地で相次いでいる。

そのため、国内に56カ所あるとされる刑務所はどこも政治犯で定員オーバー、超過密状態といわれている。

犬小屋に閉じ込められる

そうした刑務所では、反軍政抵抗運動などの容疑で逮捕されたいわゆる政治犯は劣悪な環境、粗末な食事などに加えて、刑務官や一般刑事犯収容者らによる恣意的な暴力行為、差別、虐待に日常的に直面している。健康を害しても、医療関係者による診断や満足な医薬品の提供を受けられずに放置されて、刑務所の房で命を落としたりするケースも多いという。

最近、こうしたミャンマーの刑務所の実態が独立系メディアの「ミッズィマ」 「ミャンマー・ナウ」 「イラワジ」「キッティッ・メディア」などで報道され、国内外に伝えられた。

独立系メディアで働く記者らは、治安当局から指名手配され、潜伏しながら命懸けの取材を続けている。

報道は、実際に服役している仲間や政治犯からの情報提供に基づいていることから、その内容の信憑性は極めて高い。

中心都市ヤンゴンにあるインセイン刑務所は悪名高い刑務所である。その劣悪な環境から、「人類が作った地獄」の異名をとっているほどである。130年以上前、イギリス植民地時代に住民弾圧のために建設され、放射状に伸びた房に定員の2倍(約1万人)の一般刑事犯、政治犯が収監されている。

収容経験者の話によると、独房などは下水設備も未整備で、硬い床の上に薄い毛布があるだけ。食事は小石や砂の混じった米に、肉ではなく動物の骨や腱がわずかに与えられるだけという貧弱なものだったという。

特に政治犯は、刑務官や取り調べに当たる治安当局者から殴る蹴るの暴力を受けるのが日常茶飯事。火傷を負わされたり、電気ショックを加えられたり、傷口に塩をすりこまれ、犬小屋に閉じ込められるなどの人権侵害が行われているのだ。

スー・チーさんも2003年と2009年に、政治犯としてインセイン刑務所に収監されたことがあり、ヤンゴンで反軍政の市民デモを取材中に逮捕された映像ジャーナリスト久保田徹さんや、入管法に問われていたビッキー・ボウマン元英国大使、スー・チーさんの経済顧問でクーデター発生直後に逮捕され収監されていたオーストラリア人のショーン・ターネル氏も収容された。

2021年4月には、ヤンゴン市内で取材中に拘束された日本人の北角裕樹氏も、拘束直後にインセイン刑務所に収監されて当局から尋問を受けた(北角氏は約1カ月後に釈放され、強制退去処分となって日本への帰国を果たしている)。

刑務所内で射殺

2022年4月には、インセイン刑務所内で受刑者の間に不穏な動きがあるとして、主に学生運動家などの政治犯100人以上が国内の56の刑務所に分散移送された。このような措置により、政治犯同士の連絡や情報共有を不可能にして孤立させる狙いが当局にあったとみられている。

6月にも同様のことがあった。

スー・チーさんの誕生日である6月19日は、クーデター前はスー・チーさんのシンボルでもある花を手にした市民が国中の街角で祝福のデモを行い、街角には多くの花が飾られ、国会でも誕生パーティーが催されるなど「民主化運動を率いた不屈の闘士」にとっては華やいだ一日となる。

インセイン刑務所に収容されている政治犯受刑者12人は、スー・チーさんの誕生日に密かにささやかなお祝いを計画。12人は手のひらに反軍政のメッセージを書き、刑務所内で行われる予定だった裁判の法廷で見せるというものだったが、刑務所内にいる当局スパイによって計画が漏れたため、雑居房から独房に移送されたという。

独房に移送された12人の政治犯は、お互いのコミュニケーションが取れなくなった。

ミャンマー中部の都市マンダレーにあるオポ刑務所とミンヤン刑務所も、現地ではともに「悪名高い刑務所」として知られる。

オポ刑務所では、6月5日に刑務官による過剰暴力が原因で2人の政治犯が死亡、13人が負傷した。刑務所長を含む複数の刑務官が金属製の棒で、理由は不明確だが、政治犯に殴り掛かり2人が死亡、13人が刑務所内の病院に収容され、20人が独房送りとなった。150人が同市内のミンヤン刑務所に移送されたというから、かなり大規模な事件だったことがわかる。

6月6日には南東部カレン州にあるパアン刑務所で、政治犯2人が刑務所内で射殺され、60人が負傷する事件も報道されている。

生理用品も提供されず

中部サガイン地方域のモンユワにある約900人の政治犯が収容されている刑務所では、6月1日に女性政治犯2人が口論していたところ、刑務官が2人を強く殴打し続けたということが報告されている。

このモンユワの刑務所では男性刑務官による女性政治犯へのセクハラ、性的暴力の頻発も伝えられている。

たとえば、女性政治犯を男性受刑者の区画に収容したり、プライバシーが確保できないトイレしかなく、水が流れる清潔なトイレがないという。生理用品も提供されないなどの事例が報告されている。

5月初旬には、このモンユワ刑務所で処遇改善などを求め、受刑者による暴動が発生し、多数の受刑者が刑務官による過剰暴力で鎮圧されている。

ミャンマーの刑務所に関して、六月に大きな動きが2つあった。スー・チーさんの刑務所移送と、民主派政治犯への死刑執行方針表明である。

6月22日に、スー・チーさんがヤンゴン市内の軟禁場所から首都ネピドー郊外の刑務所に移送され、独房に収監されたとのニュースが流れ、民主派組織や人権団体から非難の声が一斉にあがった。

2021年2月1日のクーデター当日に軍政によって逮捕されたスー・チーさんは、その後、しばらくの間はネピドー市内の自宅に軟禁され、その後はどこかわからない軟禁場所から裁判に出廷していたとされる。今後は、刑務所の独房から刑務所内に設けられる特別法廷に出廷して裁判を受けていた。

軍政としては、刑務所に収容することでスー・チーさんの政治的影響力を極力削ぎ、市民の反軍政運動の鎮静化にげたいのだろう。スー・チーさん自身に精神的プレッシャーをかけて闘争心を挫き、民主化運動への情熱を失わせる狙いもあるとみられている。

インターネット上には、スー・チーさんが移送されたとみられる、このネピドー郊外の刑務所の外観が映像配信されている。

映像を見ると、道路の両側にジャングルが続く地帯の道路脇に突然刑務所の正面玄関とみられるゲートが現れ、銃を持った兵士が警備する門の前には、面会を求める家族らしい人が数人待機している様子が確認できる。

ネピドーは2006年にヤンゴンから首都移転した都市で、何もないジャングル地帯の軍用地を開発したから、周囲には広大なジャングルが残っているのだ。スー・チーさんが移送された郊外の刑務所も比較的新しい施設とみられているが、生活環境や食事内容などは明らかにされていない。

ASEANの要請も拒否

スー・チーさんの33年の禁固刑には各方面から非難が沸き上がっており、ミャンマーが所属する地域連合である東南アジア諸国連合(ASEAN)も素早く動き出した。

2022年のASEAN議長国(持ち回り)であるカンボジアのプラク・ソコン外相は、ASEAN特使として6月29日からヤンゴンを訪問し、軍政幹部との会談を重ねて、スー・チーさんを刑務所から軟禁状態にあった施設に戻すよう訴えた。武力行使の停止や関係者との面会なども要求したが、いずれも拒否されたという。

ASEANは、クーデター後からスー・チーさん解放に向けて動いてはいた。2021年4月、ASEANはインドネシアのジャカルタでASEAN緊急首脳会議を開催し、軍政トップのミン・アウン・フライン国軍司令官を各国首脳との直接面談の場に引っ張り出すことに成功。

スー・チーさんの即時釈放はミン・アウン・フライン国軍司令官の反対で合意に達しなかったものの、議長声明という形で「5項目の合意」で意見の一致をみた。もちろん、ミャンマーも合意した。

「5項目」には「即時武力行為停止」とともに「全ての関係者との面会」が含まれており、以後のASEANのミャンマー問題解決への基本方針となっている。

しかし、軍政は「武装市民らの攻撃が続いている」として武力行使の停止を拒否するとともに「裁判の被告人との面会を許す国などない」として、スー・チーさんとの面会を拒絶し続けている。

ASEANとしては、問題解決には民主派指導者であるスー・チーさんとの面会が「必要不可欠」との姿勢だが、軍政の頑なな姿勢の前に、調停工作は行き詰まっている。

30年ぶりの死刑執行

今回、スー・チーさんが刑務所に移送されたことで、ASEANの「面会要求」はますます困難になると判断、ASEAN特使であるカンボジアのプラク・ソコン外相が、急遽ネピドーを訪問。

6月3日に、軍政はクーデター後に組織した「国家統治評議会」(SAC)は、死刑判決を受けて収監中の民主派勢力の著名人政治犯2人を含む4人に対する「死刑執行方針」を明らかにし、7月23日に死刑を執行した。

今回、死刑が執行されたのは、スー・チーさんが党首だった民主政府与党のNLD元議員のピョーゼヤートー氏と、民主化運動活動家のチョーミンユー(愛称コー・ジミー)氏、さらに国軍へのスパイ行為をしていた女性をヤンゴン近郊で殺害した二人の計4人。

いずれも軍政支配下にあり、公正さや公平さが全く欠如している裁判によって死刑判決を受け、インセイン刑務所に収監されていた。

ピョーゼヤートー氏とコー・ジミー氏2人は上級裁判所に上訴したが、いずれも却下されて刑が確定していた。

4人の死刑執行は、司法制度に基づく死刑としては1990年以来だ。

ミャンマーの刑務所には死刑判決を受けた政治犯が約100人いるとされるが、クーデター後に執行されたのは今回の4人が初めてだった。

軍政の死刑執行方針表明に対しても、ASEANは議長国カンボジアのフン・セン首相がミン・アウン・フライン国軍司令官に書簡を送り執行中止を求めたが、軍政はその要請を無視して死刑を執行した。

この死刑執行で、ミャンマー問題の仲介・調停に当たってきたASEANは態度を硬化させ、11月のカンボジア・プノンペンでの首脳会議にミャンマーは招待されず、ミャンマー抜きのASEANが常態化する事態を招く結果となった。

クーデターからすでに2年以上が経過しようとしているが、ミャンマー国内の治安状況は依然として混迷を極めている。

各地で軍と武装市民、少数民族武装勢力との戦闘が続き、双方に多くの犠牲者が出ている。こうした抵抗、治安の不安定化は軍政にとって予想外のことで、軍内部には相当の焦燥感が募っているという。こうした焦りが、各地で軍による一般市民への暴力、逮捕、残虐行為、殺害に拍車をかけている。

最近、軍は地方の村落で民家や農家を焼き払う「放火作戦」を実行、市民の斬首遺体や集団焼殺遺体が各地で発見されており、放火に伴う一般市民への残虐行為、人権侵害が激しくなっているという。

消耗戦のスパイラル

こうしたなか、軍政は11月17日に政治犯など5800人に恩赦を与えて釈放した。

この恩赦では、先述したインセイン刑務所に収容されていた、映像ジャーナリストの久保田徹さん、ビッキー・ボウマン元英国大使、ショーン・ターネル氏も含まれていた。

久保田氏は恩赦の翌日18日に、強制退去の形で日本に無事帰国している。

1月にも約七千人の恩赦を行ったが政治犯の恩赦は400人に留まった。軍政が恩赦を実行した背景には、全国の刑務所が政治犯でいっぱいになっていた状況に加え、恩赦という形によって多くの政治犯を釈放することで、欧米やASEANに対してアピールする狙いがあるとみられている。

欧米による軍政への批判や経済制裁は、中国のバックアップによって、深刻な影響を与えるまでには至っていない。武装市民への武器供与は、軍事訓練を受けた国境周辺の少数民族武装勢力経由でされているが、それも限界がある。結局、待ち伏せ攻撃した軍兵士や輸送トラックから武器を奪うしかない。武器奪取は命懸けで犠牲も多いとされ、武装市民組織は厳しい状況での戦いを強いられている。

民主派のNUGの発表によると、5月7日から6月6日までに軍との戦闘が5934件あり、地雷や爆弾事件は百七件発生し、軍兵士2613人が死亡、539人が負傷。

軍政もこの消耗戦に頭を痛めている。クーデター後に、軍や警察組織を離脱したり辞職して国外脱出したり、民主勢力に合流したりした兵士や警察官は8000人以上に上るという。

軍側は犠牲者数や辞職・離脱者数を明らかにしていないため、数字の信憑性は不明だが、相当数の犠牲者・離脱者が出ていることはたしかだ。

一方、民主派勢力側は、タイのバンコクに本拠を置く人権団体「政治犯支援協会」(AAPP)によると、2月10日現在、殺害された市民は2968人、逮捕拘留されている市民は1万7725人となっている。

このように、ミャンマーでは軍政と武装市民組織との間での戦闘が繰り返される「消耗戦のスパイラル」に陥っており、和平や調停などによる問題解決の道筋は全く見えてこない。

ミャンマーが頼りにする中国やASEAN、日本を含めた国際社会も問題解決に積極的にかかわれない、ないしはかかわろうとしないなかで、今日もミャンマーの一般市民や刑務所内の政治犯は、極限状態のなかで人権侵害や死に直面している。

 前回同様、軍政による圧政が詳細に記述されていますが、今回は刑務所に焦点を当てた記事になっています。所謂日本人である我々の刑務所へのイメージとは全くかけ離れた、それこそ「生き地獄」のような状況が語られています。

 国境という大きな壁により、ASEANを初めとする諸外国からの働きかけも、全く功を奏さず、悪の限りを尽くす軍には、やりたい放題の状況となっています。ここでもやはり中国という「同胞」の援助が、国際社会の経済制裁の抜け穴となってしまっているようです。

 ただ軍としても、反対勢力との戦闘には危機感もあるようで、それが更に「牙」を研ぎ澄ます要因にもなっているようですが、いずれにしてもこのような恐怖統治が続くことは、ミャンマーの発展のためには最悪だと言えます。

 日本では「死刑になりたい」などと言って、無差別に人を襲うバカがいますが、そういう人間を一度、ミャンマーで刑務所経験をさせたらいいと思いますね。冗談は抜きにして、早くミャンマー国民がこの圧政から解放されることを、願うばかりです。

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2023年3月29日 (水)

少年を斬首、女性をレイプ、僧侶も銃殺…残虐性増すミャンマー国軍の血も涙もない攻撃 殺害された市民は3124人に

32_20230327152601  先月このブログで紹介した世界の3大バカ老人の一人、ミャンマーのミン・アウン・フライン総司令官が、不法にもクーデターを起こし、以来軍事独裁政治を行っています。27日そのミャンマーで軍事パレードが開催されましたが、国民は軍政のもとで、中国のウィグル人弾圧と勝るとも劣らない、残虐非道な人権弾圧に怯えて生活しています。

 その詳細をPan Asia News記者の大塚智彦氏が、現代ビジネスに寄稿した記事に見てみましょう。タイトルは『少年を斬首、女性をレイプ、僧侶も銃殺…残虐性増すミャンマー国軍の血も涙もない攻撃 殺害された市民は3124人に』(3/19公開)で、以下に引用します。

軍政の残虐非道な行動が明らかに

ミン・アウン・フライン司令官率いるミャンマー軍事政権は2022年から2023年にかけて反軍政の抵抗を続ける市民組織「国民防衛軍(PDF)」などへの弾圧を強化しており、その過程で一般市民の殺害も増加している。

そうした中でも特に未成年の若者や女性を虐殺するケースが相次いで報告され、人権侵害がこれまで以上に深刻化しているという。

さらに2023年3月13日にはミャンマーの独立系メディアが仏教寺院に避難していた一般市民と同時に僧侶をも殺害していたことを報じた。

 

ミャンマーは国民の90%を仏教徒が占める国で、僧侶は国民の尊敬を集める対象となっているだけに、僧侶まで殺害するという軍政の容赦ない姿勢は反軍政を掲げる国民の反感と怒りを高めている。

こうした軍政の残虐非道な行動は、2月2日に戒厳令を7郡区から37郡区に拡大し、同月22日にもさらにサガイン地方域で3郡区を追加するなどして、抵抗勢力との戦闘が激化している地方での軍の権力を強化したことと関係があるとみられている。

2021年2月のクーデター以降すでに2年以上が経過しながらも、国内の治安が一向に安定せず、8月に予定している「民主的な総選挙」の実施も危ぶまれる状況に対する軍政の焦りが背景にあるとの見方が有力視されている。

軍政は総選挙実施で軍政に対する「国民の信任」を得たとしてクーデターの正当化を目論んでいるため、万難を排してまでも総選挙実施を企図しているとされ、各地から報告される兵士による残虐行為はその反映とされている。

寺院の避難民を僧侶と共に殺害

独立メディア「ミャンマー・ナウ」はミャンマー北東部シャン州南部ピンラウン郡区のナンニント村で市民ら29人が殺害されているのを地元抵抗勢力である「カレンニー民族防衛隊(KNDF)」が3月13日の声明で明らかにしたと伝えた。29人の中には仏教僧侶3人が含まれていたとしている。

KNDFなどによると、軍は11日にナンニント村に空爆や砲撃を加えた上で、地上部隊が村に進入、村内の仏教寺院に避難していた市民を外に連れ出しその場で射殺した。その時僧侶3人も同時に殺害されたとしている。犠牲者には10代前半の少年2人も含まれ、全員がナンニント村の男性住民であるとしている。

ナンニント村の大半の住民は軍による攻撃激化を恐れて数週間前にすでに村外に避難していたが、僧侶が避難をせずに村に留まったことから20数人の男性村人が共に村に残り、空襲・砲撃を逃れるために寺院に避難していたという。

KNDFはナンニント村の状況を確認するためにドローンで上空から偵察していたところ、寺院で多数の遺体を発見したものの兵士が撤退するのを待ったため現場の寺院には12日までたどり着けなかったとしている。

KNDFのミャンマー語のホームページには殺害現場の生々しい写真が複数アップされ、民族衣装であるロンジーをまとった多数の男性が銃撃を受けて頭部や上半身などから血を流して寺院の外壁周辺に倒れている様子が写っている。

死者の間にはサフラン色の僧衣をまとった仏教僧侶が僧衣の一部を血に染めて横たわっており、寺院の外壁にも多数の弾痕が残されている。住民らに向けて銃を乱射して殺害した問答無用の残虐行為の跡がみてとれる。KNDFによると兵士はその後、ナンニント村の住居を焼き払ったという。

この寺院襲撃、僧侶殺害に関し、軍政のゾー・ミン・トゥン報道官はメディアに対して武装市民組織と民間人の何人かが死亡したことは確認したものの「地元のPDFメンバーによる殺害である」として兵士の関与を否定した。

若者を虐殺、斬首で遺体放置

独立系メディアなどによると、2月25日に北西部サガイン地方域ミンム郡区ニャウン・ピンカン村付近で武装市民組織PDFと軍による戦闘が発生した。PDF側が弾薬不足のため退却する際に退路に地雷を埋設していた若者5人が軍に拘束された。

その後若者5人の遺体が発見されたが、うち3人は斬首され、頭部が竹柵や荷車の上に「晒し首」状態で放置されており、中には手足が切断された遺体もあったという。遺体には銃創が一切ないことから、若者らは生きたまま斬首された可能性が高いとみられている。

兵士は殺害した若者の携帯電話を取り上げて犠牲者の親族や友人に電話をかけて「死を祝っている」と述べたうえ、犠牲者を罵倒し続けたという。

斬首されたのは15歳の少年、17歳と19歳の青年で、いずれも地元の武装市民組織を手伝い地雷を設置していたところを軍に拘束され、虐殺されたという。事件を伝える独立メディアのウェブサイトには3人の若者がほほ笑む生前の写真がアップされている。

同村周辺ではさらに2人の若者の殺害遺体も発見されているほか、サガイン地方域カン・タイン村では別の男性2人の斬首遺体が発見され、同地方域ミンム郡区ニャウンイン村では16人が殺害されている。

このように国軍は今や、軍に同調しない市民とみれば年齢に関係なく殺害するという「殺人組織」と化している。

こうした傾向は以前からあり、2022年9月にはサガイン地方域にある小学校が空爆されて児童11人が犠牲となり15人が行方不明となった。この時、軍は死亡した子供たちの遺体を袋詰めにしてトラックでどこかに運び去ったと地元メディアは伝えている。

国連によるとクーデター発生後、ミャンマー全国で軍による攻撃で死亡あるいは重傷を負った子供は少なくとも約400人に上っている。

このほか10月には北部カチン州ハパカント近郊の村で軍政に抵抗を続ける少数民族武装勢力やその支持者、一般市民が参加して開催中のコンサート会場を軍が空爆して地元の著名女性歌手や男性演奏家、多数の観衆が殺害される事件も起きている。

レイプして殺害される女性たち

3月2日、サガイン地方域サガイン群区タルタイン村で女性3人を含む住民が軍に拘束されて「人間の盾」として戦闘現場に立たされたことが報じられた。

さらに同じ日、同地方域ミンム群区ニャウンイン村でレイプされた女性の遺体が発見されたほか。同村では計14人の遺体が発見されたが、その中にはレイプされ顔面や頭部を激しく殴打された痕跡の残る女性3人の遺体も含まれていたという。

2022年8月27日には、サガイン地方域カニ郡区タイエットピンブラ村に進入した兵士らが民家に取り残された知的障害のある40代の女性を屋外に連れ出して複数の兵士がレイプした。

また同月11日には同地方域インマビン群区インバウンテン村で10代の少女ら2人が兵士から集団レイプを受け、その後殺害され、遺体が崖に全裸の状態で放置されるという残虐な事件も明らかになっている。

激化する人権侵害事件

このように軍は2022年から、各地で抵抗を続ける武装市民組織メンバーに対する掃討作戦を通じて一般市民を巻き込んだ強権的弾圧を強化、女性や若者をも無差別に殺害しているが、国民の尊敬と信仰の対象である仏教僧侶まで容赦なく殺害するという暴挙に対し内外から厳しい批判が高まっている。

戒厳令を拡大したことで地方の行政権が大幅に軍に移譲され、軍はこうした残虐行為を通じて抵抗勢力や反軍政の市民への「見せしめ効果」を狙っているとされる。しかしこうした残虐な人権侵害行為は反軍政感情を一層高めるという逆効果を招いており、ミャンマーの混乱は収拾不能な状況に陥っている。

タイ西部ターク県メーソットに本拠を置くミャンマーの人権団体「ミャンマー政治犯支援協会(AAPP)」によると、3月14日現在、軍政によって身柄を拘束された市民は20359人、殺害された市民は3124人に上っている。

 ロシアによるウクライナ人殺戮や、中国共産党のウイグル人弾圧の影に隠れた形で、最近は日本でもあまりメディアに取り上げられませんが、昨日久しぶりに民放(テレビ朝日)で取り上げられました。ミャンマー軍のこういった反対勢力に対する残虐行為は、目に余るものが有ります。「殺害された市民は3124人に上っている」と有りますが、実態はもっと多いのではないでしょうか。

 世界各地で繰り広げられる、独裁政権下の人民弾圧の中でも、おそらくトップクラスに上げられるのではないでしょうか。僧侶の虐殺は中国のチベット仏教徒殺害と並んで、神仏をも恐れぬ暴挙です。カンボジアのポルポト政権同様、将来ミャンマー軍の圧政が裁かれる日が来るのを、期待するしか有りません。

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2023年2月 4日 (土)

中国への忖度で骨抜きにされた国会の「人権決議」、理由は与党にはびこる〝中国共産党代理人〟

Maxresdefault_20230203155201  中国共産党による少数民族への蹂躙、弾圧はチベットに続き、ウィグルでその残虐さを増幅し、更にモンゴル自治区にも同様な魔の手が伸びています。関係書籍を読めばその非道ぶりは目を覆いたくなるもので、欧米はこの人権問題を大きく取り上げて批判を強くしています。

 一方の日本は経済の結びつきを理由に、極めて弱腰の対応が続いています。そして国会議員、中でも与党の中に中国の顔色を窺う議員が多くいるようです。その詳細を元衆議院議員で現在チベット・ウイグル両議連事務局長、日華懇談会事務局長で日本の尊厳と国益を護る会副代表の長尾たかし氏が月刊hanadaプラスに寄稿した記事から見てみましょう。タイトルは『与党にはびこる〝中国共産党代理人〟』(1/30公開)で、以下に引用します。

欧米各国が中国による人権侵害を事実認定して、政府や議会において対応すべく法整備が整っているのに、なぜ日本だけは一歩も前に進めないのでしょうか。永田町、霞が関の広範囲にわたって、中国共産党の呪いがかけられているとしか思えません――。

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新たな議連が設立されたが

2022年12月5日、「中国による人権侵害を究明し行動する議員連盟」が設立され、私も総会に出席しました。チベット、ウイグル、南モンゴル、各議員連盟の会長を中心に、企業が取引先を含めた人権侵害を把握し、予防策を講じる人権デューデリジェンスを進め、海外での重大な人権侵害に制裁を科す日本版「マグニツキー法」の制定も視野に活動する議連です。

設立趣意書は、中国の行動を「常軌を逸した人権侵害」と表現し、「民主主義・基本的人権の尊重・法の支配という共通の価値観を持つ国や団体が有機的に連携して現実を究明し内外に発信し行動する」と明記。これまでに採択された衆議院、参議院の人権状況決議に比べれば、はっきりとした主張となっていますが、主な議員発言者の言葉を振り返ると、不安ばかりが募ります。

「われわれが人権侵害を中国の思うようなかたちにさせないという覚悟が必要だ」

「中国への政府対応で国会や議連が背中を押すことが重要だ」

「ウイグルなど人権等を巡る諸問題について主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求める」

「米国にはウイグル強制労働防止法がある。日本でなんら法整備が進まないのは残念だ」

どれもこれもごもっともなご発言ですが、数年前から同じ言葉を繰り返しているだけと言わざるを得ません。次の一歩がいまだに踏み込めない。その一歩とは、議連の枠組みを越えた衆参両院の意志として、中国による人権侵害に対し強い非難、対抗措置としての法整備を決意し、立法手続きを始めることです。

議連が設立された当日、参議院で「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」が採択されました。しかし当初の決議案、骨抜きにされた衆議院決議(2022年2月)、そして今回の参議院決議の変遷を確認すると、不本意ながら、議連の決意を越えたところでは、一歩も進んでいないことが証明できてしまうのです。

「人権侵害」の文言が消失

そもそも、自民党、公明党を除く超党派で了承を得た当初の決議案の表題は、「新疆ウイグル等における深刻な人権侵害に対する非難決議」でした。しかし、人権侵害が人権状況と修正され、それに伴い、文中にあった人権侵害の文言が、すべて人権状況に置き換わったのです。

当初案では、深刻な人権侵害が発生しており、弾圧を受けている人々が国際社会に助けを求め、国際社会もこれを脅威と認識し、強く非難して直ちに中止するよう求めていました。さらに立法府の責任において、救済するための必要な法整備の検討を決意すると宣言し、政府もこれに追随せよという内容だったのです。

これが自公幹部により骨抜きとなり、「弾圧を受けていると訴える人々」と修正されたことにより事実認定を避け、人権侵害を強く非難する文言が消え、深刻な懸念というレベルにテンションが下がり、あくまでも弾圧をしている側の説明責任を求めるに止まっているのです。

立法府が法整備に取り掛かる決意の文言も削除され、議会が政府に対して事実関係に関する情報収集を行うべき、と第三者的表現に修正されました。衆議院決議と参議院決議において、特段その違いを指摘するものはありません。

強いていうなら、日米首脳、G7に加えて、新たに国連人権高等弁務官事務所が人権状況への深刻な懸念を共有したこと、中国という文言がどこにも入っていないので当該国政府と付け加えたこと、この2点だけです。

孔鉉佑駐日中国大使からのお誘い

私たちはこれまでに、どれだけの「命の証言」を聞いてきたことでしょうか。多くの阿鼻叫喚の光景を受け止めたのではなかったか。

関係した議員が取りまとめた国会決議文がどれだけ「工夫」されていようとも、

・中国を名指ししない

・ジェノサイドを謳わない

・人権侵害を認めていない

・法的根拠を持った対抗措置を決意しない

これでは世界には全く響かない。周回遅れも良いところです。響かないどころか、日本の人権侵害に対する課題認識はその程度のものかと、恥ずべきメッセージ性を帯びてしまうのです。

このような諸問題があるから、法律を作らなければならない、その理由を立法事実と言います。立法府における立法事実の存在は必要不可欠です。つまり、国会が結果を出す、立法するためには、人権侵害を政府もしくは議会が事実認定をしなければならないのです。

この一番重要なハードルが乗り越えられていない。欧米各国が人権侵害を事実認定して、政府や議会において対応すべく法整備が整っているのに、なぜ日本だけは一歩も前に進めないのでしょうか。

永田町、霞が関の広範囲にわたって、中国共産党の呪いがかけられているとしか思えません。

国会決議に消極的な与党役員は、「個人的にはやらなければならないと思うが、人権侵害の事実認定ができていないんじゃないかということを外務省は言っている」と口にします。

政府や外務省がそういうならば、各政党として、あるいは衆参それぞれの議会として調査を行い、事実認定すれば良いのですが、思考回路はその手前で停止するのです。

私は2021年4月13日、自民党本部で孔鉉佑駐日中国全権大使と面と向かって直接議論した際、同じ発言を耳にしました。

大使は、私が指摘するチベット、ウイグル、南モンゴル等に対する人権侵害に対して、「そんな事実はない」 「その話は中国では茶番と言われている」 「笑い話になっている」と言い切り、「あなたは新疆に来たことがありますか? なければご案内しますよ。素晴らしいところですから」とお誘いまで受け、そんな事実はない、とあくまでもとぼけ通すのです。

仮にご案内を受けたところで、強制収容所の実態を見せてもらえるはずもなく、行けば「ほら、何もなかったでしょ」と言われるのが関の山。さらには、トラップをかけられて口封じをされてしまうかもしれませんので、丁重にお断りしました。

公明党が最大のブレーキ

日本政府をはじめ、主要政党に対し事実認定させない抗日プログラムが長きにわたり浸透し続け、与党側の神経が麻痺していることを私は確信しました。最大のブレーキを踏んでいるのは公明党幹部です。

今回、新しく設立された議員連盟に、公明党議員の名前は一人もありませんでした。これは公明党の政党としての意思です。この議員連盟への公明党の合流を、特に連立与党を組んでいる自民党側が説得にどれだけ汗をかいたのでしょうか、甚だ疑問です。参加したかった公明党議員もいたと聞いています。

しかし、上層部の指示には従わざるを得ない組織の悲哀。党派を越えた議員一人ひとりの強い意志の積み重ねを貫ける環境は、議員自身たちが構築しなければなりません。

自民党国会議員の皆さんを信用していないわけではないのですが、選挙で支援をもらっている自民党側からすれば、公明党が判断に窮するような提案はできるだけ避けたい、どうしてもその辺の空気感が読めてしまうのです。

議連の総会に出席されていたジャーナリストの櫻井よしこ先生は、「アジアの大国として声を上げろ!」と仰せでした。議連では声が上がるのですが、政府として、議会としての声がまとまりません。これが現実です。

ドルクン・エイサ世界ウイグル会議総裁はこう訴えました。

「習近平の独裁、ウイグルへのジェノサイドが続くなかで、日本が果たすべき役割はたくさんあるはずだ。日本が立ち向かってほしい。中東が中国共産党になびかぬよう、日本が中東に働きかけをしてほしい。中国首脳に対して直接、ジェノサイドのことを言え! 強制労働のサプライチェーンを外せ。強制労働の商品を日本に入れない、マグニツキー法を制定してほしい」

繰り返しますが、これらを実現するためには、政府や国会が事実認定をしなければ、ただの一歩も進まないのです。

高市早苗大臣と岸信夫補佐官

そんななか、あまり報道されていないのですが、2つの喜ばしいことがありました。

高市早苗経済安全保障担当大臣がドルクン・エイサ総裁と初会談したのです。世界ウイグル会議総裁が日本の閣僚と面会するのは今回が初めて、歴史的瞬間でした。高市大臣の勇気、段取りをして下さった有本香さんには、心から感謝と敬意を表します。

この際、ドルクン総裁からは、重大な人権侵害に対し制裁を科す人権侵害制裁法の制定や、企業によるウイグル人の強制労働防止に向けた法整備を整えてほしいという話がありました。これに対し、高市大臣は「関係閣僚と積極的に取り組みたい」と応じたのです。

東京都は新築戸建て住宅等へ太陽光パネル設置義務化を決めましたが、ウイグルの強制労働による製造が疑われる中国製太陽光パネルが使用されれば、日本がジェノサイドに加担することになりかねません。人権侵害のうえに経済は成り立ってはいけない、まさに経済安全保障における人権デューデリジェンスに大きくかかわること。その担当大臣との面談が実現したのです。

他にも、岸信夫首相補佐官との面談も実現しました。これがほとんど報道されないのも実に不思議です。

さて、どなたかお忘れではないでしょうか。

岸田政権肝煎りで就任した中谷元国際人権問題担当首相補佐官です。

「官邸は民族団体とは絶対に会わない、それが方針である」

これがいまも貫かれたままです。

2021年12月24日、私は各民族団体の提言書を携え、官邸の中谷補佐官を訪ねました。その際、「制裁法を作るためには、人権侵害を政府として事実認定する必要があるので、政府の立場で民族団体を官邸に招き、ヒアリングを早々に行ってほしい」と申しあげました。

中谷補佐官ははっきりと「わかりました」とおっしゃるものの、私の言っていることがわかったのか、それとも承知したという意味のわかったなのか、不明確でした。

中谷補佐官が私に強調したのは、マグニツキー法成立に向けての気持ちはいささかも変わっていないこと、必ず検討すること、とにかく一所懸命やっているというものでした。

あれから1年以上が経過しました。法律を作るのならば、日本政府は事実認定に至るために、どのような情報収集をしてきたのでしょうか。民族団体からの「命の証言」を、政府としてヒアリングをまだ一度もしていない、これが現状です。

中国の呪いにかかったまま

とかく日本の政府や国会は、個別の国家をターゲットとした制裁法を忌み嫌います。対北朝鮮輸入禁止などの制裁措置ですら、実現するのに10年以上の月日を費やしました。

連日繰り返される北朝鮮による日本海方向へのミサイル発射に対しても厳重な抗議を言えるようになりました。ロシアによるウクライナ侵略に端を発し、ロシアに対しても強い姿勢で臨めるスタンスが確立しています。どちらもいちいち褒めることでもありませんが……。

しかし、2022年8月4日、中国が与那国島周辺海域の排他的経済水域にミサイルを5発撃ち込んだことに対して、抗議を電話で伝えただけに終わっています。北朝鮮のミサイルに対しては国家安全保障会議を開くのに、中国の日本のEEZ内へのミサイル攻撃については開かない。この違いは何なのでしょう。相手が中国であることについては全てスルーしているのです。

岸田総理は事あるごとに、「言うべきことは言う」と口にされます。言うべきことを言っていないということは、言うべきことだと思っていないということなのでしょうか。そして自民党、公明党のなかも妙に静かです。野党は論外で、全く無関心です。

2021年3月30日の記者会見で、ウイグルの人権問題をめぐり、「経済や人事交流の極めて厚い、中国との関係も十分に考慮し、摩擦や衝突をどう回避するかも重要な考慮事項だ。慎重に対応する必要がある」と主張した山口那津男公明党代表の言葉を、ふと思い出しました。

まるで中国共産党の代理人のような発言、おそらく中国の呪いにかかったままなのでしょう。申し訳ありませんが、中国には何も言えないいまの国会には反吐が出ます。

今回設立された議連では、参与という立場を頂戴いたしました。唇をかみ締めながら、在野の立場からしっかりと職責を果たす覚悟です。

 野党のみならず、与党の中でも中国に忖度して、言うべきことを言わず、事なかれ主義に陥っている議員がなんと多いことか。確かに尖閣周辺の領海侵入に対しては、「遺憾砲」を使い、都度抗議はしています。しかしそれが中国に対して有効なメッセージとなっているでしょうか。中国にとってはちょっと蚊に刺されたくらいの反応でしょう。それさえも感じないかも知れません。

 尖閣に構築物を作ったり、海洋調査をしたり(始めたようですが)、(領海、領空ですから)自衛隊機による上空の監視飛行を繰返したり、具体的な対抗策をしなければ、日本の意思は示せないでしょう。同様に人権に関しても同様にしっかりと中国を名指しで、人権弾圧だと明言し、マグニツキー法を制定しなければ日本の意思は伝わらないでしょう。

 ただお花畑の中で、平和な暮らしを続けた日本は、主権国家という認識と有事の感覚が麻痺しています。ですからひたすら事を構えないように、萎縮した対応をとることを続けて来ました。そうした事なかれ主義の生んだ対応がこの人権侵害非難決議にもつながっています。

 公明党は創価学会という宗教団体がバックに控えています。宗教は人権弾圧に対して厳しい見方をするのが普通なのではないでしょうか。中国共産党という非人道的な組織と、どうして親和性が生まれるのでしょうか。もしかしたら本質的にはつながりがあるのでしょうか。

 いずれにしろ長尾氏には、どう進めたら議員が動き出すのか、非常に難しい課題ですが、今までの経歴を元に、頑張っていただき、この人権問題を日本の意思として明確に伝えられるような国会決議に、持って行っていただければと思います。

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2022年2月 5日 (土)

これが決議文??「対中非難決議文」なのに「中国」の名前がない!

Images-4_20220204155201  北京五輪が多くの問題を孕みながら開幕しました。アスリートにとっては4年に一度の夢の舞台。それが4年間の努力の結果を発揮する場として提供されるにしては、ゼロコロナを目指す当局の対応に、余りにも管理過剰で息が詰まる会場のようです。

 まさに習政権の国威発揚の場として化してしまった感のある、習近平による習近平のための北京五輪。その北京五輪の開幕の前に、何とかして間に合わせようと、骨抜きになってしまった、2月1日決議の「対中非難決議」。その決定の過程をイトモス研究所所長の小倉健一氏が、現代ビジネスに寄稿しています。タイトルは『「対中非難決議文」なのに「中国」の名前がない! だから岸田は習近平に舐められる』(1/26)で、以下に引用して掲載します。

 ◇

先送りばかりで保守層も離反

岸田文雄政権の「目玉」が、また1つ後退しようとしている。首相は1月17日の施政方針演説で新型コロナウイルス対策と看板政策の「新しい資本主義」に多くの時間を割いたが、またしても昨年9月の自民党総裁選で掲げた令和版「所得倍増計画」や金融所得課税の強化といった目玉公約を“封印”した。夏の参院選までは「安全運転」に終始するというが、相次ぐ後退には自民党の支持基盤である保守層からも「日和過ぎている」との失望感も広がっている。

「一体どこを向いて、誰の声に『聞く力』を発揮しているのか分からない。自民党が保守政党としての矜持を示さなければならないのに、憲法改正も安定的な皇位継承の議論も先送りばかり。このままでは保守層が離反しかねない」

閣僚経験者の一人がこう憤るのは、岸田首相が掲げた目玉公約がことごとく先送りされ、保守層の票が夏の参院選で日本維新の会などに流れるとみているためだ。「所得倍増計画や金融所得課税などは『これから頑張って取り組みます』と言っていれば良いかもしれないが、『アレ』だけはそうはいかない」と語気を強める。

もはや先送りが許されない「アレ」とは、中国による香港や新疆ウイグル自治区での人権侵害行為を非難する国会での「対中非難決議」を指す。自民党の高市早苗政調会長ら保守系議員が中心となり、昨年の通常国会で採決を求めたものの、連立政権を組む公明党が慎重姿勢を崩さず見送られた決議案だ。

高市氏は、決議に前向きな野党の動向も踏まえ、昨年末の臨時国会でも採択するよう自民党の茂木敏充幹事長に「直談判」までしたが、「今はそのタイミングではない」と了承されず決議案提出は叶わなかった。

玉虫色の修正

茂木氏が難色を示した背景には、2月の北京冬季五輪に政府高官らを派遣しない「外交的ボイコット」を表明する前に波風を立てることは避けたかったとの見方が強い。岸田政権は12月24日に「外交的ボイコット」を表明したが、高市氏は同27日のインターネット番組で「遅きに失した」と批判。茂木氏の対応についても「内閣の顔を立てようとの配慮もあったのかもしれないが、悔しくてたまらない」と無念さを爆発させている。

事の経緯を見れば、政府の「外交的ボイコット」決定後はもはや障害はないはずである。高市氏は1月11日のBSフジ番組で「去年はタイミングが悪いということでダメだった。通常国会の頭に決議ができるよう頑張りたい」と強い決意を示し、茂木氏も「各党が合意して採択に繋がればと考えている」と容認する構えを見せる。

だが、1月17日にスタートした通常国会の冒頭で新たな動きは見られていない。それはなぜか。自民党を担当する全国紙政治部記者が解説する。

「決議案の中身が骨抜きになりそうだからです。対中非難決議というからには、中国政府を非難し、深刻な人権状況について国際社会が納得するような説明責任を求める内容になるはずですが、岸田政権の中国への配慮から『玉虫色』になる修正が行われる可能性が出ています」

自民党関係者によると、その決議案は「中国」を名指しせず、人権問題についても「中国以外の人権状況」も盛り込む文言へと修正される方向だという。公明党の北側一雄副代表は1月13日の記者会見で「自民党と野党を含めて、文言について詰めの協議がなされていくものだと理解している」と述べ、全会派が一致できる内容の決議案にしなければならないとの考えを強調している。

習近平の高笑い

8_20220204155601 高市氏やウイグル問題に取り組んできた古屋圭司政調会長代行らは1月14日、岸田首相と東京都内の日本料理店で会食し、早期採択を重ねて要請した。ただ、首相は通常国会冒頭での採択は容認しない考えは譲らなかったという。その時期について、ある政府関係者は「2月の北京冬季五輪の前にはなんとか、という感じになるのではないか」と語る。

正確には、対中非難決議の採択は首相の「公約」とまでは言えない。だが、岸田氏は昨年9月の自民党総裁選で掲げた「外交・安保における3つの覚悟」の中で、こう掲げている。「権威主義的体制が拡大する中で、台湾海峡の安定・香港の民主主義・ウイグルの人権問題などに毅然と対応。日米同盟を基軸に民主主義、法の支配、人権等の普遍的価値を守り抜き、国際秩序の安定に貢献していく」。

ちなみに、昨年秋に勝利した衆院選での自民党公約は「ウイグル、チベット、モンゴル民族、香港など、人権等を巡る諸問題について、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めます」である。

岸田政権は人権侵害救済法(日本版マグニツキー法)の必要性を唱えてきた中谷元衆院議員が首相補佐官に起用されたものの、その具体的進展はいまだ見えない。一方で、日中友好議員連盟会長を務め「親中派の代表格」(自民党中堅)ともいわれた林芳正氏を外相に起用するなど、対中外交の芯のなさが指摘されてきた。

それだけに対中姿勢が如実にあらわれる非難決議案の修正の動きには、自民党内でも「何を怯えているのかわからないが、それをみた習近平は高笑いでしょう。岸田氏の『毅然と対応する』『主張すべきは主張する』というのはポーズだけだったのかと言われかねない」(中堅議員)との不満が渦巻く。

首相は施政方針演説の最後で、幕末を生きた勝海舟の「行蔵は我に存す」「己を改革す」という言葉を引用した。責任は自らが背負う覚悟を示したものだが、発してきた言葉と公約の重みを踏まえて自らを律するべきは首相自身のように映る。

 ◇

 かくして北京五輪開幕の直前、2月1日に決議文は採択されましたが、小倉氏の記事にある通り、「中国」の名指しは避けた文になりました。また盛り込む予定だった「人権侵害」や「非難」の文言も公明党の要請を受けて削除され、「人権状況」という当たり障りのない文言に切り替えられました。

 これでは非難決議とは名ばかりであり、習政権に精一杯顔を立てたと言うことなのでしょうか。中国は予想通り激しく反発したようですが、穿った見方をすれば日中間での出来レースだったのかも知れません。

 民放でこの件に関し、弁護士のコメンテーターが、中国だけではなく、日本での人権問題にも目を向けるべきだと言っていましたが、日本の人権問題と、ウィグルやチベット、モンゴル、香港等での人権問題とは次元が違います。中国ではジェノサイドが日常的になされていて、民主活動家への拘束や拷問も伝えられています。それと日本の人権を同等扱いするのでしょうか。

 日本の左翼や人権活動家も、日本の政府や国家権力ばかり対象に批判していないで、是非ウィグルやチベットに出向いて、実態をつぶさに観察したらどうでしょうか。

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2021年11月 5日 (金)

在日ウイグル人が語る、中国共産党のジェノサイドの実態

Maxresdefault_20211104174301   日本でも中国共産党によるウイグル民族弾圧の報道はよく目にします。しかしその詳細をウイグル人が直接語った記事は少ないかも知れません。欧米を中心とする世界中の民主国家から非難が寄せられているこの問題、日本は今ひとつ積極的に非難をしてきていないように見えます。

 中国の内政問題としては済まされないその実態を、我々は詳しく知るべきでしょう。文藝春秋に記載された、在日ウイグル人で日本ウイグル協会会長の于田ケリム氏と副会長ハリマト・ローズ氏、それに南モンゴル・オルドス高原生まれで静岡大学人文社会科学部教授を務める楊海英氏による『ジェノサイド国家中国の真実』から、その一部を抜粋した記事を文春オンラインから引用して以下に紹介します。2部構成でタイトルはそれぞれ『子供の名前を自由に付けられない、家の中でもウイグル語は禁止…中国政府による“ウイグル人弾圧”のヤバい実情』『「ジェノサイドを見過ごした漢民族も日本企業も共犯者」“ウイグル人弾圧”を見て見ぬふりする日本に抱く思い』(11/3)です。

 ◇

 いまだ解決の糸口が見えない、中国による新疆ウイグル自治区でのウイグル人への弾圧問題。国際社会で問題視され始めたが、習近平政権が推し進める「ウイグル人根絶」政策の実態をまだ知らない方も多いだろう。

 ここでは、日本ウイグル協会会長の于田ケリム氏、南モンゴル・オルドス高原生まれで静岡大学人文社会科学部教授を務める楊海英氏による『ジェノサイド国家中国の真実』(文藝春秋)の一部を抜粋。にわかには信じがたい弾圧の実情を紹介する。

**********

<第一部>

弾圧者も弾圧される

于田 ウイグルでの弾圧がさらに厳しくなった一つのきっかけは、チベット自治区共産党書記としてチベット人弾圧で「成果」を上げた陳全国が、2016年に「新疆ウイグル自治区」の党書記に就任したことがあります。

 彼がまず行なったのは、ホータン地区の党・政府責任者97名を免職処分にすることで、処分対象のほとんどはウイグル人でした。「タバコを吸ったこと」が理由ならまだしも、「宗教指導者の前でタバコを吸うことを躊躇った」として懲戒免職された人もいます。

 宗教的規範を守っているとして、処分の対象になったわけですね。

于田 ウイグルでは、公安関係者も弾圧の恐怖に晒されています。ホータン、カシュガル、ウルムチなどの公安局幹部が次々に拘束されました。とくにウルムチ市公安局のカディル・メメット元副局長とジュレット・イブラヒム前副局長などは、ウイグル人を冷酷に弾圧する側の人物として知られていたのに、2019年に相次いで拘束されました。詳細は不明ですが、強制収容所の内情などを知り過ぎていたからだろうとも言われています。

 もともと「新疆ウイグル自治区」と言っても、形式的に自治区主席がウイグル人というだけで、党書記を始め自治区幹部の多くは漢民族です。

 その主席にしても、「両面人」のウイグル人が共産党に指名されるわけです。

于田 ですから、トップと言っても、発言内容は党が決めるので、発言権などありません。

 モンゴルも同じです。自治区レベルだけではなく、下級単位の自治州、自治県、自治郷に至るまで、「党委員会書記」は、必ず漢民族です。地方政府機関では、「正職」は漢民族、「副職」は少数民族に決まっています。稀に漢民族の副部長や副課長がいると、「お前、少数民族か」と冗談を言われる。それぐらい徹底しています。

于田 私が大学にいたときは、珍しく大学院の党書記がウイグル人でしたが、一見、漢民族の大学院長より地位が高いように見えても、実際は、ウイグル人の方が地位が低く、自分では何も決めることができませんでした。

 名目上の地位があっても、実権を与えないんです。

 新疆で第一に感じたのは、ウイグル人がすっかり気力を失っていることでした。あまりにも長期間、植民地的な抑圧政策を受けてきたために、やる気を失くしているんです。

 私などは「なぜ漢民族に抵抗しないんだ! 殴られたらやり返せばいいじゃないか!」と言うのですが、「いやいや、とても無理だ」という反応で、どこか暗いというか、非常に鬱屈したものを感じました。それだけ徹底的に弾圧されてきたということです。個人で奮闘したところで、すぐに逮捕、投獄され、テロリストのレッテルを貼られるだけ。そういう諦めのようなものも感じました。

公共空間での中国語の強要

于田 自治区の会議では、上にウイグル語、下に中国語で掲示が出ていましたが、今はウイグル語の掲示はないかもしれません。新疆大学のロゴマークも、ウイグル語と中国語の大きさが同じぐらいでしたが、ウイグル語がだんだん小さくされて、やがて削除されてしまいました。その後、ウイグル語表記は復活はしたのですが、元は英語の「ユニバーシティ」を意味するウイグル語だったのに、中国式の「大学」に変えられました。

 内モンゴルでも、2020年あたりからモンゴル語の看板が大量に外されて、書店からは、モンゴル文化やチンギス・ハーン関係の本が姿を消しています。建物には「公共の場につき、中国語を使いなさい」というスローガンが掲げられて、公共の場でウイグル語やモンゴル語で喋っていると、「あいつは信頼できない。減点だ」ということになります。

于田 まさに「『内心』で中国政府に反対している民族主義者だ」ということになるわけです。

「中国共産党」は、かつてはウイグル語式で「ジュングォコムルスパルティ」と言っていましたが、今では中国語式で「チュングォゴンチュワンダン」と呼ぶようになりました。

 「中国」は、ウイグル語で「ジュングォ」と言うのに、「チュングォ」と言わなければダメになったんです。「キタイ」というテュルク語系の言い方もありましたが、これもダメです。

「党」も、「パルティ」というウイグル語ではなく、「ダン」という中国語読みにしろ、と。以前はいかにも中国的な用語は中国語で発音しろということでしたが、今から見れば、まだ序の口で、その後、全面的に中国語化が進められたわけです。

子供の名前も自由に付けられない

于田 いまの新疆では、子供の名前も自由に選べません。「モハメッド」といったイスラーム色の強い名前は、明確に禁止されています。しかも名前に使う漢字にも制限があります。

 少数民族の名前だと、どうしても漢字は当て字になるのに、そこで「この字を使え」と限定される。文革期の南モンゴルでもそうでした。モンゴル人で「衛東(=毛沢東をまもる)」「東風(=西側に勝つ)」「文革」といった名前だと、文革期の生まれだとすぐに分かります。

于田 町や通りの名前も、ウイグル語名から中国語名に変えられました。
 中国人は、少数民族の言語による地名があるのに、すべて中国語に変えてしまう。元の地名の発音は中国人には難しいし、そもそも発音を学ぶ気すらないんでしょう。

 内モンゴルでは、「盟」や「旗」という行政組織名も「市」に変えられ、「ジェリム盟」は「通遼市」、「ジョーウダ盟」は「赤峰市」になりました。それが進歩のシンボルだと言うんです。

 私の名前も、文化大革命の時代に「オーノス・チョクト」というモンゴル名ではいじめられるということで、中国名に変えられました。今の日本名の「大野旭」は、モンゴル名の「オーノス」に「大野」という当て字をして、「旭」はモンゴル名の「チョクト」を意味的に訳したものです。

于田 私の名前の「于田(ウダ)」は、ウイグルの地名です。ホータンの近くで、中国語では「ウーティエン」と読みます。本当はこの漢字は使いたくないのですが、日本への帰化を申し込んだ時に、「簡単な漢字を使っていただけますか」と言われて、この字にしました。

「ウダ」は、私の父の家族が生まれた場所です。私が死んでも、誰かが私の名前を検索すれば、新疆のホータン付近の地名が出てくるので、「この人は日本人ではなくウイグル人かな」と考えてくれるかもしれない。帰化したウイグル人は、皆、そんなふうに日本名をつけています。

 例えば「和田」は、中国語読みでは「ホータン」になります。「アクス」は「白い水」という意味なので「白水」。天山山脈から取って「天山」という名前にした人もいます。

 自分に縁のある土地の名を苗字にして、「自分たちの出自を忘れないでほしい」という思いで、子供たちに渡すんです。というのも、ウイグルでは、学校だけでなく、公共活動、集団活動でも、ウイグル語の使用が禁止されているからです。

「ホームステイ」という名の家庭内監視

于田 中国共産党の幹部が、ウイグル人の家庭に住み着いて「指導(監視)」することまでなされています。住民と「双親(親戚)」になり、住民の「宗教意識」や「共産党への忠誠度」を調べ、一人一人に点数を付けるんです。家族が収容所に入れられて若い女性だけが残った家に、漢民族の男性が「親戚」として寝泊まりするケースもあるようです。

 まずは共産党として信頼できない人の家が優先対象なのでしょうが、漢民族の公務員の数は多いので、結局はすべてのウイグル人家庭に入ろうとしているように思えます。

 国際人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチも、「ウイグル人密集地域の一般家庭が、近年、政府幹部による定期的な『ホームステイ』の受け入れを強いられている」と報告しています。2017年のある官製メディアの報道によると、当局が職員100万人を農村へ派遣して、ウイグル人家族と「共に食べ、共に住み、共に労働し、共に学習」させると宣伝しています。

 そこで皆が心配するのは、子供が何かまずいことを言ってしまうことです。子供の言ったことを理由に両親が拘束されたケースもあります。

 文革期の内モンゴルもまさにそうでしたが、子供が毛沢東の悪口などをうっかり言うと、子供も逮捕されるし、親も逮捕されるんです。

于田 公共空間ではなく、家庭内のプライベート空間なのに、「中国語で話せ!」と強要されます。「アッサラーム・アライクム」(アラビア語で「こんにちは」)と言うのも禁止です。「ごちそうさま」をウイグル語で言うこともできない。

**********

<第二部>

弾圧は「一部の過激派」だけの責任ではない

 現在のウイグル人弾圧は、文化大革命期に内モンゴルで行なわれていたことと同じです。時代が違うだけで、やり方は同じなんです。私が『墓標なき草原──内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』などで書いたことについて、読者から「こんなこと、本当にあったんですか?」と驚かれますが、いずれも、本人が実名で名誉回復を政府に陳情した時の報告書に書かれていたことです。

 文化大革命が終わってから、中国政府も「あれは間違いでした。一部の過激な人間がやったことです」と否定しました。しかし調査研究で当時のモンゴル人に話を聞くと、関わっていたのは「一部の過激な人間」だけではありません。文化大革命でのモンゴル人の粛清や虐殺には、共産党幹部、人民解放軍、漢民族の労働者や農民が動員されていました。

 とにかく中国は、一種の「巨大な暴力装置」になっています。文革中だけでなく、今もそうです。内部に対しても、外部に対しても、「中国」という存在自体が常に「暴力」の形を取って現れています。

 例えば、ウイグル人が酷い目に遭っていても、漢民族で「ちょっとやりすぎだよ」「やめるべきだ」と諫める人がいない。文革中にモンゴル人が大量虐殺に遭っていた時も、正義感のある漢民族の人が出てきて「やめろ」と言った事例は残念ながら見当たりません。だから虐殺が10年も続いてしまったんです。

ローズ ウイグル人が強制収容所に入れられていることは、新疆にいる漢民族の中国人全員が分かっています。しかし、それに反対する漢民族の話は聞いたことがありません。

 例えば、新疆北部のタルバガタイは、もともと漢民族とウイグル人が共存していて、大きな揉め事もない町でした。それほど格差もなく一緒に暮らしていたのに、いまは漢民族とウイグル人が別々に暮らすようになりました。2013年に訪れた際には、どこへ行っても警備のポスターが貼られ、警察車両がずっと巡回していて、異様な雰囲気でした。

 私が2013年に新疆を訪れた時も、ウルムチで最も洗練されたマンション地区に住んでいるのは漢民族で、夕方になると、漢民族は上等な地区へ帰り、ウイグル人は、日干し煉瓦の旧市街地区へ帰っていて、完全に「住み分け」をしていました。「あの地区はウイグル人のテロリストの巣窟だ。あそこに行ったらウイグル人に襲われる。危ない地区だ」と分離を煽って、「ゲットー」をつくっているんです。

于田 考えてみると、ウイグル人学校と漢民族学校は、建物からしてまったく違っていました。2004年に南新疆の町へ行った時も、漢民族学校の建物の立派さに驚いたことがあります。

学校と家庭の双方で行なわれる「中華思想的な教育」

 漢民族の人は、エリートかどうかに関係なく、常に政府と一緒になる傾向があります。ウイグルやモンゴルに来た字も読めないような漢民族でも、知識人と同様に「ウイグル人は野蛮だ。モンゴル人は遅れている」と言います。

 学校で「ウイグル人やモンゴル人は野蛮で遅れている」と教えているし、家庭でも同じような会話をしているのでしょう。漢民族の「中華思想的な教育」は、学校と家庭の双方で行なわれています。

 2020年に、内モンゴルでモンゴル語教育の廃止に向けた政策が始まった時も、漢民族の人たちは、「今の時代、モンゴル語を話してどうするんだ」とか「モンゴル語は遅れた少数者の言語で、近代化に不向きだ」と平気で言うんです。

「では、あんた、明日から日本語を話しなよ。日本はあんた方より科学技術が進んでいるんだから」と言い返すと、「それは嫌だ」と。

 東京でモンゴル人がデモをしても、漢民族の中国人がすれ違いざまに、「何を時代錯誤的なことをやってるんだ」と言う。

 100万人以上のウイグル人が強制収容所に入れられても、「それは間違っている」と言い出す漢民族はほぼいない。海外にいる漢民族もほとんど発言していません。

ローズ 現在、欧米各国が「中国のウイグル弾圧はジェノサイドだ」と批判し始めましたが、やがてすべての歴史が明らかにされた時、「陳全国のせいだ」「中国共産党のせいだ」「習近平のせいだ」では済まされません。「ジェノサイドに反対せず、黙って見過ごした漢民族も共犯者だ」ということになると思います。

 これは中国全体の話ですね。共産党だけの話でもない。習近平は漢民族のなかの一人であって、これは「漢民族全体の問題」です。

于田 漢民族で、政府に反対する民主活動家でも、ウイグル人やモンゴル人やチベット人に対する政府の政策には同意する人が多いんです。

 日本では「中国共産党が悪い」と言われます。「悪いのは共産党で、中国人は悪くないんだ」と。しかし我々からすると、「漢民族の中華思想」そのものが問題なんです。

 例えば、最近も、天安門事件(第一次、1976年)のリーダーの魏京生が、「ウイグル人は、皆、テロリストだ」と発言していました。彼は14年以上も中国の刑務所に収監され、その後、アメリカに亡命しましたが、「中国の民主化運動」の象徴のような人が、アメリカという民主主義の国で、ウイグル人を「テロリスト」呼ばわりしているわけです。これが「漢民族全体の問題」だと言わざるを得ない所以です。

日本の責任

 中国の過酷な仕打ちに対して、イスラーム諸国も黙っています。同じテュルク系民族のウズベキスタン、カザフスタンも黙っている。かつて中国のウイグル弾圧を「大量虐殺」と呼んでいたトルコのエルドアン大統領も、現在は、この問題で中国と衝突することは避けています。「イスラーム世界のリーダー」を自任するイランやサウジアラビアも、何も言わない。ウイグル人は「孤立無援」の状態にあります。

ローズ まずは口にだけでも出して、中国を非難してほしいです。人口300万人に満たないリトアニアが、ウイグルでの弾圧を「ジェノサイド」と認定しました。しかし、人口約1億3000万人で、世界3位の経済大国である日本の反応は、「注視しています」という程度です。

于田 ウイグル人の人口は、中国全体のわずか1%以下です。とは言っても、1000万人以上いるわけです。人口が1000万人に満たない国も、世界に数多くあります。ですから、人口の規模だけで問題を軽く扱っては、そうした国々を軽視するようなメッセージにもなりかねません。

ローズ 多くのウイグル人が日本で証言しています。まずはこうした証言を一つ一つきちんと調べてほしいです。私もNHKなどで証言してから、ウイグルにいる兄と連絡が取れなくなっています。妹たちもどうなっているのか心配です。

 2021年3月30日、公明党の山口那津男代表が、「わが国が制裁措置を発動するとすれば、(中国当局の)人権侵害を根拠を持って認定できるという基礎がなければ、いたずらに外交問題を招きかねない」と述べて、ウイグル問題を理由にした対中制裁に慎重姿勢を見せました。

 公明党は、「日中友好政党」であっても、政権与党ですから、これは非常に無責任な言い方だと思います。国会議員には調査権がありますから、プロジェクトチームでもつくって、在日ウイグル人を調査すればいい。あるいは公明党として独自に調査をすればいい。その上で「人権侵害はない」と言うのなら、それはそれでいい。ところが、山口代表は、何の調査もせずに「証拠不十分」と言っています。

日本は「ジェノサイドの共犯者」になる前に行動を

ローズ まず第一歩として、欧米各国が「中国は悪い」と非難してくれました。日本がそれもしないのは、どうかと思います。

 これまで日本は、言わば「見て見ぬふり」をしてきました。中国の民族問題は非常に深刻で、悪化していることも分かっていたのに、さまざまな理由から、発言や関与を控えてきたわけです。

于田 日本は、イスラーム諸国と良好な関係を保っています。今のところ、強く発言してくれたのは欧米諸国ですが、もし日本がウイグルのために発言してくれれば、その声は、これまで以上にイスラーム諸国にも広まると思います。

 また中国と地理的に近い日本がウイグルについて発言するのは、欧米諸国の発言以上に信頼度が高いものとなるはずです。ですから、日本が発言してくれることが非常に重要なんです。

 ウイグル人への弾圧は、欧米メディアが報じてから、日本でも取り上げられるようになりましたが、そもそも、こういう発言をする我々に対して、日本のメディアは、結構冷淡なところがあります。「反中の右翼に利用されるだけだ」と受け止められてしまうんです。しかし、「ジェノサイド」に右も左もありません。とくに「人権擁護」を標榜しているはずのリベラル派が、この問題を黙って見過ごすのは、おかしいと思います。

于田 日本の大手企業も同様で、ウイグル人の強制労働で作られた製品などを使い続けていたら、「ジェノサイドの共犯者」になってしまいます。

「自由」と「民主主義」の国で、世界のリーダーの一員である日本の皆さんに、ウイグルの現状を知っていただきたい。そして日本政府に対しても、勇気を持って明確な行動を起こしていただきたいと心から願っています。

 ◇

 『中国は、一種の「巨大な暴力装置」』と言う記事中の文章が印象に残ります。そして『「ジェノサイドに反対せず、黙って見過ごした漢民族も共犯者だ」』、という文は漢民族そのものが少数民族に対する異様な優越感を持ち、ジェノサイドに対しても罪悪感を持たない元凶になっていると言っているように思われます。(もちろん共産党のすることに楯突けば自分の身に危険が及ぶという背景もあるかも知れません。)

 そうであれば日本が傍観者的な態度を取れば、彼等にとって同様に共犯者と見られかねません。確かに中国に経済の首根っこを押さえられている日本は、なかなか正面だって批判はしにくいかも知れませんが、欧米であっても経済依存をしている国も多い。ここは公明党の態度は別にして、非難決議をすべきでしょう。国会でできなければ政府としてやるべきです。それが民主国家としての役目だと思います。

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