食糧問題

2022年1月20日 (木)

「漁業敗戦」を放置すれば日本は東シナ海を奪われるはめに

2021123100048523fsights0002view 少し前に、海外への依存が増大している、農業、畜産業の問題を取り上げました。それは「買い負け」の実態を示すものでした。一方、耕地の面積では見劣りするものの、四方を海で囲まれた日本は、昔から「漁業」は盛んで、遠洋も近海も漁業王国ニッポンの名をほしいままにしてきた歴史があります。

 ところが近年、漁業資源の減少が顕著になり、漁獲割り当てが進み、もはや好きなだけ魚を捕れる時代ではなくなりました。それに加えて漁業従事者も減っています。またこうした問題以外にも、日本の漁業を圧迫する要因が急浮上しています。つまり国境紛争や対立により、漁場の確保が困難となっている問題です。

 ジャーナリストの小川匡則氏が、JBpressに寄稿した記事から、その詳細を読み解きます。タイトルは『「漁業敗戦」を放置すれば日本は東シナ海を奪われるはめに 漁業は国境維持産業、なのに中国の圧倒的力に太刀打ちできぬ現実』(1/14)で、以下に引用します。

 ◇

 日々、食卓にのぼるサカナが日本の食を支えていることは言うまでもないが、実は国防とも密接に関わっている現実を、あなたは考えたことがあるだろうか。

 実は、国際情勢を読み解く上で、「漁業」は大きな意味を持っている。

 北海道大学の佐々木貴文准教授がこのほど上梓した『東シナ海 漁民たちの国境紛争』(角川新書)は、漁業と国境紛争のリアリティに迫っている。「漁業経済学者」として活躍する佐々木氏の目には、尖閣諸島をめぐる東シナ海の現状と漁業の栄枯盛衰は一体の問題と映る。

 佐々木氏に今、東シナ海で何が起きているのかを聞いた。

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漁業と国境の知られざる関係

「尖閣諸島や大和堆など、我が国周辺海域を取り巻く情勢は依然として大変厳しい状況にあることから、海上保安体制の強化を継続して行う必要があります」

 岸田文雄首相は、昨年12月24日に行われた関係閣僚会議でこう述べた。

 中国海警船の接続海域での活動はほぼ毎日のように繰り返され、尖閣諸島周辺をめぐる緊張は高まる一方だ。安倍晋三元首相も「一方的な現状変更の試みを続けているが、尖閣諸島を私たちの手で守り抜いていくという決意を見誤らないでもらいたい」と中国を牽制する。

 尖閣諸島を含む「東シナ海」は、一触即発の緊張に包まれた中国、台湾との「国境」なのである。

 日本の為政者の多くは国境で生じる問題を、海上保安体制や軍事力の観点から語ってきた。しかし、漁業経済学者の佐々木貴文氏はそこに一石を投じる主張を展開している。

「漁業こそがカギを握る」と言うのだ。

「尖閣諸島でできる唯一の経済活動は漁業です。そして、私たちが尖閣諸島のリアルに接近できるほとんど唯一の媒介が漁業なのです」(以下、断りのない限り「」は佐々木氏のコメント)

尖閣諸島で劣勢を強いられるワケ

 東シナ海は極めて優良な漁業海域であり、実際にかつては日本の漁船団が席巻していた。

「東シナ海の約8割は水深200メートル未満の浅い海で、アジやサバなどの黒潮に沿って回遊する浮魚類の絶好の産卵場・住処になっています。大衆魚だけでなくマグロやタチウオなどの高級魚も獲れ、全面が優良漁場です。

 東シナ海における漁業は60年代までは日本の独壇場でした。これが70年代から中国が漁業に力を入れ始め、80年代末には日本近海までやってくるようになります。日中の立場が逆転したことで、中国の漁業は技術的にも日本をキャッチアップしてしまったのです」

 以降、人手不足などで漁業が衰退してきた日本と、統制され国策として食料問題にあたる中国との差が顕著に現れ始める。

「世界に漁船団を展開する中国の漁業戦略は、東シナ海はまず第一歩と言えるでしょう。中国は世界最大の水産物輸出国になりましたが、いまや食料確保だけがその目的ではありません。漁業はサカナの輸出で外貨を稼ぐことができるだけでなく、漁業海域・テリトリーも広げられる。一石二鳥です。

 その中で大きな存在感を示すのが『中国農業発展集団』。実は農業だけでなく水産業も守備範囲とする随一の国有企業で、従業員は8万人、総資産は150億元(約2730億円)の規模を誇ります。中国における遠洋漁業生産量の半分はここの関連会社による漁獲とされています」

 国策に支えられ拡大する中国の漁業は、当然、その漁業海域の拡大にも関心を寄せるようになる。そして日本のEEZ(排他的経済水域)や敏感な海域にまで踏み込んで漁獲量を増やしてきたという。

「日本政府は、日本のEEZ(排他的経済水域)が世界第6位で広大であることをアピールし、日本人もそれを疑うことはありません。しかし同時に、外務省は東シナ海においては『中国との境界が未画定』のままになっているとしています。国力を増大させる中国に対して、立ち往生し、問題の解決を先送りしている尖閣諸島の領土問題は、まさに日本の漁業問題の最前線でもあるのです」

データが示す「漁業敗戦」

 実際、現在の東シナ海における日中の漁獲量の差は拡大の一途をたどっている。

 中国との漁業協議で決められている漁獲割当量(暫定措置水域での漁獲量の上限目標値)は「中国側164.4万トン」に対して「日本側10.9万トン」と圧倒的に中国有利な状況が続いている。操業できる漁船も「中国側1万7307隻以内」に対して「日本側800隻以内」。日本の漁船は中国のたった5%以下しか操業が認められていないのだ。

「日本の漁船にとって東シナ海での操業は熾烈を極めている。例えば、日本の大型のまき網漁船が操業していると、それを目印に中国漁船が周囲を取り囲む。そして日本では使われていない高出力の集魚ライトを灯し、真横で魚を持ち去ってしまう。圧倒的多数の中国船を前に、日本漁船は意欲を失い操業を諦めるようになってしまった。東シナ海は中国漁船の独壇場となっているのです」

 多勢に無勢の東シナ海のこの現状にこそ、国境問題も包括する日本漁業における問題の真相が隠されている。

「我々は漁業の衰退を真剣に考えるべき時に来ています。日本の漁業は慢性的な労働力不足。現状でも日本人の漁業の就業者はわずか15万人です。たった15万人が1億2600万人に水産食品を提供しているこの構造のいびつさを理解するべきでしょう。しかも、水産庁はあと30年もしないうちに半減してしまうと予測しています」

後継者が育つわけがない

 それでもなんとか漁業が成り立っているのは外国人の技能実習生のおかげだという。現場を支えているのは、インドネシア人など東南アジアの若者たちだ。

「テレビ番組でもよく取り上げられるカツオの一本釣りの雄姿に皆さんもあこがれたことがあるでしょう。しかし、いまや釣り師の多くがインドネシアの若者たちに置き換わっています。もちろん、これは漁業を永続させるための一つの方法ではある。しかし、こうした外国人頼みが抜本的な改革を先送りすることになっている。

 当然ですが、彼らは技能実習生。ノウハウを学んでも、彼らが日本に定着して漁業を支える担い手にはなりません。日本の漁業を支えてきた技術やノウハウは、日本の誰にも受け継がれていかないのです。これでは日本の漁業はやがて途絶えてしまう」

 日本には外交・防衛問題に深刻な懸念を示す為政者や国民は少なからず存在するが、その実、そこに通底する自国産業の衰退にはあまりにも無頓着だったのだ。

事態は刻々と悪化している

 漁業従事者15万人の声は、少数がゆえになかなか政治には届かない。手をこまねいている間にも東シナ海ではさらに深刻な事態が進んでいる。中国だけでなく、台湾とも漁業において衝突が鮮明になっているのだ。

 特に2012年の尖閣国有化後、台湾は中国と歩調を合わせるかのように反発を強めた。

「2013年4月に『日台民間漁業取決め』を締結しましたが、クロマグロの最優良漁場も含む台湾に有利な条件を日本が認める内容でした。

 水産庁は抵抗しましたが、政府・外務省は地政学的に台湾を重視しています。結果、ここでも日本の漁業権益を切り売りする結果となってしまった」

 当時の菅義偉官房長官の主導で、不利益を被る沖縄県の漁業者に対しては100億円規模の基金を作り、実質的な補償をすることを決定した。だが、補償はすれども漁業の再興策は講じられることはなかった。漁業は確かに「切り売り」されていると言わざるを得ない。

 危機は東シナ海に限った話ではない。

 日本海では北朝鮮との国交がないし、竹島問題もある。オホーツク海では北方領土をめぐってロシアとの緊張が続いている。これらの海域でもEEZは相互承認されていないのだ。

漁業は国有化するべきだ

「GDPから見ると漁業生産なんて微々たるもの。だから漁業を捨ててでも外交努力で領海を維持すればよいと政府は考えているのでしょうか。しかし、これまで見てきたように各国と我が国の漁業の勢力関係図を見れば、この考え方が正しいとは思えません。

 私は本書で『本当にそれでいいんですか』と問いたい。魚は日本人にとって主たる食料です。危機感がないと言わざるを得ません」

 佐々木氏は、本書で漁業の国有化論を議論すべきだと唱えている。それは、口先だけの「国防」や「食料安全保障」の議論ばかりで具体的な戦略を持とうとしない国家への警鐘に他ならない。

「21年の国防費は補正予算も含めて6兆円を超えました。しかし、漁業国有化にはアイデアさえあれば多額な予算は必要ない。漁船はそれほど高価ではない。操業することで運用経費も回収できる。

 そんな“低予算”で展開できる漁業は、尖閣諸島におけるわが国唯一の経済活動であり、中国漁船がそうであるように、幸か不幸かは別として尖兵の役割を担うケースもある。漁業は海軍(海自)、海上警察(海保)に続く『第三の海軍』の性格を秘めており、いわば国境維持産業なのです。

 食料安保の観点からも、我が国は漁獲が減れば他国から買えばいいという考えは、中国の爆発的な経済発展で水産資源の争奪戦の最中にある現状では通用しない。

 そんな国家の重要な役割を担う漁業が人手不足で存亡の危機にあることこそが、問題なのです。現行の『船員法』では、漁師に残業という概念が適用されないなど現代の働き方とは乖離が激しく、また、漁獲高に応じた歩合給は労働者の生活を不安定にしたままです。さらに、農業従事者には『農業者年金基金』があって、ちゃんとした年金制度が整備されているが、漁業従事者にはそんなささやかな生活補償の仕組みすらない。こうした実態を深刻に捉えてほしい。

 日本の漁業人材を守り、さらに増やしていくには、国が漁業を支える姿勢を示すことが、まずは何より必要なのです」

 佐々木氏の警句に耳を傾けるときが来ている。

 ◇

 米と共に唯一自給率100%と思われるほど、日本人にとって魚は身近な食料ですが、自給率が100%なのは沿岸漁業の魚であって、東シナ海やオホーツク海などの漁場では、逆に殆ど10%以下でしかない様です。近いうちに農産物や畜産品と同様、量は減り、値段は高くなっていくでしょう。いや既にその兆候はあります。スーパーに並ぶ魚さえ、品数は減り値段は高くなっているのが見て取れます。

 以前から、日本は農林政策に失敗したと述べてきましたが、ここで漁業も含め、農林水産業に失敗したと改めなければなりません。日本水産などの大手水産業者は現状どうなのか分かりませんが、沿岸漁業者や近海漁業者は農林畜産業者と同様、零細で後継者不足なのは共通事項です。

 佐々木氏の提言のように漁業国有化論も一つの方法でしょうが、農水省の抜本的改革も避けて通れないと思います。彼等は霞ヶ関にいても、全く現状が分からず意味がないので、司令塔だけ残し、各地に支部をつくってそこに官僚を移動させ、農林水産業の実態を把握することから始めた方がいいと思いますね。そうでなければ、遠くない将来に迫る食糧危機を回避できないでしょう。

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2022年1月 6日 (木)

世界食料争奪戦の現場 日本がこのままでは「第二の敗戦」も

2022010100000012pseven0001view  以前このブログで、日本は人口と農林政策に失敗した、と書きました。人口減少の現状とその影響については既に何度か述べました。ここでは農業(畜産業)の問題を取り上げます。

 フリーランスの日野百草(本名:上崎洋一)氏が、zakzakに寄稿した記事からその実態を見てみましょう。タイトルは『商社マンが明かす世界食料争奪戦の現場 日本がこのままでは「第二の敗戦」も』(1/4)で、以下に引用します。

 ◇

日本は70年以上も戦争と関わらずにきたはずだった。しかしその日本がいま、世界で激しい「食料戦争」の渦中にある。俳人で著作家の日野百草氏が、「国の通貨が安いまま戦うのは厳しい」と焦る商社マンに、牛肉を中心とした日本の「買い負け」事情を聞いた。

***********

◆ 「どこより高い金を出せば買えますよ、ただ買い負けているだけです」

食品専門商社のA氏(40代)に話を伺う。以前、彼がこの国の食料問題に対する危機感を訴えた『憂国の商社マンが明かす「日本、買い負け」の現実 肉も魚も油も豆も中国に流れる』は思わぬ反響を呼んだ。筆者もそこまでとは思っていなかったのだが、現実に食肉や魚介類に次々と値上げ、不足のニュースが続いている。ただ一人の話だが、その一人の肌感は現に日本の危機を象徴している。多くの他国と「戦う」企業戦士も同様だろう。

「それと船ですね。こちらは取り負け、日本に寄ってもらえない」

その食料を運ぶコンテナ船もコンテナそのものも不足している。食料争奪戦が「戦争」だとしたら、いまはまさに「戦時下」だ。

「値上げはさらに続くでしょう。いつ相場(食肉、穀物)が落ち着くかわからない」

個別の値上げを見れば、魚介類でいえばウニ、イクラ、タラバガニ、ズワイガニ、数の子など、いずれも最高値かそれに近い値上がりを記録している。大手鮮魚専門店のスタッフいわく「あるだけマシ」とのことで、値段は高くても手に入れば御の字だという。

「魚介は高くてよければ国内産でリカバリーできます。でも肉や穀物は厳しい」

日本の食料自給率(カロリーベース)は本当に低い。コロナ前の2018年の農水省データでアメリカ132%、フランス125%、ドイツ86%、イギリス65%、イタリア60%に対して日本は37%。1980年代までは50%以上を維持してきたのに30年間ずっと低水準、30年間変わらない日本の平均賃金と同じ様相だ。

「フランスは自給率を上げるために努力してきましたからね。食料を掴まれるのは命を握られるのと同じって連中はわかっているのでしょう。私も同じ考えです」

◆必要なところに必要十分な金を払う中国

この国の自給率は保守・革新関係なく「食の安全保障」を先送りした結果だ。それがコロナ禍はもちろん、名実ともに大国となった中国の徹底した「食の確保」によって露呈した。いまから約四半世紀前、『Who will feed China?』(だれが中国を養うのか?)という本がレスター・R・ブラウンによって書かれたが、彼の仮説であった中国人が豊かになり、世界中の肉や穀物を先進国同様に欲するという未来は現実となった。

ただし彼の「中国はそれで飢える」という予測は違った。誰より高く大量に買えばいいのだ。それを実現するため中国は時として途上国として振る舞い、下げたくない頭を下げて日本や欧米の会社の下請けとなった。そして「技術を教えてください老師(先生、の意味)」とこれまた下げたくない頭を下げて技術を蓄積した。いまや中国が日本に教わる技術などたかが知れている。中国は1996年に江沢民指導下で第九次五カ年計画を決定、長期目標として「2010年に経済大国となる」と掲げた。目標通り、その2010年に中国は日本のGDPを抜いて世界第2位となった。

「(食料が)3億トン足りなくなるとか言われてましたが、中国はそれを見越して何十年もかけて国家レベルで取り組んだわけです。まあ、手を貸したのは日本ですけど」

1995年は日本の対中直接投資が最大になった年でもある。合弁企業を作り技術の「教え」の代わりに安価な労働力を求めた。日本国内の工場を閉鎖、新卒採用もせずに現地で中国人を大量に雇った。中国も1990年代はまだ企業メカニズムが未成熟で国有企業の赤字は増大する一方だったが、その日本の「教え」の蓄積で世界的企業をいくつも作り上げた。そうして三洋電機はハイアール(海爾集団)やアクアとなり、東芝の家電事業はマイディア(美的集団)傘下の東芝ライフスタイル、NECや富士通のパソコン部門はレノボ(聯想集団)の傘下となった。例を上げると切りがないが、とにかく中国が食料を「買い勝ち」できるのは今や日本と逆転した圧倒的な国力の差である。

「気に入らないけど認めざるを得ません。彼らは必要なところに必要十分な金を払います。シンプルなんです。欲しいのですから、うるさいことを言わずに欲しがるだけの金を積めばいい、本当にシンプルです」

現在の中国はその「シンプル」が結果として現れている。合理的というべきか。悔しければ日本がかつてそうしたように金を積めば済む話だが、激安国家日本でそれは無理な話、円安もあり買い負けるしかないのが現実だ。

◆アメリカ−中国航路がドル箱。日本の港に寄るのは無駄

2021年12月、日本ハム、伊藤ハム、プリマハムの食肉加工大手はついに値上げを発表した。そしてはっきりと幹部は「買い負け」を認めている。食肉に限らずあらゆる海外依存は「買い負け」だ。アメリカやEUはもちろん、とくに中国に勝てない。

「中国に勝つなんて冗談、現場で買いつけていればその強さはわかりますよ。私の入社したころに比べて日本は弱くなったなあと感じます。むしろ競争相手は東南アジアや南米です」

もちろん今回の話は「食料に限れば」という前提だが、日本の現状はいかにこの両大国の「余りもの」を分けてもらうか、「取りこぼし」を狙うか、と言っても過言ではない。それは半導体や建材、樹脂など他の「買い負け」と同様である。

「それぞれの国にも国内消費分がありますから全部売るわけにもいきません。その輸出分がアメリカや中国に取られるとなれば余り分を狙って調達するとか、金を出せない分いろいろ手は使います。各国の取り決めも違いますから一概には言えないのですが」

彼の言う通り、この話は非常に煩雑で個々別の品目や国情、時事に左右されるため「必ず」は存在しない。バイヤーの動向なども含め個々の細かい話は端折るが、あくまで「買い負け」の一点で話を聞いている。その買い負けの代表格、牛肉でみると中国はブラジル、アルゼンチン、ウルグアイなど南米の他にニュージーランド、直近ではアメリカからも輸入を強化している。南米は中国の牛肉輸入の生命線で近年はチリやコスタリカからも輸入している。

もちろん中国にも大規模な牛の肥育施設は存在するし、広大な土地を生かした繁殖農家も存在する。古く中国は文化的にも牛肉をほとんど食べなかったため、出回る牛肉といえば農耕などに使い終えた廃用牛が多かった。それが、国民が豊かになると牛肉を食べるようになり、飼育コストや輸送コストも上がったために輸入に頼るようになった。

「冷蔵、冷凍の牛肉はもちろん、生体で運ぶ分もあります。一度に船だと2000頭くらい、飛行機で400頭は運べますね。生体牛は中国国内で屠畜するんですが、需給バランスの難しい冷凍牛肉より生体のほうが自国で解体できますから、しばらく飼ったり屠場に送ったりの需給調整がきくんでしょうね。広大な国土、鮮度も重要ですし」

肉はみんな冷凍や冷蔵で加工されて運ばれてくるイメージがあるが、実際は生体、要するに生きたまま船や飛行機で運ぶケースも多く、世界では年間500万頭近くの牛が海や空で生きたまま運ばれ食卓に並ぶ。牛の生体そのものの輸入量は中国に比べて少ないが日本も例外ではない。何気なく食べているどんな食べ物も市場という戦場で買い勝った戦利品だ。

その戦場で「何でも食べちゃう」14億人の大国、中国が猛威を奮っている。それも20世紀の中国と違い、政治力と軍事力はもちろん潤沢な資金を背景に世界中から買い漁っている。肉も魚も油も豆などの食材だけではなく半導体、建材からウレタン、ゴム、プラスチックなどありとあらゆる素材やその原料まで「買い勝ち」している。

「他にはアメリカですね。中国に負けじと買い漁って覇権を争ってます。このアメリカと中国の航路がドル箱路線で船がそのルートしか通りたがらない。これからもっとひどくなるでしょう。日本の港に寄るのは無駄と言われかねません」

まさに世界は食料戦争という戦時下、日本人にその自覚はあるのだろうか。

◆日本の買い負けは悪しき円安のせい

この原油高と需要増大の中、海運会社、とくに利幅の小さい海上コンテナ輸送は効率よく稼ぐしかない。日本はすでにこのコンテナ船事業という海運そのものには敗北(ロジスティクスによる敗北は日本の伝統芸)したため、現在の日の丸コンテナ輸送はONEジャパン1社と中小のわずかな船会社しか生き残っていない。天然資源はもちろん日本は何もかも他国頼み、大量消費と飽食を謳歌してきた数十年ばかりの繁栄は砂上の楼閣だったということか。それにしても改めて現場の声として聞きたい。この買い負けの原因はなにか。大まかで構わないので教えて欲しい。

「まず日本人が商売相手としては面倒くさいってことですね。欲しがるくせに金をケチる。どれだけ値下げできるか、この価格内でなるべく多く売ってくれって要求が度を越してます。これは輸入業者に限らず日本のどんな産業だって、企業人として働いていれば感じることだと思いますよ。おまけにちょっとでも売り主、製造側に瑕疵があれば報告書を出せ、改善計画書を出せって居丈高に要求する。日本人でもうんざりします」

この報告書、改善計画書というのは本当に曲者で、大事なことかもしれないが度を越すと難癖、クレーマーになる。それも社内でやる分には勝手にすればいいが、取り引き先相手に要求するとなると他国では煙たがられることが多い。

「それも含めた過度の品質要求ですね。この場合は輸入材の瑕疵や輸送の遅れとかですね。日本人は完璧にしろ、時間は守れと言いますが多くの国はそうではありません。日本人の感覚や都合を押しつけてもこれまた相手はうんざりします」

品質管理とクオリティの高さは衛生用品や自動車などを中心に消費者の信用を得ているが、時として過剰品質になりかねない。食肉についていえば日本は「この部位だけ切り分けろ」「形を均等にしろ」「色をよくしろ」と要求し、食べるに支障のない、おそらくエンドユーザーも大半は気にしないであろう部分まで要求する。中国は「なんでもいいからちょうだい」とうるさいことを言わない上に日本より金を出す。まして牛肉は内蔵どころか、近ごろは廃棄することが増えている皮などの部位まで持っていってくれる。売る側がどちらを選ぶかは自明の理である。

「物流だってそうです。安くてうるさい日本の荷主なんか相手にしたくない」

相手がしぶしぶでも動いていたのは日本の金払いがよかったからであって、買い負ける、取り負けるということは金払いが悪くてうるさいから。他にもっと金を払うクライアントがいるからそちらへなびく。いたってシンプルな構図である。

「それにコンテナ不足で船は取れても運べない。コロナはもちろん自然災害でダメージを受けるのが物流です。マクドナルドもそれですね」

日本マクドナルドは2021年12月、カナダの水害により港が混乱、コンテナも足りず加工ジャガイモが運べなくなったとして「マックフライポテト」のMサイズとLサイズをしばらく休止した。ごく短期間だが世間の衝撃は大きかった。当たり前に食べられたものが食べられない(実際はSサイズで食べられるのだが)、その実体以上のインパクトがあったのかもしれない。MサイズとLサイズ販売の最終日には行列ができた。漠然とした不安感がわけのわからない行動に走らせる。それほどまでに食の影響とは恐ろしいものなのだ。人間の動物としての本能を喚起する。

「さすがにマックは今後対策するでしょうけど、2022年からはこうしたことがあらゆる食の現場に起きるでしょうね」

実際、ジワジワと食品の価格は上がり、値段据え置きでも中身の減る「ステルス値上げ」も増えている。とくに菓子類、ポテトチップスなどは顕著でちゃんと内容量の表示を見なければ「こんなに少なかったかな」と驚かされる。

「でもね、それもこれも日本の買い負けは円安のせいだと思ってます。強い円の力で引っ叩いて買い勝って言うこと聞かせてたのに、いまの日本で通貨が安いって怖いことですよ。通貨の安さにも良し悪しありますから」

日銀の黒田東彦総裁は2021年12月23日、経団連の会合で「円安はメリットが大きい」と語った。どうだろうか、かつては円安のメリットがあったかもしれないが、輸出企業だって結局のところ燃料や原材料、部品の多くは海外から調達しなければ製品を作り輸出できない。そもそも非製造業の大半にとって円安はデメリットのほうが大きい。日本はかつての輸出一辺倒の国ではない。しかし日銀はいまだに円安容認。じつは本稿、この件でA氏が怒って連絡してきたことに端を発している。

「いまの円安は悪い円安だと思います。もちろん強い国が自国通貨を操作、調整することはあります。人民元なんてまさにそれです。日本だってかつてはそうでした。でも現在の円安は日本の国力そのままの評価だと思っています」

現場で、現地で買いつけている彼にすれば後ろ盾となる通貨が安いことは不利。多くの日本の一般国民も物価高、まだ一部とはいえ報道される品薄に不安を感じていることだろう。

◆食料の奪い合いも戦争、その戦争の感覚がないのが日本

「いま中国は日本の和牛にも目をつけています。とくに富裕層に人気があります。カンボジアもいいけど日本の和牛を食べたいってね」

あまり知られていないが和牛はアメリカ、オーストラリアや東南アジアなど多くの国で生産されている。とくにカンボジアは中国にとって和牛の供給源、金に目のくらんだ徳島県の畜産農家が和牛の精子や受精卵を中国に持ち込んでいた件で2019年に逮捕されたが、いまさらな話でカンボジアの他にベトナムやラオスでも中国主導で和牛の生産が行われている。そもそも技術協力と称して日本人専門家も呼んでいる。すべて金の力だ。

「日本で畜産やったって貧乏暮らしですからね、それでもいいって人もいるし儲けてる農家もありますが少数でしょう。365日、休み無く牛の世話して出荷なんて若い人はやりたがらないし、既存の農家は儲かる上に必要とされるなら中国でもどこでも手を貸しますよ。個人の事情ですからね、農家をそうしたのはどこの誰なのかと、そういうことですよ」

日本の畜産農家の戸数は絶望的なまでに減り続けている。農水省によれば肉用牛の飼養戸数は2012年に6万5200戸だったものが2021年には4万2100戸にまで減少している。なんと約10年で三分の一の農家が消えた。幸いにして1戸あたりの飼養頭数は減った分とはいかないまでも増えているが、つまるところ農家1戸あたりの負担は増大している。これは乳牛も豚も鶏も同じ、いや農家というくくりならコメ農家も同様で、高齢化と少子化はもちろん、国内の絶望的な「農業収入だけでは食えない」状態にしてしまった。

「食料の奪い合いも戦争なのに戦争の感覚がないのが日本です。他人が売ってくれるのが当たり前と思ってる。安全保障には食料も入ります。その和牛だって飼料は輸入に頼ってるんですから」

先に紹介したフランスは、この食料戦争を見越して自給率を高めるために徹底して農家を保護、改革を繰り返し自給率100%維持し続けている。すでに40年前からこの政策に取り組んできた同国はさすがとしか言いようがないが、取り組んでこなかった日本は日々の食い扶持を他国に委ねたほうが安いからと自給率を下げ続け、旧態依然の政策ままに農家の生活を追い詰め、あらゆる種子や精子を海外に流出させた。

「南米では自分たちの食べる牛が無くなって政府があわてて規制しましたが、それでも国内より高く買ってくれるならと中国に売り続けています。日本もそうなりますよ」

日本政府は農林水産物・食品の輸出額を年間1兆円に伸ばす目標を掲げてきたが、2021年12月3日公表の「農林水産物輸出入情報」によれば達成の見通しが立ったという。喜ばしい話だが日本人ではなく他国民を食わせるための輸出というのは国策として正しいのか。

「カナダやオーストラリアみたいに売るほど食うものがある国なら農業輸出国もありでしょうが、日本みたいな小規模農業国では危ういと思います。一時的に農家は助かるでしょうが根本的な解決にはならないし、アルゼンチンみたいになったらどうするんですかね」

アルゼンチンは主食の牛肉を中国向けに輸出していたが2021年、中国の牛肉需要の急増により自国で消費する牛肉が高騰、地域によっては出回らなくなる異常事態が起きた。アルゼンチン政府は慌てて牛肉の輸出を30日間停止したが農業関連団体や生産者が反発、それは当然でアルゼンチンの中国向け牛肉輸出は全体の75%にまでおよぶ。金のない自国民より中国に売ったほうが金になるからだ。そうして自国民の主食が不足してしまった。

日本も将来的にそうならない保証はない。牛肉に限った話ではなく、まっすぐなキュウリ、形の均一なトマト、まったく傷のない果物、ちょっと見てくれが悪いだけの魚を排除してきた売り手とそれをエスカレートさせた潔癖な日本の消費者に、生産者が、農家が愛想を尽かしても仕方がない。まして激安まで求める。もやし1円で売ったスーパーが独禁法違反で公正取引委員会から警告を受けたが、その1円にまで下げたコストは誰かが損を被っている。1円もやしに群がる消費者によって被らされている。安売りは構わないが過剰な激安は社会悪だ。

「コロナも収束するどころか世界でまた拡大ですからね、困ったことにアメリカと中国で広がり始めてます。私もまた仕事がしづらくなりました。ざまあみろと鬱憤晴らすのも結構ですが、この二大国がコロナまみれで地獄を見るのは日本ですよ」

アメリカと中国はいっそうの食料確保と自国中心主義を貫くだろう。それに追随する資源国や食料輸出国は金のある二大国との取り引きを加速させる。定期コンテナ船のルートは米中に集中し、日本は食料を買い負け、コンテナを取り負け、国内の物価は上がり続ける。30年間平均賃金の上がらない国でこれは確かに地獄だ。数少ない国内農家すら海外輸出に舵を切り出した。1兆円達成の次は5兆円だと農水省も鼻息荒いが、先のアルゼンチンのように国民の食べる分まで回されかねない。

食料の確保と輸送もまた戦争であり、安全保障の要である。軍事では「兵站」だが、日本はかつてこの兵站を軽視して敗北した。優秀な兵器も燃料がなければ鉄の塊、勇敢な兵士も食料がなければポテンシャルを発揮できない。また同じ鐵を踏むのか。

「買い負けは戦場で負けたのと同じです。でも国の通貨が安いままで戦え、買い勝て、なんて無理ですよ」

市場は戦場、食料争奪は戦争のたとえは大げさではない。こうした商社マンをはじめとする多くの現場で奮闘する日の丸企業戦士が戦場で負け、その繰り返しの先に待ち受けるのは日本の「第二の敗戦」だ。買い負けを繰り返す中、再びコロナが世界で猛威をふるい始めた2022年、それは将来的な日本の食料危機の端緒となりかねない。

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 今日本の各地に、多数の耕作放棄地が点在しています。約40万ヘクタール、琵琶湖の面積の6倍にもなっています。なぜこんなに耕作しない土地が増えたのか。担い手不足による農業従事人口の減少、農業の収益性の問題等いくつかあるでしょうが、フランスの例もあるように、きちんとした政策を実行していけば、こんなことにはなってはいないでしょう。農地法や土地の所有権など法的な参入障壁も手伝って、近代化が遅れた要因になっています。そうです、農業政策の大きな失敗だと思います。

 そうして日本の国土から、農地が消えていき、担い手も減っている、同様に漁業も畜産業も衰退して行っているのが現状です。いきおい食料を海外に依存する割合は右肩上がりとなり、国力の衰退と共にその購買力も減退してきて、将来の食糧危機が迫ってきている、これがこの記事のメインテーマでもあるわけです。

 失われた30年、この間に日本の相対的所得は、欧米諸国の半分以下になりました。アベノミクスでも、スガノミクスでも改善は微々たるものでした。その要因は少子高齢化もあるでしょうが、個人も企業もため込んだ資産を手放さず、市場に金が回らないのも一因でしょう。コロナがそれに拍車をかけています。

 この閉塞感の強い日本を立ち直らせるには、思い切ったカンフル剤的なものが必要です。それに、日本人特有の先憂後楽ならぬ、先憂後憂の国民性を変えていく、つまり政治もマスコミも現状批判よりも将来の夢を大いに語るように、転換していく必要があるのではないでしょうか。

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